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第5話、深蒼の氷は努力する

「ユニコーンだ」

 コロシアムでの集会が終わった後、学校に行くのもダルかったのでお兄ちゃんの執務室でアオちゃんにチェスで8連敗していた。そして数時間後、このようにモンスター討伐に来た。

「あぁ、ユニコーンだな」

「ユニコーンですね」

 同じ班員であるアオちゃんとひなちゃんも同じ意見である。

 一本角が生えた白馬と言えば、ユニコーンであり、ユニコーンでしかない。


「モンスターって前々から気になってたけど、モンスターの種類ってのはどうなってるわけ?」

「何も知らない紅莉のための勉強会は帰ってからで良いだろう」

 疑問を吐いたら勉強会が確定してしまった、なんてこった!?


「ところで、ユニコーンの習性って知ってるか?」

「さぁ?処女にうるさいってことくらいしか知らない」

「処女?」

 いきなり何を言っているんだ?と言う疑惑の念を込められて聞き返される。

 でもこれは有名でしょ?有名じゃないの?


「けっこう有名な話だと思うけど、ユニコーンは非常に獰猛でありながら処女を好み、処女が近づくと大人しくなると言う神話だかがあるらしいよ」

「ほぅ、勉強不足だった。ちなみに聞くが紅莉は?」

「無論、処女だ!」

「嘘か?」

「疑っているの!?」

 普通は『本当か?』だよね?なんで嘘って前提になるの!?


「信じられたら苦労はしない」

「お兄ちゃんとの一線なら私だって越えたいよ!」

「あぁ、これは信じられそうだ」

 目を瞑りながらぼそりと呟く。どうやら本気で疑っていたらしい。

 なんだろう……私ってもうちょっと良い扱いを受けるべきだと思うんですが……。


「あのぅ……さっきから何を言っているのですか?」

 話についていけない(らしい)ひなちゃんがアオちゃんに質問した。

「何をとは?」

「『処女』だの『一線を越える』だのってどういう意味です?」

「ぼふっ!」

 おっと、流石のアオちゃんはこの質問に対して予想外らしい。


「えっとだな……まぁ多くの人間が乗り越える試練のようなもの……か?」

 誤魔化した!誤魔化しやがった!!ゆるくふわっと誤魔化しやがった!

 意味は確実に分かっているはずなのに誤魔化しやがった!!


「さて、処女に対しては大人しいなら今回の討伐は楽に終わりそうだな」

「んじゃあ、私が先制攻撃をしかけるよ」

 踏み込んで零距離攻撃を試みたんだけど、ユニコーンはいなないて角で胸部を切り裂かれた。


「ぶるわぁ!!」

「おんばッ!急に怒り出したよ!?」

「何か気に食わない事をしたんじゃないか?」

 冷静に物申すアオちゃん。

「何もしていないよ!!」

「本当か?心当たりは?」

 心当たり……そういえばユニコーンは処女だと思ってた娘が非処女だったら自慢の一角で八つ裂きにすると聞いたけど、まさかそれ?

「それだ、きっと紅莉を非処女だと思ったんだろ?」

「なんだとーーーっ!!」


「ふん、ならここはアタシが……」

 刀を構えてユニコーンに近づいたんだけど。

「ブルブルバァ!!」

 今度はさっきよりも強く暴れだした。


「お、おい……さっきよりももっと暴れだしたんだが?」

「きっとヤリ○ンだと思われたんだよ」

「冤罪だ!この年でその称号は不名誉過ぎるわ!!」

「待った、そもそもこのユニコーンが神話のユニコーンの言い伝えが通用するとは限らないよ」

「そ、そうだな。処女だろうと構わず襲っているだけかもしれない」

 私の冷静な判断にアオちゃんが納得する。

 そりゃユニコーンなんて神話の生物がこのMWムーにも通用するとは限らないって。

 そうやって目の前の可能性から逃げていると、ユニコーンが猛スピードでひなちゃんの方へ走った。

 マズイ!!


