真紅の炎の根源、part Ⅲ
◇〔紅蓮side〕
「うぃーす」
火曜の夜、オレはいつものように喫茶店で夕飯を食うことにした。
「よっ……てあれ?紅莉ちゃんは?」
「秋山に用事があるって。なんか今面倒な事になってるらしい」
「へぇー、大変だね」
「オレには青春って感じで羨ましいがな。オレの悪友はこんなのだし」
空いているカウンターに座り、コップに冷水を注ぐ。
「おいおい、小学校からの付き合いじゃねぇか」
「こんな風に仲良くなったのは中学に入ってからのはずだ」
「それでも小学生の時から軽くは話しただろ?」
「記憶にないな」
「ひっでぇ!」
コントも終わり、気が済んだのか、店員2号は注文を聞いてきた。
「それで?今日は何にするんだ?」
「しょうが焼き定食で。キャベツ多目で頼む」
「あいよ。親父、しょうが焼き頼む」
どうやら店員2号の仕事はないらしく、こちらに話しかけてきた。
「噂で聞いたが、最近ガキの間でイジメが流行ってるらしい」
「マジか。紅莉は大丈夫だと思いたいが」
「紅莉ちゃんなら大丈夫だろ。お前そっくりだし」
「褒めるな」
「いや、褒めてない」
「しかしイジメか、穏やかじゃないな……。確かな情報なのか?」
「昼間におば様たちがそんなことを言っていたから信頼性は高いと思うぞ」
「なるほどな……」
「どうした?やはり心配な事でもあるのか?」
「実はな」
~かくかくしかじか~
「というわけなんだよ」
「はぁー、夢島グループのお嬢様がねぇ……中々に問題だな、そりゃ」
「あぁ、平和的に解決すれば良いんだが」
「紅莉ちゃんがイジメの主犯になるって展開はないだろ」
「だといいが、まだまだ子供だからな、小4だし」
「月宮兄の小学生時代は若気の至りって感じだったからな」
「その表現は不適切だ、幼稚と言え、幼稚と」
「そっちの方が不適切じゃねぇの?」
◇〔紅莉side〕
少々いろいろあり、私は河川敷で夢島ななみと決闘をすることにした。
「え、そこの説明を略すの?」
「良いのだ!たぶん読者もフィーリングで理解してくれる」
ヌンチャクを装備して私は挑戦者を待つチャンプのリングコーナーにもたれかかっている。
「そう、ところで少し良いかしら?」
「なに?」
「この状況、2章で説明した過去と微妙に食い違っているのだけど」
「くぉらぁー!!」
チャンプになりきることなどもはやどうでも良くなり、夢島ななみに飛びかかる。
「よっと、飛び蹴りなんて美しくない」
華麗に回避する夢島ななみ。
こやつ、今まで闘った同世代の中で一番できるかもしれない。
「やかましい!面倒なんだよ!整合性を合わせるための件を考え、面白くなりそうにネタを仕込み、テンポが悪くならないように尺のバランスも調整したけど、結末がバレてるんだからそんなものは改変した方が良いと思ったんだよ!!」
「酷い話……」
「うるせーッ!少しは手抜きさせろ!!予定調和なんてクソ喰らえ!!」
「そんな努力ができないカスが小説を書くな」
「小説が書きたいんじゃない、物語が作りたいんだ!」
「つくづくゴミね」
「黙れ!こんなものはガス抜き以外の何物でもない!!」
「開き直るなっ!」
痛烈なボディブローが決まる。
全身に響き渡るその一撃は、彼女の強さを理解するのに十分すぎた。
「あの2人は何の話をしてるんですかね?」
「さぁ?流石のわたしも分かりかねます」
ちなみに、ギャラリーとしてマーちゃんと秋山さんもいる。
秋山さん曰く、審判のいない決闘(または私闘)は許さないらしい。
彼女には彼女の美学があるのだろう、どうでもいいけど。
「ふん、少しはやるじゃないか」
「今の一撃でかなりグロッキーかと思ったのだけど、体力はあるみたいね」
「ふん、この紅莉ちゃんのHPは92もあるんだ」
「多いのか少ないのか分かりにくい微妙な数値ね」
「さらに説明すると、今のボディブローで約35のダメージを食らった」
「結構な大ダメージね、というか2桁なのに約ってつける意味あるの?」
「気分が大事なのだ!浪漫だよ、ロマン!!」
「決闘に浪漫って何を求めているわけ?」
「ふん、河川敷での決闘に乗ってきた時点でアンタも同類だよ」
『同類』の単語でキレたのか、夢島ななみは私の顔面を殴った。
踏み込みを見切らせない刹那の迅さ。
やはり、強い。
しかし、私も負けてられない。
右足で左脇腹を蹴る。
向こうが怯んだ所を鉄山靠。
ダウンを取った、完璧なコンボだ。
ここで馬乗りでもしてKOするべきなのだろうけど、淑女である私は夢島ななみが立ち上がるまで待つことにする。
「くっ、あなた、意外にやるのね」
「この月宮紅莉を有象無象の雑魚と同列視されても困る」
生まれたての小鹿のような足取りで立ち上がる夢島ななみに手をくいくいっと挑発し、第二ラウンド!
