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妹は魔法少女!  作者: 田野中 小春
第4.5章
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真紅の炎の根源、part Ⅳ

 給食である。本日の献立はみんな大好きな鳥の唐揚げ。

 ウチの小学校の給食はレベルが高く、6年生がこの前テレビの取材を受けていた。

 なんでも調理師の先生はこの辺りで有名なフランス料理人の弟子だとかで、学校の給食に携わっているのが妙なくらい。

 給料が良いのだろう、公立校だしね。

 さて、そんな我が校の配膳スタイルは給食当番が配膳室からおかずが入っている寸胴を各教室に運び、生徒が当番からおかずをよそってもらうのであるが。


「オレの唐揚げがぁーーー!!!」

「あ、ごめん」

 当然、配膳中に生徒同士がぶつかれば、おかずが床に落ちることもある。

 ちなみに被害者は田中(モブ男)で加害者はななちゃんである。


「『ごめん』じゃねぇよ!!どうしてくれる!!」

「いや、そこまで言うならワタシのあげるよ」

「……」

 田中は怒りをどこに向ければ良いのか分からない、と言いたそうな顔でななちゃんから唐揚げを奪った。

 しかし、それでも気に食わないらしい。

 空気で分かる。

 完全に切れている。

 田中よ、この程度で切れるとはなさけない……。


 何事もなかったように座るななちゃん。

「私の要る?」

「……ムネ肉よりもモモ肉の方が好きだから」

 いや、この唐揚げ、モモ肉なんですけど。


 5間目の体育はドッジボールであり、4チームに分かれて試合をしている。

 私とマーちゃんは仲間で、ななちゃんは敵。

 ちなみに田中は仲間。

 変われ変われ。

 チェンジを要求したい!


 チームの代表がじゃんけんをして先攻後攻を決める。

 どうやらこっちのチームが先行らしい。

 試合が始まる。

 田中が投げる。狙いはやはりななちゃんだ。

 ななちゃんはひょいと避ける。

 後ろにいた女子に当たる。誰だっけ?

 まだ4月だからクラスメイトの名前を把握してない。


 ななちゃんがボールを拾う。

「へいへーい!カムカム!」

 ななちゃんを挑発するが、それを冷ややかな目で無視。

 ななちゃんは外野にボールをパスする。

 ここまでは普通だが、外野の男子はなぜか弱めに投げた、田中に。

「うしっ」

 田中は余裕でボールを受け取り、それをななちゃんに投げる。

 ななちゃんはそれを難なく避ける。

 当然である、私とやりあったのだから、これくらいは当然できるはず。


 ボールをキャッチしないのは面倒だからか?

 それとも、恨みを買ったことを理解しているのか?

 まぁ、どっちでも良いか、細かい事は。


 試合開始から3分ほど経った。

 男子が結託しているのか、田中にばかりボールが集まっている。

 どうやら、昼休み中にななちゃんを虐める算段でも考えていたようである。

 しかし、それでは面白くない。

 せっかくの体育なのだ。

 なぜ、私が棒立ちしていないといけない?

