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喧嘩は度胸。

「奴らの名前は『アイズファミリー』。元締めはシルバ=アイズ。元騎士団の隊長だよ。度を超えた暴力と殺戮で追放されたけど」


 傷口に包帯を巻いてから、まずはラーメン屋で食事をすることにした。

 食事中に、とりあえず問題のマフィアの情報をサイゾウは伝える。構成員は二〇人。このマフィアの上にもさらに一つ、大きな組織があり、それらがトップと言っても良いだろう。

 だが、サイゾウを使っていた組織は上の統括する組織ではなく下の組織なので、小悪党の鉄砲玉、といった所か。

 実際、中規模の組織なので、武闘派かつ知能派でもある野心的な組織だ。魔銃も複数持っていて、侮れない相手でもある。


「……で、その魔銃の中でも強力なのが……」

「ゾボッ、ゾボボボッ」

「はい、あと30秒ね」

「ゴクッゴクッゴクッ、っはぁ……えっと、スープまで完食でタダだっけ?」

「そう。はい、あと25秒」

「おい、テメェ焦らせんな。ゾボッ、ゾボボッ……モシャモシャ、バリっ……ゴク、ゴク……」

「聞いてんの?」

「っ……ゴクンッ、はぁ……話しかけんな。金持って来てねーんだから」

「はい、あと15秒」

「カウントダウンやめろハゲ。ゴクッ……ゴクッ」


 人の説明も無視して大盛りラーメンの早食いをする男を見て「こいつ大丈夫なのか?」と不安になる。

 半眼になって睨んでいると、カランと音を立ててラーメンの器を机の上に置いた。


「っしゃあ、終わったどうだコラ!」

「あれ、時計の様子が……あー悪い。数えられてなかったわ。とりあえず金払え」

「テメェふざけんじゃねえぞ! 絶対一銭も払わねえからな!」

「食い逃げか? 出るとこ出るぞ」

「よっしゃ、テメェを地獄の底に出してやらァッ‼︎」

「ちょっとあんたこそふざけん……!」

「ホントふざけんなコラァッ‼︎」


 が、さらに別の奴が飛び蹴りをかまして来て、ラーメン屋の店主諸共、ノブカツを蹴り飛ばした。

 すぐに喧嘩腰で身体を起こしたノブカツは、ユウスケの姿を見て「あっ」と声を漏らした。


「お前今まで何してたの?」

「そのクソガキを探してたに決まってんだろ! 公園で良いように逃げられてから、部下を使って捜索してたんだよ!」

「そうか、お疲れ」

「何で上からなんだよ⁉︎」

「そりゃ、俺の方が先に捕まえちゃったからだけど?」


 それを言われると、ユウスケも何も言い返せなくなる。とはいえ、まぁ捕まえてくれたなら何よりだ。


「なら、こいつの身柄はもらってくぞ」

「あー待て待て。まだこいつが必要なんだよ」

「はぁ?」


 サイゾウを連行しようとしたユウスケを止めるノブカツ。流石に任務の邪魔をされる謂れはないユウスケは、眉間にシワを寄せた。


「どういうつもりだ? 窓代は良いのか?」

「そいつはジャラジャラ払わせる。けど、こいつをお前に引き渡すにしても、その上にいる奴らが何のお咎め無しってのは納得できねえだろ」

「……上?」

「そう、上。ガキにテメェらの言いなりにさせてふんぞりかえってるバカどもに、落とし前つけさせてやんだよ」

「……」


 そのセリフで、事件の全体像が見えて来たのは、流石の経験値と言えるだろう。

 だが、その話が本当だったら、の話だ。今日出会ったばかりの男を信用する程、ユウスケはお人好しでは無い。


「だけど、そのガキはもらっていくぞ。お前の話が本当でも、そいつが悪事に手を染めていたのは事実だ」

「……だってよ、どうする? サイゾウ」

「えっ……?」


 自分に判断を委ねられると思っていなくて、思わず驚いてしまった。

 だが、さっき自分で決めろ、と言われたからには、それも自分で決める必要がある事はすぐに理解した。

 どうするべきか、で言えば、やはりお縄につくべきなのだろう。目の前のモジャモジャはかなり強い。少なくとも、今までサイゾウが見て来た人物の誰よりも、だ。公園での一件を見ても、アサシンの一部隊よりあらゆる面で優れている。

 つまり、自分がこの男を手伝える事なんて何一つ無いし、むしろ足手まといになる可能性だってある。なら、やってしまった事の責任は取るべきだろう。

 しかし、それ以上に、自分にはやるべきことがある。


「ごめん……俺、まだ窓代を稼いでないから、まだ捕まるわけにはいかない」

「……」


 ムショを出てからでは遅いのだ。クエスト関係もなく「助けて」の一言で助けてくれる人へ、せめてものケジメはつけたい所だ。


「だ、そうだ」

「……ちっ」


 サイゾウの本音と、ノブカツの真っ直ぐとした視線に、ユウスケは思わず舌打ちを漏らす。勝手な言い分だが、その手の仁義が嫌いでは無い自分の性質も厄介だ。

 小さくため息をつくと「また減給かもこれ……」と、小声で漏らしてから続けた。


「なら、条件がある。その上への報復は、サイゾウ=ミストハイドもついていくこと」

「え、お、俺も……?」

「その上で、一人も逃がさず、殺しも無しだ。お前を無罪にして報告するには『サイゾウ=ミストハイド』が使われていた、という証拠と、今まで盗んで来たものと等価以上の交換となる物品が必要だ。それらの押収もしてもらわないと、許可は出来ない」