「ひなちゃん!逃げて!!」

「常盤ひな!逃げろ!」


「ほぇ?」

「ふりゅるる~」

「なんか大人しくなっているんですけど……」

「おいおい、どういうことだ?アタシの理解力を超えだしたんだが?」

「やっぱり非処女だと思われたんじゃ?」

「納得いくかーっ!!」

 あ、キレた。アオちゃんがキレた。


「死ねぇぇえええ!!」

 ユニコーンは一瞬で木っ端微塵に切り裂かれた。

 わーお、この前のクマみたいな一撃必殺だ。

 ホント、この子は強いわ。

 これでシルヴィアにボッコボコにされたって言うんだからね?

 おかしいよ、あのクサレ○○○(自主規制)のスペックは。


「ふん、雑魚の分際でコケにしやがって」

「いやはや、さすがでありんす」

「何処の方言だよ、それ」


「へへぇ~、お見事でございます」

「だから何なんだ?その話し方は」

「アオちゃんが居れば戦力としては十分でしょうさ」

「なんでそんな太鼓持ち?」

「と言うわけで、ここ数日、お暇をいただきたいのですが」

「却下だ、却下、認められるわけないだろが」

 逃げようとした私の襟首を掴んで連行された。


「ほれ、帰ってからご要望の勉強会の開始だ」

「そんな要望をした覚えはありません!!イヤダー!帰らせろぉー!」

 アニメみたいな駄々をこねたけど、びくともしない。

 おいおい、この子の握力どうなってんの?


「さて、じゃあ今回は勉強会と言うことで……何が聞きたいんだ?」

 (強制的に)勉強会が始まってしまった。

 やだなー。こういうのってアレじゃないの?

 習うより慣れろ!!って感じな?

 まぁいいか、とりあえず聞きたかったことだけ聞いておこうかな。


「武器について?」

「もう慣れただろ?」

 この調子で行くなら帰るよ!私だって人間だもん!感情くらいあるよ!!


「まだ何か分からない事でもあるのか?」

「うーん、分からない事と言うか……むしろ何を分かっているかが分からないみたいな?」

「そ、なら知ってることも説明するかもだが我慢してもらうことになるが?」

 うぇぇ……めんどうくせぇ……

「がんばります☆」

「今すごい顔した後でかわい子ぶらなかったか?」

 き、キノセイダヨ……?



「まぁいい、武器は基本的にその魔法少女が使いたいものや使いやすいものを使うのがメジャーだ」

「それくらい知ってるって、というかそれしか知らないんだって」

「だから説明しているだろ、『使いやすいもの』だって。例えばアタシなら剣術のための日本刀だし、ブラウンなら接近戦特化の鍵爪。そしてレイのように多種多様の重火器を使用する奴だって居る」

「レイ……?誰それ?」

 まだまだ魔法少女の知らないキャラが多いみたいだ。

黄金こがねレイさん、年齢は11。固有魔法は『加熱』で遠距離からの狙撃が得意な方ですが、中距離も近距離も苦手ではありません。その射撃能力の万能性は状況によっては最も優れた魔法少女でもあると言われてます。ちなみに昨年の個人戦では3位でした」

 と、アオちゃんに比べたら説明が上手なひなちゃんが詳しく説明してくれた。

「で?そのレイとか言うのは多種多様な銃を使うわけ?」

「そう、武器の使い方は理解してるんだろ?自分の望む形状に変わる。接近戦に特化したならそういう形状を、遠距離に特化したならそういう形状を想像すれば良い。こんな風に」

 そう言うと日本刀を取り出して、その日本刀を弓にした。

「おぉ!?そんな使い方だ!」

「アタシは弓術は全然できないから弓矢こんなのなんて基本的に使わないが、使うことは出来る」

 なるほど、なるほど。確かに私も『魔法少女の武器ならやっぱ杖でしょ!』なノリで杖をイメージしたからねぇ。もっと考えた方がいいかも。


「武器関連で1つ聞きたいんだけど、掛け声的なのってないの?」

「掛け声とは?」

「少年漫画とかであるじゃん?『ロッケト!パァーーンチィ!!』みたいなの」

「アタシは言わないな。そういうのは」

 と冷めた顔で言うアオちゃんに対してひなちゃんが予想外の反応をした。


「ダメですよ!ダメ!!戦闘中に声は出さないと!!」

 おぉ、ひなちゃんはこういうのは言うタイプらしい。

 ……と言ってもひなちゃんが技名を叫びながら闘ったところを見たことないけど。


「言葉には『言霊』と呼ばれる霊力が宿るのです!だからこそ言葉を発する必要があるのです。また『名は体をあらわす』と言い、名前を付けることでその言霊はさらなる力を発揮すると考えられているのです!!」

