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転生したら生贄だったので残りの人生好きに生きます  作者: 猫宮蒼
ゲームでいうところの中盤から終盤にかけてのスキップできないやたら長い強制イベント

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閉じ込められているとは思えないくつろぎっぷり



 なんというかとても気まずいです、という雰囲気を隠しもせずにメアは両手で自らの顔を覆うようにしていた。とはいえ完全に顔を隠しているわけでもなく、頬のあたりをすっぽりと両手で覆っているようなものだ。それなら別に隠しているとは言えないがメアの髪が長いせいで割と隠れてしまっている。

 正直目の前見えないんじゃないかしら、とは前々から思っていたが、まぁメアが不便そうにしているわけでもないので黙っている。時折髪の間から覗く赤い目は、どうしたものかとあちらこちらを行ったり来たりしてステラと目が合う事はほぼ無い。


「何はともあれ、元気そうで安心したわ。メア」

「う……その、えっと」

「……とても業腹だけどルクスには私の本当の名前知られてるから。もういいわステラで」


 ドアの向こうに音が漏れていたとは思えなかったが、それでも聞こえていたのだろう。どこか言い淀んだ様子だったけれど、別にメアを困らせたいわけでもない。好きに呼べばいいとは思うがメアがゴンザレスと呼ぶのに対しルクスはステラと呼ぶ事を止めないだろう。そのうち混乱しそうなのでじゃあもういいやと開き直る。

 言わなくて済むならずっとそのままでいたのだけれど、知られてしまっては仕方がない。


 元より同じ村にいたベルナドットは知っていた。あえて呼ばずにいただけで。


「ステラ、ステラか……いいなまえだな」

「そうね。その裏に付随するあれこれがなければね」

「……もしかして、そのなまえ、きらい?」

「好きではないけど別にいいわ。それが私の名前だもの。それで、メアはどうしてまたあいつのところに?」


 一体いつから、と思う。

 ルクスがルシウスとしてあの館で暮らしていたのはいつからだったか……ニーズベルク伯が亡くなったとかいう話が出てからすぐだったように思う。けれどあの時はまだメアも自分の隠れ家とやらにいたはずだ。

 あの時点で接点はなさそうだが、リリメアを倒した後で身を寄せていたのかもしれない。

 そう思って聞いてみれば、しかしメアは首を横に振った。


「メアがルクスとてをくむというか、したについたのはわりとついさいきんのこと」


 部屋に閉じ込められた以上、今は特にやる事もない。

 いや、部屋を強引に脱出する事も可能ではあるのだけれど、メアと再会したのだからまずはお互いに話をしておくべきだろうと思ったのだ。ここに一緒に閉じ込められたのがメアでなければ今頃は話す事など何もないとばかりに早速ドアをぶち壊して脱出するために動いている。


 メアの話を聞いたところ、なんというかどこかで聞いた気がするなと思ったのは決して気のせいではない。

 リリメアを倒し、その際に本来の姿へと戻ったメアはベルナドットにその姿を見せてしまった事で姿を消した。あれ以来どうしていたのかと聞いてみれば、まずはベルナドットやステラの前に姿を見せないようにしつつ他の兄弟姉妹と戦うにも元の姿に戻ったばかりだったので力を使うのも不安定、それ故に隠れ住む事になっていたらしいのだが、この時点で既にメアの従者はいない。正確には敵に回っている。だからこそ、日々の暮らしで精一杯だったらしい。


 何か聞き覚えあるなと思えばそこら辺の話はクノップの話とかぶるという事に気が付いた。

 クノップもリコから色々と奪われた結果日々の暮らしに困窮していたし。


 しかしクノップの場合は冒険者ギルドに一応冒険者として籍をおいていたのでそちらの依頼を引き受けたりして日銭を稼いだりもしていたが、メアは冒険者として動く事もしていなかったのである意味でもっと酷い暮らしをしていた。

 最初は他の姉妹たちの隠れ家を転々としていたらしいのだが、メアの姉妹たちは既に皆倒れたという事は他の兄弟姉妹たちにも知られている。そこでたった一人残ったメアが姉妹たちの隠れ家にいつまでもいた場合、他の兄弟姉妹たちに見つけられる可能性もあった。妹たちの隠れ家はいくつかあったけれど、そちらは特に役に立つ物があるでもない。けれどリリメアが拠点として使っていた場所は――彼女の事だ、それなりに使える物があっただろう。

