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第14話、黄金の銃は炎をかき消す

 クロと紫苑の夢を見て、何ともいえない気分になったので目覚ましの意味も込めてシャワーを浴びる。

 熱湯には覚醒作用があるらしい。だからこそ、こうして熱湯を浴びている。

 心地よい、しかしこれで心が醒めても、心は癒されない。

 現実は変わらないのだ、理不尽なことにな。


「シルヴィア様、今よろしいでしょうか?」

 シャワー室に備え付けられている防水加工のタブレットに通信が入る。

「なんだ?寝起きで頭が冴えていないんだ。後にしてくれるか?」

 よろしくない旨を伝えたが、相手は首を横に振る。

 どうやら今の私には拒否権がないらしい。

 この私に拒否権を発動させないとは余程の重要事態なのだろう。

「残念ながら緊急の要件なのです。機関の本部への進入者が現れました。対処をお願いします」

「なに?相手は誰だ?くだんの『狂犬』か?」

「いえ……それが……」

 口を濁した。どうやら相手の正体はまさかの人間らしい。


 久遠が言っていたファイアモールの3階西側のハンバーガー屋の近くにあるトイレの用具箱にやって来た。ここで問題のMWに入れるらしい。

 ふぅ、とRPGでラスダンの魔王城に入る勇者のような気分で用具箱に『どこでも鍵』を鍵穴に入れ、鍵を回す。


 そして、扉の先の光景に唖然した。

 その光景を例えるなら『暗澹』である。

 空も大地もどどめ色であり、この空間に存在しているだけで意識が飛びそうなくらい気持悪い。

 心の準備が出来ていた私ですらこれだ。久遠はどんな気分でここに来たのか疑問に感じる。


 ここで一番気になったのは未開拓な異世界のような場所に異様な存在感を放つ巨大な建物である。

 人間のさがか、あの巨大な建物には入ってみたくなる。

 久遠があれに入り、魔法少女に始末されかけたと言うのなら私はあの食虫植物のような魔性を秘めてる建物に入るわけにはいかない。むしろあの建物を破壊する!!そうすれば久遠だって少しがなくなるはずだ!!

 

 変身し、武器である杖を取り出し、射撃準備に入った。

 だが、何の脈絡もなく私目掛けて剣が飛んできた。

 

「また貴様か、貴様とは不愉快な縁でもあるのか?迷惑この上ない」

「シルヴィア……!」

 最強の魔法少女であるシルヴィア・リリィ・アルジェントが私の前に降臨しやがった。

 まるで魔王の凱旋のような威圧感がそこにはある。


「ふん、ファーストネームで呼び捨てとはずいぶんな呼び方だな」

「やかましい!そこをどけ!!」


 魔法弾を発射、しかしそれをさも当然のように反応して素手で『破壊』した。

 ヤツにとっては私の魔法弾もゴムボール程度か!


「貴様と遊ぶつもりは無い」

「それは私を瞬殺するってこと?」

「いや、違うな。貴様の相手は別の者が担当させてもらう」

 退屈そうな顔をしたシルヴィアが異次元ポケットから玉座のような絢爛な椅子を取り出しふんぞりと座りやがる。

 そのスキだらけの姿を狙い撃ちしてやろうかと思ったが、マズルフラッシュが見える。

 その閃光に反射的に回避した時に逆に何者かに狙撃されたことが分かった。


「アンタが噂の月宮紅莉か、ブラウンの姉御に聞いたとおりの大バカみたいだ」

 小柄でドリルっぽい縦ロールにクリーム色のジャージに赤ブルマと言うカオスな見た目の五月蝿そうな魔法少女が啖呵たんかを切ってきた。

「それが初対面の相手に言うセリフかッ!このドリル」

「誰がドリルだ!これはウルフウェーブだ!」

「違いが分からん!!」

「このバカがッ!」

 短気のこの魔法少女が彼女の武器であるらしい金色の銃を発砲した。

 サブマシンガンのような銃から一斉に複数の弾丸が放たれる。

 それをこちらが当然のように魔法障壁で防ぐ。

 この程度で返り討ちにされてたまるかッ!!


「ふっ、やるじゃないか」

「あいにく、そこらの雑魚と同レベルに思われても困る!」

「ウチの名前は黄金こがねレイ。アンタを今から倒す相手の名前さ。記憶しな!」

 黄金レイ……前にどこかで……。

『黄金レイさん、年齢は11。固有魔法は『加熱』で遠距離からの狙撃が得意な方ですが、中距離も近距離も苦手ではありません。その射撃能力の万能性は状況によっては最も優れた魔法少女でもあると言われてます。ちなみに昨年の個人戦では3位でした』

