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転生したら生贄だったので残りの人生好きに生きます  作者: 猫宮蒼
ゲームでいうところの中盤の仲間がそろったあたり

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まだ早い冬の話



 秋の始まりに行われるのが収穫祭であるが、その次に行われる大規模なイベントと言えば騎士団の討伐遠征である。とはいえ、王都に暮らす住民や他の町や村に暮らす者からすれば、イベントと言えども収穫祭とは全く違うものなのでイベントとして認識しているかは微妙なところであるが。


 王都に暮らす住民とて、遠征に出向く騎士たちを見送った後はいつも通りの生活に戻る。

 いくつかの部隊にわかれてあちこちに遠征する騎士たちと、それについていく冒険者たち。


 王都の住民数が一時的に減る季節でもあった。


 次に彼らが戻って来るのは冬が始まって間もなくの頃か、場合によっては冬の半ば。早い部隊は冬の始まりと同時かそれよりちょっと前に戻って来る事もあるらしいが、どちらにしても大仕事である。

 見送りは一度で済むけれど、出迎えはそれでは……? と思ったがそれは春になってから纏めて執り行うらしい。冬を無事に超す事ができた、そうして新たな季節を迎える事ができたという事を祝うらしい。

 収穫祭と比べると些細な祝い事のようだ。大体は新年を迎える前にはどこの部隊も戻って来る事が多いので各々が新年を祝うと同時に無事に戻ってこれた事を祝うから、こちらの祝い事は大規模には行わないのだとか。


 春先に王都にやって来たゴンザレスたちではあったが、そんなのあったのか……と初めて聞いた話である。

 ティア曰く、お師匠様たちが来るより少し前に行われていたと思いますよ、との事。


 まぁ精々ちょっと大きな通りを武装した騎士たちが軽くパレードする程度なので、そこまで大きく取り上げる程のものでもないとか。

 そう言われてしまうとゴンザレスも多分一度見たら次はスルーしそうだなと思ってしまう。そこに知り合いがいれば話はまた違ってくるのかもしれないが。


 そんな、遠征に騎士たちが出ていったのが二日前の話。


 今回は遠征間近という事で慌ただしくも保存食の準備はごった煮が主導で行ったが、来年からはラグナに紹介してもらった人たちが頑張る事だろう。

 全ての作業を一人で出来るのであっても、まず保存するべきスープを作り、それらをフリーズドライにするべく魔石に魔力を流して……という一連の工程は中々に時間がかかる。

 それならば最初から料理を作る者とそれらを加工する者とで分かれてやった方が明らかに手っ取り早い。


 結果として現在は一部の冒険者たちが利用する道具屋で取り扱いが始まったが、知名度はまだ無いも同然なのでお試し期間といった所か。

 ゴンザレスはアイテム合成で一度に大量生成ができるので今回の遠征分はどうにかできたが、来年用意する者はもう少し早めに――それこそ収穫祭が始まるよりも前に用意をしておかなければ厳しいかもしれない。


 騎士たちが周辺の魔物を討伐するべく出向くので、王都の騎士たちもいつもより見かける数が少ない。

 これはもう仕方のない事ではあるが、それ故にこの時期、犯罪率が上がるのだそうだ。

 騎士の数が少ないのであれば、何か事件が起きてもそこに駆けつける事ができる人員が確保できずにいざ到着した時には既に何かやらかした犯人は逃げおおせた後、なんて事もそれなりにあるらしい。だからといって逃げっぱなしにさせるわけにもいかないので当然捜索はするが、それ故に騎士たちは見回りをしている時点で割とピリピリしている。


「冬はなんていうか厳しい季節なのねぇ」

 まだ秋だというのにゴンザレスはそんな事を呟いていた。


 ある意味でファンタジー世界なのだから、てっきり王都とかは冬でも春のような暖かさに満ちた場所、くらいであってもいいのではと思ったが、そういう場所は大体なんかこう、凄い魔法の力とかで都市が覆われていてとかそういうやつであった。魔石という便利アイテムがあるとはいえ、魔術を自由に行使できない人間種族が暮らす土地では土台無理そうな話である。


 ……魔王とかならできそうだけどな。とは思うけれども。

 現在その魔王決定戦が王都で行われているとかそれも到底信じがたい。

 嘘だと決めつけているわけではないが、そんな物騒な祭典が既に開催されているなどと言われても、ピンとこないのだ。巻き込まれているゴンザレスですらどこか現実味を感じないのだから、そんな事を知らない王都の住人が聞けばそれはもう信用される道理がないのも当然なのかもしれない。


 とりあえずこれからは外を歩く時に少しくらいは気を付けないとな、とふと思う。

 そうそう毎回メアの姉が狙ってくるわけでもないだろうけれど、騎士がいないのであればうっかり外を歩いている時にひったくりだとかスリだとか、はたまたカツアゲなんてものに遭遇するかもしれない。やだ怖い、想像してゴンザレスは思わず恐怖を誤魔化すように頬に手を当てた。

 ちなみに襲われるかもしれない恐怖ではなく、うっかり反射的にオーバーキルかますかもしれない恐怖である。相手がメアの姉であれば、人間種族でもないし向こうもこちらを殺そうとしていたわけだから反撃しても正当防衛で済んだけれど、ちょっとした軽犯罪を行う人間が相手だとうっかり殺しては流石に過剰防衛になってしまう。

