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第4話、白銀の剣は仲間を危惧する

 お兄ちゃんが私の元を去ってから1日が経過した朝、スマホを見てみるとメールが1件だけ着ていた。

 差出人はアオちゃん。内容は『学校に行く前に機関の秘密基地に来い。拒否権は存在しない。また、拒否した場合は想像を絶する行為をお見舞いしよう』

 後半がなんともえげつない文章である。はぁー、昨日サボったから今日くらいは学校に行っておきたかったんだけどなぁ……。

 今日も学校をサボることになったが、もちろん私は悪びれない。



 とりあえず、ななちゃんとマーちゃんと久遠が起きる前に……あれ?久遠は?

 久遠の姿が見当たらない、昨日はななちゃんの寝室の無駄に広いキングサイズのベッドで寝たはずなんだけど……と思い、その辺をきょろきょろしてみると『急用が出来た、夕方には戻ると思う。by久遠』との書置きがあった。

 久遠が居ないのは良いとして、ななちゃんとマーちゃんはまだ夢の世界。

 二人のかわいい寝顔(ここ重要、テストに出るよ)を見ていたいけど、それを堪えてトイレに向かった。


 唐突だけど、機関の秘密基地へ行く方は現代式ではないのである。

 実を言うと、扉に鍵を差し込むことで行く事ができる。

 これだけだと『何を言っているんだ?そんなの普通だろ?』と思うかもだけど、これが普通ではない。

 実は鍵穴ならば何でも良いらしく、どこでも扉ならぬどこでも鍵穴らしい。

 どんだけ便利な科学力だよ、これを有効活用したらどれだけ便利な事になるか……いや、でも色々危険か?バスも鉄道も飛行機もその他諸々も必要ないんだもんね。おまけに悪用すれば……考えるのを止めよう。


 そんなわけで、トイレの鍵穴に機関が作った秘密道具『どこでも鍵』を使い、機関に赴く。



「やふー、来たよ」

 お兄ちゃんの執務室で本を読んでいたアオちゃんに挨拶する。けど、アオちゃんは頭を抱えてた。

「…………いや、確かに学校に行く前に来いとは行ったが、着替える前にとは言っていないぞ?」

「およ?」

 そういえば、まだ着替えてなかった。


 しゃーない、変身するか。

 ぴ~りかぴりかぴりりからんらんら~、可愛い魔法少女になぁれ~♪

「よし!これで問題あるまい」

「変な掛け声が聞こえてきた気がするけど、あえてスルーする。ついて来い」

 と、お兄ちゃんの執務室を出るアオちゃん。ついて来いと言われたのでよく分からないけどついて行く。

「何処に行くの?」

「コロシアムだ」

 なぜに?コロシアム?こんな朝から強制集合?

「ソレイユ閣下がじきじきに警告するらしい」

 ソレイユ……前にひなちゃんが言ってたね、そんな名前。というか閣下?

「知らないのか?ソレイユ閣下のこと」

「うむ、知らぬ。誰それ?」

「時期に分かるし、説明するのも面倒だ。あと常盤ひなは家庭の都合で来れないらしい。昼から合流するってさ」

 ほうほう、というか私にはあんな凶悪なメールを送っておきながら、ひなちゃんはそれでOKって贔屓じゃないかな?


 コロシアムに来ると数百人の魔法少女らしい人たちが居た。

 こんな朝っぱらから真面目ですね、皆さん。

 私は不真面目だけど飼い主に散歩させられる首輪をつけられたデブ犬のような感じで召喚されました。


 そしてステージにはあの憎き筆頭魔法少女シルヴィアが立っている。

 そのシルヴィアの後ろからロシア人っぽい白人の女性が入ってきた。その女性は制帽を被っており、タトゥーのような紋様をしたワンポイントが入った軍服ロングワンピース。服の上からDカップくらいありそうな下垂型のおっぱいが存在を主張している。

 と言うよりも乳袋にしか見えない。

 偽パイか?偽パイだね、自己完結。

 前腕部には挌闘家がつけそうなフィンガーレスグローブ、足はに攻撃に特化したブーツを履いている。


「えー、マイクテス、マイクテス。こほん、皆の衆、久しぶりである。今回は世間を騒がせている連続通り魔事件について諸君等に忠告しておきたい」

「アオちゃん、誰あれ?」

 なにやら話を始めた偽パイ女についてアオちゃんに聞いてみた。

 流れから察するにあの女が『ソレイユ』とやらみたいだけど、その『ソレイユ』が何者なのかまでは知らない。


「言葉に気をつけたほうが良い。あの人はソレイユ・ナスタチウム。階級は総帥、つまり機関で一番偉い人間だ」

「あの女が?でもそんな偉い人には見えないけど?」

 見た目年齢で言えば16か17の女子高生くらいに見える。


「2年前まで魔法少女をやっていたから年齢は14だな」

「14!?あのルックスで!!」

 バカな!ありえん!あんなナイスバディが14……?

 おかしい、神は不平等だ。

 あれですよ、変態が言う『未成年だと思わなかった』的なのが通用する外見ですよ。

 クソがッ!この世界に神なんていねぇ!!


「そこの貴様だ」

 ソレイユとやらが私のほうを指差した。

「は?私?」

「そうだ、貴様だ。月宮紅莉。私語は控えろ」

 名前を呼ばれた。まさかマンガとかでよく見る『マンモス校の生徒会長でありながら全校生徒の顔と名前を記憶している』タイプですか?もっとマトモなことにその記憶力を使ったほうが良いと思います。


「さて、アホが居るようだからさっさと本題に入ろう。気付いている者も居るかもしれないが、件の連続通り魔事件の被害者は全員我々、機関の構成員の魔法少女だと言う共通点がある」

 ヴェ!?マジかよ、そんな共通点初耳だわ。


「それゆえ、次の被害者が諸君等の中から出る可能性が高い。十分、気をつけてもらいた……」

「アオちゃん、聞きたいことが……」

「だから私語は慎めと言っているだろ!!」

 シルヴィアが思いっきりマイクを投げてきた。

 あぶなッ!?

