第15話、真紅の炎はまた燃え始めるpart1
レイがガトリングで無数の魔法弾を撃ってきた。
だけど、今回は避けない。避けたらさっきのようにジワジワと追い詰められる。
魔法障壁を杖に絡ませ、超高速で回転する。円形の残像を生み出した杖が魔法弾の嵐を遠心力で弾く。
どっかの脳みそ筋肉が使った無茶苦茶な戦術を真似してみた。
使えるじゃないか、アイツの戦術!
「クソが!」
ガトリングだったレイの武器が戦車の砲塔のような形状に変形した。
「竜葬絶砲砲撃形態!!ファイア!!」
超極太の熱線が砲塔からもの凄い勢いで放たれた。
あの時、私がクジラを射殺した時よりも巨大な熱線だ。
これを避けたら、また劣勢になる。
ならどうしたら良い?答えは簡単だ。
地に足を踏ん張り杖を構える、倒すべき豪熱の矢を狙いながら。
魔法なんて簡単だ。感覚的になれば良い、理論とかそういう難しいことは全て後付で説明できる。
何も考えずに引き金に指をかけた。
最後の仕上げに、感情と言う最高の燃料を杖に込めさえすれば良い。
それだけで十分なんだ、魔法ってのは本能で使えば良い。
感情を剥き出しにして、思考停止でぶち殺したい目の前の標的を屠ってしまえッ!!
「超音速絶空破壊砲!!くたばれぇぇえええ!!」
真紅の魔槍が杖から放たれる。
放たれた魔槍による反動は今までで最も強い。
反動が体を襲っている。踏ん張っていた足が衝撃のせいで数メートルほど後ろに下がっていた。
戦闘服と言う強固なアーマーを纏ってこれなら、素の状態なら反動のせいで死ねる。
しかし、その衝撃に見合った働きを真紅の魔槍はしてみせた。
目の前の豪熱の矢を破壊し、微塵も減速することなく、超音速のままレイを貫いた。
「ッ!」
声にもならない悲鳴を放ち、レイは倒れた。
死んだか……いや、さすがにそれはない、そう信じたい。
「さぁ、仲間は負けたぞ。次はアンタの番だ、シルヴィア」
「この土壇場で化けたか……まぁいい、レイが負けた以上、私が引導を渡す必要がある」
玉座にふんぞり返っていたシルヴィアが立ち上がった。
戦闘服はおろか、剣すら装備していない。
前回ほど油断していないにしろ、今回も私を過小評価しているようである。
「文字通りの高みの見物を止めて降りてきたか」
「挑発など私には通用しない」
「ふっ、偉そうに。そこの粋がってたバカ同様に私がアンタも倒してやる!」
「『倒す』か、殺すではなく」
「私はアンタ達とは違う!人殺しなんてしたくない!!」
そうだ、こいつが、こいつらが人殺しに何の躊躇いもないのは知っている。
だからこそ、私はこいつをぶっ倒さないといけない!!
「人殺しは大抵の場合、罪として裁かれる。しかし戦場ならば人殺しすら英雄扱いされる、それが戦場だ。得物を手に取り命のやり取りをすることの本質を貴様は理解できていない」
クソみたいな持論だな。
そんな都合の良い理論なんざ知るか!!
「アンタは残酷な人間だ!」
「違う、正しい物の見方をしているだけだ」
「そう」
この女とは話にならない。
だったら分かる説明してやる。
「ならよくある例え話をしても良いかい?」
「なんだ?」
「『100人の他人』と『1人の大切な人間』、どちらか片方しか救えないとしたらアンタはどっちを救う?」
「……」
「私なら迷わず『1人の大切な人間』を選ぶッ!!」
杖を手に取り、シルヴィアに向かって『飛行』びかかる。
「速いな、だが」
音速で振り下ろした杖をシルヴィアは感想を漏らしながら、何も装備していなかったはずの左腕に、なぜか存在している盾で防いだ。ただの盾じゃない、魔法障壁か何かで強化してる。
「どうした?この程度で私と闘うつもりなのか?」
赤子の手をひねるように杖が弾かれる。
こんな杖じゃダメだ、こんな殴りにくいのじゃダメだ。
もっと殴りやすい形状の……それこそブラウンのようなのじゃないとッ!!
意識する、もっとも殴りやすい形状の武器を。
そうだ、殴るんだ。なら殴りやすい手甲で最適じゃないかッ!!
作り変えた武器に力を込める。真紅に燃え上がる炎のような見事な手甲に杖が変形した。
「こいつ、武器の形状を変えた!?」
「感謝するよ、武器の形状は1つに拘らなくて良いって教えてくれて!」
右手の手甲に真紅の螺旋が纏わり、タービンのように回転しだす。
私の固有魔法『飛行』。
その性質は『何かを飛行させること』であり、その何かが特別限定される条件はない。
今までだって私を『飛行』させたり、魔法弾を『飛行』させたりした。
なら私の『腕』を弾丸のように射出してしまえば良い!!
固有魔法によって強化された音速を超えた私の究極の一撃。
さぁ、この月宮紅莉様を見くびったツケを喰らえッ!
「超音速絶空衝撃拳!!砕け散れぇぇえええ!!」
真紅の螺旋を孕んだ拳で正拳突きを披露する。
重力などの物理法則を超越したような感覚が拳を通して感じる。
超音速で私ごと『飛行』している拳は、真紅の軌跡を作った。
永遠のように感じる一瞬で、異音を発しながら、シルヴィアが構えている盾を壊し、盾に隠れていた左腕もへし折り、吹き飛ばす。
「チッ!!」
吹き飛ばされたシルヴィアが激高した表情でこちらを睨む。
バカが。自惚れが過ぎるんだ!!
「まだ終わりじゃないッ!!」
追撃を試みる。
今度は『飛行』びやすい武器だ、間合いを一気に詰め、その加速度のまま突撃できるような武器が良い。そうハヤブサのような鋭い翼が理想的だ。
右腕の手甲が背中に真紅の翼と言う加速装置を作り出した。超音速移動に特化させたこの形状から放たれる体術はひとたまりもないに違いない。
「超音速絶空突撃蹴!!潰れろッ!!」
さっきと同じ要領で、今度は『右脚』を『飛行』させ、空中で腹部を回し蹴りをする。
真紅の刃を形成した右脚がシルヴィアとの間合いを空気ごと切り裂く。
「舐めるなッ!」
シルヴィアの右腕が脚を掴もうとする。ここで掴まれて『破壊』されたら確実に負ける。
刃を脚から飛ばし、その刃はシルヴィアに『破壊』されてしまった。
空振りに終わった私の追撃とは異なり、シルヴィアが空中で体勢を整え、何事もなかったかのように着地した。
「収束砲に固有魔法からの突撃、そしてブラウンの真似の零距離衝撃波……。なるほどこれが貴様のカードか。確かに今の貴様に素の状態はふざけ過ぎただな」
ラフな私服が光を放ち、シルヴィアが戦闘服に着替える。
ノースリーブのブラウスと大きめのスカートに胸と腰を守る装甲、さらにロンググローブの上からガントレット。足を守る鎧は身に纏はずにガーターベルトなのは動きやすさのためか。全体がラメと表現するにはそれに失礼なほど美しく神々しい光の粒子か何かでも中につめこんだのかと思うくらい輝いている半透明のベールのような布地である、それはまるで女神の後光。こんな状況じゃなければ見蕩れていたかもしれない。
「遊びはこれまでだ、この私の実力の一端を見せてくれる」




