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尊敬すべき人は、人によって変わる。

 ムーブイーター、動きを喰らう者、という意味でつけられた麻痺銃だ。場所によるとは言え、当たれば敵の動きを完全に止めることが可能な魔銃。

 この手の魔銃は「特化型」と言われ、その弾しか撃つことはできない。

 それとは逆の手に握られたハンドガン。それは、弾丸によって属性が変わる「万能型」と呼ばれる銃だ。勿論、特化型よりも威力は下がる。まぁ、ムーブイーターに限った話だと、敵にダメージを与えるものではないので、万能型の方が威力はあるが。

 この万能型の銃も、ノブカツお手製の物。名前は「ヘヴィスロウ」。ハンマーの部分に魔力を可能な限り込め、一発を特化型並みの威力にする……予定だったのだが、威力は特化型のそれを遥かに上回る上に、属性付きの魔力弾を装填すると、暴発してしまうため、通常の弾しか撃てないのだ。

 要するにただの銃なわけで、その上、弾速は死んでて10メートル以内の近距離でないと使えなくて、心底使いにくい銃だ。完璧な玄人仕様になってしまったのだが……逆に、玄人が使えばかなりの威力を誇る。


「最初に聞くけど、投降する奴はいないのか?」

「悪いけど、俺達をそこの雑魚と一緒にするなよ」

「リーダーの恨み、今日こそ晴らす」

「あっそ」


 耳をほじりなら適当な返事をした。

 左右に四人ずつ、縦に並んで八人、最後尾の真ん中に一人。前から順番に片付ける。そもそも、向こうも射線状に味方がいるので、前の二人と最後尾の一人しか撃てないのだ。

 とは言え、それでも敵は三丁。二丁しかない自分よりも有利だ。その上、奴らは構えているが、自分はムーブイーターを握っているだけ、ヘヴィスロウに至ってはホルスターの中だ。


「……」


 洞窟内にも関わらず、ヒュウっと風が吹き、木枯らしが転がりそうなこの時、先に動いたのは最前列の二人だった。指が引き金を引こうとした直後、それを察知したノブカツが二丁の魔銃を向けて撃つとともに、身体を横に逸らした。

 たかが引き金を引く動作。それよりも、構えて銃を撃つ方が早かった。


「グガッ……⁉︎」


 右の男は身体が痺れて動けなくなり、左の男の魔銃は、銃弾によって粉々に砕かれる。最後尾のリーダーの弾は回避された。

 その隙にノブカツが前に出るのとほぼ同時に、二列目の二人が、一列目の二人の間に入ってライフルを構える。

 右側の男を続いて痺れさせつつ、ジャンプして壁を走りながら一列目の銃を弾いた奴の前に来ると、廻し蹴りを放ち、横一列を薙ぎ倒した。


「ゴッ……⁉︎」

「アガッ……!」


 着地したノブカツに、三列目の二人が銃口を向けるが、着地と同時にノブカツは一列目の男が隠れていた部屋の中に隠れ、扉を閉める。


「チッ、野郎……!」


 残りは五人。全員が前進し、三列目にいた二人が部屋の入り口から銃口を向けるが、既に銃を向けているノブカツが発砲する方が早い。ヘヴィスロウの二発で、二人の魔銃は砕けた。


「〜〜〜ッ‼︎」

「ッてェ……!」


 あまりの威力に、魔銃を握っていた手の骨まで砕ける。痛みに奥歯を噛み締めている間に、ノブカツは部屋から飛び出して、飛び膝蹴りを一人の顔面に放ち、気絶させながら、もう一人の手を握って、残りの三人の方へ突き飛ばす。


