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妹は魔法少女!  作者: 田野中 小春
第4.5章
88/103

真紅の炎の根源、part Ⅴ

「申し訳ありませんでした!!」

 放課後の応接室、クソ教師(担任)に頭を深深と下げ妹である私の蛮行を謝罪していた。

「い、いえ、今回は大丈夫ですから頭を上げてください」

「はい」

 お兄ちゃんが頭を上げ私を一瞬見た。

 ちなみに私は反省などしていない。

 それはお兄ちゃんにもバレただろう。


「よろしければ、何があったのか教えてもらえますか?」

「えぇ、実は……(カクカクシカジカ)」

 クソ教師がお兄ちゃんに事情を説明した。

 内容は『月宮紅莉(私)がクラスメイトの田中の顔面を殴るなどして暴れた』とかそんな感じのはず。


「なるほど、そういうことでしたか。田中さんはいるのでしょうか?」

「そこの隅に座っています」

 クソ教師が指したのは応接室のカーテンで隠れている隅っこ。

「違う、オレは悪くない、違う、オレは悪くない、違う、オレは……」

 そこで田中は体育座りでうずくまりながらブツブツと何かをつぶやいている。

 お兄ちゃんはそんな田中の傍まで歩いていき事情を聞くために話しかける。


「田中」

「!?」

 露骨に挙動不審な田中はお兄ちゃんの出現に驚いていた。

 まさかこいつ、それすら気づいていなかったのか。

「何があったのかオレに説明してみろ。安心しろ、話によればお前は『被害者』らしいじゃないか。悪くなんてないよ、な?」

 田中を被害者扱いした。

 これは学校側がイジメのことを把握していなかったと婉曲的に言っているわけだが、塾講師であるお兄ちゃんなら意図的だろう。



「い、いえ……お、オレは被害者なんかじゃないです。ただの第三者です……こ、この問題は月宮と夢島の問題なんじゃないですかね?」

「ほう、なら紅莉がお前に謝る理由なんてないのか?」

 ここで真の第三者であるななちゃんの存在が出てきたことで、お兄ちゃんは全てを理解したらしい。

 万事解決めでたしめでたし、といけば良いんだけどそこまで甘くは無い。

「ま、まったくもってその通りです!」

「そうか、把握した」

 お兄ちゃんの中で、何らかのプランが練りあがったのだろう。

 もはや、流れに身を任せる以外の道はない。

 というか、ここまで何もしていないのだけど。


「どうでしょうか、先生。私自身、夢島さんとはそれなりに親交があるので、ここは家庭間で解決させてもらえませんか?」

 その言い方ではまるで『テメェらは引っ込んどけ。変な事をすれば藪から蛇が出てくるぞ』と言っているようなものだ。

 無論、学校側も問題を大事にしたいとは思っていない。お兄ちゃんは学校側にもそれなりに顔が利くらしく、こういう時はありがたく感じる。

 ……ただ、説教が恐ろしくなるのだけど。


「あ、あぁ、もちろんそれで構わないよ。こちらとしても全て円満に解決することが望ましい。田中くんのお母さんも君に任せると言っている」

 田中の母親にまで信頼されてるって、どこで何をすればここまでの社会的な信用を手に入れることができるのだろうか?

「そうですか。それでは私は夢島さんに直接『謝り』に行かねばならないので失礼します。……ほら、帰るぞ、紅莉」

 首根っこを摘まれ、強引に頭を下げられる。

 この月宮紅莉の頭はこんな無能教師に下げるほど軽くはないのだけど、お兄ちゃんの命令なら従おう。


 駐車場に止めていた真っ赤な外車に乗り込む。

 この車、目立つから嫌いなんだけどなぁ……。

 おまけに左座席が運転席だし。

「……このバカ、どうしてこんな展開になる」

 右側の助手席に座り、シートベルトを締める前に怒られた。

「ごめんなさい」

「謝る相手が違うだろ」

「お兄ちゃんに迷惑をかけるつもりなんてなかったんだよ」

「いや、それはかまわん。むしろ存分にかけろ」

「…………」

 言葉に詰まった。なんて返せば正解だったのだろうか?