 私はアグレッシブなタイプだ。

 インドア派のオタッキーな根暗キャラとは違う。


 外野から田中へのパス(敵同士だがこの表現が適切)を私は横取りした。

「お、おい!?月宮!!」

 イジめている所を邪魔されたことが気に食わないのか、田中が叫ぶ。

「なにか、問題が?」

「いや、ねぇけど、ボールを落とすかもしれないだろ」

 パスのようなひ弱な球威だが、当然落とせばアウトである。

 しかし、そのようなヘマをするほど、この月宮紅莉の人間性能は低くない。


「は?自分ばっか楽しんでズルいんじゃないの?こっちの内野はアンタしかボールに触ってない気がするけど?」

「うぐっ!」

 気づいていないとでも思ったのか?この間抜けめ。

 アンタは大人しくそこで体育座りでもしてるのがお似合いさ。


 とりあえず、一番動いていない男子にボールを投げてアウトにする。

 男子に当たったボールをななちゃんが拾い上げ、私を見つめる。

 くいくいっと、手を招く。

 ここまで挑発しておいて勝負をしないほど腰抜けでもあるまい。

 私の意図を理解したななちゃんは本気でボールを投げて来た。

 彼女の実力は昨日の決闘で理解してる。

 片手ではなく両手でしっかりボールを受け取る。


「ふっふっふ、それで良い……それでこそだ!」

 投げ返す、もちろん、受け止められる。

「なに、カッコつけてるのかしら!」

 ななちゃんが投げる、それを受け止める。

 私が投げ返す、それを受け取られる。

 数工程が繰り返される。


「お、おい、月宮、いつまでやってるんだよ?」

 痺れを切らした田中が文句を言ってくるが、聞く耳持たぬ。

「はぁ?悔しかったら自分で奪ってみせなよ」

「くっ」

 こうして、田中のイジメは終わりを迎えた……。


 かに思えた。

「紅莉ちゃん、これヤバくない?いや絶対ヤバいよ!」

 すでにマーちゃんも事態を理解したらしい。

 ななちゃんの机にはびっしりと落書きがされてある。

 幼稚な悪口だ。

 体育であったので教室はモヌケの殻。

 男子の誰かが教室に忍び込み、机に落書きをするのはそれほど難しいとは思えない。

 ……ちょっと待て、男子が女子の着替え直後の体臭や体液(主に汗だぞ?)が付着している生暖かいシャツやパンツ(ズボンのことだぞ?下着の方じゃないぞ?)が無防備に置かれている教室に侵入することが難しくないだって?これは問題だ、由々しき問題だ、偉い先生に相談しなければ。


 しかし、幼稚な落書きとはいえ列記とした悪口である。

 この程度の精神攻撃に屈するほど、ななちゃんは弱くないと思うけど、やってる行為はあまりに陰湿の極み。

 さて、私はどうしようか?

 先生にチクるか?いや、それもつまらない。

 むしろ、ななちゃんがどう対処するのかを見てみたい。


「大丈夫でしょ。私と同じくらいに強いんだから田中ごときに負けるはずないし」

「で、でも!」

 傍観者になることが怖いのか、マーちゃんはビビっている。

 そりゃ似たようなことをしている私たちなら、密告しない限り同罪にされる危険性は非常に高い。

 まぁ、イジメってのは被害者が被害を受けたという自覚があれば発生する事案であって、決闘を受けるような相手じゃイジメにはならないと思うんだけどね。


「これが仮にイジメだとしても、イジめられる方にも責任がある」

「そ、それはちょっと無茶苦茶じゃ……」

「無茶苦茶じゃないよ。こんなのは加害者を半殺しにでもしてしまえば解決するくらい幼稚なレベル。私が本気になれば5分で解決できるよ」

「な、ならなんで解決しないの?」

「なんでって、そりゃ確実に保護者に連絡行くからだよ。そこまでする義理は無い」


「紅莉ちゃんって、妙なところで冷たいよね」

「冷たいわけじゃないよ。この程度も自分で解決できない人間なんて淘汰されて当然。イジめってのは何も人間だけの文化じゃないって師匠が言ってた」

 集団行動をする動物では珍しくないらしい。

 育児放棄も動物界ではよくあると聞く。

 パンダやトキが希少なのはそうらしい。

「……いいの?」

「いいの、いいの。子供はケンカするくらいが丁度いいんだよ」


 3日後、そろそろ気もすんだかと思っていたが、田中の行動は徐々にエスカレートしていった。

 クラスの鈍感な層も気づいている。これはイジメなんじゃないのかと。

 けれども、肝心のななちゃんは何も行動していない。

 退屈そうにしている……。

 いや、こやつ、ウトウトしてるだけだ。


「どうするの、紅莉ちゃん?そろそろ助け舟を出した方が良いんじゃない?」

「かもね、そうしないと全校集会レベル、いやニュースレベルになる可能性すらある」

 最近は若者の自殺が増えたという事でマスコミも殺気立っているという話を聞いた。

 そして、そのマスコミを敵に回したくない学校はイジメという事実を揉み消したがっている。

 少々過保護かもしれないが、これ以上は見過ごしているこっちの良心が痛むレベル。


 しかし、一点気になった。

 クラスメイトのほぼ全員がこの異常事態に気づいているのにあのアラフィフは何をしているのだろうか?

