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第6話 若葉の音は楽しさを知る

 メールの返信もなかったので、さっきのベンチに座って3人娘を待っていたのだが全然帰ってこない。

 最初から数えると40分以上が経っている、これ以上はいろいろな意味で無理である、業を煮やしたオレはもう一度電話をかけた。すると今回は電源を入れていたのか誰かが電話に出る。

「はい、紅莉ちゃんじゃありませんよ?」

「普通そういうコメントをするかな?マーちゃん」

「おや、さすがはお兄さん。よく分かりましたね、そんなに声違います?」

 いや、あの妹とななちゃんはこういうお茶目なことをやらないし、逆にマーちゃんはこういうことをやりたがるしで簡単なんだけど。そんなことはどうでもいい、保護者としての監督責務を果たさなければならん。


「で?君達はどこに居るの?」

 さすがのオレでも妹の友達相手には優しい口調を使う。

 これが妹ならばそうはいかぬ。

「アミューズメントエリアです」

「アミューズメントエリア?」

「えぇ、ヒントはこれだけです。では、かくれんぼスタート!」

 と元気に言って電話を切った。

 マーちゃんはこういうことが好きだなぁ……。

 去年のハロウィンで『トリックオアトリート、お菓子をくれても悪戯するぞ』って言って良く分からない物を投げつけられたし……アレ、何だったんだろう?

 とまぁ、ここでかくれんぼなんかするほどオレは甘くない。アミューズメントエリアって言ってもバカデカイし人も多い。その中から3人を見つけるのは苦労する。

 そんなわけでオレはグローバルポジショニングシステム、通称GPSを使い紅莉の居場所を特定して3人娘の元へ向かった。

 小学生に携帯を渡すのはGPSのため。

 無論、携帯本体だけでなくバッテリーの方にも仕込んでいるので万が一の時に電源が切られていても安心。

 これはストーキングではない、過保護なだけだ!



「死ねオラァァア!!」

「なんのぉぉおお!!アンタこそくだばりやがれ!!」

 アミューズメントエリアのゲームセンターのような場所でレースゲームをしながら罵詈雑言を言い合っている我が妹とその友達であるななちゃんが殺しあっていた……。

 なにやってんだ?このバカ共は……。


「おや、お兄さん、ちょっと早過ぎませんか?チートを使いましたね?」

「道具を使うなとは指示されていない。ゆえに文句を言われる筋合いはない」

 子供相手に大人気ないかもしれないが、見くびられても困る。

「あちゃー、これは失態。けどチートを使ったことは否定しないんですね?」

「問題ないから否定する必要はない。ところで、なんで遊園地に来てまであの二人はレースゲームをしている?」


 2人が遊んでいるゲームはロデオカートのアーケードエディション。

 ロデオカートとは20年前に伝説の第一作目が家庭用ゲームとして発売され、今なお続編が作られている人気ゲームシリーズの1つである。

 その内容は単純なレースゲームで馬や牛に跨ったキャラクターを操作するという『タイトルのカートは何処に行った!?』と言いたくなる様な内容だが、アイテムとして機関銃やミサイルランチャーなどのリアルな妨害をしたりして順位を争う所は世界的に人気な某レースゲームとそっくり。

 ゲームクオリティはかなり高く、その上、コースや馬にさまざまゲームキャラをネタにしていたり、カオスなストーリーモード等のおかげでかなり話題となり、世界中で愛されるレースゲームとなった。

 先日発売された家庭用の新作は我が家にもあるからこの程度は知っている。というか、第一作目はオレも結構やりこんだ。


「このデビルズパークとロデオカートがコラボしてて、このアミューズメントエリアの筐体を2人プレイ(有料)した先着1万組に家庭用のロデオカートでデビルくんが使えるようになるDLCのプロダクトコードがもらえるんですよ」

「遊園地が人気ゲームとコラボねぇ……」

 メタ発言満載のロデオカートなら違和感ないな、地方の遊園地のマスコットが登場しても。ゲストキャラが何人も居るし……確かアラスカの方の伝説をモチーフにしたキャラも出てたが、あれも大人の事情か?


