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召しませ、久賀嬢の晩御飯  作者: 飛島 明
召しませ、久賀嬢の晩御飯
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彼女の秘密

『植野さん、お願いがあるんですが』

 インターンとして檀が良達の編集部に通い出してから1か月かそこら。

校了真っ最中。手を休める暇はない。

ちら、と顔を上げて見たら彼女は相変わらずのスーツ姿だった。

(『普段着でいい』と言ったのに。固いヤツ)

ふと。

(スーツしか持ってないのか?)

まさか。

(今時女子だ。普段着だって持ってるだろ)

とすると、これは職場における、彼女のスタイルなのだ。

そこまで考えてから、檀に返事をした。


『なに?金なら貸さないよ』

『お金ではなく、知恵を拝借したくて』

『うん?』

 そこでまともに檀に向き合った。

両手をねじり合わせ、そわそわしていて、見るからに何かに動転している。


『植野さん、ファッション関係に詳しいとお聞きしまして』

『それなりにね』

 檀は逡巡した後。

勇気を奮って言葉を口にした。

『あの。ブランドの中古ショップとかご存じないでしょうか。もの凄く安く買えて、そこそこ質のいい』


(知ってるけど)

あえて、即答はしない。

『そりゃまたハードルの高いリクエストだな。見つけられるだろうけど、時間かかるぞ』

(電話一本で、言い値で貸し出してくれるけど)

 檀が俯いた。心底困っているようだ。

(苛め過ぎるのは、よくないな)

少し良心の呵責を覚えて。そこで方向転換して、訊ねてみた。

『ご存知だけど、なんで?』

と。

檀がきらりん、と目を輝かせて顔を上げた。

(わかりやすい奴)


『何、久賀。ブランドもん着たいなんて、そんな気張ったデートするような男がいるんだ』

 興味がわいた。

(デートか。いっちょまえに)

どんな男とデートするんだろう。

ちりり、と胸の辺りで焦げ付くような気がした。


『はい!そんな男がいるんです!』

『マジ?!』

驚いた。

心底驚いた。

(こんなイモねーちゃんを本気で誘う奴いるのか!)

キャッチーだって避けて通るタイプだぞ。


……まあ確かに。

スレてなさそうな立ち居振る舞いとか。駆け引きなんて到底出来なさそうな表情とか。天然、とか素朴、とか。そんな素材が好きな男だったら似合うかもな。


 は、と気づく。

(もしかして。ホストとか、キャッチーとかに捕まったのか)

 それはまずい。

女のことを紙幣としか思っていないような輩に会いに行くのに、ブランド品なんかで武装した日には。

(骨の髄までしゃぶられてポイだぞ!)

俄然、保護欲が湧いた。

『どんな奴だ。事と次第では、おとーさんは許さないぞ』


(やべ。俺も三ツ谷さんの保護欲が移ったか)


『はい、その父が来るんです』

『……久賀のお父さん?』

(て、殿様が?!なんで!参勤交代はこの時代、ないだろう!)

そんなものがなくたって勝手に上京していい世の中だが。


(三ツ谷さん出張でよかった)

なんとはなし、ほっとする。

(そうでないと、あの人。殿さまのお成りに感激しちゃって土下座しかねないし)


『久々の親子の対面だろ?楽しんで来いよ。インターン、そういう事情なら1週間位、休んでいいぞ。三ツ谷さんにも言っておくから。そもそも学業優先だしな』

 

 そこで疑問が初めて、湧いた。


『それで?なんでブランドの、しかも中古を買う訳?どうせなら自分で買うより、プロパーで親に買って貰えばいいじゃん』

(お前なら、買える金もあるだろうし。第一、いつもパパに強請ってるんだろうが)

もう興味を喪った。

そう宣言をしたも同様の良の姿に、焦ったように檀は頭を振った。

『違うんです。父は私の行状をチェックしに来たんです』


『じゃあ問題ないだろ』

良は校了を続ける為、パソコンに目を戻したまま、そう答えた。

(さっきは心底驚かされたが、こいつに男っ気がないのは見りゃわかる)

 外見と、持ってくる弁当の中身を見れば慎ましい生活そのものだ。

飲み物だって水筒に入れて持ってくるし、こいつが買い食いや外食する処を見たことがない。

”お嬢様ってのは意外と質実剛健なもんだなー”と感心していた位なのであるから。

……それをなんで今更、金持ちぶる必要があるんだ?しかも殿おやじさまの前で。




『問題あるんです』

 檀がじれったそうに言った。

『私、父のお金を横領しているんです』

『へ』


 世の中で。堂々と横領している、と宣言する人間に初めて遭遇した。

(おそらく最初で最後だろうな)

が。

彼女の必死な顔を見たら、何か理由があるんだろう、と思えた。

『理由を聞かせてくれたら協力しないでもない』


 彼女は父親から横領している割には金持ちではなかった。

その理由わけは。




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