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転生したら生贄だったので残りの人生好きに生きます  作者: 猫宮蒼
ゲームでいうところのめちゃんこ長いチュートリアル

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アイテムをドロップするなら人間だってドロップする



 翌日。

 今日も今日とて毛玉に留守を任せて二人は王都の外へと出た。

 素材採集のためである。王都から出るという事はすなわち魔物と遭遇する確率が上がったという事でもあるのだが、二人にそういった緊張感は一切ない。

 王都の外へ出て少し歩いてからベルナドットが笛を吹くと、上空からばさりと音を立ててギアがやって来る。

「グルルァ」

 王都に来てまだたった数日しか経過していないし、村にいた時もこれくらい放置はしていたけれど、やはり呼び出されない事に不服だったのか、ギアはもっと早く呼んでよ! とばかりに鳴く。

 これはあまり長期放置すると王都に乗り込んでくるんじゃなかろうか、そんな気にさえなってしまった。


 ギアの背に乗り飛んだ先は、王都から馬車で行けば一日程度の距離にある山だった。飛んでいる時に上から見ていたが、街道らしきものも途中でなくなっていたので、ここいらはあまり人が立ち入る事はないのだろう。

 仮に人が通ったとしても、道もろくにない険しい場所だ。のっぴきならない事情でやむなくやって来た者以外は、世捨て人とか人目を避けたい犯罪者とか他国から侵入してきました、とかそういうあまり大っぴらに言えない事情の者たちだろう。


「この山の向こうはどこに続いてるんだろうね」

「流石にそっちの地図は見た事ないから知らないな」

「地図とか、どっかで見る機会ないかな? 流石に世界を駆け巡る、なんてとこまではするつもりないけど興味はあるよね」

「何ならギアに乗って行ってみるか?」

「ギューアー」

 任せてー、とばかりに鳴くギアに、行かなくていいとベルナドットが制止する。そうしなければ本当に全速力で飛び出しかねない。


「どこまでもどこまでも飛んでいった先に、一体何があるというのでしょうか。何かあるかもしれない、けど、何もないかもしれない。そうして突き進んで気付いた時には、帰り道すらわからなくなっているのです」

「おい、どうした。それ何のネタだ。わからんネタは拾えないぞ」

 静かに語るゴンザレスに、ベルナドットは困惑していた。普段はどこか気の抜けた様子か、その場のノリと勢いで突っ切るぜ! とばかりのテンションであるというのに、あまりにも静かに語られたせいか、一瞬何かが彼女に乗り移ったのではないかとすら思ったくらいだ。


「ベルくんが知らないのも無理はないわ。だってこれ、前世の私が中学時代に書いた作文の一節だもの」

「……おい。おい」

 内輪ネタにも程があるというか、むしろあんたオンリーにしか通用しないネタじゃないか。そう言おうとしたものの、それよりも先に更にゴンザレスが口を開く。

「ちなみに課外学習の時にうっかり皆とはぐれて迷子になった時の事ね。帽子が風で飛ばされちゃってねー、追いかけてったらまー見事にはぐれたものだわ」

「むしろそんなのよく覚えてたな。卒業文集の内容すら俺覚えてないぞ」

「まぁ何かやらかしたら全国ネットで晒されるものね、卒業文集は。誰しも一刻も早く忘れ去っておきたいものなんじゃないかしら」


 などと、ある意味とても不毛な会話をしつつも山を登っていく。山道すらないかと思っていたが、一応人が通る事ができそうな場所があったため、そこを進んで行く。

「……というか、ここ最近誰かいたっぽいな」

「え? うっそ、何でそんなのわかるのベルくん」

「そこ、うっすらとだが足跡がある。どこかで水溜まりがあったか、もしくはどっかに川か湧き水があるのか、足跡濡れてるんだよな。今は乾きかけって感じだが」

「あら本当」

 言われた場所を見ると確かに濡れた足跡が点々とついている。とはいえ、そこそこ時間が経過したのか大分乾きかけている。言われなければ気付かなかっただろう。


「見たとこ足跡は複数。一人だけってわけでもなく、グループ行動していると見ていい。……なぁ、もしかしてここ、山賊とかねぐらにしてるとかいうオチなんじゃないか?」

「えー? まっさかー。だってこの辺、ギアに乗って上から見たけど、街道がないから通りがかった馬車を襲う事もなさそうだし、アジトっぽいものだって見当たらないし、隠れ住むにはさておき山賊が活動するにはちょっと不便じゃない?」

「不便だからこそ、こういう天然の要塞みたいな所の悪党って基本騎士団も退治しきれなくて手に負えないとかファンタジーあるあるだろ」

「それはそうだけどさぁ……」

「勿論普通の冒険者とかが訓練がてら魔物退治に来るとかそういう可能性もあるけど、楽観視はしない方がいいだろ」

「うーん、まあ? こっちも一応武装はしてるし? 何かあってもどうにかなるんじゃないかなぁ?」


 武装。

 ゴンザレスはそう言ったものの、二人の服装は王都にいた時と比べてそこまで変わっていない。

 ギアに乗るのにゴンザレスはスカートの下に分厚いタイツを履いているのと、あとはリュックではなく腰のあたりに鞄がぶら下がっている。ショルダーバッグかと思いきや肩の部分から下げているわけではなく、あくまでもウエストポーチのように腰のあたりで巻き付けられていた。


