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危険な橋を渡らないのは間違いではない。

 冒険者、それは世界の「未知」を切り開く職業。時には未知の生物、未踏の土地、未開の種族をを追い求め、時には力なき者達に代わって、魔物と戦って平和や文明を与える、誇り高き職業……のはずだった。

 しかし、現在ではその誇りは失われ、誰でも冒険者になれる手頃さへと変化しつつあった。

 理由は、大まかに分けて二つ。一つは、魔法使いでなくとも魔法が撃てる銃、魔銃の出現である。様々な協力魔法を、魔力を込めて引き金を引くだけで放てるそれは、遠距離から魔物を殺すのに適し過ぎた銃だ。

 それにより、冒険者が命を賭ける時代は終わった。魔物が見えたら、適した属性の銃……或いは、弾丸によって属性を変えられる銃で撃つだけ。

 そして、命を賭ける実感が無くなった冒険者は、冒険をしなくなる。何も、未知を追い求める事だけが冒険者ではない。市民や国王など、様々な人達からクエストを貼られ、それをこなすのも立派な仕事である。

 未知のものを見つける仕事とは金額は違うと言えど、それでも金は稼げるし、その方が楽だ。

 二つ目の理由が、それだった。

 それが別に悪いわけではない。安全なら安全に越したことは無いし「未知」も、探せば探すほど減って行くものだ。

 だが、良い風潮とも言い難い。人が平和ボケと慢心をした時、そこに災いは訪れるのだ。


 ×××


 冒険者パーティ「狩流墓名亜羅(かるぼなーら)」は、パーティランク五の駆け出しパーティだ。最大でパーティランクは九十九まで設定されているが、ひとまず限度がそこ、というだけで、そこまで到達したグループがいるわけではない。

 その駆け出しの集まりでありながら、その勢いは順風満帆であった。

 何せ、リーダーのウィット=ダカオは、両親がそれなりに金持ちであったからだ。よって、高い魔銃を購入し、バンバカ活躍しているわけだ。


「いやー、狩ったなオイ」

「そうすね。大量っすね!」


 同じパーティのシン=シュナイダーも、持ち上げるように言う。パーティメンバーは全部で四人、その一番後ろにいる小さな少年が、大量のブラッドパンサーの亡骸が入った袋を引き摺っている。


「大丈夫?」

「は、はい……!」


 あまりに重そうに担いでいたので、パーティメンバーのエイキ=ウィンターが声を掛けるが、少年は作り笑顔で答える。

 その少年だけ、魔銃を持っていなかった。

 家はかなりの貧困状態で、妹を養うために冒険者の雑用としてパーティに無理矢理、入れてもらった立場だ。

 幸い、パーティメンバーの魔銃のお陰で、自分に危険は無い。


「おーい、リョウ。遅れんなよ。換金18時までなんだから。それ売らねーと今日はお前に金出せねーからな」

「は、はい……!」


 リョウ=レボリューツは何とか声を絞り出す。これも運が良かったと言うかなんと言うか、待遇は悪くない。

 今日の獲物はブラッドパンサーが5頭。肉は硬く一部のマニアにしか受け入れられていない為、高くはないが、牙は軽く硬く出来ていて、加工すればそこそこ高級な包丁になる。

 他にも、骨や爪なども高く売れるので、それが5頭なら中々、悪くない収穫と言える。


「しかし、良い時代になったよな。今じゃ誰しもこうして気軽に稼げるんだからよ」

「そうっすよね。こいつのお陰で、危険もないし、よっぽど近づかない限りこっちはやられませんし」


 実際、彼らのパーティに魔物を狩る際の作戦なんてものはない。敵を見つけたら、なるべく近付かずに魔銃を撃つ。逆に、魔物の方がこちらを見つけたら、閃光弾や音響弾で牽制し、動きを止めている間に撃つだけ。

 単純だが、余程の化け物でも出て来ない限り、これが一番早い。少し前の冒険者では、遠目から観察しつつ、魔物の種類を見つけ、習性と弱点を利用して誘い込み、怯んだ所で距離を詰め、叩き斬る……という確実な手段を持って行われていたのだ。

 それをやるには、アイテム代も時間も何もかもが掛かってしまう。

 それらを、魔銃は圧倒的な破壊力で全て省いてくれるのだ。


「ああ。何処の誰が作ったんだか知らねえが、ありがてえ話だぜ」

「そういえば、魔銃の第一型って出所不明だったよね」


 まだ彼らが赤ん坊の頃……つまり、十五年ほど前の話だ。魔法を銃に詰める、と言う技術はあまりに難しく「現代の技術の手に負えるものではない」と国が気付き、研究費用が減らされ始めた頃、ある日、急に出来上がったとされている。

