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転生したら生贄だったので残りの人生好きに生きます  作者: 猫宮蒼
ゲームでいうところのめちゃんこ長いチュートリアル

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新しいホーム



 王都イルフェヌアについてまず二人が向かった場所は、村長の弟が暮らす家であった。とにもかくにも、彼に会わなければ住む場所も何も決まらない。ちなみにギアは流石に王都の中にいれるわけにもいかないので王都周辺の森とか山のあたりにいてくれるように伝えてある。

 何かあったらベルナドットが外に出て合図をすれば多分合流できるはずだ。


 王都周辺にいるであろう魔物にやられていなければ。

 とはいえ、恐らくその心配はする必要がないだろう。


 仮にも王都。周辺に凶悪な魔物が闊歩しているようであれば、そもそも旅人だとか行商人だとかそういった者たちが王都に近寄れない。それにそんなヤバい魔物がいるのであれば、王都に暮らす住人たちとて安心して日々を暮らせないだろう。

 実際騎士団が定期的に王都周辺の魔物討伐を行っているために、王都周辺にいる魔物の脅威度合いは低いと言える。たまに騎士団の手が回らない場合は冒険者の出番である。


 ゲームで言うなら序盤の街や村などに出てくる程度の魔物しか出てこないと考えれば、王都というのは魔物の脅威に怯える事がない分圧倒的に過ごしやすくはある。その分人が集まるのでそちら側の厄介事はそれなりにあるが。


「えーっと、村長さんがくれた弟さんが住んでるとこの地図は、っと……」

「……じいさん本気でこれ描いたのか……?」


 少女が村を出る前に渡されていた手紙を開く。一枚目には弟に向けた内容が。二枚目には弟が暮らしている家までの地図が記されている。一枚目は封筒の中に戻し、二枚目を広げたのだが……孫でもあるベルナドットが呆れるレベルでその地図は酷いものだった。

 良く言えば達筆すぎて読めない。悪く言えばお前これ落書きってレベルじゃねーぞ、である。

 しかし村長も別にわざとやらかしたわけではないのだ。まさか移動手段とか既に用意してあるとか思わずに、いつでも行けるよ! と言われた結果想定外すぎて焦っていただけなのだ。焦って地図を描いた挙句描きなおすという事をしなかった。そしてその直後にギアの登場でちょっと泡吹いて倒れたわけだが。

 お年寄りの心臓にダイレクトアタックをかました二人は、だがしかしその部分をさくっと無視して地図の酷さを半眼で見やっている。

 これ、本当に地図?

 地図、だと思うんだがなぁ。

 もしかしてこれ地図と見せかけた暗号か何かなのでは?

 だとすると謎解きも含まれているという事か……?

 お互い目と目でそんな会話をしつつも、うぅむと唸る。


 もっと前世のグー〇ルマップとか見習って?

 と声を大にして言いたいが、恐らくこの世界ではきっと精密な地図は限られた場所にしかないのではないだろうか。それにしたってこれ、身内の家までの道順だしそういう意味では精密である事は何一つ問題ないと思うのだけど。


「とりあえずそこにある看板ちょっと確認してみようぜ」

「あ、一応大まかな案内板はあるんだ」


 王都に入ってすぐの道は、基本的に広がっており道というよりは広場に近い。そこからいくつかの道が分かれている。

 道が分かれている手前に看板があった。遠目で見る分には多分どこそこに通じてますよ、の案内板だと思われる。


 近づいてみると予想通り案内板のようだ。ここを訪れた旅人たちが利用するであろう酒場や宿屋に通じる道、武器屋防具屋道具屋などが立ち並ぶ冒険者たちがよく利用しそうな道、そちらはどうやら工房などもあるようだ。別の道は更に奥へ進むと王都中央広場へと通じているらしい。それ以外にも騎士団の詰め所やら、貴族街やらと色々記されているが……


「とりあえず王都中央広場まで行ってからだな、この地図見る限り」

「ここからさらにまっすぐかぁ……」


 入ってすぐに目的地、とはいかないものだなぁと思いつつも進んで行く。



 ――中央広場へとたどり着くと、人の流れが何となく変わった気がした。

 入口付近は基本的に旅人などの外から来た者達に向けた店や施設などが並んでいたが、こちらは王都で暮らす者たち向け、といった感じだろうか。少なくともいかにも外からやってきましたといった風体の者は目に見えて減ったし、そこらを通っているのはいかにも一般市民といった者たちばかりだ。


 王都に入って最初にあった広場には案内板くらいしか目立つものはなかったが、こちらの中央広場には大きな噴水やら花壇やらがあった。完全に憩いの場である。

 そこからそう遠くない場所で、カフェらしき店があるのも見えた。それなりに客が入っているらしく、店内のみならずテラス席にもかなりの人がいた。

 客層を見る限り少女と同年代かそれより少し上の者たちが多いのと、同じ服を着ている所からあれは制服だろう。となると授業を終えた学生たちがああして集まっているのか、と少女はさっさと自己完結して視線を再び地図に戻した。

