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地雷の数が多い程、気難しい。

 店内自体は簡素な作りで、入り口側半分がお店、奥半分が工房となっている。

 さて、まずはこの一週間の勉強で、どれだけ学んだかをテストしなければならない。


「さて、じゃあまずは俺がカチャカチャと作る魔銃の仕組みからだな」

「よ、よろしくおねがいします!」


 ノブカツは言いながら、近くにある小さい黒板に手を伸ばす。

 そこに描かれたのは、簡易的な絵だ。銃の形をしてはいるが、模様などは描かれていない。


「さて、今回は特化型の魔銃の説明なわけだが……まず、ちゃっちゃと魔法の説明に入るぞ」

「え、まほうですか?」

「そう。魔銃ってのは魔法を撃つ銃だから、魔法の仕組みが分かってないと、魔銃の事なんて分かるわけがねえ。鶏肉について何も知らずに唐揚げを作るようなもんだ」

「え? あ、いえ。からあげの味付けは、おしょうゆとかしょうがとかにんにくとか……そういう、他のしょくざいでの下味がじゅうようなので、鶏肉についてくわしくなくても、何とかなるような……」

「……」


 言われて、ノブカツは黙り込む。その空気が、何だか重いような気がして、キョウカは少し胸が不安に覆われる。

 しばらく気まずい沈黙が続いた後、改めてノブカツが口を開いた。


「魔銃ってのは魔法を撃つ銃だから、魔法の仕組みが分かってないと、魔銃の事なんて分かるわけがねえ。卵について何も知らず卵焼きを作るようなもんだ」

「あ、いえ……たまご焼きも、たまごそのものより、味付けとフライパンのふり方でかわるので、たまごがじゅうようなわけでは……」

「ふぅ……なぁ、キョウカ?」

「な、なんですか?」


 改まって名前を呼ばれ、キョウカは肩を震わせる。


「今は料理教室をしているわけじゃねえんだ。黙って聞け」

「え、でも……ノブカツさんがおりょうりにたとえるから……」

「なんだ、折角人がわかりやすくしてやってるのに、文句あんのか?」

「いえ、ぎゃくに分かりにくいんです。……もしかして、おりょうりした事ないんですか?」


 その一言は、端的に言って地雷だった。冒険者をガツガツやってた時も、パーティメンバーに全て任せていて、むしろ「お前は炭火焼きっつーか炭化焼きしか作れないから触るな」と言われていたくらいで。

 その場でノブカツは背中を向けて言った。


「今日以降の授業はここまでだ」

「いやまだなにもおそわってませんけど⁉︎」

「知るか。あとは自分で考えろ」

「わ、わー! よくわかんないけどごめんなさい! あやまりますからおしえてー!」


 大慌てで泣きつくと、ノブカツは仕方なさそうにため息をつく。


「次はないぞ」

「は、はい……」


 正直、キョウカは悪くない。ちゃんと伝わらない例えをするノブカツが悪いのだから。

 若干、納得していないながらも、教わる為だと割り切った。


「とにかく、魔法が分からないと魔銃については分からない。で、その魔法の仕組みは、体内にある魔力を、呪文によって実体化してるわけだ」

「は、はい。聞いたことあります」

「魔法の使用には、魔法語を覚えた上で、精神統一と言っても過言じゃない集中力が必要になる。だから、魔法を使えても、魔法使いになれない奴の方が多い。なんなら、魔法を使えない奴だっている」


 そう言ってから、ノブカツはお手本を見せる。


「例えば……そうだな。『我的手上・焔球灯(我が手に炎を灯せ)』」


 直後、上に向けた手のひらから炎の玉が出て来た。キャッチボールできそうな大きさだが、こなそうものなら一投でキャッチボールどころかお店も終わるのでやらない。

 そんな事よりも、キョウカは驚いたように口元に手を当てた。


「わぁっ……ノブカツさん、魔法も使えるんですか⁉︎」

「まぁな」

「すごい……キョウも、つかえるようになりますか?」

「使えないと魔銃は作れねえよ」

「え?」


 それを聞いて、微妙に冷や汗をかくキョウカ。それはどういう意味なのだろうか?


「言ってんだろ。魔銃は魔法の代わり。それを放つだけならともかく、作るのに魔法をガンガン使わないわけないだろ」

「た、たしかに……!」


 納得すると共に、キョウカはつくづくさっきの例えの意味が分からなかった。あれで例えをあげるのなら、鶏肉や卵が無いのに各々の料理を作ろうとする、の方が適切では無いだろうか? 口にはしないが。

