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転生したら生贄だったので残りの人生好きに生きます  作者: 猫宮蒼
ゲームでいうところの中盤の本筋忘れるレベルでお使いイベント頼まれるあたり

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因縁の再会



「やはり貴様か……! レェテ!」

 アークが吠える。ゴンザレスが思わず肩を跳ねさせる程度の音量は正直なところここがまだ空き地で周囲に住宅がないからいいけれど、それでも充分に近所迷惑と言えるくらいのものだった。


 レェテ――どこかで聞いた気がする名前ね、なんてゴンザレスが思い出そうとするがそれよりも先にアークがレェテと呼んだ青年に向かって駆けだしていた。そこまで距離があったわけではない。あっという間に接近し、拳を振りかぶり――その拳がレェテに命中するかと思われたがギリギリで避けられる。しかしレェテの頬に一筋、血が流れた。


 拳が掠ったか、それとも拳から繰り出された風圧で切れたかはわからないが、どちらにしても命中したわけではないはずなのにそれでも傷をつける事ができるとか、アーク凄いな……とレェテの名をどこで聞いたんだったか思い出そうとしていたゴンザレスは一瞬でそんな事を彼方に放り投げて思う。見た目からして鍛えているのがわかるアークだったが、彼が直接戦うような場面に遭遇したわけではなかったのであまり実感がなかったのだ。洞窟に行った時だって魔物と戦うような事はなかった。だからこそ余計にアークに対する認識はちょっとガタイのいいボディーガードを添えただけ、くらいのものだったのだ。


「ぐっ!?」


 いきなり攻撃仕掛けるとか因縁の相手とかなのかしら、と思っていたが、直後にアークのくぐもった声。そしてずざざざっと音をたてながらもアークの身体は後ろへと下がっていた。

 下がっていた、というのは少し違う。レェテと呼ばれた青年が蹴りを放ち、それがどうやら腹に命中したらしい。その場で倒れるわけでもなく、その勢いで後ろへと強制的に下がらされたというのが正しいだろう。

 とっさに防御態勢を取って倒れるのを防いだアークは、蹴られた部分を手で軽く払う。うっすらとついた靴跡が、とりあえず靴跡だとはわからない程度になった。

 表情一つ変えないままレェテはそっと足を下ろした。アークに向ける目には決して敵意だとか憎悪だとかいうものは含まれていない。ただ、鬱陶しい虫を払った時のような、そんな目だった。


 それを見て、ゴンザレスは判断する。


 あっ、これ負け確定イベントだわ、と。

 アークが弱いわけではない。けれどもアークは何故だか現在若干冷静さを欠いているようだし、レェテはまず間違いなく本気を出してすらいない。

 そもそも先程結界の中でレェテは名も知らぬ男と戦っていたはずなのだ。けれどもレェテを見る限り、怪我をした様子はない。見てわかる怪我はたった今アークが付けた頬の傷だけだ。血が流れこそしたが、それも浅い傷らしく既に止まっている。無造作に頬を拭ったレェテの顔は、つい先程血が出たという事実をこの目で見ていなければ無傷も同然であった。


 先程うっかりとよく似た人物の名を口にしたゴンザレスであったが、この時点でその見間違いは気の迷いだったわね、と思い直す。

 確かに全体的に似ているのは事実だ。顔の造形、背丈、体格。そういったものがほぼ似ている。これは確かに王都に来たばかりのベルナドットが間違えられても仕方ないとすら思える程に。

 きっとゴンザレスも何も知らないままであったなら、ベルナドットと一緒に行動していない時に遭遇していたならば間違えて声をかけていたと思える程に。


 しかしよく見れば完全一致しているわけではないとわかる。

 背丈は若干こちらの方が高いかもしれない。とはいっても、3~5センチくらいだろうか。パッと見ならばそこに気付かないだろう。もっと一目でわかりやすいのは、瞳の色だ。ベルナドットの目の色が春先の芽吹いたばかりのような緑色をしているのに対し、こちらは冷え冷えとして凍てついたようなアイスブルーだ。

 あと目つきもちょっと悪いかもしれない。悪いというか、鋭いというか。

(ベルくんはもっとぽやっとしてるけど、こっちは何かあれね、仕事帰りに人殺してきましたって言われても信じちゃう感じがするわ)

