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第20話、白銀の剣と紅の兄妹

能力酷使オーバードライブ

 全身の傷を魔力で縫合する。

 折れた骨も応急処置で何とかする。

「ボロボロの体を再生したんだ……便利だね、アンタの能力」

「勘違いするな、これは自然治癒の類ではない、ただ自分の肉体をマリオネットのように使っているだけだ。持って九〇秒程度だろう」

「つまり、たったそれだけであれを倒せって?」

「違うな、間違っているぞ。私と貴様の2人ならば充分だ」

「言ってくれるね」

「救ってくれるのだろ?この私を」

「あぁ、当然!!」


 月宮紅莉が『飛行』して戦いやすい位置に陣取る。


 私も闘わねば……。

 たとえ、この腕が使い物にならなくなっても構わん。

 その程度の犠牲もせずに生還するなど馬鹿げた夢。

 誰も死なせない、誰も傷つかせない、そのためには多少の自己犠牲も必要。

 さぁ、喰らえ。世界を蹂躙する世界の敵よ。

 これが人だ、これが生にすがる魔法少女だ!!


「『百八つの兇剣(アダムスイヴ)』」

 虚空から無数の武具を射出し、それらは円運動して背中の棘を刈取る。

 武器の全ては私が作り出した贋作であるが、その威力は本物オリジナルのそれと遜色はない。そんな武器を射殺すために使うのが『百八の兇剣(アダムスイヴ)』である。


 棘を刈取ったが、それでもまだまだ棘の残骸は残っている。

 月宮紅莉はそこを狙っている。


「月宮紅莉!!」

「指図しなくてもヤるってのッ!!」

 山形やまなりに跳び、月宮紅莉は垂直降下する。

「『超音速絶空衝撃拳スーパーソニックインパクト』ッ!!」


 真紅の拳でキマイラの背中をぶん殴った。

 接触の衝撃は目に見えるほどだった。

 こうして観察して良く分かる。

 ヤツは、強い。

 S級モンスターとやり合えるほどに。


 怯んだキマイラの背中を触り、持ち上げた。

「フンッ!!」

 彼女の固有魔法は『飛行』だ。

 だが、あそこまでの巨体を『飛行』させることすらもできるのか?