「ッ……!」

「退け!」


 押された一人を片方が退かして銃口を向けようとするが、その時にはノブカツがムーブイーターを向けている。

 ビームを出っ放しにしたまま横に逸らし、二人とも撃破する。

 さて、残るはリーダーのみ……と、思ったのだが、その姿はない。


「……あら? 何処に行っ……うおっ」


 自分が立っている真横の扉から、タックルをかまして来た。両腕でガードしたものの、身体は後ろに飛ばされて向かいの部屋に入る。両手から銃が手放されてしまう。

 タックルをかました男も同じように個室に入る。その手に、ライフルは握られていない。


「化け物め……! この手で始末してやる!」

「逃げておけば、お前だけはギリギリ助かったかもしんねーのに」

「ほざけ!」


 とはいえ、この土壇場で銃を捨てて素手で掛かってくる覚悟は見上げたものだ。実際、それが正しい。

 しかし、ノブカツは素手の戦闘も得意としている。両手で構えを取り、殴りかかって来る一撃を片手でいなす。

 その隙に飛んできたボディへのアッパーも肘でガードし、顔面に軽く拳を叩き込む。


「ッ……!」


 鼻血を垂らしながら後ろによろけるリーダーだが、すぐに地面を蹴ってボディにそこそこのキレの蹴りを叩き込んだ。

 それを横に身体をスライドさせながら避けると、背側に回り込んで腰に手刀を打ち、前によろめかせると膝裏を蹴り込む。

 ガクンと膝を地面につけるが、強引に前のめりになり、前転をして距離を置いた。


「クソッ……!」

「どうしたよ。ポカポカ殴って始末するんじゃなかったのか?」

「黙れっ!」

「さっき、ほざけって言ってなかった?」


 ツッコミを入れながら、飛びかかって来るように拳を振るって来た。頭に血が上っての大振り。隙もクソもない段階で当たるはずがない。

 その拳を避けながら両足を正面から払い、身体を浮かせると首の後ろを、両手を組んで振り下ろした一撃で、一気に地面に叩きつける。


「アガッ……!」

「ふぅ……終わり」


 全員、片付いた。先程、落とした銃を拾い上げ、腰のホルスターに戻した。

 これでも全員、死んじゃいない。加減して寝かせてやっただけだ。

 のんびりと歩きながら、最初のスタート地点に戻る。レバーを上げると、そこから顔を出したのはリョウとキョウカ。死屍累々としている連中の被害者達だ。


「終わったぞ」

「「……」」


 二人の視界に入ったのは、恐怖の象徴でしかなかった絶望的状況を、たった一人で覆した魔銃職人だ。他に立っている人間は一人もいない。全員、揃って気絶してしまっている。


「す、すごい……」


 これこそ、まさに自分達の父親が話していた、本当の冒険者というものだ。相手が何者であろうと立ち向かい、確実に勝てる戦いで無くても挑み、自分だけでなく他人のために動ける、そんな立派な人種。

 そんな憧れの男を見上げて、リョウは改めて聞いてしまった。


「おじさん……何者、ですか……?」

「おじさんじゃねえ。お兄さんだ」


 ……やっばりすこしちがう気もする。


 ×××


 盗賊団「不嵐素飯」は壊滅し、ウィットを含めた全員が騎士団に連行された。積み重なった罪状を見るに、おそらく死ぬまで刑務所を出ることはないだろう。

 助けられたリョウとキョウカは、怪我や健康状態が優れていない為、病院でしばらく入院することになった。費用に関しては、ギルドが払うことになった。

 今日は、その中の外出許可日。たった1ゴールドで依頼を引き受けてくれた人に、どうしてもお礼が言いたかったキョウカは、モジャモジャ魔銃店に向かっていた。兄の方は怪我の具合が優れなかったため無理だったが、その分のお礼、そしてこれからどうするのかも伝えるつもりだ。

 店の前に到着し、扉を開けようとした直後……。


「いい加減にしろあんたああああ‼︎」

「せっかくの懸賞金またギャンブルに突っ込みやがったなああああああ‼︎」

「ほあああああああああああ‼︎」


 ぎりぎり、キョウカは横に避けたが、そこに扉とモジャモジャが飛んで来て言葉を失う。


「うるせーな! 懸賞金だけじゃ全額払い切れねえから増やそうとしたんだろうが‼︎」

「コツコツ分割で払う事を覚えなさいよおおおお‼︎」

「ていうか、ギャンブル下手なんだから、せめて生活費に回せええええ‼︎」

「待て待て! ちょっ、蹴るな! イジメの現場みたいだから! やめっ……脛痛ッ……⁉︎ あ、パンツ見えた。おいおい、ユリエお前すげーの履いてんな。姉の立場が無」

「死ねええええええええ‼︎」

「やめっ……おい待ッ……魔銃を向けるなああああああ‼︎」


 店にある魔銃をぶっ放しながら追いかける双子と、逃げるノブカツ。そんなバカな一幕が始まった。しかし、相変わらず逃げながらも銃から放たれる魔法を全て避けているのは流石と言わざるを得ない。

