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エピローグ、太陽の神は期待を続ける

〔ソレイユside〕

 ワタシが執務室で処務作業に済ませていると、珍客がやってきた。

 最近、色々と面倒な展開になっている。

 できれば、全ての決着ケリをつけたいものだ、この我一人で。


「ちょっと、良いか?」

「なんだ、御前オマエか、『パスト』。どうした?遊戯の時間はまだだが?」

「なぜ、あれ一人にS級モンスターを討伐させた?」

「質問の意図が分からん。今回の件に関して、ワタシは無関係だ」

「とぼけるつもりか?『オレ』にその程度の嘘は通用しない」

 口調が安定しないのは、こいつの悪い癖だ。

 まぁいい、そんなことで目くじらを立てることもあるまい。


「御前の推測はほとんど間違っている。我とて完璧ではない。もし完璧なら、S級モンスターをもっと冴えたやり方でシルヴィアに狩らせる。その上で問おう、我の采配が不服か?」

「もちろん、総統閣下はシルヴィア・リリィ・アルジェントを過大評価している」

「そういう御前は随分な過小評価だな」

「ご冗談、あんなのはそのうち椎名蒼子に追い抜かれるに違いない。彼女は大器晩成する。今でも十分強いけど、今以上の力を手に入れることを確信している」

「確かに、椎名蒼子については概ね同意だ」

「意外だ。ならなぜシルヴィアを贔屓する?」

「我がシルヴィアに期待しているからだ、それ以上でもそれ以下でもない」


「それだけで?」

「あぁ、それだけだ。椎名蒼子と同様にシルヴィアもまだまだ発展途上、磨けばさらに光るはず。ゆえにシルヴィアには現状いまより高い次元に到達して欲しい。ただそれだけのことでしかない」

「経験値を積ませるためにS級を?妙な判断だ、冴えてない」

「そうではない、シルヴィアは十二分に経験を積んでいる。御前の好きな世俗的な言い方だとカウンターストップと言うのか?そういうことだ」

「なら闘わせる意義がますます分からない」

「人がもっとも強くなるためには『弱さを克服すること』だと貴様は言ったな。間違ってはいないが、シルヴィアにとっては少し違う。アイツが知るべきなのは『弱さ』ではなく『限界』だ」

「……意味が分からん?シルヴィアは限界点に達しているから弱い、と言っている」

「違うのだよ。今の御前には分からんだろうな。……それに我の計画は失敗に終わってしまった。さて、話は終わりか?なら帰りたまえ。仕事はまだ残っている」


 『パスト』は何か言いたそうな顔をしたが、それ以上追求はしなかった。

「まぁいい。今回はそういうことにしといておとう」

「この我相手に上から目線、相変わらず自信過剰なヤツだ。そんな御前には最後に言っておきたい事がある」

「なんだ?」

「もしも今の御前が今のシルヴィアと戦うことがあっても、御前が弱いと思っている今のシルヴィアには勝てないと我は推測している」

「……その真意、ぜひ聞いてみたい」

「特に深い意味はない。我がそう考えただけだ。シルヴィアはそれだけの実力を持っている。御前の言う通り、過大評価かもしれないな。所詮人の推測、百発百中とはいかない」

「なら記憶しておこう。最も、機会があったらあなたの推測を否定させてもらうが」

「それはそれで楽しみだ」


 『パスト』が執務室から出ようとし、ドアノブに触れたのだが、何かを思い出したらしい。

「おっと、そうだった。このことを訊くのを忘れてた」

「なんだ?訊くべき事があるなら早くしろ」

「フレア・ヴァーミリオン。ヤツが何処にいるのかは分かったか?」

「その件は『ナンバーズ』の担当だ。我に訊かれても困る」

「理解はしている、だが……」

「くどい。これ以上、手間をかけさせるな」

「あ~、はいはい、『ボク』が悪かったよ」

 また、口調が変わった。

 薬でもヤっているのか?


 やれやれ……また面倒事が増えてしまった。

 処務作業を中断し、PCを起動する。

 起動している間に、コーヒーメーカーでコーヒーをいれ、シルヴィアに勧められた茶菓子を冷蔵庫から取り出し、皿に盛る。


 PCの起動後、フレア・ヴァーミリオンに関する資料を開いた。


 フレア・ヴァーミリオン。

 十三年前に機関に一年だけ所属していた魔法少女。

 他の追随を許さない一騎当千の実力を持った『最強』の魔法少女。

 あのヴァーミリオン一族の人間なのか、それともそれを語る偽者なのか。


 コレが『パスト』にとっても重要な人間だと言うことは理解している。

 だが、ソイツは浦原るりの友人である事くらいしかまだ分かっていない。

 今、何処で何をしているかはもちろん、ソイツが本当に生きているかさえ怪しい。

 そして、何よりも不可解なのは、意図的に情報が削除された形跡がある。


 かつて在籍していた魔法少女の情報が、本人か第三者によって削除された。

 浦原るりの情報を調べていた時、不自然な欠損に偶然気づいた。

 そこから先はアナログだ。

 当時を知る人間を数珠繋ぎで聞き込みをしてその欠損がフレア・ヴァーミリオンの存在に行き着いた。

 そして知った。

 浦原るりが死んだ時、フレア・ヴァーミリオンもそこにいた。


 るりよ、御前は彼岸で何を思う。

 ソイツはどうして御前を見殺しにしたんだ?

 ソイツは御前の友人ではなかったのか?

 『最強』と謳われた魔法少女がなぜ御前を助けなかったのだ?


 我は……御前にもう一度逢いたい、だがそれは叶わない。

 御前の死は、御前と出会った時には既に確立していたのだから、再会はできない。

 『既成事実は覆らない』というのが『時間』を操る魔法少女、浦原るりの口癖だった。

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