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第8話、真紅の炎と兄の定評

〔紅莉side〕

「おじゃましまぁーす」

 いつものように喫茶店に親友2人を連れて入る。

 日常茶飯事。

「こんにちはぁ」

「相変わらず、『いらっしゃいませ』もないのか、この店は。そりゃ売れないわ」


「まったく、君らは毎日のようにここに来てるけど、夏休みの宿題は終わってるのかい?」

 いらっしゃいませ、という言葉よりも説教が先に来た。

「え?あんなの集中すれば一日で片付くじゃん?」と私。

「7月中に終わらせました」と親友その1。

「毎日こつこつ消化してます」と親友その2。

「不良小学生みたいなのに、やることはやるのね」

 こう見えて我々は優秀なのだ。

 ふははは、残念だったな!

 始業式の日に登校するかは別問題だがね!


「といっても、自由研究はまだなんだけど……そろそろ片さないとヤバい気がしてきた」

「まだって大丈夫なわけ?もうすぐお盆じゃない?アンタは忙しいんじゃないの?」

 忙しい、というのは親戚の集まりのことを言っているのだろう。

 月宮家の盆と正月は忙しい。

 忙しいにもかかわらず、パパは帰ってくる予定がないらしい。

 あの唐変木め!実家に帰ってこないとお祖母ちゃんが激おこだよ!


「大丈夫、そういうのはお兄ちゃんが率先してくれてるし、私が被る苦労はないのだよ」

 妹として最低な発言だってことは十分理解しているけど、お兄ちゃんは妹(私)が苦労する方が気に食わないらしいから問題ない。

「紅莉ちゃんは忙しそうに見えて実は忙しくないからね」

「酷い言い方。そういうマーちゃんは自由研究やったの?」

「わたしは動物の生態を調べてるよ。シートン動物記って意外に面白いし」

「シートン?」

 ニュートンの間違いでしょ?

「アメリカの博物学者よ。アンタも本くらい読みなさい。グレイスさんとかそういう系統の本ならいっぱい持ってるんでしょ?」

「師匠が持ってる本は専門的すぎるから子供が読むものじゃないよ」

 ありゃ全く意味が分からない。

 ラテン語で書かれた催眠の魔本かと思ったね。

 最初に見た時は1年生の頃だったけど、成長した今でも何が書いてあるのか全く分からない。


「んで、参考にならなそうだけど、ななちゃんは」

「ボトルシップ」

「は?」

「だからボトルシップよ」

「あの尿瓶しびんみたいなのに船を作るあれ?」

「なぜ尿瓶と形容した!?」

「ま、まぁ広義的にはボトルだし?」

 ボケただけなのに怒鳴らないでよ。

「ボトルシップねぇ……」

 そういや、サイレンとかそういうの得意だったなぁ

 前にカップケーキの模型を作ってもらったっけ?

 まだストック残ってるし……。


「あ、閃いた」

「宿題代行とか考えてるな」

「いやいや、既にあるものを提出しようかと」

「最悪の発想ね」

 逆転の発想だと言って欲しい。

 サイレンさんなら半壊したプラモデルやジオラマの1つや2つくらいあるだろう。

「良いんじゃないかな?廃材で模型を作る男子とかいるんだし」

「マヤの言うことも一理あるんだけど、このバカのことだから空き缶に『自由研究』みたいな題名つけて提出しそうなのよ」

「そ、そんなことないよぉ~?」

 フヒュー、と鳴らない口笛を吹いてみる。

 マーちゃんは知っている。一年生の時にそれをやって担任の先生に怒られたことを。



「と、ところで、ゆうくん、お兄ちゃんとは長い付き合いなんだよね?」

「まぁね。小5からの付き合いさ。この店にはよく来てたみたいだからオヤジとはもっと前から仲良いけど、それがどうかした?」

「お兄ちゃんの自由研究とか覚えてない?」

 他力本願がダメなら盗作、つまりアイデアをパクる!

「さすがに記憶にないなぁ……いや、記憶にないというかそもそもやってなかったような……」

「え?」

 あのお兄ちゃんが?まさか、あり得ん。


「もうそろそろ時効だと思うから言うけど、君らくらいの歳の月宮はそれはそれは紅莉ちゃん以上の不良少年だったよ」

「私以上の?」

「不良少年?」

「血は争えないのね」

 おい、最後、酷くないか?