 そういった何かを狙って訪れる誰か、という可能性はなくもない。

 とはいえそれ以前にリリメアの従者でもあった彼がそういった物は引き上げていたに違いないと思うのだが。


 いくつかの金目の物になりそうな物を頂戴した後は、細々と隠れ住んでいた。

 冬になる前にある程度の食料を確保して、どうにか冬を越した。


 そこら辺の話は聞けば聞くほどサバイバルすぎて、ステラは何でメアってそんな自らを追い込んだ生活してたのかしら……と思っていた。成長したその姿をいくら見られるのがイヤだったとはいえ、結果生活がサバイバルはどうなんだろう。


「むしろそんな生活してたって聞いて逆に心が痛いわ」

「メアが、よわいばっかりに」


 春になって草花が芽吹くようになってから野草なども調達できるようになり、食生活はどうにかなっていたようだがこの頃には住む場所を確保する方が大変だったようだ。一所に留まっていると他の兄弟姉妹に狙われる可能性もあるために、日替わりで転々としていたようだ。

 けれどもそれも限界が近くなってきて、目をつけたのが地下水道。そこでルクスたちと遭遇し、今に至る。


「……メア、あなたね……」

「みなまでいうな。わかっている」


 だったらもっと早くに家を訪ねてきてほしかった。

 そうしたらベルナドットはメアを探し回る事もなかっただろうし、部屋の提供は……クノップがいたので微妙なところではあるがそれでもどうにかできたと思う。


「えぇとねメア、貴方が意図的に言ってない予言とかなんだけど」

 ステラのその言葉に、ヒュッと息をのむ音がした。だろうな、とは思う。

 メアはその予言とやらのせいで一人でいる事を選ばされたようなものだ。


「それを、だれから……」

「えぇと、雑種ね。毛玉って言ったらわかるかしら」

「あいつか。いやまて、もどったのか!?」


 メアがザッシュと出会ったのはモアナスタットに素材を集めに行った時の話だ。あの時はまだザッシュは毛玉と呼ばれ単なる畜生扱いであったし言葉を喋る事もしていなかった。

 メアはあの時点でまだ力を回復させていないのだと判断していたし、戻るのはもっとずっと先の話だろうと思っていた。だからこそアレの口からその予言についてが飛び出ていたなんて知る由もないし、こうして知らされても驚きしかない。


「ちょっと前にね……メアがいなくなってからこっちも色々あったのよ……あ、そうだ。今うちにクノップもいるの。知ってる?」

「クノップ……まがんのアングレーシアか」


「あ、一応知ってはいるのね。まぁ色々あってうちで匿う感じになってね? グランの代わりに素材集めとか頑張ってくれてるのよね」

「グラン……? あのぼうけんしゃか。どうしたんだ?」

「グランは冒険者から騎士にジョブチェンジするところなのよ。それで色々と忙しくて」


 ステラの話に自分が離れていた間に色々あったんだな、と察する。

 自分がいない間に色々あって、そうしているうちにメアの事などすっかり忘れてくれているかと思いきやベルナドットは頻繁に探しに出かけていたというし、ステラもそれなりに気にかけていたらしい。

 自分の事などさっさと忘れてしまえばよかったのに。

 そう思いはするが、同時に気にかけてくれていたという事実に何だか頬がじわじわと温かくなる。

 視線をどこにやればいいのかわからなくなって、落ち着かない様子で室内を彷徨わせた。


「そ、そうだ。ルクス。どうしてルクスが?」


 このままだと何だかとても居た堪れない気分になる。そう判断したメアは話題を変えようと――したけれど結局変え切る事はできず本題に入る。


 ルクスが情報収集をメインとして動いている事はメアも知っている。とても腹立たしい事ではあるが、彼の部下は誰もが優秀だ。かつての自分の従者然り、リリメアの従者然り。他の兄弟姉妹たちの所にいたであろう従者たちもいるのだ。優秀でなくてなんだというのか。聞けば自分の兄の所にも部下を潜ませていたというのだからここまでくるといっそ笑うしかない。


 兄にも自分の部下だと気付かれずに潜入させるだなんて、何を考えてどうすればそうなるのか。


 ともあれ、ルクスは恐らく今現在生き残っている後継者たちの中で最も情報に長けている。アステルも彼とは別方向に情報を扱っていたけれど、あくまでも王都住人経由で得られるものだ。ベクトルが多分違う。まぁ、アステルはそんな何も知らない王都住民から得た話から必要なものを精査していたので、それもそれで凄いなとは思うのだが……どちらにしても彼はもういない。


 情報収集、そこからどうやってステラの本名に辿り着いたのか……気にはなるが、そこではない。

 何がどうして彼女に協力を要請しているのか。


「なんでかしらねぇ……そこは私もよくわからないわ」


 何せ肝心な情報は知らない。ステラはそれを聞く前に断っている。そもそもルクスから聞いたら彼の主観が入りまくった情報になりそうなので、どうにも信用できる気もしない。


「でも、だからこそメアをここに寄越したんでしょ。少なくともルクスよりはメアの話の方が信用できる。私はね。で、大方そこからこっちを引き込もうって感じなんじゃない?」