 この前の勉強会でのひなちゃんの言葉を思い出した。

 そうか、この生意気で可愛げのないガキがシルヴィア、ブラウンに次いでの魔法少女か。

 でもあれだ、『破壊』と『創造』の二重ダブル能力や『予知』能力とかに比べると『加熱』と言うのは迫力に欠けるね。


「倒す?大層な自信だね!!」

 牽制のつもりで魔法弾を発射。

 だけど、私の魔法弾はサブマシンガンから放たれた銃弾が全て命中し、魔法弾はその存在が最初から存在しなかったようになってしまった。

 どうやら話に聞いたとおり、射撃能力は抜群のようだ。


「どうした?威勢の良さだけがアンタの強みじゃないの?」

「口の悪いガキのくせに!」

「は、雑魚が粋がる!!」

 レイが武器であるサブマシンガンの形状を変えた。

 武器がガドリング、連射性に優れた回転式マシンガンに変形した。

「さぁ、圧倒させてもらおうじゃないか!」


 砲身が回転し、無数の魔法弾が射出される。

 すかさず魔法障壁を作って防御するけど、魔法障壁が削れている。

「チッ!」

 予想以上の攻撃力に舌打してしまう。どこぞの最強様と違って破壊されないけれど、この嵐のような砲撃は防ぎ続ける事は不可能だ。

 これが第三位の『加熱』の実力か。


「言わなかった?ウチは射撃能力に関しては最強なんだよッ!!」

 魔法障壁を地面にぶっ挿して、空に逃げる。

 いくら射撃の名人だろうと、空中を超音速で『飛行』できる私を撃ち落とす事は……。

「打開策を思いつくまで空に逃げてるつもりか?ウチを舐めんな!!」

 レンズがレーダーのような紋様になっているメガネをポケットから取り出し、装着した。

 そして、レイは再度魔法弾を撃った。

 無論、魔法弾の嵐を縦横無尽に移動して回避した、いや、したはずだった。

 なのに、魔法弾は不可思議な軌道を描き、私を襲った。


「なっ!?」

 魔法弾の集中豪雨により墜落してしまう。

 まさかこの女、私が魔法弾を『飛行』させたようになんらかのトリックで魔法弾を随意に動かした!?


竜葬絶砲ドラゴンバスター鎮圧形態アサルトモードファイア!!」

 ガトリングだったはずの銃が今度はボルトアクション式のショットガンのような形状に変化し、マズルフラッシュを放つ。

 そのマズルフラッシュがそのまま金色の弾丸に変わり、こちらを直進してきた。

 とっさに魔法障壁を築くが、魔法障壁はいとも容易く破壊された。

「もう一発!!」

 跳躍して間合いを詰めたレイが至近距離でショットガンの引き金を引いた。

 ショットガンの銃口から飛び出した金色の弾丸が私に直撃し、その衝撃で吹き飛ばされる。


「まだ終わらせねぇよ!!」

 ショットガンの形状が元のガドリングに戻り、ダメ押しに無数の魔法弾が私を襲った。

 強烈な衝撃と猛烈な痛覚が全身に響き渡る。

 まるで大人の男にリンチされてるようだ。


「くくく……あははは!なんだよ、この程度の実力で班長に、シルヴィアさんに挑もうとしてたのかよ!!笑いが止まらないよ!」

 嘲笑していた、私の前で勝利の美酒に酔いしれたレイが嘲笑していた。

「なぁなぁ、今どんな気持ち?傲慢なプライドをぼっこぼこにされて、完全敗北した今の気持ちってどんな気分なん?班長や姉御みたいな一流の魔法少女じゃなくてウチみたいなのに負けた今の気分ってさ!!」

 頭を鷲掴みされ、崖にどんどんと叩きつけられる。

 遊んでやがる、こいつは私で遊んでやがる……。

 今私はこんな奴に遊ばれているんだ、幼児が死に損ないの昆虫を解剖して遊んでいるように。

 そう思うと体から怒りが沸いてくる。


「アンタみたいな奴、ウチは大嫌いだ。だからさ、死んじゃえよ」

 ガドリングの銃口が零距離で眼前に存在した。

 死ぬ?私が?こんなところで……?

 久遠に謝罪もできてないのに……?

 ……調子こいてんじゃねぇよ!!クソガキがッ!

 逆にぶっ殺してやる!!


 はぁ……なんだ?この不毛な戦いは。明らかにレイが優勢ではないか。

 そもそもあのバカはなぜこんな所に向かってきた?

 一番の疑問はそこだ。ヤツが酔狂な存在なのは知っていたが、このような奇行は伊達や酔狂だけでは説明が出来ない。

 重度のシスコンである月宮紅莉ならば、月宮紅蓮のためならばこんなことをやるかもしれない。

 となると現在の月宮紅蓮の行動が気になる。

 通信機で本部に連絡してみる。

「はい、なんでしょうか?」

「私だ、少し良いか?」

 通信士が私の通信に応えた。


「分かるならで良い、現在月宮紅蓮は何処で何をしている?」

「少々お待ちください……本日未明、月宮紅蓮名義のクレジットカードがアルジェント皇国首都、フィンブルのホテルで使用された事が確認できました」

「アルジェント皇国?あの男はなぜそんなところへ?」

「そこまでは分かりかねます。私用か何かではありませんか?」

 分からない、それはつまり月宮紅蓮の行動について機関は無関係と言う事だ。

 なら、月宮紅莉の奇行は兄である月宮紅蓮のことではないのか。


 そんなことを考えていると、耳を穿つような轟音が響き渡った。

 なんだ?なにが起こった?

 レイが引き金を引いた瞬間、逆にレイが私の近くにまで吹き飛んだぞ?

「レイ、どういうことだ?何があった?」

「わかりません、気付いたら吹き飛ばされていました」

 レイにも何が起きたのか理解できていないらしい。

 月宮紅莉の方を見てみる。だが、能力暴走オーバードライブのような形跡も見当たらない。

 けれど、月宮紅莉の顔は、表情は鬼か悪魔のように激高していた。

「好き放題言いやがってこのクズ共が。私のことをバカにして良いのは、私の友達だけだッ!!」

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