 これが厚意なのか、はたまたセンスのないジョークなのかを判断する脳みそはなかった。


「そういや、紅莉の口から直接は聞いてなかったな。何があった」

「ななちゃんがイジめられてた。だから助けた。それ以上のことじゃない」

「なるほど、それならお前は悪くないな」

「でしょ!」

 興奮してしまった、お兄ちゃんがこういう時に私の味方をしたことは過去の一度もないから。

「だからといって、正しいわけでもない」

「うっ」

 目で威圧された。

 どうやら説教モードらしい。

 やれやれ、いつもと同じパターンですか。


「イジメは良くない。かといって報復も良い訳ではない。あの子はそれを理解していたから何もしなかったんじゃないか?」

「…………あぁ、そういうこと」

 だからななちゃんは何もしなかったのか。

 それはしまった。もう少し頭を使えるようにならないと。


「なんだ?今理解したのか?」

「うん」

「そうか。今理解したなら仕方ないな」

「そ、そうだよ……?」

 許して、と言いたかったのだけど、そもそもお兄ちゃんはあまり怒っていないみたいである。

「ま、オレも人のこと言えないし、個人的には紅莉のやり方は冴えている気もする」

「! じゃ、じゃあさ!!」

「かといって、オレも兄だ。教育には手を抜かん」

 どうやら説教は逃れないらしい。

 覚悟を決めた……のだけど、お兄ちゃんのスマホに軽快な着信音が鳴った。

 お兄ちゃんはディスプレイを見て『げっ』と声を出して不快そうな顔をしていた。


「もしもし、なんだ?」

『いや、そろそろ終わったんじゃないかと思って』

「テメェはなぜそれが分かる?」

『女の勘?』

「ふざけろ」

『まぁ、いいや、とりあえず、那由他から話は聞いた。向こうのななちゃんは彼女に任せて大丈夫みたいだからアンタ達は外食でもしなさい。私が奢る』

「なんだ、もう話を聞いているのか」

『そういうこと。んじゃねー、領収書を忘れんなよー』

「あ、……くそ、もう切ってやがる」


「どうかした?」

「気にするな。それより、今日はババァの奢りで好きなもん食べて良いって」

「マジで!私、回らない寿司が食べたい!1貫1000円くらいする最高級の回らない寿司が!!」

 超展開を理解することもなく、私は素直に食べたいモノを主張する。

「ばっ!そんなもん、オレだって食わんわ。腹いっぱい食べたら余裕で万は飛ぶぞ!!」

「でも、ママの奢りなんでしょ?」

「……そうだな、なら良いか。こんなサービス、滅多にないし」

 学校に呼び出しされた悪ガキの保護者の顔とは思えないような笑顔でお兄ちゃんはアクセル全開で学校を出て行く。


◇〔紅蓮side〕

 紅莉の希望で回らない寿司で2万5000ほど使って豪華な夕食になった。

 紅莉は車の中で寝てしまっている。

 紅莉を寝室に運びたかったが、紅莉は部屋に鍵をかけており、部屋に侵入することは物理的にほぼ不可能。

 しかたがないからリビングのカウチソファに寝かせる。

 オレは連絡を取っておかなければならない人物に電話をかける。


『はい、もしもし』

「秋山、アンタ何かしただろ?」

『人聞きが悪い。ちょっと脅しただけですよ』

「脅してんじゃねぇか」

『本当ならムショ行きだ、って言っただけです、エアガンを首筋に当てながら』

「充分アウトだよ」

