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第7話 真紅の炎は訓練に奮励す

 遊園地に遊びに行った次の日、つまり今日は日曜なのだけど、機関の秘密基地で魔法の特訓を始まった。

 まったく、休みの日くらい休ませて欲しいよ。

 なんのために小学校が週休2日だと思ってるのだろうか?

 週に2日休むためですよ?心をゆとらせるためですよ。

 大人は6連勤とかに慣れてるのかもしれないけど、我々は違いますよ。

 頑固抗議する!!

「魔法ってのはとりあえず『習うより慣れろ』って精神で頑張れ」

「ずいぶんと適当なんですねぇ?教官殿」

 雑な指導のお兄ちゃんに私は皮肉を言う。

 そりゃ、日曜にまでこんなのをやるくらいならもっと良いことをやりましょうよ。


「しょうがないだろ?固有魔法については個人個人で違う。だから適切なアドバイスなんてものよりも自分で開発、発展する方が適してるんだよ」

「なんか慣れてない?」

「別にこの仕事は初めてじゃないからな、ふわぁ~あ……」

 欠伸をしたお兄ちゃんは面倒くさそうな顔をしている。

 私だってたったと終わらせたいな。

 今時スポ根なんて流行らないッスよ。


「まず最初は戦闘服の形成だ」

「服?つまり変身?」

「俗っぽく言えばそうなるな」

「こういうのってアニメとかだと変身道具に依存されるような感じだけど、実際はどうなの?」

「ウチの機関が作ったのだと魔法少女の深層心理を具現化させるとかそんな感じらしい」

「難しいことを言うね。つまりどういうこと?」

「端的に言えば、自分が一番戦いやすい衣装をアイテムが形成してくれるってわけ」

 猫型ロボットもビックリな便利仕様ですね。どんな原理なんですかね?脳みその中身をトレースしてそれに合わせて服自体が形を変えると?

 こんな戦闘服にそんな技術を応用する前にもっとやることがあるんじゃないですかね?


「ならさ、難易度はそんなに高くないの?」

「高くはないが、低いってわけでもない。本当の自分ってのは案外理解できてないもんさ。できてても納得できないって奴もいたし」

「恥ずかしい、真の自分を認められないってどんだけさ」

「お前は自分の汚いところも全力で肯定してるからな。少しは謙虚になって欲しいものだ」

「自信家なのは良いことだと思うけど?」

「自信過剰なのもどうかと思うぞ」

 お兄ちゃんが露骨に落胆している。

 まったく、家族なんだからお互いの汚いところも含めて愛して欲しいな。

 アイドルオタクが『アイドルはウ○コなんてしねぇよ!』って言うのと同じ。臭いものに蓋をしても現実は変わらないわけです。 


 よし!とりあえず変身とやらをしてみますか

 こほんっ。

 へんしーん、ぷりてぃ~まじかるキュアッキュアらぶりーらんでぶーらんちゃーシンデレラ!

 今まで着ていた服が光り輝いて消失し、その代わりにボロ雑巾みたいな服を着ていた……なにこれ?

「…………なんだ?その至極残念な格好は?まるで灰被り姫じゃないか」

「どうしてシンデレラのマイナーな日本語名で私を例えるの?マッチ売りの少女とかで良いんじゃない?」

「別にマッチ売りの少女でも構わんが、どうしてお前の深層心理がそんな感じなんだ?」

「わ、私が聞きたいよ……この道具壊れてるんじゃないの?」

「お前の深層心理は機械すら測定できないってか……じゃあ今度は自分の理想の姿ってのを想像してみろ。それでも上手くいかなかったらその時は技術部と相談する」


 理想の自分?つまり理想の衣装ってわけ?

 そうだねぇ……上半身は赤を基準にしたブレザー風のロングコートに黒のリボンかな?コートの下半分はパレオのような形状で前面が開いておりパンツが見えるか見えないかのギリギリのラインを保つ絶妙なバランスで、肩はパフスリーブ、袖丈は普通に長袖、決してアームカバーなんかじゃない。手袋は着用し靴下は少し長めで靴はローファーが良いかな?


 さっきと同じように光り輝いてボロ雑巾が合計数万円はかかりそうな立派な衣類に変わった。

「ほぅ、なかなか良い戦闘服じゃないか。だが、なんでそんなにスカート丈が短いんだ?」

 変身後のスカートは予想していたよりかはちょっと短かったけど、まぁこっちの方が私らしいかな?