疾風怒濤で狂瀾怒涛な拳戟が繰り広げられる。
「ふむ、紅莉様と同様に闘えるとは、予想以上にお嬢様は強い、いや強くなった……」
「紅莉ちゃんってそんなに強かったんですか?」
なにやらギャラリーが少年漫画ばりに解説を始めたらしい。
「格闘経験のない男子高校生なら余裕で倒せるくらいの戦闘力は持っています」
「ほへぇー」
「しかし、あの動き……水無月か?あの爺さん、私では役者不足とでも言いたいか」
舌打ちをしながら愚痴でも吐くようにつぶやく秋山さんの顔はとても凶悪な顔をしていた。
ヤクザ映画に出てくる強面俳優のような表情、とでも形容すれば良いのだろう。
「水無月?」
「椎名水無月です。ご存知ありませんか?隣町の剣道場のこと」
「あぁはいはい、あそこって結構強い事で有名ですよね?」
「えぇ、水無月はあそこの師範の奥でしてね。お嬢様の型はそれの徒手空拳によく似ています」
「そんな解説よりもセコンド的なアドバイスをください!」
会話が脱線しそうだったので、私は心からツッコんでしまった。
「今の私はどちらの味方でもありません。グレイスでも呼びましょうか?」
「お願いします!」
「……(電話中)……ダメです、通じません」
「使えない大人たちだ!」
余所見をして愚痴を呟いていると、顎を掌底が襲った。
「へぶし!」
予想外の大ダメージ!
紅莉ちゃんのHPは38減った。
これで残りのヒットポイントは19。
もうこんな体力だよ、ゲームならピンチBGMが鳴ってるよ。
現実ってやっぱりクソゲーだね!
「大口叩いた割りには弱いわ、失望させないで」
「何のっ!!」
頭部と腹部の同時攻撃をしかける。
しかし、なんなくそれを対処される。
「なかなかに凄い闘いですね。ところで秋山さん、これはケンカとは違うんですか?」
「言葉遊びは苦手ですが、こんなものはライオンの子供がじゃれあってるだけですよ」
「子供は子供でも百獣の王の子供ですか」
「きゃおらっ!!」
「きしぇぇーー!!」
「あれは何の儀式ですか?」
「お互いに気合を入れているのでしょう。このように戦闘力で拮抗している者同士の闘いでは気合が勝敗を分けます。『自分が負ける』と先に思った方が負けるものなのです」
「ほえぇ……バカっぽい」
「えぇ、あれが許されるのは小学生までです。高校生になってもこんなことをしていたら、毎日座禅で精神修行に勤しんでもらいます」
~~10分後~~
「はぁ……はぁ……さすがに限界でしょ?」
と、息を肩でしている夢島ななみ。
「ふっふっふ、金持ちのお嬢様にはこの辺りでギブアップかな?」
「紅莉様、こっちから見ているとあなたの方が瀕死に見えますよ」
「シャラップ!」
今、どんな醜態、痴態を曝しているのか知らないが、負けるつもりで闘うアホが何処にいる!!
しかし、この辺りで勝負をかけないとマズい……。
「こほぉ……」
「うん?」
「あ、この呼吸は」
「秘奥義!透覇朱連激ィ!!」
眼前の敵目掛けて百裂拳!
「おっと」
当然のように回避される。
「まだここまでのスタミナが残っていたのね、意外。根性だけは超一流と認めましょう」
ふん、違うね。この攻撃はただの百裂拳ではない。
足払いッ!
「んな!」
醜く倒れこけた。
チャンスっ!
「おぉ、うまい!」
「完全にパンチに集中していましたからね。あれを初見で対処するのは難しいでしょう」
無論、足払いに対処されても良いように数パターンが透覇朱連激には用意されている。
まさに必殺技ならぬ必勝技なのだ!
そして、倒れているところをアームハンマーで追い討ち!
「……っ!」
「ふぅ、勝利なり!」
勝利の美酒に酔いしれた。
気分が良い。コンビニでノンアルコールビールでも買ってみよう。
大人の階段を登ってみたい。
「紅莉様、勝負はまだついてませんよ?」
「ほぇ?」
リングから出ようと歩いた瞬間、足がもつれた。
「なに!?」
気づく暇すらなく転倒。そして馬乗りされた。
「形勢逆転」
「こ、こんの!!」
抵抗する暇なく、タコ殴りにされた。
意気……消沈……
「はぁ……はぁ……勝った」
「いや、ですからお嬢様、まだ勝負は……」
なぁーんてなっ、スキあり!!