『日本の子供は純粋ですね、オモチャであんなに怯えていましたよ』

「オモチャが怖いんじゃなくて、アンタが怖かったんだろ」

『こんなべっぴんが怖いとは心外です』

「元軍人が何を言う……」

『おや、まだ私は元軍人に見えますか?』


「弟子のオレには良く分かるが、他の人間からはどうなのかは知らんな。興味もない」

『まったく、紅蓮は冷たい』

「ほざけ、タコ」

『恩師に向かってタコとは……ところでデビルフィッシュとはどういう類の罵詈雑言なのですか?』

「知らん」

『知らないで使っているのですか?あの月宮紅蓮が』

「オレにだって知らないことくらいある。そもそもオレは万能じゃないし、万能になるつもりもない」

『そうでしたね、万能ではないから万能以上の価値がある、とかりんも評価していました』

「過大評価だ」

『謙遜は我々アメリカ人には美徳ではないのですよ』

「ダマれ、オレは日本人だ」

『国籍はそんなに重要ではありません、大切なのは考え方です』


「どっちにしろ同じことだ。正当に評価できていないのだからその評価に価値はない」

『評価、評価ねぇ……』

「なんだ?何か言いたいのか?」

『紅蓮もかりんも何かを物差しで測らなければ気が済まないのですか?少しは紅莉様のように気分で行動してもらいたいものです』

「……気分で行動できるのは紅莉の良いところだ。だけど、オレはそれを見習えない」

『won'tではなくcan'tだと?』

「あぁ、そういうことだ。……もう良いか?そろそろ寝たくなってきた」

『構いませんよ。わたしの仕事はもうありませんし、このまま長電話でも……』

「じゃあな、良い夢見ろよ」

 オレはアホなアラフィフとの電話を強引に終了した。

 ババァほどじゃないが、秋山との会話も疲れる……。

 どうしてオレの周りの女はアホばっかりなんだ……。


◇〔ななみside〕

「お嬢様はどうして日本に残られたのですか?」

 2人っきりの朝食中、秋山がワタシに話しかけてきた。

 朝食はオムレツにトースト、サラダにコンソメスープと優雅に見えるけど、実際は手間がかかっているだけで、そんなに金は掛かっていない。冷凍食品やインスタントの方が高価かも。

「まるで私に来て欲しくなかったような言い方ね」

「勘違いしないで下さい。私は単純にご両親についていかなかったことが疑問なのです」

「あぁ、そういうこと。別に、何度も転校するのが面倒だと思っただけ。こっちに来れば数年間は引っ越す必要はないと思ったから」


「なるほど、確かにここを引っ越すことはないでしょうね。お嬢様が遠くの学校に進学するつもりがなければ」

 そんなつもりは今は無い。

 あったとしてもそれは高校だろうから6年近くは安泰のはず。

「毎度毎度友人を作るのは億劫だし、ワタシはそこまで社交性ないから……」

「個人的な話、社交性は持っていた方が良いと思いますよ?」

「分かってる。けど、そう上手くもいかないでしょ」

 本格的な長話になりそうなのでフォークを置く。


「そうですか?そういうのは早くから慣れておいたほうが良いですよ。15歳くらいになると、感覚は定着してしまいますからね。身近な人と軽くコミュニケーション取るなんて深く考えなくて良いんですよ」

「……例えばどうやって?」

「そうですね、株価の話とか?」

 この人の頭はどうかしているのかしら?


