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喧嘩で役に立つのは経験。

 呪厳の滝は、十年前は呪いによる汚染で、生き物一匹住んでいなかった。水生生物だけでなく、森の動物ですら近付こうとしない。

 しかし、とある魔法使いが呪いを除去したお陰で、再び動物たちが利用するようになり、数ある滝の中でもトップ10に入る程になった。

 そういった浄化作業は魔銃では出来ないので、魔法使いには魔法使いの役割がある。ただ、戦闘ではあまり呼ばれなくなったが。

 そう言った経緯があり、魔法使いはそもそも希少な存在となった。なりたいと思う人がいなくなり、仕事も減り、絶滅危惧種のような扱いである。

 さて、その問題の滝の前で、三人は待機している。

 ウィットが緊張を払うように深呼吸をした後、やたらとリラックスしているノブカツに聞いた。


「作戦は?」

「堂々と正面突破だ」

「え……マジ?」

「お前はキョウカちゃんを守れ。傷一つでもつけたら殺すから」

「お、おう……」


 さて、まずはどう突入するかである。流れている水の量は、1トンと大木をへし折り、そのまま流し、粉々に出来る程のものだ。

 まずはここを突破しないと、アジトには入れない。


「どうするんだ?」

「だぁから、正面突破だっつーの」

「は?」

「お前ら、俺の身体にしがみつけ。力抜いたら死ぬからな」


 言われて、ウィットはノブカツの背中にしがみつき、キョウカは正面から抱きつく。

 続いて、滝上の木にリュックから抜いた銃を抜いて撃った。射出されたのはワイヤー。木に絡まり、強度を確認する。


「お、おい……まさか……」

「あの……なにを……」

「舌噛むから、しっかり口閉じろよ」


 続いてノブカツは反対側の手で、今度はショットガン型の魔銃を取り出し、滝に向ける。水の勢いがあるとは言え、薄らと滝の奥の洞窟が見えている。

 そこに照準を合わせると、ノブカツは木を中心に半円を描くように大きくジャンプした。


「うおおおおいマジかああああああ‼︎」

「ええええっ⁉︎ そこから正面ってことですかああああ⁉︎」


 二人揃って悲鳴をあげる中、魔銃を放つ。発生したのは風属性のショットガン。滝に直撃した直後、散らばった散弾一つ一つから突風が発生し、滝に穴を作った。

 その中に身体を放り込み、最後にワイヤー銃を手放して洞窟内に侵入した。

 そのまま着地し、ゴロンゴロンと転がりながら受け身をとる。途中でウィットは背中を強打したが、キョウカはノブカツが最後まで抱き支えてので怪我はしなかった。でも心臓はノンストップでバクバク動いている。

 動きを止めたノブカツが、抱き抱えているキョウカを下ろすと、思わずペタンと尻餅をつく。


「はい到着〜」

「じゃねえよ!」

「しんぞうがとまりかけました!」


 呑気な事を言うノブカツに二人が顔をあげて怒鳴る。


「なんつー滅茶苦茶な侵入をするんだお前は!」

「そ、そうです! こんなの……いのちがいくつっても足りません!」

「うるせーなグチャグチャゴチャゴチャゲチャゲチャ」

「ゲチャゲチャって何⁉︎」

「冒険者ならこれくらいやってみせろボケ」

「っ……」


 奥歯を噛み締めるウィット。

 キョウカも驚いたように目を丸くしてノブカツを見上げていた。兄から聞いた話だと、最近の冒険者は父親がいた時と随分、違うらしい。安全圏から、狩れる相手だけを狩って日銭を稼ぐのが冒険者、勇敢な人はいない、と。

 しかし、目の前の男の人は違う。たかだか敵陣に飛び込むのでさえ、危険を冒す。いや、彼にとっては危険という認識すらないのかもしれない。


「いつまでも寝てんな。先行くぞ」

「あ、は、はい……!」


 いつのまにか、ノブカツは背中にショットガンを背負い、腰にハンドガンを挿して、先を歩いている。その後を、二人は慌てて追いかけた。

 しばらく歩くが、敵の気配どころか罠も見当たらない。これを楽勝と見るべきか、これ自体が罠と見るべきか。いずれにしても、油断はできない……と、思っていると、ウィットが声をかけて来た。