「プロダクトコードの個数的な理由も合わせて2ヶ月後に500円で販売する予定らしいですがここだとゲームをプレイする200円だけなのでいろいろ得なんですよ」

「んな子供の事情は知らぬ」

 というよりも入場料から考えるとマイナスだよな、これだけの目的だと。

 となるとターゲットはこんな風にコラボイベントがきっかけでデビルズパークに遊びに来る客とたまたまコラボを知ってデビルくんを使ってみたいと言うデビルくんファンか。

 デビルズパーク側は客が来てくれるきっかけが作れる、ロデオカート側はデビルくんファンへの宣伝となる。どっちもwinwinだ。

 この企画を思いついた人は凄いな、スキがない。


 勝利のファンファーレが鳴り、ゲームが終わったらしい。

 今回はどうやらななちゃんが勝った。

 紅莉は歯を食いしばって悔しがってる。

 いとあわれなり。

 さてと、周りの目も気になるしそろそろ止めさせるか……。

「おい、二人ともそろそろ終わりに……」

「「まだクレジットは残ってる!!」」

 キレられた。でもまだプレイできるなら仕方ないな、あんな風に叫ばなければ。


「ったく、まぁいい。ゲーセンっぽいしオレも何かやるか。ひなも何かやるか?」

 念のためにひなにもゲームをプレイしたいか訊いてみたのだが、ひながポワぁっと口を半開きで何かに見とれていた。

「ひな?」

「ふぇ!?」

 なにやらすっとんきょうな声を上げて驚いた。

 どうやらひなは視線の先のゲームに完全に興味を引かれていた。

 確認してみると、どうやら巨大な音ゲーのようである。


「へぇ~、音ゲーか。マーちゃん、あれ知ってる?」

「最近、人気になってきてるのじゃなかったです?確かギターを弾くタイプの」

「ギターねぇ……ひな、弾ける……」

 『のか?』と質問しようとした瞬間にひなが音ゲーの筐体に200円入れてギターっぽいコントローラーを背負ってチューニング(?)っぽいことをしだした。

「あの子、完全にトランスってますね」

「あぁ、トランスってるわ」

 なんか声がかけられないくらい一人の世界に入ってる。

 ああいうゲーマーの男居るよな、黙々と連コインしてて後ろに並ぶのすら躊躇うような怖いゲーマー。


 ひなの豹変っぷりを傍観していると、ゲームが始まったようだが、ひなは初めてだからか中々上手くいかないようで、そのまま一曲目が終わったらしい。

「なるほど、今ので操作はだいたい把握できた」

 どうやら今のは操作を覚えるために捨てたようである。

 おいおい……口調が変わってますぜ、お嬢さん。


 2プレイ目になると、ひなの豹変はますます酷くなり、テレビでたまに見るエアギター世界大会にでも出たんじゃないか?と思いたくなるような凄まじいパフォーマンスと共に譜面どおりに演奏した。

 アイドルとかってこういうのは口パクでやってるってよく言われてるけど、こういうマジモンも居るのか……世界って広いわぁ~。


「はぁ~、何アレ?本当に同じ人間?」

「全くね、あれがワタシ達の年下だと思うと落ち込むわよ」

 紅莉とななちゃんがひなの演奏に驚愕していた。

 というか、オレからしたら君達の方が異常に思う。

 お願いだから公共の場所で『死ねぇぇえええ!!』とか言いながらゲームしないでくれないかな。保護者として恥ずかしいんだよ。


 とまぁ、そんなわけでひなの見事な演奏が終わりリザルト画面に突入した。

「おやまぁー、パーフェクトだ」

「この手のゲームでパーフェクトって本当に出るのね。てっきりボーリングの300点(オールストライク)くらいの都市伝説だと思ってたわ」

 紅莉とななちゃんが何処からか取り出した煎餅をぼりぼりと租借しながら会話し始めた。

 遊園地のゲームコーナーで煎餅を食べる妹……教育方針を間違えたか?

 更生させる必要があるかも……。


「へぇー、ゲームだとオールバーディくらい取らないとCPUに負ける上に世界ランカーは毎回イーグル取ってないと無理な成績だよね?」

「アレってすごいわね。どうしてあんなに上手いのかしら?」

「プロゲーマーって世界には多いらしいし、それで御飯おまんま食べてるんだろうね?」

「日本もそういうの増やしたら良いんじゃないのかしら?最近は動画サイトとかの広告費ってしゃれにならないくらいらしいから」

「でも、ああいうのって一発屋芸人と同じように消える運命じゃない?」

「でしょうね、ああいう風に華麗にゲームするのが素晴らしいのだと思う。見て、あの常盤さんを」

「顔が清々し過ぎる、というかまぶし過ぎる」

「まさにスポーツよね、純粋に楽しんでる」


「だねぇ、ゲームはあんな風に楽しくゲームをするのが素晴らしいんだよね」

「ホント、他人がゲームやってるの見て何が楽しいのかしら?」

「ななちゃん、後ろでにやにやしながら人がゲームしてる所を見てる女子が居ます」

「あぁ、居たわね。理解不能な人間がここにも」

「何の脈絡も無くさらっとわたしを変人みたいに言わないでよ!!」

 と、ここで自分がディスられてることに気付いたマーちゃんが2人の会話に割って入る。

 まったくもって微笑ましい。こうして子供が楽しんでいるところを見ると連れて来てやった甲斐がある。

 オレの顔が気持悪かったからか、向こうで家族連れの女がこっちをいぶかしんでいた。なんだ?オレをロリコンとでも思っているのか?これはそんなんじゃねぇよ、強いて言うなら父性だ!!


「だいたい他人のプレイを見るのが理解できないってスポーツ観戦って国民的な、いや人類的な娯楽じゃん!」

「いや、ワタシはスポーツ観戦とか興味ないし……ねぇ?紅莉」

「私もだよ、ななちゃん。野球をやるのは好きだけど観るのはぜんぜん興味ないって。オッサンが投げたボールをオッサンがバットで打ち返すのを観て何が楽しいのか私には理解できないよ」

「プロ野球ファンに袋叩きにあえばいいと思うよ!!」


 我が妹とそのご友人が12歳らしからぬ会話をして別の友人とじゃれあっている。

 ていうか、オレが12歳の頃ってこんなだったっけ?

 もっとガキだった気がする……。

 これが性別の違いかね?

 ときたま、女子と言う生き物は同じ人間ではなく感じる。


「よし、ひなちゃん!今度は勝負だ!!」

「今のわたしに勝てるとでも?」

 いつもと違って強気のひな。

 まぁ、ひなと闘えそうなのは数万円分くらいプレイしている廃人音ゲーマーくらいだろうて。

 でも、これで紅莉とひなも仲良くなれたっぽいな。

 この調子で蒼子とも仲良くなってくれると兄としては嬉しいんだけど。

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