 わけがわからないが、当時の職人も「あまりの眠気に、リスク無視で強引に作って眠くなって翌日起きたら出来てた」と謎のセリフを残している。


「自分でもどう作ったかわかんなくて、分解して設計図とか全部、見直して理屈化した、とかよくわかんない事言ってたらしいっすね」

「まぁ、理屈とかカラクリなんざどうだって良いんだよ。俺らが楽して強くなれんならなんだってな」

「ま、そうっすね」


 そんな会話を聞きながら、リョウは少し複雑になる。亡くなった自分の親から聞いた話だと、冒険者というのは誇り高い職業であったはずだ。

 だが、現実はこれだ。彼らはまだ駆け出し。にも関わらず「楽して強くなる」とか抜かしている始末だ。

 自分だって、立派な冒険者になるつもりはない。今はそれよりも妹と生活することが最優先だ。

 だが、憧れはあった。世界に対する探究心と、自然に対する敬愛を持ち合わせ、この世の限界に挑戦する選ばれた人種。

 そんな者が、目の前の事なかれ主義とは、どうか別人であってほしい……そんな風に思った時だ。


「……?」


 街までの道のりは、草原とたまに地面から顔を出した岩石群なのだが、その岩陰から人影が見えた。全部で八人ほど。その手には、魔銃が握られている。


「……!」

「盗賊……⁉︎」


 それに気づき、ウィット、シン、エイキが身構える。だが、人数差が明らかに不利だ。その上、敵も遠距離攻撃の手段を持っているのなら勝ち目はない。

 最後に、一人の男が顔を出す。全員が揃った装備を身に付けている中、その男だけは若干、違うバンダナを腕に巻いている。おそらく、リーダーなのだろう。その男が、自身のチームメイトに構えを解かせる。


「我々は盗賊団『不嵐素飯(ふらんすぱん)』だ。その袋の中のものを寄越せば見逃してやる」


 リーダーの指差す先にいたのは、パーティ内で一番、背が低いリョウだ。周りの誰から見ても、そのガキが金になるものをもっているのは目に見えていた。

 それに対し、こちら側のリーダーは実に落ち着いた様子で答えた。


「逆らえば?」

「殺す」

「……なるほど。リョウ、そいつを渡してやれ」

「はえ……?」


 なんで? と、リョウは目を丸くする。明らかに渡す義理はないし、まず間違いなく渡せば報酬は手に入らない。


「ただし、渡すのはその荷物だけだ。俺達の身ぐるみまで剥がすつもりなら……」

「逆らう気か? やめておけ。お前達では……」

「俺は商人、ダカオ家の息子だ。俺が行方不明になれば、親父が契約している騎士団に繋がり、お前らはどちらにせよ報復を受ける。騎士団の総数は五〇を超えるぞ」

「……なるほど」


 それなら袋の中身まで渡す必要ないのでは? と、リョウが思ったのも束の間、すぐにウィットは説明を続けた。


「だが、それは俺だけの話で他のメンバーはそうはいかない。だから、その袋の中は落とし所だ。俺達全員の命と身包みは渡せないが、その袋だけはくれてやる。どうだ?」

「……良いだろう。それなら、俺達も無駄弾を撃たずに済む」


 なんか良い話にまとまっている。実際、シンやエイキは感謝の眼差しでウィットを見ている。

 ……が、リョウとしては複雑だ。何せ、結局は損しているのは自分達だからだ。戦っても勝てないし、死にたくもないので見逃して下さい、と高圧的に言っているに過ぎない。

 何より、ウィット達ではそれでも良いかもしれないが、自分達の生活費はそうもいかない。明日の食べるものも無いのだから。


「リョウ、早く渡せ」


 ウィットに言われると同時に、盗賊のリーダーがこちらに歩いてくる。いつの間にか、盗賊達は四人を囲むように移動している。おそらく、戦い慣れているのだろう。その上、魔銃の性能もウィット以外のものより上だ。

