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転生したら生贄だったので残りの人生好きに生きます  作者: 猫宮蒼
ゲームでいうところの序盤に行く大きな街

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知らない所で死亡フラグが建設される



 まるで熟した果実のような色合いの赤。炎というよりはそう表現するのが彼女にとって適切な気がしていた。

 そんな色合いの髪は、彼女が身じろいだ際にかすかに揺れる。

「――ふぅん? そう、貴方の言い分は理解しました。いいでしょう、一先ずはそれで」

 表情を変えずに思案していたはずの女がすっと視線を上げる。そうして口から出た言葉は彼女にとっても悪い話ではない。

 女の声に、頭の上にあった耳がぴく、と反応したがそれだけだ。


「それにしても貴方の忠犬ぷりには感心するべきかしら。主を守るためにそこまでするのだから。ねぇ? メルディア」

「……どちらにしても、我が主にとって今回の戦いは最後まで戦い抜けるものではなかった。ただそれだけの事です」

「ふふ、そう。いいわ。貴方が役に立つのであれば、あの子の面倒くらいは見て差し上げてよ」

 メルディアの髪とは対照的な白銀の長い髪を持つ女は、そう言うとかすかに笑ってみせた。それはとても綺麗な、まるでお手本のような微笑みですらあったがメルディアは決して安堵などできなかった。

 その言葉を素直に受け取るのは危険だとメルディアの本能が訴えている。

 役に立たなければ女はメルディアごと、メルディアの主を始末するに違いない。そう思ってしまうのは決して杞憂などではなかっただろう。

 けれども現状、メルディアにできる事はそう多くない。

 メルディアの主は現在別の場所で保護されているが、女はそれを知るはずもなく「何なら貴方の主、こちらに連れてきても構わないのよ?」などと言っているが、メルディアはそっと首を横に振った。

「今はまだ、このままで」

「そう。貴方の働き次第、という事にしておきましょう」


「それで、わたしは何をすれば?」

「そうねぇ……残念な事に今すぐ急を要するような事ってないのだけれど……あぁ、そうだ。妹のメアが目をかけているらしい人間がいるのだけれど。それの始末をお願いしようかしら」

「……人間の? けど、それは……その人間はこちらの事情を?」

「さぁ? そこまで興味はないわ。けれど、その人間を始末すればメアの方も対処しやすくなるから。少し前に妹たちがそれを実行しようとしていたのだけれど、ことごとく失敗したみたいで。不出来な妹を持つと苦労するわ」

「……そ、それで、その人間というのは?」

「直接見た事がないから何とも言えないのだけれど、確か、そうね――」


 女――リリメアは妹たちから聞いていた人間の特徴をメルディアへと伝える。

 今回の件に本来なら全くの無関係の人間ですら巻き込もうとしているリリメアに言いたい事はあったが、それを言ってしまえば確実に機嫌を損ねるのはメルディアにも理解できていた。それは得策ではない。主を保護している彼らとの約束が果たせなくなる。

 メルディアの本来の目的は主の身の安全。主が本来手を組んでいた相手はほぼリリメアによって潰されてしまった。それを見た上で、彼らはメルディアに話を持ち掛けたのだ。主をこちらで保護する代わりに彼女の元へ行き、上手い事懐に潜り込んで始末してこい、と。

 彼らがその気になればリリメアをどうにかする事はそう難しい事ではない。けれど、メルディアやその主のためにリリメアをどうにかしてやろうなどと思う事もまた無い。

 主と手を組んでいた相手は大体が仲の良い兄弟であった。主の身の安全の為に、策とはいえメルディアがこうして彼女の元にいるという事を主はきっと良しとはしないだろう。けれど、こうするしか他に方法がないのだ。主が生き延びるためには。


「……まて、それは、そいつは」

「えぇ、とても良く似ていると聞いているわ。けれど似ていても確かにそれは人間なの。だから気にする事もないわ」

 今後の事を考えながらもリリメアが始末しろと言っていた人間の特徴を聞けば、女の方はともかく男の方はとても心当たりのある外見だった。だからこそてっきり悪い冗談ではないかと思ったが、そんな事もなかったらしい。

 似ているが無関係、であるならばまぁ、大丈夫だろう。完全に安心していいものかはわからないが、種族が違うなら問題ないはずだ。


「だからこそ、男の方が探すのは容易かもしれないわね」

「そう、だな。わかった。その二人の始末、それがわたしの仕事という事でいいんだな?」

「えぇ、他に何か重要な案件が出来たらそっちを優先してもらうかもしれないけれど、今の所そういった事もないから」

「わかった。それならわたしはその人間を探してくる」

「えぇ、期待しているわ。少なくとも貴方は妹たちのように無能ではなさそうだし」

「…………」


 その言葉に何と返すべきか、メルディアはそういった時に言うべき言葉を持ち合わせていなかったため無言のままリリメアに背を向けた。彼女の尻から伸びている尻尾がどこか不機嫌そうにゆらりと揺れたが……リリメアはそれを咎めるでもなく、笑ったままだ。

