第 四 回
「ゲッ、狂ってる」
その瞬間、俺の心に偶然にも閃くモノがあったので、思いついたイメージを想像してみた。
心に新しい余白が出た。不思議な、感覚だ。多分、精神世界だ。壁がある。
なんか、はがせるな、この空間。カリカリカリッ。
イメージの中だから、爪で壁らしきものを咄嗟にコマメに引っ掻いた。
ボトッ。
『大木那急太の伝説』
本だ、少し恥ずかしい題の。精神に、こんな空間があったとは。時間が無い、捲ってみよう。
〈急太は○月×日、○○病院で産声を上げた。予定日より二日遅い出産だった〉
うわっ、よく覚えてるな、ここの病院か…。いや、時間が。ページを進める。
〈急太は幼稚園で作っていた泥団子が制作中に割れて微妙にショックを受けてしまっていた〉
懐かしい。こういうときって人生全て上手くいかないんじゃないかって不安になるよね。すぐ、忘れてしまうけど。
もっと…先のページだ。
〈急太は、ろくろっ首と戦った。シンプルに本気で…〉
えっ、この内容、未来?
と、いうことはこれを読めば勝てるのか?んな、馬鹿な…。どうやって?
次のページを捲った。
〈急太は自分の妖怪の力を使った〉
おお、俺にも妖怪の力が実はあった、どうすれば?
〈後は、自分で考えよう!〉
振るだけ振ってなんて無責任。我ながら。このぐらいできるんじゃないか…。
俺は手、足を伸ばした。掃除機のお尻のコードをたくさん引っ張った感覚に近い。割と手軽…。身体のバランスは妖力のおかげか。無重力。おまけに力を纏っている感じが、ある。
「な、何…?」
先生は、驚いた。それは、そうだ。今まで、逃げていたヤツが急に妖怪の力を使ったんだ。意味が不明過ぎて、分からないだろう、到底。
「急太、なぜ手足を伸ばせるの」
「先生と一緒ですよ。俺も、妖怪の力を持っていたんです。やっと今、気付きました」
「私は長い間、悩んできたっていうのに、今できるようになったっていうの?」
先生の身体の首の下が追いついて来て、腕を組んでいる。ストレスが、たまっているのかな。
「そ、そんな手や足程度に、私は首を伸ばせるのよ、頭を付けて…負けない」
俺は自分の謎を伝えた。
「先生。俺に見合う身体見つけてくれませんか?お願いします」
「この子、ふざけたりして」
俺の結構ガチで感じる人生の中での、悩みなんだけどな。
俺と先生は手足を含めた身体と首を伸ばし、学校中で戦った。
先生は髪一本一本にまで、力が細かく入っている。綺麗なチョコレートフォンデュと言ったら分かるだろうか。俺は大きめの、生の魚にチョコレートをまぶしたような勢いだけ。しかし、この後の手順によっては勝てる可能性だってある。先生の妖力は磨かれていて無駄がない。
何度か当たったら、その箇所は、動かせなくなるだろう。
しかし、ある程度は予測がつく。だてに、先生の授業をこれまで受けてきてはいない。
俺には、若い分体力はある。一個ダメでももう一個、攻撃をすれば先生の動きも弱くなる。そして、さらに攻撃を…。
その階の壁を二つ三つ四つ、ブチ破ったが、避けられてしまった。
先生の『光を纏った引っつかみ身体ボロッボロ攻撃』。
髪の毛や光で引っつかみに、くる。まともに技が当たれば焦げ跡が、少し残るだけ。完全に死だ。
続く