「このクズが。貴様のような人間は秩序の重要性についての論文を5時間ほどかけて教え込ませる必要がありそうだ」

 なんと言う拷問!?5時間もそんな論文を読んだり聞いたりするとか私にはムリだよ!!

 1時間の全校集会ですら辛いのに!!


「質問があるなら先に聞こうか、月宮紅莉」

 あれ?なんか質問コーナーになっちゃった?しゃーない、質問してやるか、と上から目線。

「私は魔法少女を始めてそんなに経ってない。だから知らないのですが、機関に所属していない魔法少女ってのは居るんですか?」


「質問への回答はYESだ。現在、我々が確認している魔法少女は日本だけでも859名、そのうち機関に所属しているのは413名。つまり約半分の人間が機関に所属していないことになる」

「ならなぜ所属していないのです?」

「金に不自由していなかったり、時間を拘束されたくないなどの理由が多い。所詮はただの小娘、労働したがる者は全体の半分程度と言う事。理解したか?」

「……理解しました」

 言い方が気に入らない。なんだ、偉そうに。たかが2歳上のくせに。

「よろしい。話が中断してしまった、ついでに他の者も質問はないか?」

 と、ここでアオちゃんが挙手。


「総帥閣下、別枠の質問をしても良いでしょうか」

「許可する。なんだ?」

「機関に所属している魔法少女のみが襲われているのなら、その通り魔の目的は分かっているのですか?犯行声明などは?」

「不明だ。彼女たちには機関に所属している事以外の共通点は基本的にない。私生活での接点は0。調査をしたいが、犯人像すらほとんど分かっていない」

「理解しました」

 アオちゃんすら敬意を払ってる。

 よほど大物らしい。

 だけど、なんだろう?生理的に嫌いだ。そう私の心が言ってる。


 ……やはりあの胸か?胸なのか?クソがッ!!

 いやいやいや、だからあの胸は偽パイだと結論がついたじゃないか。

 あれは偽物、フェイク、シリコンの塊、嫉妬の対象にはならないさ。

 アハハハハハハ。


「他に質問があるものは居るか?……ふむ、居ないようだな。以後、この通り魔事件の犯人を機関では『狂犬』と呼ぶ事になった。諸君等もこの『狂犬』には注意してもらいたい。なお、次の被害者が出た場合はこちらも諸君等の行動を制限させてもらうこともあるので理解していただこう」


「チッ、月宮紅莉め。相変わらず調子に乗っている」

 集会を終えた私はソレイユ閣下と共に自室への帰路を歩いている。

「そう怒るな。器が知れるぞ?」

 子供を宥めるように微笑しながらソレイユ閣下が発言する。


「閣下が甘いのです。新入りには先輩の威厳を見せ付けるべきなのです」

「我々機関は彼女たちに頼む形で任務を受けてもらっている。ならばこちらは下手になるべきであろう。ならば威圧するような態度は控えるのが最善策だと思うが?」

「その低姿勢はアナタらしくない。その結果、あのように調子に乗り、無謀な行為を平然と行なう愚者が現れる」

「そういうな、私とて人の子だ。神ではないさ。人間1人ができる範囲には限界がある」

「本当にアナタらしくない……」

 昔のアナタはもっと素晴らしい人だった、それこそカリスマと呼ばれるのに最も相応しい人間でしたよ。


ワタシらしくないか。随分と低評価だな。だが、我から見たお前も随分とらしくなくなったと思うが?」

「私が、ですか?」

「そうだ、お前と初めて出会った時のことを覚えている。あの頃のお前はまるで聖人君子のような良い瞳をしていた。愚かしい他人のことなぞ気にせず、向上心や知的好奇心、知的探究心に従って、暇な時間は延々と本を読み、知識を手に入れていたその頃のお前に我は惚れた。お前は世界の誰もが認めるような覇者になると我は期待した。だが、今のお前はそんな瞳ではない、亡者のそれに近い。盲目的に力を求めている小悪党のような低劣さすら感じる。いや、もしかすると低劣ではなく嫌悪感なのかもしれない」

「亡者……嫌悪感……」


「自分自身の使命か何かに囚われているように思う、執着と言うよりも呪縛だな。そんなものはお前には似合わない。もっと純粋な気持ちで生きる事に情熱を注いでいた頃のお前が懐かしい。何がお前をそこまで必死にさせる?クロか?紫苑か?それとも2人か?彼女らがお前にとって最高の友人だと言う事は理解している。そのために死力を尽くす事は美しい友愛なのだろう。しかしだ、それがお前自身を苦しめる存在になることが正しいと思うか?」

「……」

 閣下の言葉に絶句する。私は亡者か?嫌悪感を抱かれるような人間だったのか?

 私は……なんだ?

「月宮紅莉のように理性なく自分のやりたいことのみをやりたがるようなのは困るが、少しは自分がやりたいことを思い出したらどうだ?魔法少女に憧れていた頃のような初心を思い出すのも悪くないものだぞ、存外な」

 絶句したままの私を見て、また微笑した閣下は私に背中を向けた。

「説教は好きではないのでこの辺りで終了にしておこう。まだやらねばならぬ仕事も溜まっているしな」

 閣下は立ち尽くした私を無視してこの場を去っていった。



 ……るりさん、今の私は間違っているんでしょうか?私はアナタのような誰にでも手を差し伸べるような魔法少女になりかたったんです。

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