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誤射なんてされたら困るからね。

 

 翌日、冒険者ギルドで早速、書類の作成と契約を結ぶ事になった。本当なら、わざわざ依頼人と依頼主が顔を合わせる必要は無いのだが、昨日、偶然、顔を合わせたし、その流れから今日も直接、会うことになってしまった。

 さて、そんな日なのだが……。


「ノブカツさんが来ない……」


 ユリノがげんなりと声を漏らす。他のメンバーは、キョウカもウィットも集まっているというのに。


「あ、あの……ユリエさんは……?」

「あの子は別の仕事です。契約するだけでしたら、私だけでも十分ですから」


 てっきり、双子はいつでも一緒なのかと、キョウカは思っていた。兄と兄のパーティメンバー以外に、友達も知り合いの人もいないキョウカとしては、そもそも双子そのものが新鮮なのだが。


「しかし、この大事な日に遅刻するか?」


 ウィットが不機嫌そうに呟き、そのまま隣のユリノに声を掛けた。


「なぁ、あの男で大丈夫なのか? 昨日、見た限りだけど、あいつソロだろう?」

「問題ありませんよ。腕は確かですので」


 ギルドには彼の実力はしっかりと伝わっているようで、ユリノは小さく頷いた。


「彼のお店の魔銃に使う素材は、全て自分で採りに行っていますので」

「え、そ、そうなのか? 確か魔銃の素材って、モノによっちゃ高ランクの魔物の素材も使ってるって聞いたが……」


 その上、あれだけの逸品を作っているとあっては、間違いなくそれらも討伐しているはずだ。

 話が本当なら、確かに実力はあるのだろう。……とはいえ、今の所、すごい銃が揃っているのに借金まみれのダメ男という情報しかないのだが。


「あの……それならなんであの人はしゃっきんなんてある、んですか……?」


 昨日から聞きたかった事をキョウカが聞くと、ユリノは呆れたように言った。


「それが……あの男、ギャンブル癖が抜けないのです……。わざわざ借金してまで勝てない賭け事に臨むの、本当に迷惑で……」

「……キョウのおじいちゃんみたい……」

「……」


 聞きたくなかった、そんな話。

 そんな事を話している時だ。ギルドの入り口の扉が開く。そこから現れたのは、相変わらずモジャモジャの頭を蓄えた男だった。


「ふわぁ……あ、いた」

「遅いですよ? ノブカツさん。今日は普段と違って日曜の朝ではないんですよ?」


 本来、受付嬢はどんな場合であれ「冒険者ギルドへようこそ!」と、笑顔で挨拶するものだ。だが、ユリノからの口から出たのは別の意味でのご挨拶だった。

 そのセリフに対し、ノブカツは耳をほじくりながら、その辺に耳垢を飛ばして答える。


「うるせーな。人をいきなりニート扱いすんな。こちとら立派な社会人だぞオイ」

「立派な社会人は、その辺に耳垢を捨てたりしません」

「はいはい……で、今回はなんの依頼だっけ? チキチキ、第三回、魔銃の素材でおもちゃを作れるか大会?」

「どんな大会ですか? そんなの一回も開かれてませんよ」

「でもやったらワイワイと盛り上がるんじゃね? 子供に受けそう」

「……考えておきます」

「賞金は35万9859ゴールドで」

「借金返したいだけでしょそれ。なんで賞金がそんな具体的な数字なんですか」

「じゃあ40万」

「いやキリ良くしても開きませんから」


 そんなやり取りを眺めながら、やっぱり大丈夫かな、と不安になるキョウカ。肩書きだけ聞いた時はすごいと思ったけど、このやり取りを聞いていると不安になる。

 でもでも、1ゴールドで引き受けてくれる人なんていないと思うし……なんて、頭の中をぐるぐる回していると、ウィットが口を挟んだ。


「いい加減にしてもらえるか? お前さんにとっては取るに足らない1ゴールドしか儲からない仕事でも、俺達にとっては大事な仲間を取り返すための大事なことなんだ。遅刻して来たり、その謝罪もなく言い合いを始めたりと、無礼じゃないか?」

「っ、し、失礼致しました」


 その台詞はもっともだった。当事者であれば、不安に思うどころか腹を立てるのも頷ける。

 すぐにユリノは頭を下げたが、ノブカツはしゃあしゃあと言った。


「まぁそうガツガツと焦んなよ。もしその捕まってる兄貴が死んでんなら、昨日のうちから死んでるだろうさ、奴隷として使われてんなら、少なくとも今は生かされてるってことだろ? 今日中に助ける以上、どんなに急いだって結果は変わんねーよ」

「え、今日中……?」


 思わず復唱してしまうウィット。普通、この手のクエストは何日も下調べしてからするものではないのだろうか?