「なっ……なんだその無茶苦茶な条件⁉︎」


 思わずサイゾウが声を上げるが、むしろ譲歩している方だ。何せ、サイゾウが盗んで来た物はすべて騎士団の魔銃なのだから、逮捕されないこと自体が幸運と見るべきだろう。


「なぁ、ノブカツさ……」

「大体、テメェほんとに時計見てなかったのか? ああ? 今までもどうせそうやって、クリアされそうになってたらアクセクと誤魔化して来たんだろテメェは」

「何処にそんな証拠があんだ? 人を疑うんなら、まずそれだけの証拠を揃えろ」

「それをウダウダ言うんなら、俺が間に合ってねえ証拠だってねえよな?」


 チラリと隣のノブカツを見るが、本人はいつの間にか、またラーメン屋の店主と口喧嘩をしている。何処までもマイペースな男だ。

 ……いや、だがお陰で少し頭は冷えた。やったことの責任を取る、というのなら、どんな無茶苦茶な条件でも飲んで決行すべきだ。


「……分かったよ。それでやってやる!」

「……なら良しだ」


 その返事に、満足そうに頷いたユウスケは、ノブカツに声を掛けた。


「おい、魔銃屋!」

「いい加減にしろよテメェ。そんな意地張るとこじゃねえだろ。賭けに負けたんだから潔く引けや。給食の揚げパンおかわりジャンケンで負けたガキかテメェは」

「いい加減にすんのはオメェだよ。マジで出るとこ出てやろうかコラ。何なら拳で決着付けっか?」

「上等だよクソボケ。出るとこ出る前に表出ろコラ」

「上手くねえよ」

「テメェのラーメンもな」

「おい、いい加減にすんのはお前らだわ」


 殴り合いに発展しそうだったので二人の間に入ると、まずユウスケはラーメン屋の親父に声をかけた。


「あんた、まだ危ない商売やってんのか。次はねえって言ったよな?」

「今日の所はあんたの勝ちにしてやるよ、旦那」

「だってよ、魔銃屋。とにかくその辺で」

「なんだ、拳で語る度胸もないのか?」

「上等だテメェ」

「煽ってんじゃねえよ! 話進まねえんだよ!」


 強烈なツッコミが二人の間に入り、ようやく話を進めた。


「とにかく、そういう事だ。その『上』ってのが誰だか知らねえけど、とにかく頼むぞ」

「へいへい、任せとけよ。オラ、行くぞ。サイゾウ」

「あ、は、はい!」


 さっきまでバカな話で喧嘩をしていた人物とは思えないくらい、気がつけば真剣な顔になっていた。よく分からないが、戦闘の時は頼れる男なのだろう。

 そう思う事にして、とりあえず二人でラーメン屋を後にした。


 ×××


 撃退されたチンピラ達は、大慌てでボスの元に来ていた。


「そ、そうなんです! 何者か知らないけど、やたらと強い奴があのクソガキについていて……!」

「俺達じゃ、手も足も……」


 報告、連絡、相談は社会人に必須スキルだ。それが裏社会であっても同じことである。

 いつもより帰りの遅い飼い犬の様子を見に行かせた結果、負けたとしても情報は収集して来たようだ。


「あのガキ……結局、俺らを裏切るか」


 頭であるシルバが報告を聞き、小さく舌打ちをする。まぁ、あの意外と気が弱いガキは長続きしないとは思っていたが、想定外に早く使い物にならなくなったようだ。

 何であれ、裏切り者は始末しないといけない。それも、早いうちに、だ。


「テメェら、祭りの準備しとけ。あのガキは小細工だけはこの組の誰よりも上だ。何かされる間も無くぶちのめさないといけねェ」

「「「押忍!」」」

「今夜、あのガキを叩きのめす」


 そう言うと、シルバは席から立ち上がり、壁にかけてある魔銃に手を掛ける。それを見て、組員達は「おお……」と小さくざわめく。


「……あれが、噂の……」

「ああ、頭専用の魔銃。あの海の凶獣を素材にしたオーダーメイドの一品だ」


 アサルトライフルの形をした、対人専用の魔銃。出力を調整すれば、遠距離攻撃だけでなく近距離攻撃も対応可能となっている魔銃。

 それを持って祭りとなった時、シルバは例え相手が騎士団であっても、傷一つ付いたことが無かった。


 ×××


 アイズファミリーの拠点は、酒場を丸々、使った店の中だった。三階建ての建物で、酒場なのは一階のみ……なのだが、ほとんどアイズファミリーの組員専用みたいなものだ。

 さて、その建物の前で突っ立っているのは、ノブカツとサイゾウ。


「何緊張してんだお前?」

「い、いや……普通は緊張するって……」


 顔色が悪いサイゾウに声を掛けるが、リラックスして欲しいものだ。動きが硬くなって使い物にならない、みたいな事だけは勘弁して欲しい。

 大丈夫か? と思いつつも、のんびり一階の扉に歩きながら言った。


「とりあえず、一階から順番に制圧するぞ」

「は、はい……!」


 中に入ると、店員が声を掛けてくる。


「申し訳ございません。当店はまだ、準備中でございます」


 真人間を装っているが、顔の傷やお肌の模様から、普通じゃない人種であることは明白だ。不自然に膨らんだ胸の内側には、魔銃でも隠しているのだろう。

 さて、その人間を前に、ノブカツは呑気に応対した。


「悪い、客じゃねえんだ」

「? じゃあ、なんです?」

「襲撃」


 直後、振われた拳は、開戦の狼煙となった。顔面に思いっきりめり込み、前歯を吹っ飛ばしながら、壁に大きく叩きつけた。



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