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妹は魔法少女!  作者: 田野中 小春
第4.5章
84/103

真紅の炎の根源、Part Ⅰ

■ 本編より約2年前の4月。一学期初日。


「夢島ななみです。よろしくお願いします」

 春と言えば進級であり、そして転入生の季節である。

 そんな中、我等がクラスの転入生はあのしかめっ面の女子である。

 この世の全てがつまらないと言いたいのか、それとも今日はたまたま機嫌が悪い日なのかは知らないけど、第一印象は最悪である。

(なんだか怖そうな雰囲気の子だね、紅莉ちゃん)

 今年で4年連続同じクラスである親友のマーちゃんがひそひそ話してきた。

(いやはやまったくですね、あの子の隣になる子が可哀想……)

(え?たぶん机の配置的から考えると)

「はい、じゃあ夢島さんは窓際の一番後ろの席に座ってね」

「…………」

 担任の先生が転入生にどの席に座るのかを支持する……って、ヴぇ!?

「よろしく」

 窓際の一番後ろの席についた転入生が隣の席に座ってる私に挨拶した。

「よ、よろしく」

 意表を突かれた展開に戸惑いながら挨拶する私。

「紅莉ちゃん、どんまい!」


 普通、転入生という珍しさがあって、クラスメイトは話しかけるものであるが、いかんせん当人が人間になつかない野良猫のようにこちらを威嚇しているため、雑魚もといクラスメイトはおしゃべりすら無意識に自重している。