 いや、確かにママもいろんな意味で酷いから血統のせいだって理論が一番大きいだろうけど。


「遅刻やサボリはデフォルトだし、学校に来ても授業をマジメに受ける気はない。宿題をやってくることは当然ない。図工や音楽なんて論外、体育だって明らかに手を抜いていた。集団生活を嫌っていたと言って問題ないと思う。噂になってる椎名蒼子ちゃんだっけ?あれと同じ感じかな?」

「あぁ」

「なるほど」

 どうやらアオちゃんの奇人変人っぷりは2人も知っているほどらしい。

 まぁ、百鬼夜行の名は噂に疎い私でも知ってるくらいだ。

 噂大好きのななちゃんと、普通人であるマーちゃんが把握していても不思議ではない。


「でもお兄ちゃんはアオちゃんの自由奔放っぷりに呆れてるように見えるけど?」

「呆れてるっていうか、かつての自分を重ねてしまうんじゃないかな。アイツは昔の自分のことを嫌ってるっぽいし」

「若気の至りってヤツね」

「なにそれ?」

「子供の頃にやってしまう愚行のこと」

「若気の至りって言えばそうかもね。近所の不良には『緋色の餓狼』って呼ばれてたし」

 痛々しい称号だなぁ。そういや『黒い魔女』なんてバケモノもいるらしい。

 この町は変わり者たちの聖地か何かか?

 不良マンガのように名を挙げたいならず者がやってくるような……。

 イヤな町だな、おい。


「そう言えばさ、巷で噂の『白い死神』って居るけど、その人も関係があるのかな?」

「死神は違うわ、全く別路線。あっちは犯罪者で、こっちは問題児よ」

「ちょっと待ってよ、2人とも。餓狼だの死神だのと言われてもサッパリだよ」

 おいおい、何人いるのさ。

 白だの黒だの緋色だのと。


「最近、この辺りに出没してる犯罪者、というか不審者のこと。先日の連続女子小学生通り魔事件と言い物騒ね」

「同一犯?」

 なわけがない。犯人はすでに改心しているのだから。

 しかし、そんな事情を知られては困るのでとぼけて質問する。


「ネットで話題の心霊現象みたいなものだからたぶん別人。心霊現象すぎて警察も動けないって話」

「どゆこと?」

「被害者は13人。共通点は男性で、年齢は15歳から22歳まで。犯行時刻は深夜1時から4時までの間」

「どこが心霊現象なの?ただの凶悪犯じゃん?まさか年頃の男ばかり狙った強姦魔レイパーとかそんなオチじゃないよね?」

「それこそ心霊現象じゃなくて、ただの性犯罪者じゃない。問題は、被害者には攻撃を受けた形跡がないのよ」

 は?意味不明である。


「被害者である少年たちは日本刀のような刃物で斬られたと証言しているのだけど、肉体はおろか、衣服にすら斬り傷はないの。警察は不良少年たちが薬物による幻覚を見ているのではないかと考えているわ。けど不良少年たちの中で薬物反応が検出された人は1人もいないって話」

「13人ってのは地味に多いよね。噂になったってことは何回か出没したんでしょ?」

「13回よ。一度に複数の人間を襲ったことはないみたい。被害者の共通点は、深夜に1人で徘徊している不良少年ってくらい。もちろん、被害者たちは友人でも知人でもない。接点は同じ学校に通っていたくらいだけどクラスも学年も部活動もバラバラ、ついでに言えば住所も近くない」

「なるほど、そりゃ噂になるね」



「というわけでお兄ちゃん、噂の『白い死神』を退治しよう!」

 仕事から帰ってきたお兄ちゃんに鬼退治、もとい死神(不審者)退治を提案する。

「何が『というわけ』だ。ダメに決まってるだろ」

「なんでさ!?」

「深夜に徘徊する男を狩るような危ない犯罪者を退治するのは警察の仕事だ、オレたちの仕事じゃない」

「夏休みなんだし、少しは夜遊びの練習も必要だよ」

「却下だ。保護者として容認できない、そもそも夜遊びの練習は夜遊びが許される年齢になってからするもんだ」

 この野郎……正論吐きやがって。

 ふん、いいさ、私だって採れたての新情報があるんだ。

 いつまでもカワイイだけの妹と思うなよ。


「……私、聞いたよ?お兄ちゃんって私くらいの年齢で深夜に外出してたんでしょ?」

「テメェッ!?なぜそれを」

「自分はしたのに、妹にはダメって無茶苦茶じゃない?」

「オレは男だから良いんだよ」

「男女差別だよ、それ」

 今は男女平等の時代である。

 確かに女児の方が危険だというのは間違っていないけれど、魔法少女である私なら基本的に安全だと言っても問題はないはず。


「チッ!……たく、分かったよ。けど一日だけな」

「もちろん。クロも行くよね?」

「えっ!?なんでアタシまで?」

「だって『狂犬』じゃん?元連続通り魔としては地域の平和に貢献するべきじゃ?」

 などと言っているけれど、本当に不審者が居た場合、もう一人くらい魔法少女は居た方が良いだろう。

 念には念を。

「まぁ……そうかもだけど……」

「よし、決まり!!」

「紅莉。アシュリーは良いのか?連れていく必要性は感じないが」

「うーん……あの子を巻き込みたくは無いかな?」

「アタシは良いのか……」

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