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第7話、白銀の剣は悪を成敗する

「はぁ……!?小学生は受け取れない!?そりゃないでしょ!!」

 1000万の当選金を銀行で受け取ろうとしたら窓口のお姉さんが文句を言ってきた。

「いえ、そのですね、小学生でも当選金はもちろん受け取れますが、身分証の提示をお願いしているのですよ。学生証とか」

「小学生が学生証を持ってると思うんですか!!」

「あ、あのですね、保険証とかパスポートとか」

「うぐっ……」

「できればお母さんと一緒に来てもらえれば……」

「ウチの両親は共働きで二人とも海外ですよ!!」

「な、なら保護者さんと……」

「チッ!」


「む?騒がしくて迷惑なのが居ると思ったら貴様か」

 当選金を貰えない事にイラついているとあのシルヴィア様が声をかけてきた。

「なんでアンタが銀行に?」

「銀行に来る要件など金以外にないだろ?」

 シルヴィアはひらひらと宝くじを見せてきた。

 どうやら同じ目的らしい。

「まるで強盗か何かのような物騒な言い方だ」

 さすがに外国人でももうちょっと日本語の使い方には心がけた方が良いんじゃないですかね?

 こいつって日本ここに何年住んでるの?3年くらい?

 じゃあ、気をつけようよ。

「そのような悪が正面から銀行を襲うわけがあるまい。貴様のようなバカならこの私が3分もかからずに捕縛して見せよう」

 私のことを小バカにしたシルヴィアに若干の怒りを感じていると、銀行に銃声が鳴り響いた。


「動くんじゃねぇぞ!!テメェら!!」

 状況を理解する前にスキンヘッドにグラサンのオッサンが拳銃をチラつかせている。

 えっと……え?ショートした思考回路で必死に考えてみるが状況整理が間に合わない。



「クソガキ共!!この拳銃が見えねぇのか!!大人の邪魔するんじゃねぇ!!」

 その一言でようやく状況を理解した。

 銀行強盗である。どう見ても銀行強盗である。

 3人組の銀行強盗が覆面かぶってやって来たのである。

 ちょ、ヤヴぁいよ。こんなのニュースでも聞いたことないよ。

 そりゃ日本じゃピストルなんて手に入りませんよね。

 あ、問題はそこじゃない?


「ほれ見ろ、現に銀行強盗が真正面から突撃して来てるじゃんか」

「呆れた。まさかここまで現実の悪党とは愚鈍で滑稽なのか……」

 シルヴィアは銀行強盗におそれる所か落胆している。

 今さっき『真正面から襲う分けがあるまい』と言いきった手前なのか、はたまた罪悪を犯す人間の醜悪さに嫌気がさしているのか……。どっちでも良い、このイカれた状況を打開してくれるのならね。

 モンスターのような化物や隣にいる凶暴な女とヤり合った私には照準の合っていないピストルになど恐れることはなかった。魔法を使えば銀行強盗など簡単に倒せる。けど、問題はあのピストルで他の人間を撃たないか?って所。どうするか、と考える私を差し置いて、隣の超人シルヴィア様はすでに行動を開始していた。


 威嚇しているだけのオッサンの足元まで刹那の速さで距離を詰め、肘で水月を貫く。

 文字通り瞬殺。オッサンが何か汚い液体を口から吐いて倒れ伏せる。

 手から零れ落ちたピストルを拾い、他の強盗犯に銃口を向ける。

 強盗犯がシルヴィアの手際に驚き、というよりもビビり、そしてビビったまま高速で近づいたシルヴィアに延髄を蹴られ仕留められた。

 南無~。というか、この女強過ぎませんか?魔法無しでこの実力って。

 いや、しかしさすがに速すぎる。おそらく身体強化の魔法か何かで高速移動したのだろう。

 そうでなければ奥歯に加速装置でも搭載していたか。

 どちらにしろ、人間の速さではなかったのは確か。


「さて、残りは貴様だけだぞ?投降しろ。日本の法には詳しくないが、罪は軽くなるはずだ」

 仲間である銀行強盗が倒されている間に、人質を盾にした最後の強盗犯に宣告している。

 これが私と同じ12歳のやることとは思えない。

 いや、民間人とは思えないその無情な目付き。

 どうやらこの女を本気で倒そうと思ったのは間違いである。

 できれば、もっと前に知りたかったかな。


 しかし、本物の銃ですよ、あれ。

 銃刀法が存在する日本でどうやって手に入れたんでしょうかね?このオッサンたち。

 ドラマとかでヤクザが当たり前のように所持してるけど、どういう密輸ルートがあるのやら……おぉ、怖い怖い、人間の闇がある気がしたね。せめて一般人である私は死ぬまで平和ボケさせてくださいな。


