今後の目標
第二章 冒険者編始まります!
対戦よろしくお願いします。
レヴィン家に居候することを止め、依頼達成報酬として建ててもらった新居に訪れて少し時間が経った。
心美は家の中を軽く見回って設備の確認をしていた。
人員の移動や資材の搬入などで建築の進捗は知っていたが、こうして完成した状態を見るのは実は初めてだったりする。
心美は魔力を動力とする設備の試運転をしたのち、部屋の間取りなどを頭に入れながら、一息つこうとリビングに戻ってきた。
「あら、あなたたちもここに居たのね。どう? 新しい家は?」
(すっごくいいよ! わくわくするね!)
(……現状不満はないよ)
「そう、まだ家具も少ないし、何もない部屋も多いからあなたたちの気持ちがどう変わるか分からないけれど、希望があったら遠慮なく言ってちょうだいね」
ユキとスカーは新居に到着するや否やいの一番に探索へと駆けて行った。
まだほとんど空き部屋状態の部屋でも、お気に入りの場所を見つけることができ満足しているようだ。
そんなペット達の感想を聞きながら心美は併設されたキッチンへと向かい、棚からマグカップを取り出した。
引き出しから茶葉を取り出しカップに入れると蛇口のようなものの前に持ってくる。
「初めは戸惑いましたが……中々便利なものですね」
その蛇口は水を出すために捻る取っ手はなく、左右に一つずつ赤い石と青い石が取り付けられている。
心美はその両方の石に指先から魔力を送った。
すると蛇口からゆっくりと湯気の立った熱いお湯が心美の持つカップに注がれた。
(ココミ、今のなにー?)
「魔力で水が出る蛇口よ。青い方に魔力を注げば水が出て、赤い方にも魔力を注げばお湯が出るのよ。注ぐ魔力量を調整すれば温度も変えられるらしいわね。少しずつ感覚を掴んでいかなくてはいけないわ」
心美は興味津々のユキに説明をしながら、魔力の調整に失敗し熱くしすぎてしまったと反省しながら席に着く。
どちらかというと猫舌に近い心美は、ふぅふぅと念入りに冷まし、お茶を啜った。
「さて、一人暮らし……一人と二匹暮らしね。こうした動力が魔力に置き換わってる設備だから電気代ガス代水道代もかからない。家賃も発生しないからとても助かるけれど、それでもお金は必要だから私も稼がなければいけないわ」
心美の想定した一人暮らしは何かとお金がかかるものだったが。お金がかかる項目がこの家では魔力で補えることができる。
とはいえ、食べ物を入手したり、魔法スクロールを買ったりするにはお金が必要だ。
オリバーからの前報酬でそれなりの額を貰っていたが、何もせずに消費を続けるだけではやがて尽きることは目に見えている。
「当面の目標は安定した収入を得る事。それとスクロールに頼らずに魔法を使えるようになりたいわね」
(え、そう? 別に魔法が発動できればそれでいいと思うけど……)
「スクロールだってただじゃないんだから……魔法は覚えて損はないわ。それにスクロールだとどうしても発動に取り出さないといけないというのがネックなのよ」
転移系スクロールの中でも視界内に転移するものは失敗作として比較的あんかで売られている。
転移スクロールに求められているのは特定の場所への移動手段や長距離の転移。
少し歩けばたどり着けるところへのテレポートは、移動手段としては呼ばれではなく失敗作扱いでかなりの安価が付けられほぼ押し売り状態だ。
だからこそキリエや心美も買い溜めていたが、安価とは言えタダではない。
ばかすかとテレポートを繰り返すと、巻物の山は瞬く間に小さくなっていく。
それに発動に一手間かかってしまうというのもココミにとっては少しばかりマイナスポイントだ。
移動ならば何一つ問題ないが、これが逃走に変わると話が違う。
実際、ジュエルローズ採取のような緊迫した状況ではその一手間をとてももどかしいと思っていた。
些細ではあるがその問題を解決できる見込みがあるのなら、挑戦するべきだろう。
(お金はどうするの? 前みたいに人から盗る? それとも冒険者ってやつ?)
「盗りません。冒険者の方です。聞いたところ冒険者は資格は要らず、誰でもなることができる。受ける依頼を選ぶことができるため、依頼形式によっては直接戦えない私でも役に立てることはあるでしょう」
冒険者といえば討伐が注目を浴びがちだが、仕事はそれだけではない。
採取のような派手ではないが大事な仕事もあるため、心美の得意分野で活躍は見込めるだろう。
「そういうことなので明日は冒険者ギルドなるものに行って冒険者登録をしてこようと思います。その帰りに家具なんかも調達したいので、ユキとスカーもそのつもりで今日はゆっくり休んでください」
(はーい)
(分かった)
人里離れた森の奥、新居で始まった新生活。
のんびりまったり暮らしていくために、心美は今後の生活について考えるのだった。