「せぇーの……『超音速絶空射出道スーパーソニックカタパルト』ッ!!」

 数メートル持ち上げたキマイラを渾身の力で地に叩きつけた。


「シルヴィア、援護ッ!」

「この私に単語で命令するなッ!!」

 槍を6本、月宮紅莉に投げ渡す。

 それを『飛行』させ、月宮紅莉はキマイラをはりつけにした。


「さぁエビ、その硬くて堅い殻をぶち壊してやるよッ」

 ふぅーっと、月宮紅莉は深呼吸をする。

「必殺!透覇トウハ朱連激シュレンゲキィ!!」

 硬い棘だらけの背部を思いっきり乱打した。

 馬乗りになった状態で両腕を『飛行』させ、何回も何回も何回も殴りまくる。

「オラオラオラオラオオラオラオラオラァ!!」

 無数の棘の残りカスがボロボロと砕け散った。

 状況を理解した大型モンスターが月宮紅莉を振りほどこうと暴れる。

「無駄無駄!無駄なんだよッ!その程度で逃げられるほど、残念な雑魚じゃない!!」

 塵芥レベルにまで粉砕した殻の内側にはエビの刺身みたいな白くて透明で柔らかい身が現れた。


 月宮紅莉にだけ、任せてはおけない。

「退避しろッ!」

「あいよっ!」

 月宮紅莉が『飛行』して巻き添えにならないように移動したことを確認した後、私は配置していたミサイルランチャーの引き金を押した。

 鳴り響く轟音と共に、ミサイルが射出され、磔にされているキマイラに命中する。

 槍が犠牲になったが、そんなもの、私にとっては爪を剥がされる程度だ。


「おぉ、大迫力だ。今年は花火大会なんて行かなくても、もういいかな」

「軽口を叩くな。まだ終わりじゃないぞ」

「はいはい……んじゃ、止めでもさしますかなッ」

 武器を杖に変えた。

 収束砲か。威力だけならヤツの収束砲はレイのものを超過している。

 月宮紅莉はキマイラの後方75度の所から射撃体勢を整えた。


 そして、キマイラも月宮紅莉の尋常じゃない戦闘能力に気づいたらしい。

 この私と対峙していながら、目を背けている。

 バカが、スキだらけだッ。


 白銀のツルギに力を込める。

 先ほどまで、自分が虫の息だった事が嘘のようだ。

 なぜだろう、目の前にたった1人の『味方』がいるだけなのに。

 その味方はこの前まで本気で殺しあったような女だ。

 だけど、そいつはこんな私を助けに来てくれた。

 死なれたら困る、と間接的な理由であるが助けに来てくれた。


『救うんだろ、貴様は?』

 自問する。

『あぁ、救うとも、私は』

 自答する。


 このままでは、月宮紅莉が私の変わりに死ぬだろう。

 月宮紅莉がどこで死のうと構わない、それは奴の自己責任だ。

 だが、ここでヤツを見殺しにするのが私がこれまで信じてきた正義か?

 それが私が憧れた正義の味方か?


 違う、そんなものは私の正義ではない。

 そんなものは偽善だと理解したはずだ。

 私が憧れたのは純粋に誰かを守る生き方をしていたるりさんの姿だ。

 私はあの人みたいになりたかった。


 傲慢に走り焦がれた、独善と猛進し続けた。

 月宮紅莉を……目の前で死に掛けている人間を救えない人間が世界を救えるわけがないッ!!

 ヤツは私の友達の友達だ。

 ヤツが死ねば、私の友達は悲しむ。

 そうだ、私とヤツは似たもの同士だ。

 きっと、出会い方が違えば、今回のように背中を預けあいながら闘う事も多かっただろう。


 だが、そんなくだらないifに価値はない。

 私は私のために、月宮紅莉を救おう。

 ヤツを救うことが、私の正義の証明になる。


 地獄を切り裂く力が要る、他人を守る力が要る。

 私が憧れた正義の味方になるための力が欲しい。


 だから紫苑、お願いだ、力を貸してくれないか。

 私を守ってくれないくても良い。

 誰も救わなくても良い。

 けど月宮紅莉が死なずに済むくらいは許されて良いのではないか?

 誰もが当たり前に願う生を、月宮紅莉が奪われないために。


 だってそうだろ?

