第5話、深紅の師は失ったモノを思い出す
「はぁ……バイク買おうかな?」
夏休み初日。リビングで朝のニュースを頬杖を突いて見ながら憂鬱そうに溜息を吐きながらお兄ちゃんは呟いた。
「おっ……?おっ、おっおっ?」
「どんなリアクションだよ、そのリアクションに対する正解が分からねぇよ」
「いや、前に言ったじゃん?バイクに乗りたいって」
※詳しくは第一章第1話を参照してね☆
「お前のためじゃねぇから!」
「じゃあ誰のため?」
「無論、オレの為に決まってるだろ」
「……どういう心境の変化?」
「ほら、最近酷いじゃん?」
「何が?」
「自転車への風評だよ。チャリカスだの何だのと酷い言い方だ。確かに自転車のマナーは良いとは言えないかもしれない。しかしだ、日本人の若者の死因の第一位は自殺なんだぞ?だったら別に良いじゃねぇか。だいたいボケ老人がアクセルとブレーキ踏み間違えてコンビニに突撃して店員が死亡するような事故が起きてるのに国は規制も対策も講じない。なのになんで自転車ばかり……」
「はぁいどぅどぅ。落ち着いて」
どうやらお兄ちゃんは国に対して不満があるらしい。
まぁ、ボケ老人はどうにかして欲しいよね。超高齢化社会で老人による事故の多発、これからももっと増えていくだろうし。
でも、そんなのは政治家とかが考える事ですよね。小学生が考えるような事案じゃないですよね。
「はぁ……まぁ、そんなこんなでバイクを買おうか悩んでるんだよ。免許持ってるけど大型バイクは高いし、維持費もかかるし」
明らかに『というわけ』じゃない文脈になっていた気がするけど、それは考えない事にしよう。
突っ込むと脱線祭りになりそうだから。
でもどんな理由にせよ、遂にお兄ちゃんがバイクを買う決心をしてくれたのは嬉しいな。
「ここは大型バイク一択でしょ!!お兄ちゃんはルックスは良いんだから似合うバイクが良いって」
あとライダースジャケットってカッコイイし。
革ジャンとかさ、15万の価値はあるって。
あのカッコ良さ、いとカッコ良し。(意味不明)
「お前、ナチュラルに『ルックスは』とか言ってんじゃねぇよ。『は』ってなんだよ、オレはルックス以外はズタボロかよ」
「本当に?」
「え?な、なんだよ、その言い方は」
珍しくお兄ちゃんがきょどった。
これは珍しい、脳内メモリに永久保存しておこう。
「私はお兄ちゃんを愛しているよ、あらゆる意味で」
「普通に兄として愛してくれよ」
「でもさ、歴代の彼女は自分から告白して来たくせに、自分から振ったんでしょ?」
「……ま、まぁな」
「やっぱ性格が」
「うるせぇ。好きでもない女に尽くせるわけがないだろが」
開き直った!?この男開き直ったぞぃ!?
「前にも言ったかも知れんが、オレが女と付き合ったのは惚れている女もいないのに付き合わない人間は社会的に異常という社会的立場からだ」
「ホント、同性愛者がやる社会的体裁のための偽装結婚みたいな意見だ」
「お前は何処でそういう知識を手に入れてるんだ?少なくともあと3年は知らなくても良いだろ」
「無知は罪なり、英知は財なり」
「……グレイスか、あのバカめ。同性の方がいろいろ良いだろうと思ったが、悪かったらしい」
どうやらお兄ちゃんの中での師匠への社会的信頼は低いらしい。
優秀だと思いますよ?人間としてはダメだけど。
幸せになって欲しい……そう切実に思います。
「でもさ、一人もいなかったの?」
「何の話だ?文脈はしっかりして話しなさい」
「お兄ちゃんが心底惚れた人。性別問わず」
「いや、何回も言ってるがオレはノンケだからな。普通に女が好きだからな。人より性欲がないだけだからな」
「はいはいはいはい。それで?居たの?」
「『はい』は一回で十分だ。それに、オレにだって初恋くらいある」
「興味があります!」
それは非常に興味深い、お兄ちゃんはこういう話をしたがらなかったから。
でも私も12歳、そういうことを知っても良い年齢のはず。
「食いつくなよ、妹相手にこんな話したくないっつうの」
「キョーミがありマス!」
「聞かせてもらいましょうか!」
今まで傍聴に徹していたアシュリーとクロが入ってきた。
二人ともやっぱり女の子だもん、やっぱり色恋関係の話は聞きたいよね。
「この耳年増共め……。拒否権を発動する」
「却下!拒否権の行使を拒否します!」
「チッ!!」
フヒヒ、サーセン!
