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ユキアソビ

 寒さに体を慣らし、僅かながら情報収集に勤しんだグレイシア村での滞在も終わり、グレイシアに向かう時がやってきた。

 移動自体はいつも通り心美が視て、空間を飛ぶだけなのですぐなのだが、それが逆に心の準備ができないという意味で、アオバは心美の腕にしがみついて足を竦ませている。


「いい加減覚悟を決めてください。それだけ厚着しているのだから大丈夫ですよ……多分」


「あー、多分って言いましたね! 到着が一瞬だと寒さを感じるのも一瞬なので怖いんですよ!」


「じゃあゆっくり歩いて移動して、グレイシアに近付くにつれて徐々に寒さが厳しくなるのを感じる方をご所望ですか? 私はどちらでも構いませんが……」


「それも嫌だー!」


「ほら行きますよ」


 心美の瞳は既にグレイシアまでの道のりを進んでおり、グレイシアを遠目に捉えている。

 駄々をこねるアオバを軽くあしらって、全員が心美に触れていることを確認する。


「ユキ」


(はーい、早く早く!)


「スカー」


(……いるよ)


「アオバ……は聞くまでもないですか」


「……ボクはもうおしまいだ……」


 点呼を終えた心美は、視線の先へとテレポートを決行するのだった。


 ♡


 僅かに感じる浮遊感からの移り変わる景色。

 空気が引き締まる感覚と、頭や肩先にふわりとした冷たい感触を覚え、心美は白い息を吐いた。

 一歩踏み出すとまっさらな白いじゅうたんを踏みしめる音が響く。

 降り積もる雪を足で奏でながら、僅かながら子供心が刺激されて高揚してしまう。


 そんな心美に続いて、肩に乗っていたユキも飛び降りて、小さな足跡を付けながら走り回る。

 はしゃぎまわる姿、弾ける心を眺めて優しく微笑むが、喉を通り過ぎるひりついた空気が容赦なく体の芯から冷やそうとしてくる。


「やはり寒いですね。アオバ、大丈夫ですか?」


「うう、何とか……」


「それだけ着込んでいてもギリギリですか。グレイシアに着いたらもっと暖かそうな防寒具があるかもしれないので探してみましょう」


 心美は両手を口元に持っていき、かじかんだ指に息を吹きかけながらアオバを見やる。

 アオバの顔色はそれほど良くないが、今すぐどうこうなるわけではなさそうなので、心美は内心ほっとした。


(アオちゃん、身体を動かせば少しは温かくなるかもしれないよ! 遊ぼ遊ぼ!)


「ええ、無茶言いますね……」


 ユキはアオバの周りをぴょんぴょん跳ねながら無邪気に言う。

 身体を動かせば温まると尤もらしいことを言っているが、その実ユキ自身が遊びたいだけなのは心を読まなくとも見て取れる。

 しかし、今日の心美は珍しくユキの意見に賛成寄りだ。


 久しぶりに見た雪で遊んでおきたいという気持ちに加え、先が見える心美ゆえに感じる葛藤。

 千里眼を進めてグレイシアに近付けば近づくほど雪の勢いは増し降り積もっている。

 つまり、遊ぶのに適した積雪が見られるのはこの辺りだけなのだ。


 アオバには酷な話になるのかもしれないが、ユキの言い分も一理あると自分に言い聞かせた心美は、自分の欲に従ってアオバを諭す。


「まあ、いいじゃないですか。このくらいの寒さで体を動かす感覚を身に着けておくのもいいかもしれませんよ」


(ねー、そうだよねー! ココミ分かってるー!)


「あなたたちグルですか……! まあ、今すぐグレイシアに行ってこれより厳しい寒さに身を置くのよりはマシかもしれませんが……遊ぶにしても何をするんです?」


 この段階で意見は二対一。

 多数決では既にアオバは負けており、面倒くさがりのスカーを参戦させても勝ちはない。

 そもそも心美が意見を曲げると言うのが稀な事例なので、アオバは総合的に考えて自分が折れることを選ぶ。


「そうですね。雪だるまやかまくらなどを作って遊ぶのもいいのですが、身体を思い息り動かして温まるというのを考えたら雪合戦がいいのかもしれませんね」


 そういいながら心美は、足元にある雪を掬い、ぎゅっと固めて丸くして好戦的に微笑んだ。


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