 ヤだ、咄嗟に手加減できるかしら……? ゴンザレスの心配は明らかに普通の人間とは異なっていた。

 そもそもこの女、既に王都に来て間もなくの頃にご禁制の薬でちょっと色々ヤバい感じだった男に危害を加えられている。その時点ですらナイフが腕に突き刺さっていたにも関わらず相手の急所に蹴りを何度もして薬のせいで多少どころか痛みに鈍くなっていた男を失神させるに至っている時点で、襲われるかもしれない恐怖とかそういったものは消失していた。


 いっその事外に出る時は一人ではなく誰かと一緒の方がいいかもしれない。

 ベルくんやティア、場合によってはルークやアッシュあたりがいればかろうじてストッパーになるかもしれない。

 ……自分以外に危害を加えられた時点でもう完全に下手人を仕留める勢いになりそうなので、どっちもどっちだなと思い直す。


「……こんだけ考えておけばある程度フラグ立ったんじゃないかしら」

「あの、おっしょーさま、さっきから何の話ですか?」


「ん? あぁ、回収しちゃいけないフラグをそもそも立たせないようにするためのあれこれ?」


 意味わかんないっす、と言い捨てて、アッシュはそれ以上の突っ込みを諦めた。そのまま特にする必要もないが他にやる事もないので店内の掃除に勤しんでいる。

 ベルナドットであればもう少し突っ込んでくるだろうし、聞けばまぁ理解なり納得なりは示してくれたかもしれないが、相手は完全にこの世界の住人であるアッシュだ。前世の記憶ネタなんぞのたまった所で通じるはずもない。


 よくある話ではないか。

 何となく雨が降りそうな時に傘を持って出歩けばそういう時は雨が降らず、逆に微妙な天気だけどまぁ大丈夫だろうと傘を持たずに出た時に限って雨が降るとか。

 そういう感じに何か外に出た時に襲われるかもしれない、と考えておけば案外襲われないかもしれない。

 ゴンザレスが先程からつらつらと考えていたのは、要するに起こり得るかもしれない展開のフラグを叩き折るためのものであった。

 なお本当にそのフラグが折れたかどうかは定かではない。


「ねーアッシュー、そろそろ冬になるからボチボチ冬向けの商品出そうと思うんだけどー、何かない?」

「何かって言われてもな……えーっと、冷えるから、温かいもの?」

「防寒具とか?」

「まぁ、あれば売れるとは思いますけど」

「炬燵とか」

「何ですかそれ」

「おっと、人類にはまだ早いものかもしれなかったわね。今のは聞かなかったことにしてちょうだい」


 前世ですら炬燵の魔力に人類は屈してきたのだ。万が一、そんなものを売りに出してしまったら、王都の住人が炬燵から脱出不可能になってしまうかもしれない。引きこもりが大量に出来上がってしまう。

 前世であれば引きこもっていてもネット通販だとかで食料問題も解決できるし、それ以外のあれやこれやも大体家にいてどうにかなったけれど、王都の現状を考えるとどうしたって食料を買いに行くためには外に出なければならないし、ずっと家の中にいる事は不可能に近い。


(炬燵は封印しよ……)


 固く心に誓う。


「……暖炉はあるけど、そういやストーブってあるの?」

「ストーブ? あぁ、火の魔石使った魔導具とかですか? あるけどあれ結構高いから貴族の家でも必ずあるってわけじゃないっぽいですよ。どうしたって魔力使うから暖炉の方が使用人に任せておけば薪から何から何までやってくれますし」

「そっかー」


 冷蔵庫などはそこまで魔力を消費しないから、一か月に一度とりあえず魔力を流しておけば途中で魔力切れを起こして中の食料が駄目になる、なんて事は滅多にないのだけれど、どうやらストーブの場合は消費する魔力がかなりあるらしい。

 それなら冷蔵庫と同じくらいの消費魔力で使えるストーブなんて売れるのでは? と思ったが、少し考えて手間がかかるのでやめた。


 冷蔵庫は常に使っている状態だから別に問題はないけれどストーブは違う。出かける時にも付けっぱなしというわけにはいかないし、部屋が暑いと感じれば消す事もある。オンオフの切り替えを何度か行う物はどうしたって起動の際に魔力をそれなりに使ってしまう。

 冷蔵庫は付けっぱなしで問題が起こる事はそうないけれど、ストーブは付けっぱなしだと万が一の事故が怖い。場合によっては大惨事になりかねないので、ストーブを作れなくもないけれど売るのはやめておいた方がいいだろう。


「んー、じゃあ後は着る毛布か……」

 これなら裾が長いとかで引きずって踏んだりしなければ問題ないのではなかろうか。よし、後でいくつか作っておこう、そう決めて心のメモ帳に留めておく。


 他にあと何かあったかなぁ……なんて考えていると、ドアベルが鳴る。

「らっしゃーせー」

 おいここラーメン屋じゃねぇんだぞ、と突っ込みたかったがそれは後回しにするとして、アッシュが声をかけたであろう客の方へ目を向ける。


「あ……はい……」


 アッシュの声に思わず返事をしてしまったのだろう。

 だがしかし、何かとんでもなく幸薄そうなのがやって来た。

 それが、ゴンザレスから見た彼の第一印象だった。

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