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転生したら生贄だったので残りの人生好きに生きます  作者: 猫宮蒼
ゲームでいうところのめちゃんこ長いチュートリアル
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転生乙女は憂鬱である



 あっ、死んだ。


 と思ったら次の瞬間おぎゃあと産声上げて生まれてた。

 転生したと気付くまでにかかった時間は五年である。


 いやだって、確かに死んだと思ったあの瞬間からいきなり赤ちゃんになってる時点で夢だと思うのは仕方のない事だと思わない?

 そう、少女は誰にともなく心の中で問いかけていた。


 少女はこちらでつけられた名前が嫌いである。

 だからこそ自分からは頑なに名乗らない。


 別におかしな名前であるとか、前世基準で変なセンスとかでもない。

 どちらかというとファンタジー作品に出てきそうな、ゲームとか漫画とかアニメとか二次元ではよく聞くような名前である。

 少女自身、何も知らなければその名前を受け入れていたと思う。


 だがしかし。


 少女にとってこの名前は呪いだった。



 この村には生贄を捧げる風習があって、その生贄の名前が代々それなのだ。

 よその村とか国とかでどうだかまでは知らないが、この村の中においてこの名前はイコール生贄なのだ。


 そう、例えるならば育てている鶏に手羽先とか照り焼きとか今後の行く末を示すような名前と言えばおわかりいただけるだろうか?


 ちなみにこの事実を聞かされたのは八歳になった時である。


 少女はなんとなく五歳の頃まではまさか本当に転生してるとか思ってなかったし、夢にしては随分長い夢だなぁとすら思っていた。時々無駄に絡んでくる少年たちに関しては、かつての職場の上司に似てるなぁ……何だ自分が幼女化したから上司たちも縮んだってか? はぁ? ミジンコサイズまで縮め。そして消滅しろ。

 そんな風にしか思っていなかったし、言葉を交わすなどもってのほかだった。現実ですらもうおさらばした存在を、何故出てきたからといって夢の中で相手してやらにゃならんのだ。はよ地獄を見て沈め。

 とりあえず軽率に生き地獄を味わって死んでほしいくらいに嫌っていた連中ではあったが、夢の中とはいえ自分から手を出しては負けた気がするので完全スルーを決め込んだ。


 後から考えるとこの選択は正解だったと思う。

 夢の中だと思い込んで縮んだ上司だと思っていた実は赤の他人を危うく殺害する所だったのだから。


 というか、私何でこんな嫌われてるんだろ? 何かした? 相手にすらしてないから何かした覚えもないんだけど。


 あまりにも聞くに堪えない罵詈雑言が飛びかっていた頃には、流石に周囲の大人も問題だと思ったらしく、それはもう目から星とか火花が飛び散りそうな勢いで拳骨を食らっていたが、今の今まで夢だと思っていた少女からするとどうしてそうなっているのかもわかっていなかった。



 転生した、という事実を受け入れた上で、少女もまた情報を集めようとしたのだ。

 とはいえ、村の中はなんとも少女にとって身動きがとりにくい。決して虐げられているわけではない。両親はこれでもかと甘やかしてくるし、他の大人たちも何でかやたらと親切だ。家族はさておきそれ以外の大人まで、となると何かの裏があるのでは? とすら思っていたため、下手にこちらが探っていると思われる動きをするのは問題かもしれぬ、と思った少女はとりあえず一度村から姿をくらまして、そっと大人たちの話を盗み聞こうと思ったのだ。

 本人がいないとなればその場で暴露話が飛び出るのは女子の集まりではよくある事だが、多分村の大人たちももしかしたら……と思ったのだ。

 まぁ、うっかり村のすぐ近くの森に潜もうと思った結果ちょっと道に迷って当初の目論見は完全に失敗したが、それはさておき。


 自分が生贄であるという事実を告げられた時には、逆に納得したのだ。

 あぁ、だから村の大人たちは皆私に優しかったのだな、と。



 この村についての話を、果たしてどこからするべきだろうか。

 少女が聞かされた昔話は、ファンタジー成分を少々配合してはいるものの、ちょっとお前ら冷静になれと言いたくなるものであった。


 かつてこの村を未曽有の大災害が襲った。

 このままでは村は崩壊の一途を辿るばかり。逃げ出した者もいるが、残った者たちはここで村と共に滅ぶしかないのかと思われた矢先、魔王が現れた。

 その魔王はあっさりと災害を鎮静化。かくして村は平穏を取り戻した。

 それから村は魔王に感謝を捧げるべく、生贄を捧げる事にしたのだ。


 思い切り要約するとそういう話だったが、この話を少女が聞いて鼻をほじりながら「ほーん」とか言い出さなかっただけ褒めてほしいものだ。流石に幼いながらも将来有望な美少女がそんな事をするのはイメージダウン甚だしいのでやめておいたが、内心ではまさにそんな態度であった。