(訳:この私が黙って見逃すとでも思っているのか!)
「で?紅蓮さん。その人とはどうなったのでしょうか?」
リポーター風にエアマイクを口元に近づけて質問する。
「あー……。結論だけ言うと、実らなかった」
「ウェーー!」
無意識にサッカー選手がゴールを決めた時のようにガッツボーズ。
無論、心の中ではない。現実でガッツポーズしている。
「お前はなぁ……。少しは兄貴の初恋を応援しろよ……」
「却下であります!サァー!!」
少しは優しくしなきゃと思っているくせにこれである。
我ながらクズだね。でもそんな私が大好きであります!
「どんな女性だったんです?というか何歳の時で、その時の相手の年齢は?」
クロがその辺りが気になるらしい。
どうせ高校生くらいじゃない?お兄ちゃんの性格を考えればさ。
えっと……誰だっけ?高校生のころの彼女……。
あとでゆうくんに聞いてみるか。
「詳しく聞いてくるなぁ……12歳の時で同い年だよ」
あら、意外。その頃に初恋の人が?
でも、初めて付き合ったのは13歳だって聞いたけど?
初恋が12歳で、その頃に失恋って、お兄ちゃんなら付き合わなそうだけど?
『オレこの前失恋したから、今は誰かと付き合うとかそういう気分じゃないんだ』
って言って断りそう。これは普通でしょ?これが異常ならほとんどの男は異常だよ。
「それで?」
「まぁー、今にして思えば何処にでもいるようなバカな子どもだったな、ありゃ。例えるなら『月光』か。太陽のように触れるもの全てを焼き尽くすんじゃなく、かがり火のように誰かを照らし導いてくれるような、そんな長所と短所が表裏一体のヤツだったさ」
その顔は珍しく惚気顔であった。やはり男にとってファーストラブはとても大事な物だと言うことが良く分かる。こんなお兄ちゃんは見たことない。彼女が居た時ですらこんな顔をしていた記憶はないもん。
「へー、意外。お兄ちゃんってもっとマトモな人が好きなんだと思ってたよ」
メガネ委員長とかが初恋だと思ってた。
ひ弱なくせに重たい百科事典みたいな本を何冊も図書室から教室に運んでいるところを『手伝ってやるから貸せよ』とぶっきらぼうに運んであげたり、給食で出たブロッコリーが食べられなくて困っている時に『ったく、しょうがねぇな、オレが代わりに食ってやるよ』と言って強引に奪ったり……あれ?これってメガネ委員長の落とし方じゃない?というか男性ってどうやって異性を好きになるんだろ?
…………外見?うわっ、単純。
「オレだって生まれた時からこんな感じじゃないんだよ。色んな経験を積んで今こうして愚昧と再従妹と居候と暮らしてんだよ」
「それは何処でどういう経験値を手にいればこんな状況になるんですか?」
「オレもぜひ教えてもらいたいな……」
なかなかこんな状況は訪れませんからね。
13歳年下の妹に、妹と同じくらいの居候、そして15歳も離れている再従妹によるハーレム。
ゆうくんなら泣いて喜ぶんじゃない?
「アイツもロリコンじゃねぇからな」
「アイツ『は』でしょ?」
「『は』じゃねぇよ!!ナチュラルにオレをロリコン扱いするんじゃねぇ!!」




