ミスは誰にだってある
『余は神である!!』
ヒゲを蓄えた、大変偉そうな人物がおっしゃった。
近年、これほど偉そうな人物をTVはおろか映画だって見た記憶が無い。
神々しいまのオーラを発している。
まあ、自称ではあるが神様だから神々しくても当たり前か。
「はぁ、神様ですか。それはどうも」
サラリーマンを20年以上続けていれば、たとえ相手がどんなに厄介な相手でも、それなりの態度で応対する術を持ち合わせている。たとえ相手が「神」を自称する人物であってもだ。
『うむ、余は神である!』
「はい、神様ですね。それはどうも」
とりあえず肯定から入る。だんだんとクレーマーを相手にしている気分がしてきた。
「御宅の商品が!」「わたしは○○さんの知り合いでね」とか。
いや待て、コレはいったい何なんだ?
昨日の晩酌をついつい飲みすぎた残滓が見せる夢か?あるいはドッキリか?
『夢ではない!ましてやドッキリでもない!』
神様でもドッキリとか使うんだ。なんか凄えな。
『強いて言えばサプライズだ!』
サプライズ。嫌な予感してくる。非常に嫌な感じだ。
誕生日、記念日、様々なサプライズの形はあろうが、大体において仕掛ける方は楽しかろうが、仕掛けられる方の心の繊細さを考慮して欲しい。
なんて思うのは、リア充とは程遠い性格だからだろうか。
いわゆるボッチではないが、決してリア充ではない。断言できる事が悲しい。
「で、一体何がサプライズなんですか?」
『うむ。まずお主は死んでおる』
「死にましたか・・・・・・はぁ?」
おいおいちょっと待てよ神!一体何を言い始めた?
『お主にとっては実に残念な事であろうが、すでに死んでおる』
ハハハ、この自称神は何を言い腐っておりやがるでしょうか?
『しかもだ』と自称神は続けた。
『非常に残念な事に、お主の寿命の残りはまだまだ余っておったのだが、係りの者の手違いによって死亡処理されてしまった。ちょっとした書類のミスでな。うむ。実の残念な話だ』
なにそれ?役所で事務処理を間違えた感じで、何をサプライズしてるの?
しかもまるで残念そうな感じがしない。
ある意味、さすが神様。実に偉そうだ。
『信じられない事ではあろうが、これは厳然たる事実だ。受け止めるがよい』
「受け止められるか!!」
『しかしだなぁ、既に死亡している者が生き返ったら、それはそれで大問題になりうる。まぁ過去に例がが無いわけではないが、生き返っても問題がないぐらいお主は聖人列挙される人生を歩んでおった訳でもあるまい?』
「ぐぬぬ。さすがに・・・・ない」
『聖人君子となれば、余も考えぬでもないが、な。大体、聖人君子関して間違いがあってはならない様に、何重にも厳しい監査が行われるようになっておるわ。そこは庶民と思って諦めるがよい』
神様直々に庶民判定きたよ。
大体、神様は平等じゃなかったのかよ。庶民と聖人君子と比べたら、判らなくはないが、それにしてもこの不条理感は如何ともしがたい。
『しかしながら、単なる手続きで寿命を余して死なせるのも、はっきり言って外聞が悪い』
外聞って。なんか政治家とか企業のトップが問題がおきた時に言い出しそうな見解だ。
しかも「単なる手続き」って、自分の寿命云々を関わっているだけにスルーするにはデカすぐる問題だ。
『そこで、各所と協議した結果、お主を別な世界に転生させる事にした』
「異世界とか、そんな感じですか?」
『うむ。同じ世界だと余計な混乱が生じるのでな』
余計って言ったな。もう俺の人生「うわっ!わたしの年収低すぎ」みたいな価値だ。
なんだか悲しくなってきた。
別段、聖人君子とまでは言わないが、それなりに全うな人生を送ってきたつもりだったのに。
『そこまで悲嘆に暮れることは無い。此度の事情を鑑みてお主には再び受ける生に関して、有形無形な、様々な祝福を授ける方向で話が纏まっておるから安心せよ。いい感じで過ごせる事請け合いじゃ』
「本当なんでしょうね?もう書類とか事務手続きでとか、勘弁してくださいよ?」
『うむ、任せておけ。お主のセカンドライフは素敵で希望に満ち溢れた、いい感じになる筈じゃ』
神を名乗る人物が言う「いい感じ」の人生がどうなるかは、最早信じるしかないのだろう。
既に死亡しているのが真実ならば、諦めて新しい人生を前向きに生きたほうが建設的だ。
考え方を変えたら、転職したと思えば良いのかもしてない。
ちょっと過激で極端な転職ではあるが。
『さて、そろそろ時間である。お主の人生に祝福を』
ぼんやりと視界が薄れていく。
新しい人生が素敵である事を願いながら瞳を閉じる。
『あれっ?!』
おい、神!