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第10話、深紅の『 』と白い死神(後編)

〔紅蓮side〕

 右手に力を籠める。

 目の前の小娘を倒すくらいには使えるか、この腕。

 死神の方を見る。

 嗤っている。

 楽しそうに嗤ってやがる。

 こういうヤツを殴るのに、躊躇しない。

 例え、何者だろうと関係ない。

 ぶっ倒した後に考えれば良い。


 嗤顔の死神に零距離で接近し、鳩尾を殴る。

 しかし、ヤツの日本刀がそれを阻む。


《主は、迅いな》

「こんな時にお喋りか、随分な変わり者だな」

 右腕に力を籠めるが、押し勝てない。

 華奢な見た目からは想像できないくらいに死神には筋力が備わっているようだ。

《わっちが変わっているのは分かっている。いや、変わっている程度ならそれは歓迎じゃ》

「そうか、まぁ良い、満足したなら……死ね!」

 バックステップで距離を取り、懐に隠し持っていたサブマシンガン(本物、消音器サプレッサー装備)を発砲する。

 死神は刀を横に薙ぎ、弾丸の嵐を空間ごと氷漬けにしやがった。

 このアマ、蒼子と同系統の固有魔法なのか?



《鉄砲か、最近の鉄砲は随分と粗末な大きさじゃな》

「ちっちぇ方がカワイイだろ」

 背部に回り込み、延髄蹴りを試みるが、死神の鞘が自動で防御した。

 手の動きが異様だった。

 まるで、鞘そのものに自意識が存在するかのような動きに感じる。

 

 生きてる剣?

 そんな話、聞いたことねぇぞ。


《どうした?何を考えている?》

「テメェの倒し方を考えていた」

《わっちを倒すつもりか?》

「たりめぇだろ、クズが」

《ふふっ、威勢のいいことじゃ。ならば、倒してみるが良い。倒せるのならな》

 妙な寒気を感じる。

 殺気のような威圧感ではなく、文字通り、気温が低下した。


《鏡花》

 囁き声の魔法名が耳に届く。

 空気中の水分が死神の目の前に収束し、それが鏡のような氷に変わる。

 その氷には、『死神』の姿が映っていた。

 どうやら、氷に自分を映す技らしい。

 トリッキーだが、どんな技か理解できれば対策は簡単。


「紅莉っ!」

「あ、うん!!」

 紅莉の武器から発射された魔法弾が氷を粉砕する。

《ム?》

「テメェとタイマンで闘うつもりなんてねぇよ!!オレはテメェを叩きのめすだけだ!!」

 こいつには、嫌な感覚がある。

 気味の悪い、ババァや秋山のような格上の人間相手にケンカしているような緊張感や絶望感とは違う。

 かと言って、雑魚の不良共を殲滅した時のような圧倒的な感覚には程遠い。

 まぁいい、面倒なことは、全てが終わった後から考えれば!