「なぁ、このムーブイーターだっけ? これって射程はどれくらいなんだ?」

「大体15メートルくらい。割と近距離じゃないと当たんないよ」

「ふーん……って、うおっ⁉︎」


 お試しのつもりで引き金を引くウィット。直後、洞窟内で暗闇に目が慣れていたからか、割と眩しめな稲妻を帯びた光線が飛び出した。


「ひゃあっ……!」

「おい!」

「わ、悪い……ちょっと試したくなって……」


 キョウカが小さな悲鳴を漏らし、ノブカツが声を掛けると、ウィットは慌てて謝った。


「お前なぁ……いや、麻痺銃ならフラッシュするに決まってんだろ? 雷属性魔法を銃にしてんだから」

「すまない。少し、何もなさすぎて気が抜けた」

「やるんならテメェの眉間にくっ付けてビリビリやりやがれ」

「死ねってか? 遠回しに死ねってか?」

「死なねえよ。攻撃力はないっつったろ。ただ当たりどころによっては一生ビリビリ痺れるけど」

「それ死んでるだろう。え、お前俺のこと嫌いなのか?」

「髪にほんの少しの癖っ毛もないような奴は、グチャグチャのボコボコのビリビリにされて死ねば良い」

「何処に嫉妬してんだ! てか、子供の前でそう言う話はやめろ!」


 キョウカを庇うようにウィットが叫ぶが、ノブカツは全く悪びれる様子なく言った。


「子供のうちから大人の負の感情を教育してやってんだろうが。一足早く大人になれるぞ。良かったな」

「キョウ、おとな?」

「飲まれるなキョウカちゃん! ……ったく、父親の推薦でなければお前なんか頼らなかったと言うのに……」

「父親?」

「なんでもない」


 そんな話をしながら到着した先は、巨大な岩の壁に繋がっていた。誰がどう見ても行き止まりである。


「あれ……いきどまり、ですか?」

「あの情報屋、適当なこと教えたんじゃないのか? なんかチンピラみたいだったし」

「それはないから安心しろ。あの侵入口が一番、安全だったって話だ」

「「どこが⁉︎」」

「シンクロすんな。何せ、あの滝から来る奴なんざいないからな。本島の出入り口は別にあるが、そっちには敵が待ち構えてるんだろ」


 そう言いつつ、ノブカツは壁の周りを探す。そのノブカツに、ウィットが眉間にシワを寄せながら聞いた。


「待ち構えてる?」

「ああ」

「どう言う意味だ?」


 近くにレバーを見つけ、それを下ろした。直後、ゴゴゴゴッと洞窟内にいるおかげで耳に響く音と共に、岩の壁が左右に開いた。

 その先にいるのは、リョウが手錠に繋がれて座らされていた。


「! お兄ちゃん……!」

「え……き、キョウカに……えーっと、モジャ男?」

「誰がモジャ男だコラ」

「それと……」


 慌てて兄の方に走るキョウカを眺めながら、ウィットが聞いた。


「待ち構えてるってことは……俺達がここに来るのを知っていたみたいじゃないか」

「知っていたんだろ」

「……なるほど。俺が騎士団を送り込むと思って……」

「いやいや、騎士団なんかじゃねえよ、奴らが来ると思ってた連中は」

「じゃあ、誰だと言うんだ?」


 聞いた直後、二人の前にいるリョウが怯えた様子でキョウカに言った。


「だ、ダメだ……キョウカ! その男は……!」

「え? ……え?」


 振り返ったキョウカの表情が、安堵の目から怯えた目に変貌する。

 何故なら、ノブカツに向かって、ウィットがムーブイーターの銃口を向けているからだ。


「俺だろ? えーっと……ウィ=フィット」

「ウィット=ダカオだ!」


 平然と名前を間違えられたことにキレつつ、改めて聞き返す。


「いつ、俺が嵌めようとしてると分かった?」

「え、いや分かりやす過ぎたからなぁ……確信したのは、キョウカが行くって言った時に賛同した事だな。良い奴の演技をしてた癖に、そこだけやたらと不自然な流れだったし。足手まといがいた方が、俺を仕留めやすいと思ったんだろ?」

「その通りだ」

「つーか、そもそも話の流れが全部、お前にコントロールされてたし。盗賊が来て、お前が獲物を渡すと言って、お前が俺に依頼する事を薦めて、足りない金やら何やらは全てお前が払ってって……その親切を全部、受け止めてやるほど俺はお人好しじゃねーよ」


