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転生したら生贄だったので残りの人生好きに生きます  作者: 猫宮蒼
ゲームでいうところの中盤の新しい大陸

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ファンタジー世界だしこういう呪いの品がありそうだと思った、とは後の供述



「私は犯罪者です、的な刺青でも顔面に彫っとく?」

「外歩けないんじゃないですか、それ」

「いやでも、顔面の皮膚剥がせば刺青とか誤魔化せない?」

「めちゃくちゃ痛いやつじゃない!」


 戻ってきた二人にそんな事を提案するも、二人の反応は芳しくない。


「確かに顔の皮剥がしてからポーションとか治癒魔術とかで治されると刺青とか無意味かしら。ラディクスが自分の顔の皮を剥がす事にビビり散らかしてチキン発揮しまくったら効果的な手段ではあるんだろうけど」

「顔の皮剥がすとか流石に度胸あっても厳しいでしょ……プライドは高いから流石にその刺青されたままの顔を晒した状態で外を出歩いたりはできないだろうけど。

 でも仮面とかで顔隠しちゃえばいいわけだし」


「仮面……それだ!」


 びしっと人差し指を突き付けてゴンザレスは名案ね! とばかりに頷いた。


「え、仮面が何よ」

 話の流れについていけてないクラニアが眉を寄せる。


「いやね。ほら、ラディクスだけどこのまま放置しておくわけにもいかないじゃない。普通に帰したところで正直怪我が治ったら何かまた懲りずにクラニアにちょっかいかけそうだし」

「それは……ありそうでとても嫌ね」

 うげぇ、と苦い物でも食べたような表情になるクラニアに、ゴンザレスはアイテムボックスから一つのアイテムを取り出してみせた。

「じゃーん、そこでこれです」

「仮面ですね」

「仮面ね」


 大仰に取り出して掲げてみせたそれは、顔の上半分を覆い隠すタイプの白い仮面であった。デザイン的にもシンプルで、割とよくある、どころかシンプル過ぎて逆に目を引く代物である。


「流石に自分で作っておきながら、これはやべぇやつだなって思ってたからそっと封印しておくつもりだったんだけど」

「何そのまるで呪われてるみたいな言い方」

「ある意味で呪いかも」

 言いつつゴンザレスはクラニアにその仮面を手渡した。


 ある意味で呪い、だなんて言われたせいか、クラニアは僅かに表情を歪めた。えっ、これ触っただけで呪われるとかそういうやつじゃないでしょうね……とでも言いたげである。

 万一うっかり冗談でもここで触っただけでも呪われるなんて言おうものなら、クラニアは躊躇う事なく仮面を床に叩きつけて粉砕していた事だろう。


「使い方だけど、とりあえずまずそうね……クラニアがその仮面に魔力を込めるでしょ? で、ラディクスに装着させる。魔力込める時と装着する時にしっかり込めてね!」

「何その、曖昧ふわっとしてる説明……」

「魔力量少ないとすぐに仮面外れちゃったりするかもだから、ホンット、しっかり込めてね! 具体的にどれくらいの期間関わりたくないか想像しながら流すといいわ」

「え、えぇ……」

 ぐっと拳を握りしめて言うゴンザレスに若干引きつつも、クラニアは頷いた。呪いの、だとか御大層な事まで言っているくらいだし、仮面を付けたらクラニアとの接触を不可能にでもしてくれるのだろうか。


 ゴンザレスは元々魔法だとか魔術だとかが存在していない世界の出身である。前世、そりゃあそういったものが出てくる創作物は多々あったが、自分がその能力を扱えるかとなると魔力という概念が存在していないも同然だったためにあくまでも想像の産物。こちらの世界に転生して魔術っぽいものに触れる機会があったとはいえ、ゴンザレスが直接魔術を行使するわけではない。だからこそ魔術的な物を作る場合、その大半がふわっとした想像によるものであった。

 だからこそ、具体的に説明するとなると理論がふわっふわになる。

 けれどもそのふわっふわ理論であってもそれなりの物が仕上がるのだから、アイテム合成とは便利なものであった。作ってみた時にうっかり魔力を大量消費してしまったから、量産などはそれこそできそうもないが。


 そんなゴンザレスの事情を知るはずもないクラニアもまた、説明通りに仮面に魔力を込めはじめていた。

 クラニアとしては、仮面に込められた魔力と、その魔力の持ち主とを接触させないための物だという風に理解した。磁石の同じ極同士が接触しないような、そんなイメージである。想像通りであるならば、クラニアの魔力が枯渇しない限り、仮面がある限りラディクスが直接こちらと関わる事もないだろうと考えると、成程画期的なアイテムである。むしろこれを望んでいたと言ってもいい。


(関わりたくない期間……そうね、できればもう一生会いたくないわね……でも流石に一生は長すぎかしら)


 決してラディクスを憐れんだわけではない。ただちょっと、それだけの期間ともなれば込める魔力量今の状態で果たして足りるかしら? と思ってしまったからこそである。クラニアやラディクスの寿命を考えると普通の人間とは違うのだから無理もない。


(そう、ね……ワタシがバルグと結婚して、子供とか生まれちゃったりして、その子が独り立ちするような事になって、お義母様やバルグが寿命で亡くなって……そのあたりでなら効果が切れてもまぁ、大丈夫かしら……?)


