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第9話、真紅の炎は道を選んでしまった

 お兄ちゃんが私の元を去ってから3日が経過した土曜日、明日になればお兄ちゃんが帰ってくる。

 長かったなぁー。というわけで今日は正式に学校も存在しないのでみんなでファイアオウル内の映画にやってきた。

「これ、欧米で人気なんだよねー」

「そうらしいけど、興行収入しか宣伝しない映画って嫌いだわ。センスの欠片もない無能な宣伝よ。これだから日本の映画はダメダメなのよね」

 どうやら日本の映画業界に対してななちゃんは不満爆発なようです。

「ななみ、良いのかい?小学生料金と言う詐欺を働いた上に奢ってもらって」

「小学生料金と言っても中学生料金と変わらないし詐欺にはならないでしょ」

 違う、突っ込む点はそこじゃない。


「さ、行くわよ」

「え?ポップコーンとかは?」

「は?なんでそんなのを買うの?高いじゃない?」

 こやつ!?金を持っているくせにそういうのは拒むか!?

「あとポップコーンは嫌いなの」

「でもジュースは?」

「バッグの中に入ってるし?」

 コラァー!映画館は基本的に飲食物の持ち込みは許されてないでしょが!!

「モラルハザード」

「開き直るな!」

 いつもとは逆の感覚が新鮮である。


「マヤ知っているかい、モラルハザードと言うのは経済学の用語でもあるんだ」

「へぇ~、久遠ちゃんは物知りだねぇ~」

 ホント、久遠は物知りですねぇ。経済学……勉強したくねぇー。


 さて、各所で大人気らしい映画が始まる。

 映画って最初の5分か10分くらい他の映画の予告をするよね。

 映画って実は本編よりも予告の方が面白いんじゃないの?と思うくらい予告って面白いよね。

「だからこそ、予告を適当にするような制作は大嫌い」

 本当に何があったんだろうか?ななちゃんの人生に。

「それを語ると、映画が終わっちゃうわ」

 どんだけ長い思い出が!?


 などと要らぬ話をしていると本編が始まった。

 …………あぁ、最初に主人公のお母さんが末期がんで死ぬんだ。

 ……え?そこで宇宙人に拉致されるの!?文脈とか無茶苦茶じゃね!?


 ★

 主人公の船が爆発して主人公が宇宙空間に生身で吹っ飛ばされた。

 ……あれ?宇宙空間って大気圧がないから生身だと肉体が膨張して破裂するんじゃないの?違うの?

 凍るだけで良いの?ヤヴァイ……化学考証が気になって純粋に物語が楽しめない。


 ★


 あ、エイリアンにヒロイン殺された。

 そこで主人公が弔い合戦って単純な展開で強引なアクションパートだなぁ

 …………え?主人公が急に何かに目覚めて魔法を使ってラスボス倒しちゃったよ?

 今までのアクションパートが何だったんだ?茶番じゃねぇか!!


 私はこんなのに金を払ったの?