「そうだよ」

「アジトも分かっていないのにか?」

「まぁ、何とかなるだろ」


 そんな適当な……と、自分の事を棚に上げて呟いたウィットに、ノブカツがリュックの中から一丁の銃を放り投げた。


「! な、なんだ……?」

「貸してやる。お前の魔銃は性能がゴミだ」 


 言われて改めて受け止めた銃を見下ろす。相変わらず惚れ惚れする程の輝きを秘めた銃だ。

 ただし、ウィットが持っている両手で持つタイプの銃とは違い、片手で持ち運びが可能な小さいハンドガンタイプだ。


「え……いや、これ高かったんだが……」

「それ、ギルドで買った武器だろ? 型式番号MK-AR0201パーティナイト、属性炎。金にものを言わせて、とにかく高いもんを買ったんだろうが、ギルドの魔銃は所詮、全部初心者向けだぞ」

「目の前で言っちゃうんですね」


 ユリノの苦言に、ノブカツは首を横に振って答えた。


「いやいや、お前らが悪いんじゃねえよ。初心者向けの銃だから、全て低ランクの魔物を殺すための奴ばっかで、対人専用には作られてねえ」

「魔銃に、使う対象とかあるのか? 撃てば魔物も人も等しく死ぬと思うが」

「当たればな。だが、持ってんのは向こうも魔銃だ。単純な話、先に弾を敵に当てた奴が勝つ。なら、取り回しが良くてバンバン撃てる方が、人と撃ち合うには向いてるに決まってんだろ」


 そう言われれば、確かによくわかる。けど、これから自分達の倍以上、人数がいる所へ殴り込みに行くのに、命を預ける獲物がこれだけ、というのは少々、頼りない気もする。見た目だけで言えば、自分の銃の方が強そうだから。

 そんなウィットの表情を読んでか、ノブカツは続けた。


「銃の性能に大きさは関係ねえよ。問題なのは使い手の腕と、場所における使い分け。それでもブーブー文句垂れんなら、テメェの銃を使うんでも構わねえけど、それで死んでも文句言うなよ」

「死んだら文句は言えないだろう」


 そこにツッコミを入れつつ、まぁ職人がそう言うなら借りておいた方が良いのかもしれない。


「これ、ポケットに入れておけば良いのか?」

「ホルスター持ってないのか?」

「持ってねえよ」

「あっそ……なら、背中の腰辺りに差し込んどけ。ノールックで手に取れるようにしておけよ」

「お、おう……」


 続いて、ウィットの手に持っている魔銃の説明を始める。


「名前はムーブイーター。麻痺銃だ。攻撃力はないが、弾速重視で身体の何処に当たっても、すぐに自由を奪い、一時間身動きが取れなくなる。射線はレーザー型。引き金を引いている間はエネルギー切れるまで放ち続け、指を離したらレーザーも切れる。ここのメーターがエネルギー残量だから、ちゃんと見て戦えよ。レーザー型はリロードに時間掛かるから」


 一通り説明を終え、腰の辺りに銃を差し込むウィットは、ふと気になった事を聞いた。


「もしかして……銃の準備でここに来るの遅れたのか?」

「いや、それは昨日のうちに終わってた。単純に寝坊した」


 やはりこの男、割とダメな奴だ。まぁ、とてもポジティブに考えると、夜に準備をしていたから遅れたとも考えられるが……いや、にしても遅刻は社会人としてダメだろう。


「あの、武器の説明はそれくらいにしてくれます? まずは契約の方をお願いします」

「へいへい」


 ユリノに口を挟まれ、キョウカが一生懸命書いた羊皮紙を受け取る。流れで説明してしまったが、本当なら武器の解説など子供の前でするべき事ではなかった。

 早速、受け取った契約書にサインしようとした直後だ。


「あ、あの……! キョウもつれて行ってください!」

「は?」

「えっ……」


 そのセリフは、ユリノも想定外だった。そんなの、許されるわけがない。


「ちょっ……キョウカさん? それは流石に危険です。冒険者でもないあなたに、盗賊の住処に向かわせるのは……」

「で、でも……キョウが、兄をたすけたいんです……! 危険なのは、わかってるけど……でも、もしかしたら……兄には、いつもたすけてもらってたから……ジッと、していられなくて……」