「今時の小学生は株の話なんてしない」

「おや、そうでしたか。私は中東出身なのでその辺疎くてすみません。かりんは小学生の頃から親の農場の経営を手伝っていたと聞いてましたが」

「月宮かりんみたいな超人と一緒にしないで欲しいわ」

 日本には労働基準法とか賭博禁止法とかいろいろあるのです。

 投資?普通の子供はそんな資金なんてない、金融機関も金を貸してくれるわけが無い。

「しかし、確かお嬢様と同い年で大学を卒業しようとしている少女をニュースで見ましたよ?上には上がいるのです」

「だったらその人をスカウトすれば良いんじゃない?」

 そんなモンスターがいれば、夢島ウチも安泰でしょ。


「それはかりんの仕事ですね。あれの鑑定眼は凄いので」

「あっそ」

 興味が無かった。

 将来のことを考えるにはまだ早い気がする。

「話を戻しますが、友達なんてものは簡単ですよ。手始めに紅莉様と仲良くなって見てください。あれは愉快な子ですから」

「月宮紅莉ねぇ……」

 ふと考える。あれと友人になった日々を。


「なにか問題でも?」

「昨日、あんなことがあったのに平然と話しかける自信がないだけ」

「考え過ぎです。アレは何も考えていないでしょう」

「そう?」

「えぇ、おそらく気さくに話しかけても会話してくれるくらいに」

「その会話術がないから苦労している」

「なるほど、今度良い話し相手を見繕ってきます」

 やめて、嫌な予感しかしないからマジでやめてください。


 友達、別に欲しくないわけじゃない。

 むしろ、心から親友だと言えるような関係の友達は欲しかった。

 こっちに引っ越してくる前にはそれなりに友人はいた。

 キャッチボールだって週2くらいでやっていた。

 別に金持ちだからと金銭目当てでたかられたわけではない。

 友人だった、そう『ただの友人』だった。

 その証拠に『引っ越しても手紙送るよ!』なんて言っていたヤツは2週間で音信不通。

 メールだってあっちから送られた記憶がない。

 所詮、ワタシの価値なんてその程度ってこと。

 それなりに勉強もできて格闘経験もある、オマケに社長令嬢ってだけ。

 それ以外は特別面白みもないつまらないどこにでもいるような子供。


 そう、ワタシ程度の代わりなんて万単位でいるわけ。

 ナンバーワンにもオンリーワンにもなれない。

 何者でもないただの子供。

 正直、嫌気がさす。

 どうして、皆、毎日楽しそうに生きているのかしら?

 はぁ……勉強に力を入れようかな?ワタシがそれなりに優秀になれば、逆たま狙いのイケメンが釣れるかもしれない。かりんさんみたいになれば、有名人の知り合いだって沢山できるだろう。

 恋愛?微塵も興味が無い、今の時点じゃね。

 人生相談できる相手には困らないのに、一番恵まれている。

 お祖父様が言うように学校に行く必要性なんてない。

 だって、すぐにリセットされるような関係なんだもの。

 ……いつか、いつかでいい。

 いつかでいいからワタシは何者かになりたい。

 ワタシをワタシとして扱ってくれる人間に、ワタシは出会いたい。


 教室に入る。

 なんてことはない、今までどおりの日常。

 クラスメイトに『おはよう!』という文化なんてワタシは知らないし、知っていても実践する度胸は無い。

 自分の席に座る。

 隣には月宮紅莉が雪村マヤと話している。

 これもいつも通り、まったく気にする必要はない。


 ちょんちょん。

 何を思ったのか、月宮紅莉が頬をつんつんと小突く。

「ん?」

 反射的に振り返る。

「I love you!」

 時間が止まったかのように空気が死んだ。

 絶句、というよりも呆然してしまった。

 この女、今なんて言った……?


 月宮紅莉は不思議そうになり、ちょっと考えた。

「I LOVE YOU!!」

「いや、聞こえてるから」

 なぜ言い直したのかよく分からないから一応苦言しておく。


「なるほど、理解した」

(紅莉ちゃん、ファーストステップは失敗したみたいだよ)

(うむ、セカンドステップに移行しよう)

 雪村が月宮に話しかけ、なにやら不気味な会話をした。

 そして、月宮はこほんと咳をする。

「You are my friend.OK?」

 話が飛躍して何を言っているのか分からない。

 いや、分からないのは思考回路の問題であり、英語力の問題じゃない。


 何がどうしたらこんなことを言えるのだろうか?

『昨日、あんなことがあったのに平然と話しかける自信がないだけ』

『考え過ぎです。紅莉アレは何も考えていないでしょう』

 秋山の言うとおりであった。

 月宮紅莉は何も考えてないだけだ。

 何も考えてないからこそ、クラスメイトをぶん殴ったし、今だってこんな意味不明な告白をした。

 いやいや、さすがのワタシでもあれが愛の告白じゃないことは理解してる。

 けど、なんだろうね?この気分。

 悪くない。

『You are my friend.OK?』

 ―― 君は私の友達だ、分かったな?


 なぜだろう、彼女となら、面白い友人関係を築ける気がした。

 最高で、最低で、最良で、最悪な友人関係が。

 だからワタシは血迷った。

「そうね、じゃあ友達になりましょうか」

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