 君は願ったんだ。

 『誰も傷つかないで済む優しい世界』を。

 私は尽力する。

 皆が当たり前に享受することが出来る日常を失わないために。


 心に光が灯る。

 暖かい光が私の世界を照らす。

 今なら、私は何者にだって負けない気がする。

 剣を振るう。

 全ての災禍を討滅するために。


「『災禍を討滅する剣(ソードオブダモクレス)』!!」

 私の偽善を本物にするために、私は最後の力で剣を振るい、モンスターをぶった斬った。

 これで、良いだろ……紫苑。

 私はこの道を突き進む、誰も傷つかないで済むために。



 気が付くと、見慣れた世界だった。

 病院の中だ。

 体の節々が痛い。力を使いすぎたのと、キマイラの収束砲のダメージのせいか。

 1週間で退院したいが、どうなることか。


「よっ、目が覚めたか」

 月宮紅莉と同室らしく、気軽に挨拶して来る。

「随分と馴れ馴れしい……」

「ひっど!ひどひどい!!」

「……はぁ、緊迫感も何もないな、貴様は」

「おいおい!それが助けてもらった人間の言葉かよっ!?」

「助けてくれと言った覚えはない」


「うわぁ……マンガとかでよく聞くセリフだけど、自分が言われる状況になるとめっちゃムカつく……」

「そうか、まぁそうだろうな、私を助けたところでそんなものだ」

「……アンタってそういう人間?」

「別に。何度も言っただろ。あらゆる善意は自己満足から派生すると」

「だから何よ?因果関係が見えない」

「真の善意とは、見返りを求めないのだよ」

「ぐぬぬ……」

 どうやらぐうの音も出ないらしい。残念な女だ。


「はぁ……もういいよ、アンタってそんなんだもんね」

「嫌味か?それとも皮肉か?」

「さぁね。そこまで考えてない……強いて言えば、アンタの根源の方が気になってる」

「何の話だ?」

「アンタはさ、『誰も傷つかないで済む世界』を求めたわけでしょ?それなら退却したって良かったわけだ。でもそれをしなかった。なんでしなかった?」

「退却することで、守れなかった存在がいたかもしれなかったからだ」

「でも、そんなの居たの?」

「貴様がいただろ」

「うぐっ」

「別に私だって貴様が死のうと興味はない。だが、私は目の前で誰かを見殺しにしたくなかっただけだ」

「なんで、そこまで頑なに強情に?」


「……昔、ある日本人に助けられたからだ」

「MWで?」

「MWでだ。その人は私が私だからではなく、ただそこに居たから助けてくれた。そんなあの人と同じことをしたいと思った。それだけだ」

「そのためなら死んでも良いと?」

「あぁ、本望だ。むしろあの人は死んだ」

「は?」

「任務中に殉職したと聞いた。きっと、誰かを助けるために死んだんだ。あの人はそういう人だ。だから私もそうなりたい、誰かのために自分の命を使いたい。純粋にそう思う」

 月宮紅莉はポカーンとしていた。

 予想の斜め上の答えだったのだろう。

 きっと、私がもっと俗な思考か崇高な思考で闘っていたと思っていたのだろう。

 私はただ憧れただけだ。あの瑠璃色の天使に。

「だが、助けてくれてありがとう」

 心からそう言った。

 心から感謝した。

 心からそう思ったから。


 そんな私の顔を見た月宮紅莉はウザい顔をしている。

「おいおい、何ですか?『助けてくれと言った覚えはない』とカッコつけたくせに『助けてくれてありがとう』とは言うんですか?ねぇねぇ~?」

 こいつ、人が感傷的になっていたのに、ずけずけと。

 デリカシーを知らないのか?