「なんか空気が重いね」

 そんな中、良い意味で何も考えていないマーちゃんは私に話しかけてきた。


「スカしてるねぇ、あの子」

「紅莉ちゃん的にはどう?」

「生理的にムカつきます」

「とんでもないことをさらっと言う親友です」

 何を言う、クラスメイトの5割5分は口に出してないだけでそう思ってるはずだよ。


「なんか、こう……ああいうのを倒したいって思わない?」

「ううん、思わない」

「思わないかー」

「思わないねー」

 さすがは私同様に(ここ重要)可愛いマーちゃんは心が綺麗である。

 私はまだ穢れていない、4年生だからね、まだ穢れていないのだ。


「よし、ケンカ売ってくる」

 ゆえに、純粋無垢な私はローカルルールを新参者に教えてあげようと思った。

「え?どういう流れ」


ゆーめしーまさぁーん」

「なにかしら?」

あーそびぃーま……しょい!」

 自画自賛するレベルの右ストレートを放ったが、夢島ななみはひょいっと避ける。

 そして平然を装う。

「いきなり殴りかかるなんて野蛮ね」

「私の右ストレートを避けるか」

「当然よ」

「ぐぬぬ……」

 くそぉ……同学年の男子すらも圧倒し無双するこの紅莉ちゃんの必殺技を『当然』の一言で片付けるか。


「いや、なんで悔しがるのかしら?全体的にアンタが悪いでしょ?」

「おぼえてろー!」

 マンガやアニメで頻繁に耳にするけれど、実生活では絶対に聞かないから一度は言ってみたい捨て台詞を放ち、何事もなかったように

「何もしてないんだけど……。ねぇ、雪村さん、これは何なの?」

「さ、さぁ?奇想天外で愉快な子……かな?」

 親友の評価が悲しい……。


「ということがあったんだよ」

「へぇ~、夢島んとこのか……つか全般的に紅莉が悪い」

 学校から帰宅し、愛するお兄ちゃんと2人っきりの夕飯。


「夢島?知り合い」

「ババァの知り合いだな。紅莉も知ってるだろ、夢島グループ」

「知ってるけど」

 夢島グループとは我が県だけでなく、この日本を代表するグループである。

 流通関係や建設関係、医療関係に娯楽関係など幅広い事業に着手している。

 でも、だいたいそういうのって親戚とかでしょ?マンガじゃあるまいし。


「ババァが夢島の会長と仲良くてな、その会長のお孫さんの名前が『ななみ』それ経由でオレも知ってる。というか秋山が会長宅あそこで働いてるし」

「会長ってどのくらい偉いの?」

「社長の上。最近じゃCEO(最高責任者)とかの方が馴染み深いか?」

 わーお、とんでもない大物だ。


「てか、秋山さんって夢島グループの人だったんだ。あの人っていまいくつ?」

「さぁ?最近息子が結婚式挙げたとか挙げなかったとか言ってたが、アラフィフだろう」

「あの人がアラフィフって私の中の常識が狂うんだけど」

 どう若く見積もっても20代だよ、あの肌年齢は。

 どんな魔法を使えば保てるわけ?

 あれか、巷で噂のドーピングってヤツか?

 今年の自由研究のテーマはドーピングにしよう、師匠に頼ればすぐに片付きそう。


「ババァもだが、見習うなよ?あれは異常だ。細胞単位で神の気まぐれの産物だから」

「りょうかい……あれ?何の話だっけ?」

「転入生が夢島グループのお嬢様って話じゃないのか?」

「あぁ、そうだったね……うぇぇえええ!?」

「なぜそこで驚愕する」

「あの娘が夢島グループのお嬢様!?」

「だからそうだって言ってるだろ」

「同姓同名でしょ!?」

「アホ。オレも夢島会長にはそれなりに世話になってる。だからあそこの豪邸に孫が来る事も知っている。紅莉と同じクラスになったのが圧力か何かまでは知らんが」

「くそ、格差を感じる!お兄ちゃん、ウチも改装しよう!!」

「アホ、オレにそんな金はない」

「ママがいるじゃん!」

「あのババァはこの一軒家を改装する気なんてないだろ。まだ築10年くらいしか経ってないし、目立った傷や凹みはない」

「くっ!」

「諦めろ、あのババァは必要な事にしか金を使わない。……というか、ひがんでいるのか?」

「ひがんでる!」

「……一応、ババァに相談してみるか」

「それでこそ、お兄ちゃんだよ!愛してる!!」

「絶対、却下されるだろうな……」

 みそ汁を啜りながら、悲しい現実をつぶやくお兄ちゃん。

 さすがにムリか?ママは大抵のことならOKしてくれるけど、改装工事リフォームっていくらくらいかかるんだろ?


