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第13話、真紅の炎は完敗に悔しがる

〔紅莉side〕

 キャンプ、2日目の朝。イノシシの生肉は無菌状態である異次元ポケットに保存しておいたので、原理的には痛んでいない新鮮な状態。しかしイノシシの生肉だ。牛や馬はまだしも豚の仲間であるイノシシは油断していたらあたる。なので過信せずに加熱してから食べる。

「美味しいけど、2食連続でイノシシの塩焼きって微妙だね」

「こんなサバイバルで何を贅沢を言っているんだ?それともお前は何を食べていた?」

「え?野草とか魚とか?」

「なら野草を摘んでろ」

 辛口なんていつものこと。

 もはや扱いが酷いことには慣れてしまっている。

 悲しい……。


「そうだね、今日は野草を摘もうかな。アオちゃんは?」

「狩りだな。こんな島までやってきて採取などつまらん」

「ゲームじゃないんだから」

「そういう意味じゃない。野草を摘むなんてのは秋にキノコ狩りツアーにでも参加すれば良い。だが、こういう島でしかできないことをやるべきじゃないか?」

「だからって狩りをする?」

「心配ない、今日はワニを狩るつもりだ」

「そういう心配じゃないよ!!というかワニ!!なぜにワニ!!?」

「ワニは高たんぱく低カロリーだ。輸入品は高いから食べたかったんだ」

「アオちゃんこそ、このキャンプをグルメツアーと勘違いしてるんじゃないの!?」

 会話終了、どうやら私とのん気にしゃべるつもりはないらしい。

 出会ってから結構経つのに、好感度は未だに高くない。


「よし、こうなったら敵情視察だ」

「は?」

「シルヴィア達が何食べてるか調べるの」

「興味が無いわけじゃないが、普通に訊けば良いだろ?」

「それじゃ面白くない!」

「面白くない、ですか」

「そうだよ、面白くないよ!」

「さいですか」


 シルヴィア達がどこで寝ているのかを監視している師匠に聞き、海辺の方に進んだ。

 なんだかんだ言いながら、アオちゃんもついてくる。

 このツンデレめ♪

 海辺にやってくると、私達と同様にテントを張っていた。

 そして、雨風を凌げる洞窟?っぽい所でシルヴィアは手作りっぽいビーチチェアに腰掛けてくつろいでいる。

 おまけに手作りっぽいテーブルに鮮やかな果物が積まれている。

 さらに魚のカクテル?っていうの?カルパッチョ的なアレ。あんな手が掛かりそうなのがテーブルに置いてある。そして綺麗に捌かれた後の魚がゴミ箱の中に捨てられているため、シルヴィアの周辺は綺麗である。汚らしい我等が拠点とは別世界。

 加えて本を読んでいる。つくづく様になっている。

 お姫様かよ、こいつは。

 私が男なら惚れているだろう。男は惚れっぽいからね。

 中々にムカついたので、小石を投げたがシルヴィアは手で跳ね返す。

 それが口の中に入りむせる。

「ゲホッ!ゲホホッ!」


「朝からうるさい女だな……のどかに日向ぼっこもさせてはくれないのか?」

 本にしおりを挟んで背伸びをしながら文句を言ってくるシルヴィア。

 目から軽く涙が出ている。どうやら欠伸までしているらしい。

 この女も、このキャンプをバカンスか何かと勘違いしているっぽい。


「どうした?貴様ら2人が力を合わせたところでそんな豚しか狩れていないのか?」

 私たちが差し入れ、もとい哀れみ用のイノシシの塩焼きを見たシルヴィアは嘲笑している。

 顔がムカつく!


「チッ!アオちゃん!!好き勝手言わせて良いの!?悔しくないの!?」

「悔しいが、事実だ。アタシたちがイノシシ1頭を狩っている間にあの2人は大量の魚に大量の果物を採取した。おまけにあんな工作までやっている。これは認めなければならない事実であり、アタシはそれに逃げるつもりは無い」

「クソがッ!!」

 どいつもこいつも性格がひねくれてやがるっ!!

 だから友達少ないんだよっ!!


「ふん、殊勝な心がけだ。自らの弱さを知り、他の強さを吸収することは人にとって大切な事だ」

 アオちゃんの発言にウンウンと首を縦に振ったシルヴィア様は上機嫌であるようだ。

 なお、ムカつく!これが勝者の余裕という奴か!!