「女子高校生は短くするって聞いたから?」

「ビッチの真似して粋がるな。そんなパンツを見せびらかす露出狂みたいな子に育てた覚えはない」

「お兄ちゃん、これはパンツじゃないよ」

「パンツじゃないならなんだよ?」

「見せパンだよ」


「見せパン?見せパンってなんだ?」

「見せパンってのは見せることを前提にしたパンツのことだよ。パンツってのは見られることを前提に履いてないから見られると恥ずかしいんだ。布地面積が同じビキニパンツやブルマは見られることを前提に履いてるから見られても恥ずかしくないわけ。しからば、見られることを前提に履いてるパンツ、見せパンは恥ずかしい物じゃないってわけ。下着姿のモデルさんとかも恥ずかしがらないのはこういう理由だと思う」

「屁理屈だ」

「別に見せパンは私が考えたものじゃないから」

「はぁ……まぁいい。どうせ魔法少女の戦闘服を見る機会なんてのは基本的にMWだけだからな」


 溜息を吐くお兄ちゃん。

 そんなに溜息を吐いてると幸せが逃げちゃうよ?

 まぁ幸せの天使(私)は逃げないけどね☆

「お前……ちゃんと兄離れしろよな」

「卒業する気はありません!!」

 またお兄ちゃんは溜息を吐いた。

 だからそんなに溜息を…(以下略。


「とりあえず攻撃魔法と防御魔法の練習からだ」

 雑談タイムを終了させてまた特訓の再開のようです。

「攻撃って?」

「MWのモンスターを駆逐するための魔法だ。基礎魔法のマニュアルは読んだだろ?」

「流し読み程度は」

「それで良いさ、武器の使い方のレクチャーはいるか?」

 こっちはマニュアルに書いてたから分かる。このヘンテコな指輪から戦闘服みたいに思念的なのを具現化?して取り出すんでしょ? 

 よっと。


 さっき変身した要領で指輪から武器、杖を取り出した。

 ぱんぱかぱ~ん、じょうずにできました~♪

 やっぱ魔法少女の武器と言えばステッキでしょ。

「紅莉に似合わない可愛らしい武器だな」

「似合わないって酷くない?!」

「いや、紅莉ならスプラッターなチェーンソーとか9連発式ミサイルランチャーとかを想像してたから」

「……お兄ちゃんって、私のことどう思ってるの?」

「可愛い妹だと思ってるぞ?」

 そこは疑問系じゃなくて断言して欲しかったよ……。

 シスコンお兄ちゃんは時に妹にキツいのです。


「で?お前はその杖で何をするつもりなんだ?」

「何とは?」

「基礎魔法には主に近接系と遠距離系と支援系の三種類がある。お前はそれの何をするつもりなんだ?」

 近接系ねぇ……あの凶悪ポニーテールはたしか氷でできた日本刀を使ってたから近接系はイヤだなぁ、でもって支援系は同じ班のポニーテールを支援することになるからこれもヤダ、となると必然的に選択肢は1つしかない。

「遠距離かな?」

「それじゃあ適当に的を用意してやるからそれを打ちぬけ、訓練開始!」

 お兄ちゃんがホイッスルを咥えて吹くと、周りにバラエティ番組なんかで見るストラックアウトの的が出てきた。どうやらこれで9つの的を射抜け、ってことらしい。


 杖から弾を作り出して杖のトリガーを引く。意外に簡単。

 原理は良く分からないけど、これは確かに『習うより慣れろ』と言う気持ちも分かる。

 偉い人も『考えるな、感じるんだ』って言ってたし。


 9つの的を撃ち抜くとまた9つの的が出て来る。

 その的も撃ち抜くと、また的が出て来る……え?エンドレスなんですか?


 約3時間の基礎魔法の訓練が終わった……。

 か、かなりハードな内容ですね……。

「お腹空いた……なんか食べたい……」

「食堂で何か食べて来い」

「食堂とかあるの?というかお兄ちゃんって私が外でご飯食べるの嫌がってるのにここは例外なの?」

「身体に悪い添加物を不必要(ここ重要)に摂取することを推奨する保護者が居るわけないだろ?」

 なるほど、必要なら仕方ないってわけね。


 ひなちゃんに道案内をお願いして食堂までやって来た。

 やってきたのだけど、予想していたものとちょっと、というか大分違った。

 私はフードコートみたいなのやカフェテリアみたいなのを想像していたけど、大き目の自販機が十数体あっただけである。食堂らしさは大量にあるテーブルと椅子くらいで、正直な話、会議室と言われたら素直に信じてしまいそう。

「ひなちゃん、ここが本当に食堂なの?」

「そうですよ?ここの自販機は完全調理型ってので冷凍食品を解凍するような単純な物じゃなく、ちゃんと食材から調理してくれるってすんごいものなんです」

 へぇ~、カップラーメンとか冷凍食品の自販機とかは知ってるけど最近はこんなのまでできてたの?