「常盤ひな、『名前負け』と言う概念を知っているか?」

「そ、そんなことを言ってしまっては!名前に負けなければよいのです!」

「んなこと言ったら言霊なんてのよりも体力と技術の方が実戦では役に立つだろ?」

「ぐぬぬ……!」

 あら、意外な組み合わせが口喧嘩しちゃっている。

 ここは年長者として止めなきゃね。


「まぁまぁ、少なくとも私はそういうの気にするよ。そうだね、名前は大事だと思うよ」

「へぇー、言うじゃないか」

 アオちゃんが不満げに言う。どうやらひなちゃんの肩を持った事が気に食わないみたい。

 身近にいますからね、自分の名前を嫌ってる人が。

「他意は無いよ。名無しの技よりはちゃんと名前をつけてその技名を叫んだ方がなんか良いじゃん?」

「いや、どっちでも良いよ、アタシは」

 心底興味なさそうなアオちゃん。まぁ、これは人の趣味と言う事で。


「というわけでひなちゃん。話を続行して」

「あ、はい!分かりました」

 パァっと笑顔になってひなちゃんは話を始める。

 く、こやつ……かわゆいぞ……!

 これが小動物系の魔性か!!


「腹式呼吸などの特殊な呼吸法には体内を活性化させる効果やリラクゼーション効果があると言われているのです」

「ほほぅ、それで?」

「中国拳法やヨガなどでも呼吸法は重要視されています」

「ふむふむ」

「また発声にはダイエット効果や健康維持、ストレス発散になると言われてまして、肺活量が増えます、肺活量が増えると……」

 ヤヴァイ、面倒くさくなってきた。


「要するに、呼吸法の改善と発声による気合が戦闘時には有効だってことだろ?」

「……要約すると、そうなります」

 アオちゃんに要約されてしょんぼりしちゃったよ、良かったぁ、止めたのが私じゃなくて。


「次にモンスターについて教えて欲しいです」

「モンスターの種類についてはコメントができない。強いて言えば、現実世界でも居るような動物が多い。が、先日の空飛ぶクジラやユニコーンのように非現実的な種類もいる。それから危険度、危険度はモンスターの大きさが小さくなるにつれて高くなる傾向がある。基本的にEクラスからAクラスの5段階でカテゴライズされてる。紅莉が最初に遭遇したクマ型がCクラス、三人で討伐しに向かったクジラ型がDランク、私が死に掛けていたクリオネ型がAランクとされてる。常盤ひな、今の説明に何か問題はあるか?」

「え?……いや特に何もないと思いますよ」


「でもさ、クジラがDってあれよりも大きいのが居るの?」

「極稀にだが居るな、極稀にだが」

 大事な事だから二回言ったの?そんなに大事な事だったの?

「えぇ、居ますよ。極稀にですけど」

 ひなちゃんまで強調したよ。

 なんなの?そんなに大事なの?

 某はぐれちゃったスライム的な経験値サービスくらい珍しいの?

 倒すと強くなれるの?


「また、逆に既存の常識が通用しないSクラスも存在するそうだが……これは3年に1度くらいの割合で来るから紅莉には関係ないかも」

「そうですね、私もS級クラスには関りたくないです。あんなのはわたしたちには」

 アオちゃんは現実的に、ひなちゃんは現実逃避気味に言った。

 A級のクリオネの大群に苦戦したアオちゃんだ、そのワンランク上の存在はあまり好ましい存在じゃないみたい。

 ユニコーンを瞬殺したアオちゃんでも強いって何?

 あれか、RPGなのにボスよりも強い雑魚がその辺のフィールドを闊歩してるってヤツ。

 設定上は強いボスの威厳が残念な事になっちゃってるよ。

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