 しばらく追いかけっこを続けていると、ふと自分が突っ立っているのにユリノが気付いた。


「あら、キョウカさん」

「失礼致しました。私ったら、はしたない所を……」

「お前ら猫かぶるのやめとけよ。もう無理だ。元冒険者による中の凶暴性がこれでもかというほど……ヴボッ‼︎」


 投げつけられた魔銃が顔面に直撃し、ひっくり返るバカを無視して、二人はキョウカの前に歩いた。


「何か御用ですか?」

「それともまた依頼ですか?」

「あ、いえ! おれいがいいたくて……」


 それを聞くと、二人は顔を見合わせ、お辞儀をしながら倒れているノブカツへの道を開ける。

 魔銃が顔面に直撃したことにより、気絶しているノブカツがよろよろと体を起こした。


「ってぇなクソ……あいつらホントに加減ってもんを……」

「あ、あの……!」

「あん? ……ああ、えっと……キョウカちゃんか」

「はい! この前は、ありがとうございました!」

「気にすんな。仕事だっただけだから。それよりあそこの殺気だった食虫植物なんとかしてくれる?」

「え? えっと……しょく……チュウ⁉︎」

「そのチュウじゃありませんよ、キョウカさん」

「可愛いですね、キョウカさん」


 勘違いで顔を真っ赤にする幼女の頭を撫でる双子を無視して、ノブカツは聞き返した。


「わざわざそれを伝えに来たのか?」

「あ、いえ……それで、その……おねがいが、あって……」

「何、お願いって。言っとくけどお前に魔銃は売らねーぞ」

「ち、ちがいます! そ、その……キョウを、はたらかせてください!」

「……は?」

「「は?」」


 何言ってんのこの子、と言わんばかりにノブカツは声を漏らす。ユリノとユリエも同様だ。

 大人達の冷たい視線を感じながらも、キョウカは力説した。


「兄が、ぼうけんしゃをめざしてるんです! オリバーさんのように、つよいぼうけんしゃを……!」

「で?」

「そ、それで……でも、そのためにはやっぱりお金がひつようで……! き、キョウも……かせぎたいです!」

「……」


 最後にかなり直球になったが、何にしても動機は立派なものだ。金を借りている癖にギャンブルに注ぎ込むバカとはえらい違いである。

 しかし、だからこそユリノとユリエは不安だった。


「え、でもその人の所はやめませんか?」

「それこそ、ギルドで職員の靴磨きやお掃除でもしてくれれば、お給金は出しますから」

「い、いえ! この方のところで……学びたいことがあるんです!」

「何を学ぶつもりですか? ギャンブルで負ける方法?」

「それとも、エロ本の隠し方?」

「ち、ちがいます!」

「お前らホント、ボロクソ言うのな。てか、そういう教育が悪い事をペチャクチャと子供に教えんなよ」

「「お前が言うな」」

「いや教育の悪さで言ったらお前らと俺はどっこいだぞ」

「何をう⁉︎」

「借金男と私達が⁉︎」

「自分の胸に両手を当てて考えてみろ。なるべく形が分かるように包み込んで当てて」

「セクハラですか?」

「殺しますよ?」

「うう……」


 いつのまにか、また三人の口喧嘩になってしまっている事に、少し涙目になる。というか、この人達の関係は何なのだろうか? 聞いてる感じ、どうにもただのギルド職員と冒険者、というだけの関係には見えない。いや、実際は金の貸し借りの関係があるのだが。

 なんであれ、話を聞いてもらいたい。そのため、大声で本音をぶち撒けた。


「オリバーさんみたいに、人をまもるまじゅうをつくりたいんです!」


 それが唐突に響き、三人はキョウカの方へ顔を向ける。むすっとした表情ではあるが、やはりやりたい事を言うのは恥ずかしいのだろう。微妙に頬を赤らめていた。

 ユリノもユリエも何も言わない。そういう意思があるのなら、自分達に口出し出来る事はない。あとは、店主次第だ。

 真っ直ぐとキョウカを見据えたノブカツは、しばらく黙り込んだ後、言った。


「覚悟はあんのか?」

「かくご?」

「武器ってのは、どう取り繕っても生き物を殺すためのもんだから。それを背負う覚悟はあんのか?」

「……」

「それに、武器は持ち主を守るためのもんでもある。不良品や欠陥品を売りつけて、そいつが冒険中に命を落としたら、少なからず俺やお前にも責任はある。他にも、武器を買った奴が悪さをしても同じだ。今回の件みたいにな。その辺全部、そのちっさい背中に背負っていく覚悟はあんのか」


 厳しい事を言っているようだが、事実だ。だから、ユリノとユリエも口を挟まなかった。「お前の武器が弱いから仲間が死んだだろ!」というやり取りも、今でこそ少ないが昔はよくあった話だ。

 その上、オリバーは弱い奴に武器は売らない。命を賭ける、という事の意味を知らない奴が死んだ責任まで負うのはゴメンだから。それこそ、借金の原因でもあるのだが。

 まだ、7歳のキョウカだが、その責任は理解していた。少し違うかもしれないが、自分が成果を持って来ないと妹が危ない、という責任を背負って仕事に向かっていた。現在、冒険者に必要不可欠と言われる魔銃も持たずに。

 それを思えば、少しはキョウカにも「責任」という言葉の重みは分かる。

 しかし、だからこそ真剣な目で答えた。


「……あります!」

「……あっそ。じゃ、今から面接だな」

「「今のが面接ではなかったんですか⁉︎」」

「バカ野郎。今、聞いたのは志望動機だけで、その他にも自己PR、自分の長所と短所、弊社においてどのように役に立てるか、それから出身校を聞かないと、採用は出来ないな」

「無駄に本格的な面接!」

「何が『弊社』ですか⁉︎ 会社の意味をわかってて言ってます⁉︎」

「出身校なんてあるわけないでしょ! この子の事情、分かった上で言ってますそれ⁉︎」


 なんてバカやりながらも、このあとほんとに面接をやって、キョウカは働く事になった。

 勿論、この後、とてもつもなく後悔するハメになるとは、夢にも思わずに。



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