 ここまでくると視界の暴力ですらある。


「で、えーっとこれは……」

「俺に振るなよ、って言いたいけど無理か。いやでもこれなぁ……んー? もしかしてあの建物か?」

 眉間に皺を寄せて、何とか解読しようと試みているベルナドットが何らかのヒントを拾ったのか、何度か地図と周囲の景色とを見比べてやや自信なさげではあるが、一つの建物を指し示す。


「とりあえずそこ行ってみよう。で、間違いだったらそこの人に申し訳ないけど道聞こう。いきなりそこらの第一王都住人とかとっつかまえて地図見せても理解される気がしないし」

「……だな」


 少女の言う通り、そこらの通行人にすいませーんと声をかけて地図を見せて、ここに行きたいんですけど、と言ったところで正しい答えが返ってきそうにない。

「ところでベルくん、村長さんの弟さんってなんて名前なの?」

 とても今更すぎる質問であった。

「じいさんの弟か……なんて名前だったっけなぁ」

 そして身内もろくに把握していなかった。


 いやお前仮にも家族だろうと言われるかと思ったが、少女がそう言う事もなく。

「ベルくんもご存じない? さっき手紙さらっと流し読みしたけど、名前なんてどこにもなかったんだよねぇ。しかも私たちの住んでる村って名前ないじゃん? 近くの山の名前しかわからないド田舎じゃん? 万が一人違いとかになったら色々と面倒な展開になりそうだなって思うんだよね」

「えーっと、ちょっと待て。今思い出す。じいさんが前にチラッと何か言ってた気がする。えーと、ええええとおおおおおお、ギルゲイツ……?」

「おっと? 何かとっても有名人の名前に似てる感じがするぞ……?」

「いや、違ったかも……ギルガメッシュ……?」

「おっと? 何かとんでもねぇ英雄の予感がしてきたぞ……?」

「いやなんか違うな。……とりあえず悩んでても仕方ないし、とりあえず行ってみるか」

「そうだね。最悪村長さんの名前出せばいいだけだしね」


 なんて小芝居めいた会話をしながら進んでいたが、とりあえず多分ここじゃね? と予想した建物の前へと到着する。他の家と比べてやや大きめな建物は、一軒家というよりは集合住宅のように見えた。アパートというか、前世でいうなら〇〇荘とか〇〇ハイツとか〇〇コーポ、そういう感じの名称がついた、昔の――当時にしては名前はおしゃれだったんだろうけど、今にしてみると名前負けしてるよなぁと言いたくなるような、少しばかり失礼だとは思うがそういったイメージしか浮かばない建物であった。

 とはいえ、いくつか見える扉の前には表札といったものは見当たらない。

 駄目元で一階にある扉をノックする。誰もいなかったら隣のドアもノックして、それでもダメなら上の階だなとよくわからない決意をして。


 最初の部屋で普通に村長の弟とエンカウントした。


 ドアを開けて姿を見せた老人は、尋ねる必要もない程村長と似ていた。そして村長の弟はというとベルナドットを見て驚いたように目を瞠っていた。

「えーっと、村長の弟のギル……ギルガメッシュ、いやギルゲイツ……何か違うな、ええっと」

「ギルベルトじゃよ。ここでは割と気軽にギル爺さんと呼ばれとる」

「ギルまでは合ってたよ、やったねベルくん!」

「やったね、って言われてもなぁ……」

 三文字目からは何一つかすりもしていないので、合ってたと言われてもという感じだ。


「しかし本当に早かったな。てっきり何かの冗談だとばかり思っとったんじゃが」

「これでも結構待たされた方ですよ。本当だったらもっと早くにここに来ることだってできました」

「そうか。兄さんがとんでもなく慌てておったがあれ事実か……そうか。ところでそっちがベルナドットなのは言うまでもなくわかるとして、そっちが――」

「そいやっさー!」

 ぱぁあん!!

「ふおっ!?」

 名前を呼ばれる事を察知した少女が即座にギル爺さんの目の前で手を叩いた。それはもう見事な猫だましが炸裂する。

「おっと失礼。その名で呼んでほしくないものでして、おほほほほ」

 笑ってはいるが目は笑っていない。そんな、微妙に直視すると恐ろしい笑みを浮かべる少女を、ギル爺さんは驚きつつも胸のあたりを手で押さえつつ、

「いや、まぁ、そうじゃったな……」

 その名の意味を理解しているので、呼ばれたくないという少女の言い分も理解はした。

 理解はしたけど正直かなり驚いた。正直寿命が三年くらい縮んだ気がする。


「しかしお前さん、名を名乗るのがイヤだというなら、どうするつもりじゃ? ここで暮らすのはともかく、生活費はそちらで稼ぐんじゃろう? ベルナドットが働いて、お前さんが家の中の事をする、というままごとでもするつもりか?」