 紅莉の魔法弾で弾幕を作り、接近する。

 死神が魔法弾に対応した瞬間のスキを穿つ。

 そう考えたが、ヤツは避けた。

 魔法弾の弾幕を避けたのだ。

《月閃》

 そして、敵であるオレが見惚れる剣技で、死角から頚動脈を狙う。

 反射的に動いた拳が刃にぶつかる。

 まともに喰らえば必殺だった。

 こいつ、完全に殺す気か。

 けれど殺気がない。

 妙な気分だ。

 まるで無機物と対峙しているかのような不気味さがある。


《ほぅ、今のを対処するか。本当に何者じゃ?お主》

「何者でもねぇよ、ただのシスコンだ」

 零距離の状況下で、オーバーヘッドキック。

 しかし、やはりあの鞘が防ぐ。

 何らかのシステムやセンサーが範囲内の攻撃をオートガードすると考えて良いだろう。

 となれば、この女は野良ではない。


《しすこん?相変わらず分からぬ言葉を使う男じゃ》

 予備動作ナシでいきなり袈裟斬り。

 眼で捉えることができないほどの迅さ。

 今までの剣技の中で最も迅い。

 いや、違うか。

 まだ本気を出していないんだ、こいつ。

 舐められたものだな、このオレが。


「紅莉、ちょっち避難してろ」

「え?」

「聞こえなかったか、ここからは先はお前に指示を出してる暇はない」

「わ、分かったよ」

 不服だと言いたい紅莉に命令し、後退させる。

 悪いな、闘いながらだと、アドレナリンのせいか、どうしても周りが見えなくなる。


《仲間の援護なしでわっちと闘うつもりか?》

「戦況は常に変わる、タイマンで戦った方が有効だと指揮官コマンダーが判断したのなら、そうさせるのが一番だ」

 それに、オレには何かを守りながら闘うのは、似合わねぇ。

 どうしても、『あの時』を思い出しちまう。

《どうした?来ぬのか?ならわっちの方から攻めさせてもらおうか》

 死神は今度は下段に刀を構えた。

 構えからは居合い切りのような抜刀術に思えるが、蒼子を指導していて良かったと心から思う。

 その技は初見じゃない。


《雪刃》

 虚空を乱れ斬り、その衝撃波が凍り付き、それがオレを襲う。

 だが、この迅さなら見てからでも避けられるし、その程度なら接近だって容易い!!

 中距離まで接近したオレを見た死神の目は見開いている。

 完全に予想外らしい。

《主は本当に人間か?》

 あぁ、人間さ、少なくとも常人ではないがな。

 懐から小筒を取り出す。

 死神はこの小筒を見たその時、距離を置いた。

 この女、腕は良くても頭は悪いな。

 この小筒は煙幕手榴弾スモークグレネードだ。

 爆風なら氷の壁でも防げるだろう、だが気体である煙幕には効果はあまりない。


 手榴弾を投げる。

 オレの予想通り、ヤツは氷の壁を築いた。

 小筒から漏れた煙幕が死神の周囲を満たす。

 煙幕によりオレの行動は観測することは不可能。

《ぬ!?な、なんだこれは!?》

 死神が煙幕に狼狽している間に、隙だらけの死神の眼前まで疾駆。

「渾身の右ストレートだッ!受け取れッ!!」

 女の顔面を殴るのは二度目だが、そんなことに興味は無い。

 興味があったのは感覚だ。

 右手は確かに死神の頬を殴った。

 けれど、人間の頬の感触ではない、氷だ。

 氷細工のように死神はボロボロと砕け散った。


《どこを見ている?》

 瞬間、死神はオレの後方に現れた。

 目で見なくても、感覚でわかる。

 攻撃方法は刺突。

 分かった以上、対応は簡単だ。

 確信に満ちた動きで回避する。

 天性の勘でも歴戦の勘でもない。

 ただ、どう動けば避けれるかが分かる。

 左横に跳躍、回避完了。


 意表を突いたつもりだろうが、オレにその程度の奇襲は通用しない。

 左アッパーを腹部に決める。

 モノを殴る感触が、脳に伝わる。

「……Weak(弱い)!」

 今度こそ、確実に決まった。

 だが、甘い。決定打にはなり得ない。

 その証拠に、死神は立ち上がった。


《まったく……日本人なら、日本語を喋らぬか、わっぱ

「あいにく、人種や言語に拘るほど、オレの世界は小さくねぇんだよ」

 少々力を使いすぎたな、体力の消耗が激しい。

 こりゃ2日程度は筋肉痛に襲われるな。


《……のぉ、童よ。1つ、聞いてもよいか?》

「なんだ?クソアマ」

《今は……いや、忘れてくれ……》

 本当になんだ?『今は』だって?

