表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/115

恩返し

「君が隠し事を明かしてくれたからという訳では無いが、僕の隠し事も教えよう。とはいえあまり大きな声で言いふらして欲しくはない。くれぐれも外で話すようなことはないように頼むよ」


 協力、依頼。

 どんな事を頼まれるのだろうかと身構える心美だったが、その前にと前置きがあり話は本題から逸れる。

 しかしそれは前提の話。

 無関係だった心美を関わらせる以上、知らせておくのが良いとオリバーも判断したのだろう。


「私の妻、ルチカの母親は今体調が芳しくない。元々それほど身体も丈夫でなく、子供の頃からよく身体を壊していたんだ」


「通りで……姿を見ないどころか話にも上がらないのはそういう事でしたか」


「ルチカが大喜びで君の事を紹介した時は彼女も挨拶をしたがっていたが、無茶をさせて悪化させるのは良くないから止めさせてもらったよ」


 心美も気になっていた。

 オリバーと顔合わせの時にルチカの母親が見えなかったこと。

 心美はレヴィン家が貴族の家ということもあり、自分に割く時間を取れなかった可能性を考えていたが、事情は別にあった。


 オリバーの妻、ルチカの母親に当たる人物の病。

 それによって心美との顔合わせは断念。

 いくら顔合わせが少しの時間しか取らないとはいえ、病人を無理させないオリバーの判断は正しいのだろう。


「それは治せるものではないのですか? ルミナスさんは薬師だとお聞きしましたが……効果のある薬は用意できないのでしょうか?」


「奥様を回復させるための薬のレシピは既にできております。しかし……材料となるものが珍しいものばかりで中々集まらないんですよ」


「そうでしたか。素人が適当言ってすみません」


 心美も薬には詳しくはない。

 どのように作られるかもよく分かっていない。

 そんな状態でルミナスが薬師であるという理由だけで解決に導けると甘い考えを抱いた事を恥じた。


「それで、だ。私が頼みたいことは二つ。一つはルミナスの補佐。薬の材料集めに難航している彼女を手伝ってほしい」


「分かりました。私だけが受け取ってばかりでは申し訳ないので、それくらい手伝わせてください。では、もう一つとは?」


「ああ、私の妻シルフィの話し相手になってほしい」


「話し相手? 私がですか?」


 一つ目の頼み事。

 それは薬師ルミナスのサポート。

 薬の材料となるものがどんなものか知らない以上はっきり口にすることはできないが、心美の瞳が力になれることもあるだろう。


 それに対して二つ目。

 オリバーの妻、シルフィの話し相手。

 心美はその役割が自分である必要はあるのかを尋ねた。


「シルフィはおしゃべりが大好きなんだ。でも今は体調を崩していて長く話すことができない。僕やルチカも彼女に無理をさせないためにあまり話には付き合えない」


「なるほど。おしゃべり好きですか。無茶させないためには話を切り上げるけど、それだとシルフィさんが寂しそう、と」


「そういう事さ。だが君ならどうだ? 君は彼女を()()()()()()()()話ができるんじゃないかい?」


「……この瞳ならできるでしょうね」


 どちらかと言うとオリバーはこちらの頼み事を重要視しているだろう。

 目をつけたのは心美の心を読む力。

 その瞳でシルフィの心を読めば、病人である彼女を喋らせることなく会話を行えるのではないか。

 オリバーはそう考えた。


「私がユキとやってることをそのままシルフィさんとやればいいんですね」


「ああ、だが強制はしないよ。君さえ良ければだ。シルフィの話し相手になってくれるかい?」


「ええ、分かりました。この瞳がお役に立てるのなら、私も一肌脱ぎましょう」


「助かるよ」


 オリバー自身も悩んでいた。

 シルフィを思うが故に、彼女の楽しみを奪わざるを得ない。

 楽しみも少ない状態で苦しむ彼女に何かしてあげられないかと思う矢先に、心美(希望の光)は現れた。


 心美もオリバー、ひいてはレヴィン家にはお世話になりっぱなしだ。

 そんな中で自分を、そして勇気をだして打ち明けた瞳を頼って貰えるならば、尽力は惜しまない。


 心美は二つの頼み事をどちらも引き受ける。

 それがレヴィン家に対する恩返しになると信じて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