第10話、伽羅の拳は過去と巡り逢う
あ~、くっそつまんねぇ……。
ワタシは暇な1日を散歩と言う非常につまらない行為で浪費していた。
戦闘以外の趣味がないというのも考え物である。
『狂犬』とか言うゴミのせいで対人戦は極力禁止、おまけにシルヴィアもレイも忙しいらしい。蒼子の方はゲーセンに通ってる、ビデオゲームは嫌いなんだよ……。なんであんな思い通りに動いてくれないのに必死になれるのかが疑問になる。
いっそのこと『狂犬』がワタシを襲ってくれれば楽しそうなのになぁー。
不愉快過ぎて饒舌な感じになってきてる……カラオケでも行こうかな?
でもヒトカラって気分じゃないし……蒼子の選曲のセンスはなんか嫌いだ。
などと思っていると、急に違和感を感じた。
街中を歩いているはずが、気が付けば辺り一面がアメリカのグランドキャニオンのような渓谷に変わっていた。
MWか?珍しい、自然発生したMWに遭遇するなんてのは3回目だっけ?
MWってことはモンスターが居るってことだろ?だったら鬱憤晴らしには丁度良い。
「こちらブラウン、偶然ではあるがMWに遭遇。これより探索を開始する」
面倒だが、機関に報告しておく。
万が一、オレが死んだ場合のことを考えておくとこうする義務がある。
救援とか応援とかはいらねぇけど。
渓谷の断崖を背にしながらモンスターを探して歩く。しばらく歩くと、60センチくらいのモンスターらしき存在に出くわした。
黒い鬣のライオンをデフォルトしたぬいぐるみのような姿、ぬいぐるみ……?
『邪悪な使いの活殺陣、無垢な親衛隊』
かすれた声で囁かれた魔法名に従いカッターナイフを装備したぬいぐるみがワタシに突撃してくる。
右腕を武器化してぬいぐるみを迎え撃つ。
魔法障壁にぶつかったぬいぐるみは衝撃の反動で押し返される。
このぬいぐるみにあの魔法名……間違いない、コイツ……いや『狂犬』の正体はアイツだ!!
「ククク……ハハハッ!!最高だ、最高に愉快じゃねぇか!!なんでテメェがそんなことをしてるのかは知らねぇが、この展開は予想外すぎるぜ!!」
楽しい、楽し過ぎる!
今から最高の殺合ができるのかと思うとわくわくしてくる!
「おい!出て来いよ!どうせ近くで見てるんだろ?隠れてないで姿を見せても良いんじゃないのか?もうオレはテメェの正体に気付いてるんだからよ!!」
オレの声に反応したのか、死神のようなローブとアイマスクをつけてソイツは現れた。
「へぇ?それが今のテメェの姿かよ。随分と不気味な姿に成り果てたな。それとも本当に亡霊か?」
「…………」
「どうした?実は口を利けない人魚姫だとか言うつもりじゃねぇだろう?」
挑発する、実に楽しい。この時点で楽しいなんてのは中々珍しい。
こんな所でこんな兵とこんな退屈している時に会えるなんてこれでハイにならない方がどうかしてる。
「……君は、変わらないな」
「はぁ?何の話だ?」
予想外の回答に困惑する、そりゃテメェが通り魔なんてしてるのに比べたらオレは全く変わってねぇよ。
「まさか君が釣れるとは思っていなかったよ」
「釣れる?意味が分からん……」
どうやらコイツは誰かを探しているっぽい。
そのためにこんな狂気の沙汰を繰り返してるって訳か?
「良いよ、分からないのなら。どうせ君は逃がしてくれそうにないし」
「もちろんねぇよ。あるわけないって。だってそんなのつまらねぇじゃねぇか、極限的に」
「……なら君が負けた時、シルフィーを呼んでくれるかい?」
「シルヴィアを?なんでだ?テメェなら呼べば飛んできてくれるだろ?」
今のコイツは本当に訳が分からん。そのくせ何も説明する気がないと来る。
考えるだけ面倒だな、考えるならぶっ倒してからにしよう。
「これ以上、君と話すつもりはないよ。それじゃ、始めようか」
「あぁ、それで良い。オレとしてはそれだけで十分だ!殺し合いを始めようぜ!!」
こちらが攻撃を仕掛ける前にぬいぐるみの1体がオレを狙撃するのが『予知』た。
狙撃してきた方に手を構え衝撃波で弾丸をはじき返す。
「不意打ちか、オレじゃなかったらお陀仏だぜ」
狙撃してきた角度から計算して狙撃手の位置は分かった。
しかし、ここで潰しに行けばおそらく相手の思う壺だろう。
戦略が苦手なオレでもそのくらいは分かる。
狙撃手から狙い撃ちされないように遮蔽物で身を守るよう移動した。
オレの記憶が確かなら『無垢な親衛隊』は6体のぬいぐるみに分割したアイツの武器だ。おまけに戦場は障害物だらけ。6体全部をぶち殺さない限り、オレの勝ちじゃない。
ならどうする?見つけ次第各個撃破のサーチアンドデストロイか?
いや、そんな面倒な方法よりも!
『崩落する楽園!!』
鍵爪を開いて、地面に押し付け、ありったけの障害物を破壊し尽くす。
デスマッチ形式の方が楽しそうじゃねぇか!!
さすがにこの程度の攻撃じゃ『無垢な親衛隊』は1体も倒せてない。
けど、アイツの姿も丸見えだ。
「君の闘い方は本当に野蛮だね、狙撃手が居ると分かっていながらあえて周りを平地に開拓するなんて」
「ほざけ、人の闘い方に文句を言うならそんなのじゃなくてアレを使えよ」
そうだ、アレと闘いたいんだよ、オレはな!!
だが、オレの挑発を無視して狙撃手が狙撃してくるのが『予知』た。
無論、それが『予知』たのだから狙撃された方向に手を向け、弾丸を弾き飛ばす。
「残念ながら、君相手に『無垢な親衛隊』じゃ相性が悪いか……『荘厳な重戦士』」
ようやく相性に気づいたアイツが6体のぬいぐるみが集めて2メートル近くある狼男の姿にした。
この集合体である『荘厳な重戦士』と殺り合いたかった
「あぁ、それで良い!!そうじゃねぇと昂ぶらねぇんだよ!!」
『荘厳な重戦士』目掛けて跳躍して殴りかかる。
戦闘服の上からでも触れられただけで敗北決定さ、でもそれが良い!
あのシルヴィアとの殺合とは違うこの緊張感、あぁ、最高だね!!
プロレスラーのように逞しい右腕で『荘厳な重戦士』がオレの攻撃を防ぐ。
防がれることは想定の範囲内、そのままの体勢で右目を蹴る。
『荘厳な重戦士』に直撃するが、痛覚がない『荘厳な重戦士』は全くひるまず、オレの腹部に裏拳してくる。
それをガードするが、衝撃で体が吹き飛ばされる。
くぅぅ!体中が痺れてくるね、この感触は!!
今までテメェのせいでお預け食らってたんだ!だからもっともっとオレを楽しませてくれよ!!
なぁ!狗飼クロ!!