 脳内でざっとこれからあるであろう幸せな生活に思いを馳せる。

 その時、ふ、とラディクスが僅かに身じろぐように動いた。先程までの痙攣とは明らかに違う動き。思わず意識を取り戻したか!? と思ってすぐさま攻撃できるように身構えたが、ラディクスの意識はまだ戻っていないらしい。小さく呻きながら、手はまるで何かを探すように動いている。


「……ニ、ア……クラニア……」


 まるで迷子が母親を求めるような、頼りない声だった。伸ばされた手は偶然かクラニアがいる方へと向けられている。

 先程までの事がなければ、うっかり絆されてしまいそうな光景。過去のあれこれがなければクラニアもきっと手を取っていた事だろう。けれども、過去からして禍根が残っているためクラニアがここで絆される事はなかった。ここでうっかり優しさを発動させて、それでラディクスが綺麗な思い出として諦めてくれるのならば、それが確定した未来であるならばクラニアだって手を取った。けれども実際は……


「クラニア……いやだ……逃がすものか……!」


 これである。

 ガッ、と仮面を握る手に力がこもり、更に魔力が注がれていく。一切の感情を削ぎ落したかのような真顔でそれをやらかしているクラニアに、シスターアンジュは「まぁ、そうなりますよね」とそっと首を横に振りつつ静観する流れであった。


「うっわ引くほどしつこい……執念深いにも程があるわねこれ。想像でモノ言うけどこいつ下手したらクラニアが結婚して生まれた子供が娘だったらそっちに狙い定めたりしないでしょうね」

「やだ、ありそう。絶対無いわって断言できないの辛い」

 露骨に顔を歪めるクラニアではあるが、その手の仮面には更にガッチリと力が込められている。

 ゴンザレスとしてはとりあえずこの二人も魔王決定戦の参加者だしそうなると魔族だしで、人間よりも寿命長いよなぁ、長寿種族の恋愛とかよくわからないけど、ストライクゾーンてどれくらいあるんだろう? というふとした疑問から、前世で見た漫画やドラマやらから初恋の人が既に他の相手と結婚してしまい初恋拗らせた奴がその人の子供に手を出そうとした話とかあったな、とか思いだしてしまったからだ。

 異種婚とかそういう話もそれなりに存在していたから、長寿種族ならそういうのだってありそうだなーと思ってしまったが故に口から突いて出ただけなのだが、その言葉がクラニアを更なる恐怖に叩き落した。


 仮に自分がバルグと結婚しても、もし生まれた娘が何も知らないまま育ってラディクスと出会った挙句狙われるような事になってしまったら……!?


 見ようによっては情熱的だとか一途だとか言えるのかもしれないが、クラニアにとっては最早ラディクスと言う存在が地雷でしかない。どこまでもしつこく狙った獲物を逃さないで追跡してくる追尾型ミサイルのようなものである。駄目だ、こいつとは未来永劫関わりたくない……! ワタシだけじゃない。ワタシと、ワタシの家族含めてラディクスとは関わってほしくない……!!

 切なる願いは最早恐怖に彩られ、むしろ今ここで殺した方がいいのではという気にさえなってくる。

 けれども正直な話、クラニアはこんな奴のために手を汚したくなかったし、ましてやここはバルグの店である。これ以上汚す真似はできない。あぁ、どうしてラディクスは人の形をしているのかしら……ゴキブリのような形であれば殺したところで誰からも何の咎も背負わされるような事だってなかったでしょうに……!


 ラディクスが起きてクラニアのそんな思いを知れば理不尽だと嘆くだろうけれど、そう至る道筋を作り上げてしまったのは今に至るまでのラディクスの言動なのでどうしようもない。


「あ、クラニア、魔力込めるのそれくらいでいいと思う。割と一杯」

 ゴンザレスの言葉にクラニアはハッとして握りしめていた仮面を見る。白かった仮面は今やクラニアの魔力で染め上げられたらしく、仄かに赤くなっていた。

「じゃあクラニア、気は進まないかもしれないけどそれ、ラディクスにつけて。触りたくないかもしれないけど、クラニアが自分でつけないと効果が発揮されないから」

 確かに気は進まない。自分からラディクスに触れるとか普段なら絶対にお断りだった。しかしここまで魔力を注いだ仮面がそれでは無駄になるとなれば話は別だ。

 この仮面がどこまで効果を発揮してくれるかわからないけれど、これがある間はクラニアに近づいてこないのであればやるに決まっている。縋るように伸ばされていた腕を足で払いのけるようにして、下手に暴れ出されないようにクラニアはラディクスに馬乗りになった。

 最初で最後のクラニアからのラディクスへの接触である――と言えば多少の語弊はあるが、それでもクラニア自らの意思で触れるという意味では間違っていなかった。

 仮面の構造上特に装着するのに手間取るような事もなく、すんなりとつける事ができた。簡単に外れたりしないでしょうね、と思わず確認するように軽く引っ張ってみたが想像以上にしっかりとくっついている。まるで皮膚に張り付いてしまったかのように。


 仮面をつける事ができたのであれば、もうクラニアがいつまでもこうしている必要はない。すぐさま立ち上がり離れる。

 と、同時に――


「あ、ああああああああああああああ!!」


 ラディクスから絶叫が迸った。

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