 何を訊こうとしたか見当もつかない。

「ちっ、やり辛ぇ相手だ」

《なに、せめてもの礼だ。苦しみを感じることなく逝かせてやるから》

 死神は刀を上段に構えた。

 今までと違い、今度ははっきりとした殺気を感じる。

 今までの剣技が小手調べだったとすれば、今これから味わう剣技こそが必殺技だ。

 『必ず殺す』と書いて必殺。

 そうか、久しぶり過ぎて忘れていた。

 これが、死への恐怖という感触。


《雪月花》

 目にも留まらぬ斬撃が縦横無尽に空をしなる。

 斬撃そのものに自我が持ってるかと錯覚する。

 さっきの刺突程度の技能ではない、今のオレでは対応できないと直感した。

 神速の刃が首をかすめたことを皮膚で感じた瞬間、轟音がうなった。


《む、射撃か?主ら、まだ仲間が居たのか?》

 気を緩めずに感覚だけを緩める。

 どうやらクロの援護射撃があったらしい。

 レイほどではないが、クロの射撃の腕は平均値以上。

 今まで何もしなかったのは、確実に当てる機会を待っていたに違いない。


 死神の右手にはその白い肌に似合わない黒いモヤが絡み付いている。

 クロの固有魔法だ。あの靄が取り付いたが最後。

 人間の骨を粉砕することなど造作も無い。

 そして、ヤツも自分の右手の違和感を感じたのだろう。

 死神は躊躇いなく逃げた。


 魔法少女同様の身体能力で跳躍し、5秒も経った時には目視でヤツを追うことはできなかった。

 戦況を把握したが故の戦略的撤退。

 クロの能力は距離が開けば開くほど、威力が弱まる。

 お喋りな死神が捨て台詞の一つも吐かなかったのだ、となれば、ヤツは感覚でそれを悟ったと考えておかしくない。

 クロと距離が開いているとはいえ、オレたちから簡単に逃げた。

 深追いは禁物だな、アレはシルヴィアクラスだ。


『遅れてすみません、援護は間に合いましたか?』

 通信機にクロの声が聞こえてきた。

 どうやらクロも同じようなことを考えたのだろう。

 追撃するな、という指示を出さなくて済むのは少しは楽だ。

「あぁ、ナイスなタイミングだ、クロ。しかし、今のを良く撃てたな」

『え?こちらからはスキだらけに見えましたが』

 スキだらけ?

 とてもそうではなかった、いや、待て。

 よくよく考えれば、オレはあの死神が攻撃する所作を見ていない。


 錯覚か?

 そう思い、首筋に手を触れてみる。

 かすかだが、切り傷から鮮血が漏れている。

 救急箱で治癒できるレベルなら良いが。


 しかし、これではっきりした。

 幻術ではない、確かな物理的な攻撃。

 刀は触れていない。剣圧、いや冷気か?

 死神は冷気で人を斬る事ができるのか?

 虚の構えからの攻撃。

 経験が多いほど、人は固定概念にとらわれる。

 なるほど、それならクロがスキだらけだと形容するのも分かるし、第三者からスキだらけに見える剣技なら、切り札として温存していたのも理解できる。

 危なかった、クロの狙撃がワンテンポ遅れていたなら、今ごろ、頭部と胴体はさよならしていたに違いない。


 シルヴィアや蒼子、ブラウンと同等以上の近接戦闘能力。

 飛び道具にも優れ、俊敏性も十二分にある。

 魔法少女か、それに類する何かか……。

 警察は頼れないな、アレが科学兵器ではない何かというのは確実。

 もし、警察が対処した場合、何人かの殉職は間違いない。

 『何人か』で済めば良いが。

 ……ただの人間じゃ、荷が重いな、この仕事。


◇〔紅莉side〕

 しかし、事件は思わぬ展開となった。

『次のニュースです。行方不明だった女子高校生の坂本真美さんが保護されました。

 坂本さんは2週間ほど前から家に帰っておらず、坂本さんの家族から心配されていました。

 坂本さんに目立った外傷はないのですが、坂本さんは記憶に乱れがあるらしく、ここ数日のことを何も覚えていないそうです。このことから警察は事件の可能性を踏まえて捜査するとコメントしています』


「ねぇ、アカリン、これって……」

 朝のニュースを見たクロが同じように見ていた私に何かを言いたそうにこっちを見てきた。

「うん、この人、白い死神の人だね」

「だよね」

 捕まったか、なんだか拍子抜けなオチだ。

 ここから先は私が関わることじゃないな……たぶん。

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