「アンタが人から吸収したことが?」

 負け惜しみにならない程度に皮肉を言ってみる。

「もちろん、人生とは勉強の連続だ。私はたかが12歳。学ぶ事は多い」

「そうは見えないけど?」

「勘違いするな、月宮紅莉。貴様から学ぶ事なんて存在しないから」

「ムカーッ!!普通、そういうことを本人に向かって言うか!?」

「お前が言うな」「貴様が言うな」

「ハモられたッ!?」

 くそぉ……この2人を相手にするとメンタルをやられる……。

 というか、クロは?姿が見えない。


「シルヴィアさんや、クロさんはどこかの?」

「なぜそんな変な口調なのかは無視するが、クロは遠泳中だ。彼女、泳ぐのが好きらしい」

 ほぉ、意外な趣味だ。

「対する貴様らは何しに来た?まさかおすそ分けということではあるまい」

 くっ、優越感に浸る計画が台無しだ!

「敵情視察、と紅莉は言ってた」

「アオちゃん!?」

 バカ正直に答えやがった。

「敵情視察か。小石を投げたところやさきほどの発言を考えれば、醜い生活をしているのだろう」

 ば、バレてる……。

 哀れんだシルヴィアがバナナを掴んだ。


「ほら、言ってみろ。『この卑しいわたくしめにフルーツを分けてください』と」

 ほれ、ほぉれ、と良いながらバナナを揺らす。

 くっそうぜぇ!!

「そんな恥知らずなセリフが言えるわけ無いだろ!この卑しい私めにフルーツを分けてください!!シルヴィア様!!」

「建前を叫んだ瞬間に建前を殺すなよ」


◇〔グレイスside〕

「やぁ、調子はどうだ?」

「良くないね、あまり成果が出てないかな」

「さすがのグレイスでもお手上げか」

「買い被りかな。紅莉ちゃんとは波長が合っただけだよ」

「あのクソババァや秋山のイカレ教官みたいな『考えるな、感じろ』と教育を放棄しているバカに比べれば、お前はマシさ」

「ま、まぁあの2人に比べたらねぇ……でも助言くらいしか出来なかったよ」

 蒼子ちゃんは元がしっかりしている分、変なことを言うと逆に悪くなる可能性がある。

 0の状態ならスポンジが水を吸収するように色々と覚えてくれる。

 けれど100の状態じゃパンパンに膨れ上がった風船のように許容量は限界。これ以上詰め込むと破裂する危険がある。失敗したとしても、蛇足で済めば責任を負う必要もない。

 あぁ、なんて面倒な仕事だろう……。家でのんびりデスクワークに勤しんでる方が私には合ってる。


「助言?どんな助言をしたんだ?」

「今言った事と真逆のことかな。一言でまとめると『考えながら闘え』って。あの子、将棋はそれなりにできるんでしょ?だったら足りないのは戦術よりも戦略じゃない?」

 人間は弱い。他の動物に比べると身体能力がかなり低い。

 同じ霊長類で比較してもゴリラやオランウータンの方がポテンシャルは高い。

 そんな人間が他の動物よりも比較にならないほど高いのは知力。

 簡単に言ってしまえば、罠である。

 トロイの木馬とか有名でしょ?あれですよ。


「なるほど、理詰めで闘えってか……」

「ぐれ……月宮くん?」

「いや、オレも基本的に頭使って闘わないからな。参考になった」

「どうして、月宮くんがそんな初歩的なことを教えてないの……」

「闘争本能に任せて殴ったりしてるからだからな、仕方ない」

「野蛮だ……」

「オレはあの月宮かりんの息子だからな、残念な事に」

 その言葉は悲しそうであり誇らしそうだった。

 かりんさんは異常だからね。有能ではあるけど無能でもある。

 自分のためにしか行動できないあの人を、私は純粋には尊敬できない。


「まぁ、蒼子がちょっとは進歩することを期待しているよ。それから今度飲まないか?久しぶりにゆっくり話がしたい」

 この文脈は完全に会話を終わらせに来てる。

「あ、ちょっと待って」

「ん?どうした?」

「最後に1つだけ。……月宮くんはかりんさんの息子であることについてどう思ってるの?」

「……興味ないな、オレは紅莉の兄だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「そっか、うん、それでこそ月宮紅蓮だ」

「なんか引っかかるが気にしないことにする」

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