 このクソとしか言いようのない伝承なのか昔話かわからないものを、もう少し掘り下げてみる。


 まず未曽有の大災害。これはまぁ、よくある話だろう。

 災害の規模にもよるが、自分が生まれた時の嵐の日よりもきっともっと酷かったのだろう。何なら近くにある山が噴火したとかそういう感じだったかもしれない。

 ところでそこで現れた魔王とか怪しいにも程がないでしょうかね?

 タイミングよすぎない? ねぇ、これ魔王のマッチポンプなんじゃないの? ねぇ? ねぇったら。


 正直重箱の隅をつつくが如くツッコミたい。

 けれども、村長の話というか当時から伝わっていた古文書によると、魔王は当時仕事仕事で机に向かいっぱなしの日々に嫌気がさしてお忍びで地上界にやって来たらしい。そしたらまさかの大災害。えっ、これやったの我じゃないぞ? 無実であるノットギルティ! とまで叫んだかは知らないが、とにかくこのままではヤバいと思ってその災害を速やかに終息させたそう。魔王くらいになれば天候を操るなど余裕らしい。

 ……やっぱりそれマッチポンプ説ワンチャンあるんですが。


 魔王黒幕説をしつこく疑うのはさておき、ともあれ当時の村の人たちが魔王によって助けられたのは事実。普通勇者じゃない? こういうシーン。

 とは思ったが、そもそも勇者とかちょっと特殊な武器持った戦闘が得意な人間に天候をどうにかしろというのは無理な話かもしれない。天候を自在に操る特殊なアイテムでもあれば話は別だが。


 ともあれ、助かった村の人たちが魔王に感謝するところまではわかる。

 なんでそこで感謝の印に生贄捧げますねぇ、ってなるんですかねええええ!?


 いや、古文書には実はここら辺もうちょい詳しく書いてあったのだ。

 村で持て成してどんちゃん騒ぎ、というあたりまではまだいい。

 周囲に自然しかないような特産品もろくにないようなド田舎なので、名産品とかそういうのもない、けどこんな貧乏な村では持て成しにも限界がある。気持ちが大事? そうかもしれないけど、それだけじゃダメな場合ってあるよね。

 というわけで出された案が生贄である。当時の村人ちょっと待て。


 名産だろうと名物だろうといくらそんなものがないド田舎だからといって、安易に生贄に走るだなんてどうかしている。無いなら作れよ名産品! そして毎年お歳暮とかお中元とかそういう季節に送るようにしとけばいいじゃない! どうしてそこで生贄なんて業の深いものを選んでしまったのか。相手が魔王だから? 成程納得したわ。理解はしたくないけれど。


 ちなみに村長の長ったらしい話の中で、一度は魔王も生贄はちょっと、と辞退したらしいのだ。少女の中の魔王の株がここで少し上昇した。当時の村人より余程常識とか良識とか持ち合わせてる気がする。

 だがしかし、村人たちがぐいぐいいった結果により魔王は最終的に折れざるを得なかったらしい。

 そこは! もっと! 頑張って魔王!!

 貴方が頑張らないとこのままじゃ村から生贄が送られてきちゃう。そこをどうにか堪えればそんな恐ろしい贈り物回避できるんだから!

 次回、NOと言えない魔王。生贄スタンバイ!


 ……いやうん、ちょっと前世で再放送でやってたアニメの次回予告に似た何かが脳内を駆け巡ったけど、それもこれも魔王が悪いと思うの。諸悪の根源は村人だけど。何故そこでぐいぐい生贄プレゼンツしちゃったの。

 いやわかってる。当時村一番の美人が魔王にフォーリンラブしちゃって、いっそ愛人でいいからもらってください的な感じで迫ったらしいんだよね。それをお断りしようとしてた魔王、だがしかし狙った獲物は逃がさない村一番の美人。結果魔王は負けた。村人も流石に強引すぎたかなと思ったらしいけど、美人の願いを叶えたい気持ちがあったのも事実。でもこれじゃあ村助けられっぱなし、流石にそれじゃ申し訳がない。

 というわけで、継続して生贄を送る事になったらしい。


 なんでや!!