 メアの話を聞いたからといって、それじゃあ協力します! となるかはわからないのだが。


「そうか……メアがステラたちとしりあっていたということもしっていたようではあるからな」


 見知らぬ他人より見知った知人の話の方がまだ聞こうという姿勢になりやすい。その理屈はメアもわからないでもない。


「……メアがはなしたからといって、そうなるとはかぎらないとおもうんだけどな」


 そもそも話せって何を。という気持ちで一杯である。


「ルクスの話だと私に魔王になれるだけの力がありながらもなるつもりのない相手に魔王になるっていう心境の変化を促すとかどうとか。……正気かしら」

 そもそもやる気のない奴に何言ったってそんな簡単に心境の変化が訪れるはずもない。

 ステラが詐欺師も真っ青なくらいに口が上手いのであればまだしも、別にそうでもない。そもそも相手は魔王の後継者。見た目がいくら若く見えようとも自分より確実に長い年月を生きている相手だ。人間の小娘一人が何か言ったくらいでそう簡単に今までの意思を翻したりはしないだろう。


「とりあえずなんだけど、メア、貴方の知ってる情報教えてもらえる? 主に今いる魔王の後継者の有力候補について」

「そうだな。ルクスのいうとおりにするのはふほんいだが、はなしておいたほうがいいだろう」


 知ったからどうだというわけでもないがそれでも。

 何も知らないまま巻き込まれるよりはマシだろう。


「そもそもルクスについて聞きたいんだけど、何、あの、アレ。魔王に近い位置にいる、って言ってたけどでも自分が魔王になったら三日もしないで反乱起きるとか言ってたし、じゃあそれって別に魔王に近いとか言えないんじゃないの?」

 本人に突っ込もうと思ってはいたのだけれど、そこで会話を長引かせるとそのまま向こうのペースに引きずり込まれそうな気がしたので黙っていたのだ。けれども気にはなったのでここぞとばかりに問いかける。


 その言葉にメアはあー、と何とも言えない感情を乗せて声を出した。


「あぁ、そう、だな。ルクスのいっていることはあるいみであってる。

 あれは、まおうのじっしだ」


 メアのその言葉に、ステラは確かに一瞬だが自分の中の時間が停まったような錯覚を覚えた。それが事実であるならば、確かにルクスの言っている言葉は合っている。

 後継者としては微妙なところであっても血縁というのであれば確かに近しい位置にはいる。


 けれど。


 直接会った事はないとはいえ、村の文献やらで知った魔王のイメージと、その魔王の直接の血縁関係者であるルクスとがどうしても繋がらない。

 まぁ、親がどんだけマトモに教育してもろくでもない育ち方する子なんてそれなりにいるし、その逆もまた然り。親がロクでもないからこそ反面教師にマトモに育つ子だっているくらいだ。

 村人に押し切られて生贄捧げられる羽目になった魔王の実子が同じようにお人好しであるだなんて思い込みも甚だしい。

 夢、いや、希望、でもない。幻想、それが近しい心境だろうか。幻想はぶち壊された気がしたが。


「今のでもう何かあんまり聞きたい話って感じじゃないんだけどそうも言ってられないわね。メア、もうちょっと詳しくお願い」


 アイテムボックスから座り心地のいい椅子を取り出して、腰を掛ける。メアの分も用意したので彼女にも座るように促す。最初からここにある椅子は、正直座り心地が良さそうだとはお世辞でも思えないのでステラにとっては当然の行動ともいえた。

 ついでにテーブルも出したしお茶と茶菓子も用意する。


 アイテムボックスの中に色々と入れてあったからこそできる芸当であった。


 メアとしても、閉じ込められてる自覚あるんだろうか、と一瞬思ってしまったが、突っ込まない事にした。部屋に押しやられた時から思っていたが、ずっと床に座ったままだと身体は痛くなってくるし何ならじわじわと接している部分から冷えてくる。ステラが取り出した椅子に座って、カップを手に取る。

 協力してほしいというのであれば、せめてもう少し待遇を良くしておくべきでは? 閉じ込めた相手より閉じ込められてる相手の方がマシな待遇見せてくるってどういう事だろう。

 メアの内心はこの時点で限りなくステラ寄りであった。そもそも仕方なしにルクスの下についたのであって、忠誠心とかあるわけでもなし。


 必要そうな情報を話したら、どうにかしてステラを連れて脱出できないか考えてみよう。

 そう決めて、メアは言葉を紡いだ。

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