 そこで、ようやくさっきの黒板を手にする。


「で、だ。特化型の魔銃は、グリップの部分から魔力を注ぐ。で、そこから銃身の内部、先台……つっても分かんねえか。この部分からこの部分にかけて、魔法語を彫る」

「え、ほ、ほるんですか?」

「そうだ。勿論、バッキバキに魔力を込めた上でな」


 黒板に描かれた銃の部位をなぞりながら説明した。


「引き金を引いて、魔力を銃身に倒す際、魔法語を魔力にゾゾゾーっとなぞらせることで、発動する」

「な、なるほど……」

「簡単に言ったけど、最初はクッソむずいよ。魔力を言霊じゃなく文字になぞらすの。マジ最初はクソイライラするから」

「ふっふーん……だいじょうぶです! キョウは、チヂミな作業はとくいですから!」

「地道な」


 とりあえず説明を終えた所で、ふとキョウカは矛盾に気付く。


「あれ? でも万能型はそれじゃ、まほうは出ないんじゃ……」

「よく気づいたな。もしかして、めちゃくちゃ勉強してたのはその辺か?」

「は、はい……まずは万能型からまなぶのがきほんを知れるんじゃないかとおもって……」


 悪くない読みだったが、魔銃に関してはその限りではない。とはいえ、7歳でそこまで考えられるのなら、普通に魔法使いとか向いているのかもしれない。


「万能型は、弾に魔法語が刻まれてんだよ。それを、魔力でガッチガチに固めたハンマーって部位でバッカンと撃ち込むから、魔法が発動する」

「そういう事ですか……」


 勿論、弾なんて面積小さ過ぎて大した魔法は撃てない。だから、色んな種類が撃てても、威力は不足する。ヘヴィスロウなんかは別だが、あれも一周回って万能ではないので、万能型の皮を被った特化型と言えるだろう。


「とにかく、理屈はそんなとこだ。必要な数が分かったら、お前にも手伝ってもらうから、今のうちにめいいっぱい失敗しとけ」

「は、はい!」

「そんなわけで、まずは魔法の修行からだな」


 それだけ言って修行に入ろうとしたわけだが、まぁ間に合う事はないだろう。何せ、魔法を使うにはそれなりに時間が必要だ。

 魔力をそれなりに操れるようになるまで一ヶ月、魔法語をそれなりに理解するのに一ヶ月、その上、そこそこの魔銃を作れるようになるまで……大体、早くても三ヶ月。大会とやらがいつ始まるのかは知らないが、まぁ間に合わないだろう。

 しかし、子供を引き取り、それを育てると決めた以上は、それで間に合わない分は自分がカバーするしか無い。

 それを計算した上で、あの二人も大会をいつやるかがハッキリしていない間に教えてくれたのだろう。

 早速、今日から始める……と、思った時だ。店の扉が開かれる音がした。


「客か?」

「あ、いきます! キョウの役目なので。ロクでもなさそうな人ならおいかえすんですよね?」


 着実に自分の育成が少しずつキョウカの中に芽生えているのを確認しつつ、そのおでこを叩いた。


「バカかお前は。今から修行だろうが。とにかく、身体の中に流れてる魔力を感じ取るため、ムンムンと精神統一でもしてろ」

「あ、は、はい!」


 今のざっくりした説明で分かってんのか、と心の中で思いながら、とりあえず応対しに行った。

 店の中に入って来て魔銃を眺めていたのは、ピチッとした服にマフラーを巻き、ポニーテールにまとめた、つり目が特徴的な女だった。見るからに体育会系っぽい。


「いらっしゃい」

「あら、店主さんかしら? お邪魔するわ」


 全然、体育会系って感じの口調ではなかった。あの動きやすそうな服は飾りだろうか?


「うちの魔銃は玄人向けだ。初心者には売らねえぞ」

「あら、そうなの。困ったことになったわ。私、魔銃が必要なのに」

「冒険者志望か?」

「いえ、護身用よ」

「は?」

「身を守る為に、必要なので……」


 と、言いかけた直後だ。また店の扉が勢いよく開かれた。同じような服に身を包み、布で顔を隠した男達だ。そのユニフォームは、騎士団隠密機動部隊「アサシン」のものだ。


「オイオイ、今日はよく客が来る日だな」

「いたぞ、あそこだ!」

「殺れ!」


 ノブカツのセリフを無視し、男達は懐から魔銃を抜く。特化型のハンドガン。型を見るに、HK-HG009。通常「キルポイント」。光の弾を放てる、貫通力と速度重視のものだ。


「! ば、バカ……!」


 慌ててノブカツが身を隠そうとした直後だ。両手に魔力を集中させていた女が、一気に拡大させる。まるで襲撃を予知していたような動きだ。


「『眼前風陣(目前に広がる風よ)壁的店内守護(壁となって店を守れ)』」


 直後、広がる透明の魔法。銃口から放たれた光の弾丸が店内に直撃するが、粉々に弾けたのは弾の方だった。

 が、当然、放たれた弾丸が全く少年に当たらない、ということはない。多少のダメージを覚悟して、キュッと目を瞑った時だ。

 ドンドンッドォンッと、腹の底に響く音が耳に届く。それとほぼ同時に、自身の身体にダメージがない事を実感する。コロコロと足元に転がってくるのは、薬莢だった。


「……!」


 後ろを見ると、思わず目を丸くした。この店の店主だろうか? まさか、魔銃の射撃を、射撃で撃ち落としたというのだろうか? それも、キルポイントの射撃を?