 村長の話を聞いて、少女が膝から崩れ落ちて床を両手でだぁんと叩きつけなかったのは少女にとってもよく我慢したと思っている。本当だったらその場のノリと勢いでやらかしていてもおかしくはなかった。


 一体どこの通販だ。初回はとてもお買い得な感じだけど継続購入しないといけません的なノリで生贄を送るな。おい馬鹿やめろと叫ばなかった私を全世界の存在は褒めたたえるべき。いや、むしろ何故叫ばなかったと言われるべきだったのかもしれない。


 とはいえ元々生贄を送られる事に消極的だった魔王。

 元々は毎年一人送りますって話だったのを、どうにかこうにか五十年に一人までにしてみせた魔王の頑張りにスタンディングオベーションを送りたい。毎年一人とか、村からあっという間に人間いなくなるぞ。

 魔王曰く最初は百年だったらしいんだけど、そうなるともしかしたら村人の中でその生贄を送る経緯がわからない者が増えてしまうかもしれないという事で五十年に一人になったそうだ。

 廃れてしまえそんな風習。

 五十年に一人なら、確かに村の中でお年寄りが二~三人いれば話自体は伝わるだろう。万が一何かの事故でばったばったと死んでも村にそういう風習がありますよっていうのを伝える古文書やら石板やらが残されている可能性は高い。


 当時の村人の熱意が怖いわ。

 魔王もあまりの村人のガンガン攻めてくスタイルに恐れおののいたのか、生贄を送られる事を完全回避できなかったからなのか、生贄が送られている間は村に加護を与えるようになってしまう始末。


 ……何か魔王、思ってた以上に人が良すぎやしませんか?

 デスクワークがイヤになって飛び出した先が自然災害でとんでもない事になってて?

 んでそれをどうにかできる力があったからどうにかしたらそこの村一番の美人にフォーリンラブされて?

 彼女が魔王についてく口実のために愛人だとか生贄だとかって事になって?

 断り切れずに引き受ける挙句、他にも人を送るって言われて流石にそのままだとあれだから、村に加護を与える事にしちゃって?


 ……って考えると当時の村人そこまで狙ってたんじゃなかろうか。

 この世界どうやら神様の加護はあるらしいけど、その加護もあくまでふんわりとしたもの。だからこそ、ちょっと大きな自然災害が発生すると割と呆気なく消える集落もあるとか。

 そこで更に魔王の加護を得られたこの村は、他人事目線で見れば上手くやったなと思えるのだ。


 事実悪天候で酷い時はあれど、そのせいで人死にが出る程ではないのだから。

 時として実りのすくない年もあったが、魔王の加護によるものか、村が完全に飢える手前で持ちこたえていたりもする。飢饉で一年を乗り越えなければならないという事がないだけで、村は他の所と比べればマシに思える。加護がある限りは、村が飢えや災害で滅ぶ事はない。土地が痩せ、実りが少なくなった場合、翌年には持ちこたえられるかどうかなんて当然わかるはずもない。次の年もまた同じような事になっているかもしれないし、もっと酷くなっているかもしれない。

 けれど、魔王の加護がある限りはそういった心配事は減る。


 考えれば考える程、ある程度の安全を約束されているのだ。この村は。

 少女もそこで納得してしまった。どうしてこんなド田舎の村が、細々とではあるが長く続いているのかを。若い世代は一度村から出ていく事が多いのだが、それでもある程度年を取ったら戻ってくる者も多い。少なくともこの村にいる限りは、年老いた身であってもどうにか暮らしていく事が可能であるから完全に人が居なくなるという事がないのだ。

 少女も自分が生贄などでなければ、年を取って老後の人生はどうするかとなればこの村に戻ってきていたことだろう。生贄などでなければ。



 ちなみに生贄は村の奥にある門が選んでいるらしい。

 あの門だけしかないやつ、一体何のオブジェなんだろうなと思っていたらそこから生贄を送るんだとか。

 生贄回避できなかった魔王が創り出したらしい代物らしい。

 どうせならそんなものを作成しないでそのまま魔界に帰っていれば生贄の件もうやむやにできたのではないだろうか、と思ったものの、話を聞く限り妙な所で律義らしい魔王だったので、多分門とか生贄送るシステムを作成しないっていう部分は考えつかなかったんだろうなと少女は思っている。


 ちなみに門には生贄が選ばれた事で現時点で灯火のように揺らめいている光が記されている。

 少女が年を一つとるごとにその数字は減っていき、ゼロになったその日が生贄を送る日でもある。


 少女が生贄として送られる事になっているのは、十八になる日の事だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 当時の村長は考えた。 「この世界にオッセェーボやオッチューゲン、ショッチュッミッマィと言うジャッパーンのフーシューなんてないからなぁ。どうしたものか、うーん。」 と、そこに閃きが舞い降りた。…
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