 妹であったならそんな態度であれば多少なりとも何かを言ったかもしれないが、メルディアはリリメアにとって妹でも何でもない。たくさんいる弟たちのうちの一人のお気に入りではあるのかもしれないが、それはどうでもいい事だった。今は自分の近くにいるかもしれないが、完全に自分の懐に入った存在というわけでもない。多少の無礼は大目に見よう。リリメアはそんな風に考えていた。

 勿論、多少どころではなく無礼な振る舞いが目につけばその時はそれなりの対応をするつもりではいるが。


「……まぁ、どちらにしても獣魔族だものね、あれは。多少ならば有効活用できるでしょうけど……重用しようとは思わないわね」

 すっかり姿が見えなくなったため、そんな本音を口にしたところで聞こえる事もないだろう。まだ姿が見えている状態であったならばもしかしたら、とは思うけれど。

 どちらにしても、たとえメルディアがどれだけ役に立とうとも自分の従者たるクルイーサと比べるべくもない。彼程に役に立てるというのならば、まぁ、弟ごとこちらの陣営で保護してもいいか、とは思うけれど。

「でも多分、あまりアテにしない方がいいわね」

 ふっ、と嗤う。もし本当にメルディアが成果を、結果を出したとしてもリリメアがやるべき事は何も変わらないのだから。



 ――リリメアから言われた人間はまず間違いなく王都にいる。

 そもそも王都こそが彼女らの戦場なので、リリメアの妹であるメアが知り合った人物も当然王都か、場合によってはその周辺のどこかの町か村あたりにいるはずだ。

 しかしもし王都にいないのであればとっくにその人間たちは始末されていてもおかしくはない。それができなかったという事はまず間違いなく王都にいると言っていい。

 メルディアは大きな帽子を目深に被り、大通りを歩いていた。正直あまり帽子を被るのは好きではないのだが……亜人や獣人が全くいないわけではない。けれども王都の住人達と比べると圧倒的に数が少なく、だからこそメルディアの耳もまた目立つだろう。これからやるべき事を考えれば目立つ事は望ましくない。

 尻尾も目立たないようにとリリメアの元から立ち去った時点でメルディアはあらかじめ用意してあった外套を羽織っていた。王都住人として見られるのは無理かもしれないが、これならばまぁ、他所からやって来た冒険者あたりには見えるだろう。


 標的の顔を直接見たわけではないしメルディアが直接出会ったわけでもないため、特徴を聞かされたとしても見知らぬ人間を探すという事に変わりはない。これがまっとうな人探しであればギルドに依頼を出すだとか、周辺の人間たちに聞き込みをする事もできるのだがメルディアがその手段をとる事はできない。

 探し人は殺さなければならないし、その死体をそこらに放っておくつもりもないが死体が見つからないようにしたとしても行方不明にはなる。そうなれば消息を絶つ前にメルディアがその人間の行方を聞きまわっていた、という話が流れれば疑いは当然メルディアに向けられるし、騎士に捕まるようなヘマをするつもりはこれっぽっちもなくとも不審人物か重要参考人あたりで各地にメルディアの人相書きやら情報が出回るのも面倒な事になる。

 メルディアだけが人目を避けて行動すればいいだけの話だが、仮に全てが上手くいった場合、主と行動できなくなる可能性が出てくるのは問題があった。


 主に面倒をかける真似はできない。だからこそメルディアはたとえそれがどれだけ面倒な事であったとしても、周辺に聞き込みをするという行動をとる事ができなかった。


 メルディアにとって幸運であったのは、探し人の一人が自分の知っている人物と似通っているという点だろうか。全く知らない人物であれば、それらしき者を発見したとしてもそれが本当に本人かはわからないためそこから更に確証を得るまで調べなければならないが、奴に似た人物、というのが早々複数いるとは考えにくい。女の方はよくわからないがとりあえず男の方は探すだけならメルディアにとってそこまで難しいものではないように思えた。

 とはいえ、王都である。

 小さな町や村での人探しならともかく王都である。

 そこからたった一人を探し出すのは中々に骨が折れる作業である事は、言うまでもなかった。


 相手がどこに住んでいるのかだとか、どこら辺を中心に行動しているのかとか、そういったものは一切わからない。仕事をしているにしてもそれが朝なのか夜なのかで探すべき場所も異なる。

 流石に一日二日で結果を出してこい、などという無茶はリリメアは言わなかったがそれでもあまり時間をかけてはいられないだろう。

 数日は、まともに休みをとれないと考えた方が良さそうだ。

 最終的にそれが主の為になるのであれば、と思えばまだマシではあるが……けれどもそれを訴えるような反応を示したのはメルディアの腹であった。


「……先にご飯食べよう……」

 きゅう、と切なげに鳴る腹を押さえて、誰に聞かせるでもなくメルディアはそう口に出していた。

 ご飯を食べてから、頑張ろう。

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