 だが、妹が家で待っている。毎日、一食しか食べれない生活をしているのだ。一日でも食べなかったら、いよいよどうなるか分からない。


「っ……!」

「チョっ……バカ!」


 気がつけば、キュッと目を閉じて、袋を持ったまま逃げ出そうとしていた。

 そんな事をすれば当然、盗賊も出方を変える。手に持っていた魔銃を抜いて、照準を合わせる。相手が子供であろうが、邪魔者は敵だ。


「! やめっ……!」


 直後、ドォンっと腹に響く重低音。それと共に、リョウの背中と腹から血が噴き出す。弾丸は特別なものでもなかったが、人間相手なら十分だ。

 それにより、前のめりに倒れるリョウ。緑色の草原に、赤い水溜りが広がっていく。


「リョ……!」

「動くな」


 先程の交渉の時とは違い、明らかに殺意を孕んだ声が響く。それにより、パーティーメンバーは誰一人動かずに足を止めた。


「俺達が獲物を回収するまで、一歩でも動いたら殺す」


 そう告げられ、全員反論もできずに静止した。脅しではない、と本能で感じ取ったのだ。

 盗賊達は歩いて袋を手に持つと、続いて倒れているリョウの足も掴んだ。


「! ど、どうする気だ⁉︎」

「刃向かった罰だ。こいつは貰っていく」

「なっ……⁉︎」

「お前らは利口だったよ。じゃあな」


 それだけ話すと、盗賊達はのうのうとその場を後にしてしまい、ウィット達は追い掛ける術も勇気も無かった。


 ×××


「え……今、なんて……?」


 妹の元に兄が連れ去られた、という情報が入ったのは、その日のうちの話であった。残ったメンバーの中から代表してウィットが、すぐに自宅に向かった。

 突然の悲報に、わずか7歳の少女は、ポカンと間抜けな顔を浮かべてしまった。


「すまない……君の兄さんは、リョウは……盗賊に連れ去られた」

「っ……な、なんで……」

「理由は分からないが、検討はつく。おそらく、奴隷にでもするつもりなのだろう」

「……」


 今日も、いつもと同じように帰ってくると思っていた。少ない報酬で、少ない食事を、二人だけで慎ましく食べていけるものだと思っていた。それでも、兄さえいれば辛くても幸せではあった。

 しかし、神はそれさえも許してくれないというのだろうか……。


「一応、俺達は荷物を捨てて良いと言ったんだ。……だが、あいつは手放さなかった。言い訳がましいかもしれないが、手に入らなかった今日の報酬の分は渡す予定だった。君達の事情は知っていたからな」

「っ……」


 嘘ではない。なんなら、奢りの食事会でも開こうかと考えていたくらいだ。

 いや、そんな弁明は意味がない。彼女は、明日生きる術さえも見失ったのだから。まだ年端も行かない少女が、心の支えであり、実際生活の支えでさえもあった兄がいなくなったのだ。どう生きれば良いのかも分からない所だろう。

 とにかく、こんな別れも何も言えていないのに兄と別れるなんて冗談ではない。納得できるわけがない。


「……兄を、とりかえすクエストをおねがいするには、いくらかりますか?」

「……」


 その質問が来るのは、想定できていた。だからこそ、恐れてもいた質問だった。それを答えるには、あまりに残酷な解答をしなければならないからだ。


「……残念ながら、不嵐素飯という盗賊団はかなり手強い。持っている魔銃が全てかなり強力な上、姑息な連中だ。パーティーランク一五以上のパーティでないと、無理だろう。賞金首が相手なだけあって、金もそれなりにかかる。おそらく、10万ゴールドは……」

「じゅうまん……?」


 一日、100ゴールドで生活している妹、キョウカは万という単位を知らなかった。ただ、小首を傾げるのみである。

 とにかく高額になってしまうわけだが……一人だけ、心当たりがない事もない。自分は関わった事ないが、父親が世話になったらしい男が一人いる。


「キョウカちゃん、一人だけ紹介するよ? 引き受けてくれそうな人」

「い、いえ! じゅうまんゴールド、貯めます!」

「いや無理だからそれは。何年掛かるの」

「だいじょうぶです! 毎日、お兄ちゃんがもってきてくれた、500ゴールド分はがんばります!」

「200日かかるよ」


 言われて、キョウカは顔を真っ青にしながら、500を両手で200回数えようとする。が、どうやっても終わらない未来が見えたのか、すぐにやめてその場で膝をついた。


「それよりは、この男に任せた方が確実で早い。大丈夫、依頼料は俺が出すから」

「ほ、ほんとうですか……⁉︎」

「ああ」


 それだけ話して、二人はその男の元へ向かった。その男の居場所は、町外れにある、元冒険者が経営する魔銃の店だ。



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