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第三十話 茜に生き写しのおなご(3)

 それから三日目の夜に、紬と雫は連れ立って、鯉沼藩の上屋敷にやってきた。それは不気味なほど静かな夜だった。

 実のところ、裏門に来るように事前に通達があったもので、ふたりがそこで待っていると、数人の家来が現れた。ふたりは、家来に連れられて、上屋敷の中に通される。

 広い座敷に案内されたふたりは、そこで松林辰影を見た。


 松林辰影は能衣装のような金色の羽織袴をまとい、まさに美麗の殿方と呼ばれるにふさわしい出立ちで、ふたりの正面に座っている。辰影はふたりを見るなり、大変喜んだ様子であった。

「美しい姉妹がついにわたしの手に落ちる時が来たのだな……」

 ふたりは松林辰影の前に平伏して、

「ふつつか者ですが、どうぞ末長く可愛がってください」

 などと愛想のよいことを言う。


 しかし、松林辰影はふたりをまだ信用しておらぬとばかりに、

「ふたりとも地下牢に入れておけ……!」

 と家来に怒鳴った。


「それはどういうわけですか。側室にというお話だからこうして来たものを……」

 と雫は慌てた様子で言った。

「そなたたちの浅はかな策略にはまったく呆れる限りだ。こうしていいなりになる演技をすれば、俺が信用するとでも思ったか! 差し当たり、地下牢にでも入れて、妖の毒気に漬けられて従順になるまで、じっくりと礼儀作法でも教え込んでやるわ」

 といって、松林辰影は立ち上がる。


「それならばそれでもいいでしょう。わたしたちはあくまでもあなたに従いましょう。それでわたしたちはあなたの言う通りにいたしましたので、鞠乃は解放してくださるのでしょうか」

「そのような約束はした覚えがないわ。鞠乃が解放されれば、そなたたちはいつでも逃げ出せるようになると思っておるのだろう。雫。いいことを教えてやろう。俺はお前と茜がほしかっただけのことだ。こうしてわざわざ姉を連れてきてくれたことには礼を言おう。しかし、だからといって誰ひとりとして解放するつもりなどないのだ」

 そういうと辰影はけたたましく笑った。


 雫は、すぐに自分の背後に忍者が立っていることに気づいた。抵抗すれば殺される、と思った雫はなすすべもなく、松林辰影のとらわれの身となった。

 ふたりは地下牢に入れられることになった。

「とんだご挨拶だね。これは……」

 と紬は不機嫌そうに雫に言った。


「まあ、こうなることははじめから計算のうちだよ……」

「計算のうちですって。とても呑気で羨ましいこと。それでどうやってここから出るの」

「出るつもりはない。機を待つ……」


 そう言って雫は床に寝そべって、たちまち眠りだしてしまった。

 紬はあっけにとられて、雫を見つめている。

「あなたに協力するんじゃなかった……。あの松林辰影って男には、まったく愛を感じないもの」

 と紬はため息をついた。


 それ以降も、まったく松林辰影は現れなかった。

(つまり疑われているということだ……)

 雫はそう思う。地下牢には忍術を無力化する札が貼られている。これではどうすることもできない。

(そうこうするうちに三日目の夜を迎えてしまうだろう。幻八、上手くやれるかな……)

 と雫は不安を感じた。



       「茜に生き写しのおなご(3)」完

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