「人の店、グチャグチャに散らかしてんじゃねえ‼︎」


 そう言った直後、男は一気に接近する。その先にいるのはアサシン達。そのアサシン達も、刀を構えて接近して来ている。

 とりあえず、呆けている場合ではない。何者か知らないが、この男がいるのなら心強い。

 そう思い、迎撃しようと身構えた時だ。


「大人しくしやがれええええ‼︎」

「はえっ?」


 唐突に、店主にスパンと足元をはらわれた。完全に油断したタイミングでの一撃。お尻から床に落ちた。目の前のアサシン達も、思わず足を止めてしまった。

 転んだタイミングで、自分の上に馬乗りになる店主に、思わず大声で叫んでしまった。


「ええええっ⁉︎ た、助けてくれる流れじゃないのおおおお⁉︎」

「誰が助けるか! 人の店にゾロゾロと厄介ごと、持ち込みやがって!」

「いや、だってほら……逃げてる途中なら誰だってとりあえず身を隠すところに入るじゃん! それがたまたま、ここだっただけで……」

「知るかバーカ! 何したか知らねえけど、わんさか騎士団を引き連れてくるような奴を助ける奴がいるかってんだボケ!」

「薄情!」

「むしろ白鳥」

「意味分かんない!」


 そんなバカな話をしていると、続いてノブカツはアサシン達に怒鳴った。


「お前らもだからな‼︎ 魔銃が並んでる店で、魔銃ぶっ放すバカがいるか⁉︎ 死にたいわけ?」

「「「す、すみません……」」」


 こればっかりは反論の余地もないので、全員素直に頭を下げる。

 そんな時だった。奥の扉が開く音がした。そこから顔を出したのは白髪の幼女だ。


「あの……なにかあったんですか……?」

「あー、気にしなくて良いから!」


 ノブカツが作ったのは、ほんの一瞬の隙だった。その直後、手の下からスカッと体重を預けていたものが抜ける。真下から、服を残して女の姿がなくなっていた。

 気配を感じる方を見ると、店の窓に移動していた。ただし、姿はまるっきり変わっていて、小柄で髪の長い少年の姿になっていた。


「っふぃ〜……危ない危ない。年貢の納め時かと思ったわ」

「! ええい、しまった。おい、包囲しろ!」

「もう遅いよ。じゃあな!」

「あ、まさか……おい、待て! 待った……!」


 嫌な予感がしたノブカツが止めようとしたが、遅かった。少年は、窓をブチ割って出て行ってしまった。人の店の窓を破って。


「チッ、逃したか……! 全員、直ちに追跡しろ! 所詮、奴は一人だ。囲んで逃げ道を塞げ! 変装にも注意しろ!」

「「「御意!」」」


 リーダーらしき男からの指示に従い、部下のアサシンは姿を消す。ガキだと思って油断していたが、独学で学んだアサシン部隊の技「アサシン技」を使う所や、さっき使った魔法の実力を見ても、中々、気を抜けない相手だ。

 自分も出撃して追跡を再開しようとした直後だ。その自分の肩に手が置かれる。


「待てやコラ」

「っ……な、なんだ?」


 かろうじて聞き返したものの、油断できない。真っ直ぐな瞳で自信を睨みつける男は、掴まれている手のひらだけでも分かる。只者では無い。

 まさか、店内での発砲の件についてだろうか? 一応、弁償するつもりではいたのだが、そんなのむこうにとっては、言い訳にしか映らないだろう。

 何であれ、穏便は済ませ、早めにあのクソガキを追いかけたい……と、思った所で、男が声を発した。


「情報寄越せや、あのクソガキとっ捕まえて弁償させてやる」

「え、な、何を?」

「窓」

「……」


 普通、そこはあの子供の正体を知りたがるところでは無いだろうか? 子供な上にアサシンの者でもないのに、アサシン部隊の技を使い、中々に高ランクの魔法を使ったのだから。

 そんな時だ。目の前の店主の裾を引く小さな影があった。


「あ、あの……ノブカツさん。しゅぎょーは……?」

「今日は自習だ。魔力を溜め込み、放出する練習をしろ。とにかく精神統一、心頭滅却する事な。もし出来そうになかったら、ユリユリ姉妹にアドバイスもらえ」

「ええっ⁉︎ そ、そんな……!」

「窓を弁償させねえと、借金増えるぞ」

「が、がんばります!」


 すぐにキョウカをギルドに向かわせた。この手の戦闘には、まだ巻き込むわけにはいかない。


「で、情報は?」

「何だかよくわからんが……一般市民を巻き込むわけにはいかない。金なら我々が何とかするから、手を離せ」

「ああ? 知るかバカ。人の店の窓をバキバキに割っといて詫びもなしとか絶対許さねえ。ガキだろうが何だろうが、その辺分からせてやる」

「いや、知らないから。てか、手ぇ離してくんない? こっちも任務だし」

「なら、俺が新たな任務をくれてやる。椎茸狩りだ。行けやコラ」

「誰が行くか! なんで椎茸⁉︎」

「良いから情報寄越せコラアアアアアア‼︎」

「お前、何めちゃくちゃ言っ……わ、分かった、分かったから肩を離せ! メキメキ言ってるからああああああ‼︎」


 ほぼ無理矢理、情報を引き渡すことになってしまった。



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