「いや、普通にダメだろ」


 潤んだ瞳で顔を見上げられるが、ノブカツは普通に首を横に振る。これから先に待つのは、大人同士の殺し合いだ。そんな中に子供は連れていけない。


「気持ちは分かるけど、キョウカさん。同行するのは私も反対です。相手は人の命を簡単に奪う事も平然と行う盗賊団ですよ?」

「で、でも……キョウは……」

「俺は良いと思うぞ」


 思わぬ援護をしてくれたのは、ウィットだった。


「ウィットさん、しかし……」

「考えてみてくれ。もし、このままリョウがダメだったら……一番、悔やむのは結局、キョウカちゃんだ。兄の最後の顔も、見られないかもしれないんです」

「……ですが」

「あっそ。なら良いぞ」

「ええっ⁉︎」


 今度はノブカツまで頷いた。さっきと言ってることが滅茶苦茶だ。


「な、なんで……!」

「大丈夫、このガキは死なせねーし、兄貴の方も殺させやしねーよ。お前はー……えっと……い、意斬理酢飯(いぎりすぱん)の懸賞金を揃えて待ってろ」

「不嵐素飯です」

「とにかく、ポカポカと安心しとけ。うーし、お前ら行くぞー」


 欠伸をしながら二人の依頼主を連れて、ノブカツはギルドを出て行った。


 ×××


 さて、まず探らないといけないのは敵の居場所である。それについてはノブカツにもアテがあった。

 自分が素材を採取する際に利用する情報屋だ。言うまでもなく、ツケが大量にあるのだが、何だかんだ情報をくれるのだ。


「うーっす」


 その声に、中にいる男は心底、嫌そうな声を漏らした。パンチパーマにサングラスをかけた、如何にもチンピラにしか見えない男だ。


「……また、来やがったなコラ。このモジャモジャ野郎」

「ツケで頼むわ、モジャモジャ」

「どっちも同じだろう」

「「こいつと一緒にすんな殺すぞコラ」」


 口を挟んだウィットを二人揃って黙らせに掛かる。しかし、実際二人ともモジャモジャなのだから仕方ない。


「で、何の用だ? 金もねえ癖によ」

「情報くれ」

「ボランティアじゃねえんだぞコラ」


 親しい仲なのか、それとも犬猿の仲なのか。微妙に判断がつかないが、とにかくのんびりしている時間はない。ウィットが口を挟んだ。


「すまない。金なら俺が出す」

「あ?」


 サングラスの奥にある瞳がギラリと光り、自分を睨む。ゾッとする視線だが、その男はすぐに隣のキョウカに目を移した。


「おっ、可愛い子もいるじゃねぇかコラ」

「ひっ……!」


 しかし、キョウカにとっては恐怖の対象でしかないようで、ウィットの背中に隠れてしまった。


「あれ、なんで怖がられてんだ? 俺何かした?」

「鏡見ろ鏡」


 しれっとノブカツがツッコミを入れつつ、話を進めた。


「で、アラン。金はそこのボンボンが出してくれるみてーだし、情報くれ」

「何が聞きてえの?」

「不嵐素飯のアジト」

「呪厳の滝の奥の洞窟」

「さんきゅ」

「ええっ⁉︎ もう情報収集終わり⁉︎」


 あまりの速さに、ウィットが驚愕の声を漏らす。だが、情報屋というのは基本的にそう言うものだ。勿論、知らないのでこれから調べると言うパターンもあるが、情報屋のアラン=リバーサイドは基本的に知らないことなどないのだ。


「なんだ。ほいほいと早かったら悪いのか?」

「いや、違うけど……いくらなんでも早すぎるだろう。てか、なんで知ってるんだ?」

「俺に知らないことなんてねえよ。なめんなコラ」

「単純に人の弱みを握るのが好きなだけなんだけどな」

「うるせーよ、人を性格悪い奴みたいに言うなコラ」


 そうは言うが、性格が悪くないとこの仕事は出来ない。実際、決して自分が良い奴であると言う自覚はなかった。

 まぁ、なんであれ情報は仕入れた。後はそこに向かうだけだ。ウィットが情報量を払い、さっさと出発しようとした時だ。


「待てコラ。嬢ちゃんも連れて行く気か?」

「そうだよ。行きてえんだと」

「……正気か?」

「依頼人がそう言うなら仕方ねえ。俺はへーへーとそれに従うだけだ」

「……あそう。ま、頑張んな」


 それだけ話すと、すぐに情報屋を出て行った。呪厳の滝まで、ここからそこまで遠くない。街を出て、一番近くの森の中に入ってすぐだ。一応、国内でも有名な滝で、観光地にもなっているのだが、それが盗賊団のアジトとなっていたとは呆れさせてくれる。

 ま、パワースポットだとか観光だとか、そんなのに一切興味ないノブカツとしてはどうでも良い話だが。


「あの……えっと、オリバーさん……」

「何?」

「キョウは、まじゅうをもたなくて良いんですか……?」


 自分だって、これから兄を助けるために戦うのだ。部下からいないと、参加出来ない。一応、戦うと言うことに対して覚悟は持っているつもりだ。

 しかし、ノブカツはそんな自分の額を、パチンと指で打った。


「バーカ、魔銃ってのはガキの持つもんじゃねえんだよ」

「え……?」

「お前は兄貴を助けに行くのであって、人を殺しに行くわけじゃねえだろ。なら、黙って俺の後に続けばそれで良い」

「で、でも……」

「良いから、言うこと聞いとけ。じゃねえと連れて行ってやんねーぞ」

「わ、分かりました……」


 そこまで言われると黙るしかない。兄を助けるために、ついて行かないわけにはいかないのだから。



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