「別に、矛盾はしていないだろ。助けてくれとは言っていない、だが助けてくれた事には感謝している」

「そんな清々しい顔をされたらイジれないじゃんか」

「イジるな、『イジらない』という選択肢はないのか?」

「ない!それじゃあ面白くない!」

「くたばれ」

「はぁ……相変わらず冷たいなぁ」


「貴様こそ、なぜ闘っている?」

「えっとね、最初はお金のためだった」

「……俗物め」

 予想通り過ぎる回答だった。

 こいつはそういうヤツだ。

「ちょっと待ってよ、話はまだ終わってないんだって」

「なんだ?その他大勢のように金目当てなんだろ」

「違う、そこまでクズじゃない。最初の出撃にね、そう確かアンタに啖呵切ったときだったかな」

「あぁ、あの時か」

「あの時ね、私の友達がMWに迷い込んでいたんだよ」

「…………」

 少し、言葉を失った。

 意外だった、単純に見直した。

 いや、違うか、この女はこういうヤツだ。

 だから、クロのために自分を犠牲にしてでも私達機関と闘おうとした。


「友達がモンスターに襲われるかもしれないって思った瞬間、体が動いてた。無意識に嫌がったんだ、友達が死ぬかもしれないことが怖かったんだ」

「そうだな、そうだろうな……」

 誰だって、友達を失いたくないはずだ。

 失っても構わない友達なんて、友達ではなくただの知り合いだ。


「もしも、友達をあんな訳分からない存在に殺されていたのかもしれないと思うと変な気持ちになってきた」

「それは憎しみによる憤怒、だな」

「そう、だから私はあんなバケモノをぶっ殺した。ただの生存競争だ。そして、あんなのと闘う魔法少女が嫌いでもあり、必要だとも思う」


 そこで、月宮紅莉の主張は終わった。

 彼女は正しい、決して間違ってなんていないはずだ。

 だが、1つ気になる事が生まれた。

「なぁ、月宮紅莉。偽善とはなんだ?どこまでが善意でどこからが偽善だ?」

「どこからって……本心でない善意は全てもれなく偽善でしょ」

「ならば、本心である善意はもれなく善意でしかないわけだな」

「…………」

 気づいたか、その通りだ。

 偽善とは見返りを求めた純粋な善意ではない偽りの善意だ。

 だが、純粋な本心からの善意はもれなく誠の善意である。


「私は、アンタとは違う。だからといって、それがアンタを否定する材料にはならない。私は自分のために闘う。けど、アンタは他人のために闘う。それは誰にも否定できないし、否定しちゃいけない。そう分かった」

「随分な結論だな。何がそうさせた?」

「別に、ただ私は生粋の善人ってのが気に食わなかっただけさ。善人である自分に酔っているだけのクソ野朗みたいで。でもアンタは違う、本当に心から善人なんだって」

「買いかぶり過ぎだ。私も貴様がいうような善人である自分に酔っているだけのクソガキさ。けれど、善人に憧れたから全てを対価にしてでも善人になりたいと思っただけなんだ」

「並の人間は、全てを対価には出せないよ」

「それは価値観の違いだ。日本人だって戦時中は特攻などで国のために命を使っていたではないか」

「…………はぁ、つまり、私が幼稚だっただけか」

 思慮が浅かった事を月宮紅莉は認めた。


「私さ、アンタが生きてるこの状況見て、やっと自分が生きてる事を自覚したんだよ。急に現れたモンスターに殺されて終わるのが魔法少女の人生なんて悲し過ぎる。だから思ったんだ、誰も死なないこの現実こそが私が欲しかった未来なんだって」

「誰も死なない、か。確かに、それは一番良い展開だ」

「アンタもさ、自分の命くらい大切にしなよ。死んでも良いってのは……なんか違うと思う」

「どうした?私が死のうが生きようが興味は無いのではなかったか」

「そりゃ言ったけど……だからと言って死んで欲しいってわけじゃないっていうか……あぁもう!!」

 前回の動物園とは逆に月宮紅莉の顔は恥ずかしさか何かで真っ赤になっていた。

 そして、逃げるように病室を出て行こうとしている。


「何処へ行く?」

「トイレだ!」

「そうか」

「大きい方だ!」

「聞いてない」

 月宮紅莉は怒るように退室してトイレに向かった。

 そこに交代のように月宮教官が入室した。


「おっす、紅莉、頼まれてた駅前のプリンだが……あれ?紅莉は?」

「あなたの妹なら今さっきトイレに行きましたよ。しかも大きい方だと大声で宣言して」

「はしたない愚妹だ」

 頭を掻きながら嘆いた。

「どうだ、甘党。お前もプリン要るか?心配するな、奢りだ。数もある」

「では、ありがたく頂きましょう」

 プリンを受け取り、蓋を開けて食べる。

 ……ふむ、美味い。やはり甘味は素晴らしい。


 月宮教官は窓際にもたれ掛かて、缶コーヒーを飲んでいた。

 良い機会だ、聞いておこう。

「……半年前の事を覚えてますか?」

「半年前のどのことだ?」

「アナタは言った、『紫苑の事は割り切れ』と」

 半年前、紫苑が死んだとき、この男はそう言った。

 本人が覚えていない、と吐いた時には、この体にムチを打ってでも顔面を殴らなければならない。


「言ったな」

 覚えていたか。それなら問題はない。

「なんでですか?」

「そのままの意味だ。生きてる人間が死んだ人間をいつまでも思っているわけにはいかない」

「なら……ならなんで、私を、私たちを助けたんです?」

 死人を切り捨てるのなら、他人を命懸けで助ける必要もないはずだ。


「……なるほど、言い方が悪かったのは理解した。オレが言いたかったのは、『死んだ人間のために死んだ人間の事は割り切れ』ってことだ。切り捨てるんじゃねぇ、割り切るんだ」