 何が何だか分からないキョウカは、オドオドしながらウィットとノブカツを見比べるが、そのキョウカの手をリョウが握る。それにより、少し心が落ち着く。

 その様子を眺めながら、ウィットは再び聞く。


「しかし、そのガキが逃げ出さないと、その計画は成り立たないだろ? なんで俺にガキが逃げると分かった?」

「分かってたんだろ? 生活ギリギリを支える兄妹、一日でも報酬を持ち帰らないわけにはいかない。だから、無謀でも逃げ出すと」

「……」


 それを聞いて、後ろの兄妹はビクッと肩を震わせる。嘘だ、と真っ先に頭の中で望んだが、ニヤリとほくそ笑むウィット。今までの優しい笑顔とは真逆の邪悪な笑みだ。


「ハッ……クソの役にも立たねえゴミとテメェを消せる良い機会だと思ったんだがな」

「っ、ご、ゴミ……?」

「なんだ。自覚が無かったのか。お前、自分がパーティの役に立ててると思ってたのか?」


 リョウは再度、目を見開く。たしかにきちんと貢献出来ている、なんて思ってはいない。しかし、それでも嫌がられているとも思っていなかった。

 自分達の事情を考慮した上で、置いてくれているものだと。


「今の時代、魔銃も持っていねえ奴が生きていけるわけねえだろ。邪魔だったんだよ、オマエ。冒険者に何の憧れを持ってんのか知らねえが、いつもいつも世話になってる分際で不満げな顔で見て来やがって。シンもエイキもお前のこと追い出したがってんだろうな」

「そ、そんな……!」

「あ、兄を……わるくいわないで!」

「黙れ。お前は眼中にねえんだわ」

「ひっ……!」


 キョウカを睨んで黙らせると、ウィットは再度、ノブカツを見る。


「さて、おしゃべりは終わりだ。お前を殺せば、不嵐素飯に入れてもらえるんでな。テメェが作った武器で、テメェの人生に幕を下ろすんだな」

「……」


 再び照準を合わせ直す。キョウカとリョウは、同時に肩を震わせる。が、すぐにキョウカはハッとする。今回は、兄を助けに来たのだ。

 すぐに、兄の前に手を広げて立った。その様子をふと視界に収めつつ、ノブカツはウィットに言った。


「お前、殴り合いの喧嘩の経験あんの?」

「……なんだと?」

「無いんだろうな。遠方からパンパンてっぽう撃って強くなった気になってるような奴だから」

「粋がるのも結構だが、状況を見て……」

「状況がなーんも見えてねえのはお前の方だよ」


 直後、ノブカツはものすごい速さで身体を真横に逸らしつつ、一歩踏み込み、右手で銃を掴んだ。


「なっ……?」

「この間合いだと、拳の方が速いんだよ」


 その銃を後ろに引っ張り、ウィットの身体を自分の方へ引き込んでボディに膝を叩き込む。まるで猪に突進されたような衝撃が腹に響く。胃から何かが湧き上がってくる感触が来るのを必死で抑える。

 が、それを見越したように、前のめりになったウィットの首筋に手刀を振り下ろす。


「ッ……!」


 完全に意識を失い、その場に伏すウィット。それを見て、キョウカもリョウも目を丸くする。


「す、すごい……」

「魔銃も使わないで、ウィットさんを……」


 こんなぬぼーっとした、借金まみれの男が……こんなにあっさりと、自分達のリーダーを倒してしまった。それも、素手で。

 この人は何者なのか? いや、それ以前に何故、こんな人が魔銃の職人なんてしているのか。

 驚いた表情で眺めていると、その本人から聞き捨てならない声が聞こえる。


「まだ終わってないぞー」

「「え?」」


 直後、今まで歩いて来た一本道に備えついていた隠し扉から姿を表したのは、不嵐素飯のメンバー。全員が油断なく魔銃を構えている。


「チッ、使えねえ奴」

「まぁ良い。餌としての役割は果たしてくれた」


 本物の殺気だ。ゲーム感覚で人を殺せる人種が、全員で九人いる。

 実際、全くの役に立たなかったわけではない。来るとしたら本当の入り口からだと思っていたが、まさかの滝からで予定が狂った。

 なので、気付かせるためにウィットがムーブイーターを撃ってくれた。そのお陰で、配置を変えられたわけだが。

 リョウの前で立ったまま動けなくなっているキョウカがカタカタと小刻みに震えていると、ノブカツはニコリと微笑んだ。


「ちょうど良いわ。キョウカ、お前はそこで兄貴を守っててやれ」

「え……?」

「子供には刺激が強すぎる」


 言いながら、ノブカツは背負っているショットガンを捨て、代わりに取り返したムーブイーターをクルクルと手元で回す。


「あなたは、どうするの……?」

「ん、まぁ……帰り道を作るよ」


 檻のレバーを下げた。直後、扉が閉まる。身を隠すには、あまりに頼りになり過ぎる壁が出来た。ただし、それはここまで連れて来てくれた人を見殺しにするに等しい行為だ。


「ま、待っ……!」

「なーに、そうハラハラと心配すんな。魔銃を持ってるだけでイキってるようなタコに負ける程、ヤワヤワじゃねえから」


 静止も虚しく、目の前の壁が無情に閉ざされた。



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