「俺もそれ疑問に思ってたんだよなぁ」

 ギル爺さんの疑問ももっともで、そしてそれはベルナドットも既に思っていた事だった。正直な話、ある意味これが最重要項目ではないかとすら思っている。


 引っ越してきました、という挨拶が必要かどうかはわからないが、それでも誰かしらと関わるような事になれば名を名乗らないわけにもいかないだろう。

 例えば裏稼業などで名を明かせない、といった者はいると思うが、少女はそういった裏社会の人間でもない。だというのに名乗れないというのは怪しい事極まりない。

「あぁ、偽名名乗ればいいかなって」

 あまりにも堂々と言ったせいか、ベルナドットはともかくギル爺さんは理解するのに数秒要したようだ。

「私の名前だけだとダメっていうなら、共同で働く相手、相棒、パートナーとかそういう意味合いでベルくんの名前も出せばとりあえず通るかなって」


 二人そろって偽名だと問題がありそうだが、片方が本名なら多少はどうにかなりそうな気がする。


「それに私まだ年齢的に成人してないから。そういう意味でベルくんの名前は必要かなとも」

「ふむ……未成年だけだと確かに色々な手続きが面倒な事になるからそういう対策をとる者も中にはいるが……」


 まだ何か言いたそうではあったものの、どのみち限られた期間内の話だという事を思い出したのかまぁいいか、という呟きが漏れる。


「それで、俺達はどこで暮らせばいいんだ?」

 ここじゃないよな、と既に確信を得ているようにベルナドットが問うと、ギル爺さんはそうじゃな、と深く頷いた。


「ここはわしとその家族と、後はまぁ知り合いに貸しておるから空き部屋はない。そうさな、案内しよう」



 ――ギル爺さんに連れてこられたのは、ギル爺さんの家から徒歩十分ほどの距離にあった一件の建物だった。中央広場にかなり近い場所。ずらりと立ち並ぶ建物を見る限り、どうやらここは色々な店が並んでいるようだ。

 その中の、それなりに大きな建物。恐らくここもかつては何かの店だったのだろうなというのが窺える建物だった。


「かつてわしが店をやってた時の建物じゃ。今は使われとらん。少し前までは人に貸したりもしておったんじゃがな……立地はいいのに長続きせん」

 ギル爺さんの言う通り、確かにここは立地という意味ではとても良い場所のように見えた。だからこそ余計にここだけ建物が使われていないというのが目立って見える。


「時々掃除などはするがな、それでも最低限じゃ。家具もうちで使ってないやつで良ければ貸すが……運ぶのに人手が足りん。すぐに、とはいかんかもしれんな」

「あ、大丈夫です。家具は間に合ってるんで。というか建物さえあれば大丈夫です本当に」

 にこやかに言う少女に、ギル爺さんは怪訝そうに片眉を跳ね上げてみせたが、少女の方は特にそれ以上答えるでもなく微笑んだままだ。

「いい、というならそれでいいがな。一応ここは一階が店舗兼居住スペース、二階もまぁ、居住スペースみたいなものじゃな。商売をやるようには見えんから、店舗スペースもおぬしらの好きにするがええ」


「店が並んでる所でここだけ店じゃないってのもそれはそれで何か悪目立ちしそうだけどな」


 ベルナドットの呟きに、

「商売をするならそれでも構わんが……ちゃんと届けは出すんじゃぞ」

 最低限それだけは言っておかねば、と釘を刺す。もし届けを出さずにやらかした場合、罰金はもちろんだが場合によってはこの建物の持ち主であるギルベルトにも何らかの咎がくるかもしれないのだ。勿論、そこまでのオオゴトになるような展開になる事は滅多にないとは思うけれど。


「これが鍵じゃ。なくすなよ」

「はーい。それじゃあ有難くお借りしまーす。……家賃とかは?」

「あまりにも酷い使い方をしなければ今の所請求はせんよ」

「わお、流石村長さんところは太っ腹だなー」

 逆に言えば何か建物が傷む使い方をしたらその分弁償しろって事ではあるが、そういう使い方をするつもりはないので問題なさそうだ。

「てっきりとんでもない金額の家賃ふっかけられてお金が払えないならさっさと故郷に帰れって言われるかと思いましたー」

「…………その案も出なかったわけではないんじゃがの。そんなせこい手を使って故郷に戻された後が面倒じゃろう?」

「成程確かに」

 面倒なのは誰、とは言わない。けれどこの場合確実に酷い目に遭うのは村長だろう。



 かくして無事王都に辿り着いた二人は、住む場所を得たのである。


 ……しかし村長、ちょっと前にお前らできてるんじゃないの? という疑惑を向けてきたわりに、住む場所は二人一緒とかどういう事なんだろう。少女はちょっと疑問に思いもしたが、例えばベルナドットだけギル爺さんの家で暮らすとしても、こちらが一人になるとお目付け役の意味がなくなるのだろう。

 何というか、多分色んな意味で頭が痛かったんだろうなぁ、と元凶のくせに同情する。

 反省も後悔も一切しないが。

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