「……ということがあったらしい」

 夜、紅莉が寝たのを確認してから母親ババァに電話をかける。

『へぇー、なんか面倒そうな展開ね……ボリボリ』

「待て、珍しい息子の電話に何食ってんだ?」

『ナチョス』

「テメェ、今どこに居る?」

『メキシコ』

「自由だな」

 このババァ、気が付くと、違う国に居るから面倒なんだよな……。

 いきなりインド語で喋られた時は新手の詐欺かと思った。


『まぁ、本題に戻るけど、リフォーム?なら別に良いわよ』

「お?意外だな」

『お金は出さないけどね』

「ですよねー」

『それよりも、ななちゃんがそんなスカした子だとはねぇー』

「ん?そんなに言うほど知ってるのか?」

『いや。去年のバースデーパーティで軽く挨拶しただけ。その時は普通の子だと思ったんだけど』

 ババァの人を見る目は異常である。

 何が恐ろしいって、人と会話すればその人間の才能まで分かるらしい。

 そのババァが『普通』と言ったのなら、それはあくまで普通なのだろう。

 ババァの言う『普通』がどこまでの『普通』なのかは読めんが。


「子供の引越しは面倒だからな」

『クソガキだった紅蓮ちゃんは言うねぇ(嘲笑)』

「ブチのめすぞ、クソババァ♪」

『まぁ、怖い☆』

 ここで、脱線するのは面倒だ。

 だが、紅莉にはそのななみちゃんと仲良くなってもらいたい。

 ババァは気にしないだろうが、少なくともこれ以上面倒な展開はごめんだ。


「んで、紅莉にはどう説明する?」

『どうもこうもないね。那由他に任せる。それ以外に私ができそうなことはない』

「秋山に?そこまでしてなくても大丈夫だろ」

『面倒な事は他人に任せるに限るのだ!』

「本当にクズだな」

 我が実母ながらクズすぎる。

 こんなのが世界経済を手中に収めている資本家の1人かよ。


『これが仕事なら楽なんだよ。出来る人間が出来る仕事をこなす。それで効率を上げる。ついでに絆も深まる。無能は解雇クビ。問題はない』

「絆ねぇ……」

『まぁ、紅莉なら大丈夫でしょ。本当にヤバそうだったらまた連絡ちょうだいな、じゃあねぇー、バイビー』

「あ、おい!ちょ待てよっ!!」

 ツー、ツー……。

「勝手に切るなよッ!!」



◇〔ななみside〕

「お嬢様ぁー、朝ですよー。お嬢様ぁー!」

 朝、一月早い五月病患者になった私はベッドから抜け出す元気がなかった。


「……やだぁ、ねむい」

「お嬢様は朝強いじゃないですか」

「……今日から弱い日もあるのぉ」

「せめて『夜更かしした』とかその程度のクオリティはください」

「仮病のダメ出しなんて秋山らしくない……」

「お嬢様と知り合ってまだそんなに経っていません」

「クソメイド(ボソリ)」

「悪口を言うなら、もっと声を出してください」

「クソメイドッ!!」

 何が悲しくて、朝から全力で腹からクソメイドにダメ出しされねばならないのか、説明を要求したい。


「はい、そのくらいの元気があるなら大丈夫ですね。開けますよ」

 寝室には鍵をかけていたはずなのにクソメイドが入ってきた。

 どうやらこの屋敷には鍵という文化は効果がないらしい。

「乙女の寝室に強引に入るな」

「乙女と自称するなら朝から『クソメイド』なんて汚い言葉を使わないで下さい」

「チッ」

 冴えた頭でクソメイドに聞こえる音で舌打ちをした。


「どうしたね、秋山くん」

「これはこれは夢島会長マイマスター、おはようございます。お嬢様が学校に行きたくないと言っているので」

 どうやらワタシがリビングにやってこなかったことに疑問を抱いたお爺様が寝室に出向いたようである。


「まだ言ってない」

 一応、訂正してみたが、秋山にとってそれは予定調和だった。

「このようにまだまだ未熟なので誘導尋問に簡単に引っかかるのです」

「……あまり孫をイジめないでくれないかな?」

「イジメなど失礼な。マスターが甘やかしているのでしょう」

「……とにかく、教育方針に口を出すのは君の仕事ではない」

「了解しました、ではこの場はマスターに任せましょう」

 タッタッタ。


「ななみ、新しい学校で何かあったのかい?」

「いえ、特別報告するようなことはなかったです」

「報告か……君は私の孫なんだ。そのような堅い関係はやめてくれないか?」

「善処します」

「……それで?学校は休むのかい?別に私は学校の必要性を感じない人間だから構わないよ。ただ、君のお母さんには説明するけど」

「……分かりました。行きます」

 お母様にこの現状が伝わるのは良くない、心配して欲しくない。

 と言っても、今後、心配しないで良いような学校生活になるとは思えないけど。


「いただきます」

 今日の朝ごはんは純和風、みそ汁、卵焼き、アジの開き、納豆、海苔、そして白飯。

 今時の小学生が喜ぶメニューじゃない

「めしあがれ」

 そう言った秋山の顔は『文句を言わないとは殊勝な心がけです』と言いたいようだった。


(秋山くん、ななみはあんな調子で大丈夫なのだろうか?)

(あのクラスには紅莉もいるので大丈夫だとは思っていますが、あの調子ではあまり良くなさそうですね)

(かりんくん達は何か言ってないのかい?)

(かりんは『紅莉を自由に使って構わない』で、紅蓮は『紅莉だけは好き勝手に使うな』と真逆のことを言っています)

(相変わらずか、あの親子は。秋山くん、面倒なことを頼むが良いだろうか?)

(無問題です。それが仕事ですから)

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