 はぁー、興ざめだわ……。



 映画を見終わった私たちはゆうくんの喫茶店でお昼ご飯にすることにした。

「いらっしゃいませー、おや紅莉ちゃんにその他2人……あれ?4人?見ない顔だ……ね……?」

 店員であるゆうくんが久遠の顔を目を凝らしてよく見た。

 なにか危険な香りを感じる。


「きみ……どこかであったことない?」

「!?」

 久遠は露骨に驚いた。というか何をやっているのかね?この25歳は。


「ゆうくん、さすがにこの年の女の子をナンパするのはどうかと思うよ?」

「失礼な!俺は16歳未満の娘はストライクゾーン外だ!」

「16歳って、高校生はロリコン扱いだって聞くけど?」

「なにをバカなことを言ってるのかな。女子高生は結婚することが許されているんだよ。ならアプローチしようと法的な問題はないし、社会的にも問題はないはず」

 おいおい……マジで言ってらっしゃるよ……。

 危ないなぁ、本当に女子高生に手を出しそうだ。

 そしたらロリコンのレッテル貼られるんだろうね。

 お願いだからせめて女子大生にしましょうよ。

 女子大生なら金持ってたらイケるような股ゆるだってサイレンさん言ってたし。

 あの人、童貞だけど。


「ゆうくん、もとい店員さんに会ったことある?久遠」

「さ、さぁ?一店員の顔まで把握してないし、この店に入ったことはない気がするけど……」

 なぜかしどろもどろな発言である。ただならぬ関係か?いや、それならゆうくんがあんなことを言うわけない……となると、この無茶苦茶な空気に引いているってことか。

 うんうん、私だって初対面の店員があんなこと言ってたら引く自信がある。

 だから、この人はモテないんだよ。

 男はもっと清々しい方が良いと思います。

 具体的に言うと、お兄ちゃんとかお兄ちゃんとか、お兄ちゃんみたいなのとか。


「さて、ところでお嬢さん方。お客なら何か注文してもらいたいんですけど?」

「あ、それもそうか。ななちゃんとマーちゃんは?」

「アイスティー」

「わたしはクリームソーダ」


「久遠は?」

「えっと……じゃあレイコー」

「ゆうくん、アイスティー2つとクリームソーダとレイコーを」

「承りー」


「ワタシ、リアルで初めて聞いたわ『レイコー』って」

「こっちじゃ言わないもんね。『アイスコーヒー』のことを『レイコー』って」

「え!?『レイコー』って『アイスコーヒー』のことだったの!?」

 知らなかった、てっきりそういう飲み物があるのだとばかり……。

「知らないで頼んでたのね。ところで久遠、さっきの映画ってどう思う?」

「は!?なんで!?」

 どうやら久遠は映画を見た後で感想とかを言い合わないらしい。

 普通やるよね?え?やらないの?

「ん?こういうのはトップバッターが一番言いやすいと思ったのだけれど?」

「いやいやいや!皆からどうぞ!」


 ならば、ここは私から言い出そう。おそらく今の言い方から察するにそんなに良い感想は抱いてないね。

「じゃあ私から。アクション以外に見るものがなかったとても残念な内容だったと思ったね。今まで見た洋画の中でも群を抜いた駄作じゃないかな?」

「そう?ワタシはもう少し点数を上げても良いと思ったけど?終始展開が予想できなかったから」

 とななちゃんが反論。


「展開が予想できなきゃ良いってレベルじゃないって!最後に主人公が強引に魔法使ってチャンチャンって最後じゃ意味が分からないよ!」

「別に最後じゃないでしょ?次回作はもう決定してるから」

「え?マジで?」

 おいおい、あんな駄作のくせに続編作っちゃうの?

 マジかよ、というかアレが高評価だというのが信じられないんですけど。

 だから洋画の泣く要素が皆無なのに『全米が泣いた』とか謳ったり、何本もある『今世紀最大の話題作』とか平気でほら吹いたり、どれだけの価値があるのか分からない賞の受賞とか規模とかを鑑みてすごいのか良く分からない興行収入とかを重視したりとかって嫌いなんですよ、私はね。


「本当だよ?たしかアメリカじゃ再来年に公開予定って宣伝してたよ」

 マーちゃんも言っている。どうやらマジ情報らしい。

「うわー、ないわー、映画はちゃんと完結して欲しいわー。続編前提じゃなくて人気でたから続編の方がね」

 でも、あれは嫌い。

 三部作と謳っておきながら人気が出たからは四部作目も作ります的なの。さらに酷いのは全巻収納ボックスを売っておきながら続編を出すから1個だけなんか浮いた感じで棚に陳列されることになっちゃうんだよ。