 こちらもゴンザレス製アイテムボックスである。

 リュックだといざ使おうという時にいちいち下ろして手前の方に持ってこないといけないため、いざという時があった場合を想定してすぐさま道具が取り出せる物に変えたのだ。

 リュックは王都の家に置いたままだった。というか、王都のリュックとこの鞄、内部で空間が繋がっているので道具の取り出しとか移し替えとかそういう手間は何もない。

 スペア〇ケットかよ……とベルナドットが遠い目をして呟いていたが、便利なのはいい事だと思うのでゴンザレスはそのツッコミをとりあえずスルーしておいた。


 武装。

 正直見た目に変化はあまりないが、ベルナドットの方がまだちゃんと武装していると言える。

 ベルナドットはいかにも旅人です、と言わんばかりの服装ではあるが、見た所弓は持っていない。

 普段村にいた時と比べて違うのは、腰につけられたウエストポーチと両手首に存在しているブレスレットくらいだろうか。

 ウエストポーチはゴンザレス特製のアイテムボックス軽量版である。こちらはリュックと中身が繋がっていないが、見た目に反して大量に物を入れる事ができるので素材収集のためにと渡された代物である。

 そしてブレスレット。

 見た目はちょっとした装飾品でしかないが、ついている魔石に魔力を通す事で左手側のブレスレットは弓に、右手側は矢が出現するようになっている。


 かつて合成ボックスでただの弓に魔石を合成したあの弓ではない。あれもあれで中々に使い勝手が良かったけれど、いざ王都に行く際にかさばるから、という理由でこちらの装備に強制変更された。ゲームキャラって何で自分で装備整えないの? 主人公に貢がせすぎじゃない? とか思っていたが、きっと自ら装備を整える前に強制的に変更されてるんだな、と何となく遠い目をしつつ思ってしまった瞬間でもあった。


 普段は武器なんて持ってないのに戦闘になると当たり前のように武器を持ってるキャラクター気分である。

 矢の方はどうなってるのか知らないが、魔石に魔力を通すととりあえず矢が出現する。それも普通の矢だけではなく、属性付きの物までも。

 便利だからって調子乗りすぎると魔力使い果たして動けなくなるから気を付けてね、とは言われているが、矢の残り本数に神経すり減らすよりはマシだと思っている。

 というかこれ、いくら撃ってもなくならない矢とかどう考えても完全にチートの類なのでは?

 王都に来て早々装備するような代物ではないと思う。普通こういうのラストダンジョン手前あたりで入手して装備できるようになるやつではなかろうか。ラスダンが果たして存在するかはさておいて。


 ちなみにギアに乗る少し前に一応試し撃ちをしてみたのだが。

 一本の木に突き刺さった瞬間木が粉々に粉砕されたので威力はある。が、別の意味で心配になってくる。

 えっ、これ人間に命中させたら少年漫画のバトルシーンとかで何かこう、人がパーンってなって挙句悪役に、

「汚い花火だ」

 とか言われちゃうような事になったりするんじゃないのか? 威力がありすぎるってのも問題だな??

 などと思ったりもした。ちなみに威力の調整は可能と言われたので、使いこなせるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。



「…………人の足音」

 武装ったってなぁ、と思っていたがふとベルナドットの耳は遠くの方でかすかにしたその音を捉えてしまっていた。思わず足を止める。

「誰かいる、って事ね。近づいてる? それとも遠ざかってる?」

 近づいてるなら一応隠れて様子を窺うべきかと思ったが、ベルナドットはそっと首を横に振る。

「わからん。不規則な感じだな。複数いるが、全員が同じ方に向かってるって感じじゃない」

「ギーア」

「お前は何もするな頼むから」


 あっ、何なら自分様子見に行きましょうか? みたいなノリで鳴いたギアに即座にベルナドットは告げていた。返答があとコンマ一秒でも遅れていたらきっとこいつ、そのまま飛んで様子を見に行っていたに違いない。

 相手が翼竜を見て逃げ出す相手ならまだしも、見つけたと同時に撃ち落として倒せる技量の持ち主だったらどうするんだ。自分のうっかりで死ぬだけならまだしも、お前に死なれたら今後の移動手段に困るだろうが。

 割と酷い考え方であるが、悲しい事に事実である。


「ねぇねぇベルくん」

「なんだ。あんたも無鉄砲に飛び出すような真似はするなよ」

「うん、それは流石にしないけど。ねぇベルくん、あのね、そこの茂み、何か人倒れてない?」

「…………え?」


 くいくいと腕を引かれて、足音が聞こえた方とは違う方向を指し示される。

 人があまり立ち入らないからこそ伸びに伸びた草がわっさわっさしてる部分、そこをよく注視してみる。言われてみれば何かいるような気がしたし、だからこそもっとよく見てみる。

 ………………人が、倒れていた。


「遭難して死んだ登山者か?」

「前世ならその可能性がダントツだけどさ、ここそういうアレかなぁ? とりあえず拾う?」

「あんたは何でも落ちてるものを拾おうとするんじゃない。俺が様子を見てくる」

「私も行くー」


 邪魔にならない範囲に位置取りついてくるゴンザレスを、ベルナドットは一先ず放置することにした。ここで下手に言い合うよりもさっさと様子を確認する方が明らかに手っ取り早い。



「おい、おい、生きてるか……?」


 そろそろと近寄りつつ声をかける。あまり大きな声を出さない方がいいだろう。先程の足音の連中が厄介な存在だった場合を考えて気付かれないようにするべきだ。

 声をかけられたからか、それともたまたまか。

 ベルナドットの声に反応するように、草の間からかすかに見えた手がぴくりと動いた気がした。

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