「最終奥義!ズボン下ろし!!」
「べvさおうfgvばyrb!?」
ジーンズを擦り下ろし、子供パンツが河川敷で露出する。
「言葉にならない驚きと戸惑いが滲み出ていますね」
「こんな酷い悪あがき、わたし初めて見ました……」
「テメェ、死ね!!」
恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にした夢島ななみがちょうどお尻の後ろにいた私に回し蹴り。
しかし回避し、こちらも回し蹴りで応対する。
「そっちこそ、死にさらせ!!」
~~さらに5分後~~
『ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……』
「お二人とも、生きていますか?」
審判である秋山さんが、リングで大の字になって呼吸している私たちに声をかける。
「な、なんとか……」
「右に同じく」
「紅莉様、そちらは左です」
「……あえて訂正はしない」
「潔いのは良い事です」
この状況で褒められてもうれしくない不思議。
「さて、では帰りましょうか、お嬢様」
「ごめん、足が動かない」
「そんなに体力使って、怖い変態に襲われたらどうするつもりですか?」
「そのためのあなたでしょう?」
「おっと、そうでした、これは失礼」
秋山さんは手馴れた感じでお姫様抱っこする。
手馴れてやがる、お兄ちゃんだったら股間に噛み付いてでも阻止したところだ。
「では、紅莉様、マヤ様、これにて失礼」
忍者のような速さで走っていった。
どうやったら抱っこしたままあんなにスピード出るんだろう。
……あれ?なんか今の状況ってヤヴァくね?
「ねぇ、紅莉ちゃん。どうやって帰るつもり?」
死に掛けている私の顔を覗き込みマーちゃんが質問する。
もはや『大丈夫?』というお決まりの質問をしなくて良いほどに今の私は大丈夫ではないように見えるらしい。
「と、とりあえず、師匠かゆうくんあたりに連絡して、ダメだったらお兄ちゃんに迎えに来てもらおうか……」
▽
「まったく、何をしているのかな?君たちは」
約30分後、ママチャリに乗って師匠がやってきた。
「あ、グレイスさん、こんばんは」
「こんばんは、マーちゃん。それで?こっちのバカはなんで河原で大の字なの?」
「決闘していたんですよ」
「決闘……?へぇ、そんなのマンガの中だけの文化だと思ってたよ。最近の子は果たし状とか送るの?」
「わたしの知る限り、紅莉ちゃんだけですね」
「だよねっ」
「おしゃべりはその辺で止めて、そろそろ助けてくれませんか?助けてくれないと公的機関に助けを求めます」
「お兄ちゃんに怒られるよ?」
「大丈夫です、決闘と言ってもしかるべき手順を踏みましたから」
「ふーん……ねぇ、マーちゃん、日本って決闘罪って無かったっけ?」
なにっ!?そんな罪があるの!?
「え?……いや、どうだったかなぁ……」
さすがのマーちゃんも困っている。
しかし、師匠がとぼけている様子は無い。
どうやらマイナーであるが本当に存在するらしい。
「師匠、犯罪や法律の勉強は今後ちゃんとするので、今は助けてください、いやホントマジで」
「はいはい、さすがに助けますよ」
秋山さんと同じようにお姫様だっこする師匠。
……お兄ちゃんにされたかったなぁ。
「じゃあね、マーちゃん。また今度」
「お大事にぃー」
マーちゃんに別れの挨拶をした後、私はママチャリの籠にぞんざいに詰め込まれた。
……扱い雑じゃね!?
「それで?何がどうなれば決闘なんてことになるの?」
どうやら抗議の暇は存在しないらしい。
まぁ、抗議に意味があるとは思えないし、別に良いですけどね。
「秋山さんに助言された」
「……あの人の発言なんて信用しちゃダメだよ」
「まったくもってその通りですね」
「そうそう、もっとスマートに物事を運べば良い」
「というと?」
「そうだね……直球に『好きだ!』と愛の告白とか?」
「ちょっと待ってください。なんで私が好きだって前提なんですか?」
「あれ?違った?」
「違います。さっき好きになったんです」
「どんな展開だ」
「この私とそれなりにやり合えた。それだけで十分面白そうじゃないですか?」
「どんな判断だ」
「とまぁ、冗談は置いといて」
「冗談なんだ」
「マジメな話、悪い子って思えないんですよね。一緒にいたら楽しそうな気がします」
「直感?」
「直感っていうか……肉体言語って便利ですよね。語り合うことでお互い理解できる」
『昭和の不良みたいなことをさらっと言うな』みたいな返しを期待していたのだけど、師匠はそんな明るいツッコミではなく、しんみりとした顔をしていた。
「そんなに便利じゃないよ、こんな『暴力』に価値があるとはお姉さんには思えない」
意外であった、師匠は『暴力』の重要性を理解していなかった。
いや、もしかすると、私がそれの重要性を勘違いしているだけかもしれない。
「じゃあなんで師匠は鍛錬を続けるんですか?」
「……修行かな?」
「武者修行?」
「ニュアンスとしては合ってるかな。分からないから分かりたいって感じ」
「分からないから分かりたい…………?」
抽象的すぎて意味不明である。
一体全体、師匠は何を理解したいのだろう?
師匠は既に生物学のエキスパートである。
そんな人が体を鍛えてどうするつもりなのか?
悟りでも開くのか?それで何が分かるのだろうか?
疑問しか存在しない。