「そうね、伏線と言えば聞こえはいいけど、最後まで見ないと判断に困るのは視聴者として評価に困るもの。12話のドラマを1話目で評価を下すような物だから」

「ホントホント、困る困る。私は人が死んで、その人の死を乗り越えるような物語って大嫌い。それって結局、死んだ人を忘れるってことだよね」

 私のセリフに久遠が露骨に反応した。

 けど、何かを言うわけでもなかったのでななちゃんが会話を続けた。


「そこは今後の見所よね。ヒロインの死を引きずるのか、それともヒロインの死を忘れて新しいヒロインとラヴるのか」

「まぁー、そうなるよね。けど作風から考えて後者になりそう」

「女は過去の男を忘れて新しい男に乗り換え、男は過去の女にとらわれて新しい女になかなか乗り換えられないって言うけど」

「そこら辺は恋愛モノじゃないから適当で済ましそう。というかアメリカのドラマって主人公達の恋人ころころ変わるし」

 私がしゃべった後で久遠がお冷が入ったコップを床に落としてしまった。ガラス製じゃないからかコップは割れてない。



「ごめん、気分が優れないから帰る」

 若干、不機嫌そうにしながら席を立ち、そのまま店を出て行った。

「どうかしたのかな?」

「……もしかして、案外気に入っていたのかしら?」

「あちゃー、それは悪いことをしちゃったね」


 やっちまった、と反省しているとゆうくんがアイスティー2つとクリームソーダとアイスコーヒーを持ってきた。

「はい、お待たせって……あれ?さっきの子は?」

「気分が悪いとかで帰りましたよ」

「そっか、じゃあこのコーヒーは俺が……」

「いや、ちゃんとこっちで処理しますから」

「そう?こっちとしてはその方がありがたいけど」

 と、4つの飲み物を置いてゆうくんはまた仕事に戻っていった。


「しかし、久遠ってああいうのが好きなのかしら?」

「う~ん、そもそも久遠っていろいろと謎だからね」

 思えばほとんど知らない。『久遠』ってのが上の名前なのか下の名前なのか、そもそも本名なのかすら怪しい。そもそもなんでホームレスなのかすら知らないし……。

「……マジメな話、紅莉は久遠をどうしたいの?」

「どうって?」

「今後のこと。お兄さんがこっちに帰ってきたら紅莉は当然、家に戻るのよね?そうなると久遠はどうなるの?久遠だけワタシの家に居候させるの?」

「あー、そういうこと……うーん、ぶっちゃけ何も考えてない」

「……ホント、あんたはブレないわね」

 あ、これはマズったな。好感度が下がった。


「まぁ、私としては今後もこういう『特別な何かがあるわけじゃないんだけど、絶対に失いたくないとうとい日常』が過ごせたら良いなと思ってる」

「そうね、確かにそれが一番ね」

「えっと……どういうこと?」

 ニュアンスが分かったななちゃんと何を言っているのか分からないマーちゃん。


「端的に言うと、こういう日のこと。夏休みだって適当に時間を浪費することで過ぎていくじゃん?自堕落と言うのは人間にとって最上級の贅沢なんだよ」

「いや、それは違うでしょ」

 とななちゃんに突っ込まれる。

「あれ?違った?」

 私が自分で言った事なのに。

「結局の所、平凡だけど平和な日常が一番ってことでしょ?」

 イエス。


「えっと……でもそれって当たり前じゃ?」

「マヤ、紅莉が言っているのは『自分にとっての当たり前は誰かにとっての当たり前じゃないこと』ってことなのね。例えば、紅莉は朝食にパンと味噌汁を食べるけど、こんな朝食は日本に何人居るのか分からない。けど、紅莉にとってはそれが当たり前で普通なことなの。ワタシだってそうよ。毎日毎日スーパー銭湯で40、50のオバサンに裸を見られながら大きな湯船に入ることは普通の事だけど、他人からしてみれば贅沢に感じるかもしれない。つまり、個々人にとっての平凡や普通なんてのは相対的な物であって、真の意味での平凡や普通なんて存在しない。だからこそ、自分にとっての当たり前をいつまでも享受したいと言うわけ。そうでしょ、紅莉?」


「いやはや全くその通りでございます。私は最近、いろいろあって大変なんだよ。でもこうして親友2人とぐだぐだとさっき観た映画の感想を言い合えるような時間も存在する。それってとっても幸せな事だと思うんだよ。よく言うじゃん?『大切なものは失って初めて気付く』って」

「ご苦労さまね、隠れて何かをやっているのは薄々気付いていたけど。自分にとって何が大切なのかが分かったことは良いことだと思うわ」


「そう、だから愛してるぜ!」

「あ、そういうのは大丈夫だから」

 一蹴された!

「あ、わたしも大丈夫だよ」

 マーちゃんにまで!?

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