「同じじゃないですか」

「違うな。……悪いが、昔話をしても良いか?」

「何ですか?藪から棒に」

 話の流れがつかめない。文脈が破綻しているとしか思えなかった。

「オレは、ある少女に恋をした」

「は?」

「まぁ聞け。オッサンの戯言だと思ってくれても良い、だがそれは聞き終わってからにしてくれ」

 私のことなど知るか、とでも言いたいのか、月宮紅蓮はマイペースに話を始めた。


「その女は何処にでも居るような普通の女子、というか平々凡々というか……ま、天真爛漫なヤツだった」

 過去を懐かしむ月宮紅蓮の顔は幸せそうだった。

 惚気のろけ、というのはこのような男の顔を指す言葉なのだろう。

「だが、そいつは死んだ」

 その言葉を発した月宮紅蓮の顔は哀愁に満ちていた。

 覆らない現実を受け入れた大人の顔をしていた。


「病気なんかじゃないんだ、当たり前のように来ると思ってた明日はアイツには永遠に来なかった。アイツは、当然のように来るはずだった明日を迎えられず死んだ。やりたいことだってやるつもりだったことだっていっぱいあったはずだっただろう。

 ……けど、それでも死んだんだ。

 理不尽なこの世界はアイツの人生に終止符を打った。たった12歳、たった12年間で終わりを向かえたアイツの人生。

 そん時は泣いたよ、アイツの死をオレは泣いた。惚れた女が死ぬんだ。大抵の男は泣くさ。

 なのにアイツは死ぬ前にこう言ったんだよ。『私のことは忘れて幸せに生きろ』って。

 どうかしてると思わないか?自分がこれから死ぬって言うのに他人のことを考えていたんだよ。

 たぶんアイツは自分の死で誰かが悲しむのが嫌だったんだ。

 だから、オレは割り切る。

 割り切らないとオレはアイツに報いられない。生者オレの幸せを願ったアイツに報いられない。

 オレはアイツのためにアイツが手に入れられなかった幸せを手に入れる、それがアイツへの手向たむけになる」


 その声には悲しみが宿っていた。だけど目は澄んでいた。

 私も知っている、大切な人が死んだときの苦しさは。

 どれだけ前のことなのか知らない。けど、大好きな人が目の前で亡くなった。

 そしてその人のためにその人のことを忘れる。これは言葉ほど単純なことではない。むしろ実行できない。過去に囚われていることは確かに歪なのかもしれないけれど、過去があるから人は今を生きていける。

 記憶喪失の人間というのは、記憶のない空っぽの自分の存在が苦しいと聞く。

 過去とは人間にとってそれくらい重要なのである。

 その過去を自ら否定することと言うのは、自分の人生そのものを否定することのはずだ。

 そして、この男はそれをした。いや、したのではなくしなければならない、と表現するべきだろう。そして、その過去を受け入れた。

 切り捨てる、ではなく割り切る、か……。


 数秒の静寂の後、また月宮紅蓮は口を開いた。

「お前はどうだ?紫苑は何て言ってた?」

「紫苑は『忘れないで』って言ってました」

 ゆっくりと、それでも確実に紫苑の事を想いながら私も口にする。

「そうか。なら訂正だ。忘れるてやるな。忘れないだけで良い。変に気負うことはない。お前はお前でいれば良い、紫苑が好きだったお前のまま紫苑のことを忘れなければいだろ。きっと、紫苑もそれを願ってるぞ」

 言いたいことを言い終わったからなのか、それとも私が満足した事を察したのか月宮紅蓮は病室の扉を掴んで退室していく。

「それじゃあオレは帰る。お大事に」

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