 科学の進歩ってスゲー。


 メニューは意外に豊富でカンパンから高級和牛のステーキまで何でもあった。

 しかし、ここでカンパンを食べる物好きが居るのだろうか?と思い、私はフルーツサンドを買おうと思った……けど、

「あれ?この自販機、どこにお金を入れればいいの?」

 驚いたことにこの自販機には硬貨やお札を入れるためのそれっぽい隙間がなかった。これじゃあ買えなくない?

 あ、でも電子マネーには対応してるっぽい。ICカードを読み取るためのあれがある。

 あれはあれのこと、ぶっちゃけ名前なんて知らない。

 カードリーダーで良いのかな?


「あ、これは基本的にタダですよ?」

 ……タダ?え?無料ってこと?イッツフリー?

「えぇ、身分証明書をここにかざすと」

 カラロン♪

 と電子音がなってひなちゃんが缶の紅茶のボタンを押して、紅茶が取り出し口に落ちる。

「こんな風になってるんです。はい、どうぞ」

 と、『お前もやってみろ』と言う風に場所を譲ってくれた。


 無事にフルーツサンドを買って適当な椅子に座る。しかし、紅茶とフルーツサンドが同じ自販機から出てくるんだ……今の科学ってのは小学生程度じゃ理解できない次元にまで進歩してるんだね。

 どっかの誰かが『優れた技術は魔法と同じようなもの』とか言ったらしいけど本当にそうですよね。


 現代の人間の文明に感心しながらむしゃりとフルーツサンドを齧る。

「うむ!美味い!!」

 意外に美味しい。ぶっちゃけ、もっとチープなものを想像してた。

 なんというか……クリスマスの時にだけ出てくる給食のケーキくらいのクオリティを想像してました。はい。


 フルーツサンドを味わっていると、向こうにあの凶悪ポニーテールがデカ盛りって呼ばれてそうなくらいの大量のカレーを食べていた。

 わぁーお!あの子は大食いチャンプでも目指してるの?

 あの手のコンテストに出てる人の胃袋ってどうなってるんだろうか?

 満腹神経は当社比120パーセントで麻痺してると思ってる。

 オーバーしてる20パーセントは予選落ちの人たちの分ね。


 1人寂しくボッチ飯を食べてるポニーテールの前にチョコレートサンデーを持った初夏の今には少し早い日焼けした女子が座った。

「誰アレ?」

「あの人はブラウンさんですよ」

 ブラウン?そう言われても私はまだ他の魔法少女には疎いんだけど。

「ブラウンさんは機関に所属してる魔法少女の中でも群を抜いて優秀な方ですよ。昨年も個人戦で2位でしたから」

「ほへぇ~、そんな優秀な人と仲良いのかね?あの極悪非道なポニーテール様は」

「なんでも幼い頃から本当の姉妹のように仲良いみたいです」

「詳しいね?」

「ブラウンさんは去年、私と同じ班だったんです」

 あぁ、そういうことね。

 しかし、魔法少女の中でもそんなに優秀な輩と仲の良いエリート様はどんな会話をしてるのだろう?


「ひなちゃん?あの2人の会話って盗聴できる?」

 ひなちゃんの固有魔法が『波動』で姿を消すことが出来るなら盗聴だってきっとできるはず。

「えぇ?!と、盗聴ですか!?」

「大丈夫、これは調査。ちょっと世間的に叩かれることだけど人のことを知るためにはこういうこともする必要があるんだよ。必要悪ってヤツ?」

「必要悪ですか……?でも、盗聴くらいならお茶の子さいさいですし……。蒼子さんにバレないためにも一応姿も消しておきましょう」

 ひなちゃんがまたどこからともなく弦楽器を取り出して弾いた。

 けれど、今までと違って音が出ない。

 そりゃ音が出たら相手にバレちゃうよね。

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