 実際先程男が一人召されたので、間違ってはいない。


 ベルくんの裏人格が実体をもって現れました、とか言われたら信じてしまいそうだった。

 格闘ゲームの2Pカラーってやつかしら、とも思ったが、それなら肌の色も褐色とかになってないと紛らわしすぎるわね、と思考が明後日の方向へ飛んでいく。


 アークが体勢を整えて再び攻撃するために接近しようとしたらしいが、それよりも速くレェテが動いていた。気付けばゴンザレスのすぐ近くにレェテが立っている。

 そもそもパッと見とか一瞬チラッと程度だと目の色で判断できるかも怪しいわね、とか思っていたゴンザレスは、いつの間にこんな近くに!? と声に出さず内心で驚く。

 そしてアークは倒れていた。

 えっ、ホントにあの、一体いつ攻撃を……? ゴンザレスの動体視力は人よりちょっと優れているかもしれないが、それにしたって限度がある。

 アークに接近して攻撃して、そのまま通り過ぎてゴンザレスの近くで止まった……という事だろうか。

 こういう時前世なら、いや、テレビ番組ならそれではスローでもう一度とかあるのに……! と思いつつも、どうするべきだろうかと頭をフル回転させて考える。

 今の所レェテはすぐ近くにいる自分に攻撃をしてこようという感じではない。いや、攻撃しようと思えば既にしているだろう。そもそもアークが最初に手を出してきたからこそ、という感じもする。正当防衛だ。アークが立ち上がっていられない程度にダメージを受けているようだが、それも次にまた攻撃が来ないように、と言われればわからなくもない。敵の無効化。ただそれだけの話だ。

 ではこちらが何もしなければ安心かと問われると、そうだという自信はない。


 アークと一緒にいた時点で仲間と思われるだろうし、そうなればすんなりと見逃してもらえると思わない方がいい。とはいえこちらが攻撃しようとするそぶりを見せれば容赦なく叩きのめされるだろう。

 どうする。どうすればいい。

 もっとこちらに敵意とかそういったものがわかりやすいくらいにあれば、こちらも対処できた。


「くっ……おのれ……レェテ、貴様……!」


 てっきり意識までをも刈り取られたと思っていたが、アークはまだ意識を保っているようだった。ぎり、と地面を掴むようにして拳の中に多少の土が握られる。相当痛かったのか、すぐに起き上がる様子はない。それでもじりじりと上体を起こし立ち上がろうとしているアークをレェテは冷ややかに見下ろしたままだ。


「まるでこちらが悪いかのような言い草だな。こちらは一方的に売られた喧嘩を買ったまで。今まではあしらう程度に済ませていたがいい加減鬱陶しくなったから二度とこちらに歯向かえないようにした。ただそれだけの事だというのに」

「そう言われて、はいそうですかと納得などできるか……っ! あいつは、あいつはな、最近ようやく……っ!!」

「知った事か。手柄を得ようと焦った結果自滅した。己の力量をわきまえず、こちらの力量を見誤った。それだけの話で、わたしはただ己の身を守っただけだ。抵抗すらせず死ねという言い分を聞いてやると思うか?」

「まぁその言い分だとごもっともよね、っていう……あ」


 事情はわからないが、とりあえずレェテの言い分を信じるならばあの名も知らぬ男が襲い掛かって来たのを返り討ちにして、ついでに逆恨みなどでまた襲ってこないように仕留めただけだ。それが本当に事実であるならば、ゴンザレスはどちらかといえばレェテの肩を持つ。襲い掛かって来るなら返り討ちにあってやられる覚悟を持ってくるべきだ。安全に一方的に痛めつけて、なんて事ができると思っているならそれは大きな間違いである。


 今まではあしらうだけと言っていたというなら、レェテは度々絡まれていたわけだ。

 それでも面倒だから放置していたら調子に乗ってエスカレートした、という事だろう。

 ゴンザレスもそういう展開は身に覚えがある。

 セクハラもパワハラもモラハラも、最初のうちはまだ小さな、それこそ嫌な気持ちにはなれどまだ流す事ができるみみっちぃものだった。けれどもこちらが抵抗しないとわかれば調子にのってどんどんエスカレートしていった。

 会社の中であまり事を大きくしないほうがいいだろうと、まだ新入社員だからと思って耐えた結果がそれだった。肉体的に痛めつければこちらが傷害罪になるかもしれないし、いや別に犯罪にならないよう上手くやればいいだけかもしれないがその手間が面倒だし、法的に潰すにはまだ証拠が少なく弱い。

 だから、誰が見ても言い逃れできなくなるくらいボロが出るまで待っていた。その頃には証拠も山ほど集まっているわけだし。


 大人しかったのは別に抵抗できなかったからではなく、単純に潰す機会を窺っていただけなのに。

 何で抵抗しないって思ったんだろう。そんなわけないじゃない。表に出さなくても内側で殺意とか滅茶苦茶凝縮されて煮込まれてたわ。


 前世でのあれこれがあったせいで、レェテの言い分はゴンザレスにはとてもよく理解できてしまった。

 別に抵抗できないわけじゃない。相手をするのが面倒だったから放置していただけ。でも放置しておくのが面倒になってきたから潰した。ただそれだけの話なのだろう。

 だからこそついそんな事を言ってしまったが、そのせいでレェテはこちらへ視線を向けてしまっていた。

 あっ、その様子から今まで私の存在眼中になかった感じです? うわっ、やっちまったー。

 そんな気分で一杯だった。


「こいつはまだ話がわかりそうだな」

「事情がわからんので何とも言えませんが、今聞いた話だけならまぁ」

 すごくわかるー☆ っていう軽いノリで言える。私も前世で似たような感じでそういう連中潰したし。流石に肉体的にボロボロにするのは問題があったから、社会的にご臨終させたりした程度だが。その後に自分で現世にサヨナラグッバイしちゃった奴もいたようだけど、それは自己責任なので知った事ではない。