「う、うるせぇ!!俺たちには金が必要なんだ!!」

「黙れ、このクズが。どんな大義も悪行には適用されない。金が必要?は、笑止千万!金が欲しいと思っている人間がこの世にどれだけ居ると思っている!貴様らだけがこんな犯罪ズルが許される理由がどこにある!」

 そして一歩強盗に近づいた。

 まるで魔王か何かだ。おそるべき覇気オーラを纏ってらっしゃる。


「う、動くな!!それ以上こっちに来たら撃つぞ!!」

「それは私を撃つと言うことか?それとも人質を撃つと言うことか?前者なら無駄だ、手が震えている今の貴様の発砲など恐れる必要など存在しない。後者なら、その時点で貴様は死ぬ。人質とは盾だ。その盾を自分から()してしまえば自分を守ってくれる盾など存在しないぞ?」

 おいおい、なんかとんでもないことを言っちゃってますよ?あの女。

 笑えない展開だ。これで人質が殺されたらどうするつもりだよ。

 こんなアンポンタンに人を殺す勇気がないと思ってるの?

 こういう危険な人間の考えってのは常人には理解できないもので、自暴自棄で引き金を引いちゃうかもよ?

 いや、待て。冷静に考えれば銀行強盗はもうあと1人だ。ここでシルヴィアが時間稼ぎしているのは私に加勢しろと言っているんじゃないか?

 うん、そうだ、次に銀行強盗が喋ったら顔面にブラジリアンキックをお見舞いしてやる。


 だがしかし、信じられない事に、次の会話など存在せずシルヴィアは引き金を引いた。

 銃声と共に射出された弾丸は、強盗犯の頭に的中。

「キャーーー!」

 あまりにショッキングな光景に私はガラにもなく悲鳴を上げてしまった。

 この私が悲鳴ですよ?あら、カワイイ。お兄ちゃんに見せたかったな。


「おい、ちょっと待て、なぜ貴様が悲鳴を上げる?」

「いやいやいや!普通撃たないでしょ!?」

「しかし、これで誰一人として痛い目を見ることなく問題は解決したぞ?」

「新しい問題が生まれてるって!!何殺しちゃってんの!?こんなの正当防衛ってレベルじゃないって!!」


「これだから日本人は。テロリストには屈しない、これは国際常識だ」

 やれやれ、と欧米人らしく手を大げさにアクションさせたシルヴィアは悪びれることなく喋るのを止めなかった。

「過剰防衛って言葉を知れ!異邦人!!」

「落ち着け。もしや貴様、私があの強盗を殺したと勘違いしているのではないだろうな?」

「何言って……?」

 強盗の頭を良く見てみると、頭には風穴は開いておらず、気絶しているだけ。

 では、一体何が強盗の頭に直撃したのか?という疑問が残る。

 ここで、シルヴィアを良く見てみると、なぜか銃を2つも持っていた。

 1つは銀行強盗から奪ったものだとして、もう1つは何だ?


「これは護身用の拳銃だ。鉛弾ではなくゴム弾なので、的中してもあのように気絶するだけ、死にはしない。ポーカーのイカサマと同じで、相手の心理的盲点を突く事で気づかれること無く、拳銃を装備することなど造作もない」

 どうやらそういうことらしい。いや、種明かしされましても相手を撃ったという事実は同じだし、過剰防衛なんじゃないの?

「犯罪者を駆逐したのだ。賞賛されたとしても、どこに責められる理由がある?」

 やっぱコイツはどこかおかしい。人として大切なモノが欠如しているというか、ずれているというか……うん、凶暴だわ。


「さて、トンズラするぞ」

「は?そりゃまたなんで?」

「ここまで派手に騒いだのだ、警察に事情聴取される可能性が高い。ゆえに出直すのが得策だ。適当なサ店か何処かで茶でも奢ろう、貴様とはゆっくり話し合いたかったしな」

 あ、さすがにこれがヤヴァイ行為だってことくらいは理解する脳みそがあるらしい。

 アカリンも安心しましたよ。さて、すたこら逃げろ~。

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