 トイレに赴き、(女子トイレだから半分当然だが)個室に入り電話をかけてみる。

『もしもし?』

「姿が見えませんが、どこにいるんですか?」

『紅莉様が見えないだけで傍に居ます』

「ストーカーみたいな恐ろしい発言は止めてください。というか、大丈夫なんですか?」

『なにがです?』

「あなたが危惧していた展開になってきたと思うんですが」

『はっは、もしも本当にそうならお嬢様がアクションを取るでしょう?それすらない、少なくとも、もう少し様子見しておきます』

 ダメだ、本格的に使えないぞ、このアラフィフ。

 だからアンタは夢島のお爺さんに信用されてないんじゃないの?


 使えないアラフィフに失望しながら教室に戻ってみると、田中が花瓶でななちゃんの頭を叩こうとしている。

 やめろ、このバカ!

 それをしたら少年院送りだぞ!


 急いで止めようとしたが、間に合わない……。

 と諦めかけたが、花瓶が勝手に割れた。

 この状況には見覚えがある。

 つまり、勝手に割れた、ではなく割られた、というのが適切だろう。

 おそらく、秋山さんだ。

 流石に今のはアウト判定だったらしい。

 危ない危ない、いくらあの人でもそこまでの無能ではないらしい。

 ほっと一安心。

 よし、ここから後の汚れ仕事は私の出番かな。


 私以外のクラスメイトには何が起きたのか理解できていない。

 マーちゃんもななちゃんも田中も。

 とりあえず、事態が把握できない田中の顔に渾身の右ストレートを叩き込んだ。

「なにしてんだよ、月宮!」

 田中に加担していた男子Aが怒鳴る。


「あ?目障りだしムカついたからぶん殴った。他意はない」

「お、オマエ!それが殴った人間のセリフか!」

 続いて男子B。

「謝るつもりはないし、許しを請うつもりもない。ていうか、その必要性を感じないね」

「オマエだって夢島のことをウザいって思ってただろ!」

 男子Cが何か言ってるが、ぶっちゃけウザいとは思っていない。

 ただ金持ちが羨ましかっただけである。

 本当さ、私はクズでもウソを吐くことはない。

「アホか、世の中は諸行無常。変化についていけないヤツは淘汰されるんだ」

 イジメの被害者から、イジメの加害者が淘汰される。

 結局、弱いヤツは強いヤツに負ける。

 しかし、必ずしも強者は弱者を虐げるとは限らないし、弱者も強者も絶対的なのではなく相対的なのがポイント。


「な、なんだよ、悪いのはこっちだってそう言いたいのかよ!今更、良い子ちゃんぶるな!」

 体勢を整え、反撃に出てきた田中の攻撃をかわす。

「知らん」

 水月に肘を決める。

「ぐっ」

 痛みのせいか、腹と口を抑さえている。

 腹部へのダメージが私の予想以上に堪えたらしい。

 だからって吐くなよ、その展開は個人的に困る。

 これで田中こいつが大人しくしてくれるなら良いんだけど、念を押しておこう。


「なぁ、田中。前に私言ったよな?私はヒーローが求めるような明日に興味ないって。私が欲しいのは昨日なんだよ」

「そ、それがどうした?」

「アンタ達が調子に乗ってる明日は私が求める明日(昨日)じゃない、昨日よりもクソみたいな明日だ。だからぶん殴った、反省もしないし後悔もしない」

「…………」

「返せよ、今日よりも良かった昨日を私に返せよ」

 目で脅す、想いを込めた言葉よりも狂気を宿した視線の方が人の心は御しやすいとママに聞いた。

 その結果、田中は腰を抜かした。

 ようやく我に返ったらしい。

 全く、調子に乗りすぎだ、バカ野朗。


「おい、男子。文句があるヤツはかかってこい。この月宮紅莉が相手してやる」

 目で威圧する。

 歯向かえば殺す、と殺意を送る。

 コイツらは弱い。

 安全だと理解して初めて行動に入る。

 だが、今コイツらは敵に回した、ボス猿のようなリーダー格を圧倒したこの私を。


「どうした?マジで殺すぞ」

 戦意を失っている男子にダメ押しで敵意をむき出す。

 少なくともリーダー格である田中が屈した事で私に怯えているヤツが多かった。

 今の一言で私が本気だと本能的に理解したらしい。

 どれだけ強がっても、本質的には雑魚でしかない。

 あと1人くらいボコるつもりだったけれど、その価値すらもないらしい。

 …………さぁて、これからの展開が怖いわ、と尋常じゃない冷や汗と悪寒が私を襲った。

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