 積極的に友達作ろうとする程度ならいいが、積極的に敵作った結果である。私だって何もされなかったら反撃なんてしないもん! そもそもやらかされたからこその反撃なのだが。


「しかしそいつは裏切者だぞ!?」

「裏切り……?」


 危うく初対面だけど何か話合いそうな気がするし、根拠はないが仲良くできそうな気がするなと思っていた矢先にアークが声を張り上げた。

 裏切り。

 その言葉だけだとゴンザレス的にはアウトである。

 味方の振りして実は敵でしたとかいう展開は漫画ならよくあるし別に何とも思わないが、実際やられるととても精神的に揺さぶられる。正直そこまで仲のいい、もしくは信頼している相手じゃなければ「あっ、そうなんだ」で済ませられるが、下手に仲が良かったり心から信頼してるくらいになった相手にやられるとそりゃもう今までのプラス感情が裏返って殺意マックスになるレベル。可愛さ余って憎さ百倍とかそういうのに近い。

 裏切られたという事実もそうだが、そんな相手を信じてしまった自分の見る目の無さとかもあって悔しさもプラスされる。そこは若干逆恨みになるのでは? という気がしなくもないが、裏切られたのであればある意味で正当な気もするのでセーフという事にしておく。


 だとするなら、裏切者を処分するためであった、という事でアークが出会った直後に敵意マシマシだったのもわかる。


「こちらとしては裏切った覚えはない。たまたま生まれた場所が一緒だっただけで勝手に仲間認識されただけだ」

 どういう事? と目で訴えるとレェテはその目線からこちらの言いたいことを察したのだろう。素晴らしいリーディング能力である。溜息混じりに伝えられた言葉に、えっそれだけで仲間認定とかそれはちょっと……とゴンザレスも思ってしまった。


 これ前世で言うなら間違いなくあれでしょ。

 学校は同じだけどクラス離れてて合同授業で一緒になった事もなければ会話もした事ないくらいなのに同じ学校ってだけでうちら友達でしょ? とか言われるくらいの突拍子のない展開とかでは?

 もしくは会社だと確かに同じ会社にいるけど部署が違いすぎて名簿で名前見ても誰かわからんレベルで顔も把握してないし飲み会なんかでも一緒になった覚えないのに、何か知らないうちに付き合ってるとかいう噂が何故か発生してるとかいうレベルのやつでは? こっちは貴方のメアドも知らんしSNSでフレンド登録もしてませんが? とかいうくらいなのに知り合いヅラされてるやつ。


「それがホントならアークのが言いがかりだと思うの」

「生まれた地が同じだけだと!? 一族を裏切っておきながらよく言えたな」


 一族、と言われるとまた話が違う気がしてくる。

 同じ土地で生まれただけというなら例えるなら前世で同じ日本生まれですって言う人がいたとして、片方は北海道、片方は沖縄、くらいの差があっても同じ土地というか国で生まれたと言っても確かにそうだが、それだけなら他人ですと言い切っても別に何もおかしな話ではない。

 けれども一族を裏切ったとなれば、身内を裏切ったという意味を示すわけで。


「一つの種を全て同じ扱いにするのもどうかと思うがな。お前が思う程あの種族は結束が固いわけでもない」

「まぁ、血を分けた家族でも考え方まで同じってわけじゃないし……」

「あんたさっきからどっちの味方なんだ!?」

「いや、言い分聞いてると割とわかるわかる~ってなるから、つい」


「とりあえずお前は敵ではなさそうなので見逃すが、アーク、お前は別だ。いい加減決着をつけるとしよう」


 先程までとても鋭い目つきだったが、ゴンザレスのせいで多少の毒気が抜けたのか、レェテの口調はどこか投げやりにも聞こえた。

 レェテの言い分がかなり理解できてしまうとはいえ、だからといってこのままアークを見捨てるわけにもいかない。

 よろよろとした動きながらも立ち上がったアークが「ここでやられてたまるかよ……!」と少年漫画の主人公のような感じで言っているが、この時点でレェテはほぼ無傷、アークに至っては体力も結構削られているし、これ一度撤退した方がいいのでは。ゴンザレスはそう思ったものの、流石にここで逃げようと言って果たしてアークがそうしてくれるかどうか。


 あまり気は進まないが……結界の中にいるわけでもないしここはちょっと大きな音を出してご近所さんが何事かとなるような感じにして煙に巻くしか……そう判断してゴンザレスはアイテムボックスにそっと手を突っ込んだ。最終的にはやはりアイテム頼りにするしかない。そう、思っていたのだが。


「何やってるんだ、見逃すって言うんだから逃げるに決まってるだろ!」

「ぅぐぇっ!?」


 そんな声が聞こえたと同時に、ゴンザレスの腰にとんでもない衝撃が襲い掛かって来た。視界が凄まじい勢いでぶれる。次に視界がはっきりした時は、自分が倒れたのだと理解した時だった。

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