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第2話、真紅の炎はお泊まりする

「ほはぁー、豪邸だ。誰が見ても分かるくらいに金持ちが住んでいると分かるくらいの豪邸だ」

「たしかに大きいよね」

 久遠を連れてななちゃんの家に来た。

 ななちゃんの家は絵に描いたような豪邸であり、ここが工事されていた時はどこの大物俳優が引っ越してくるのか?と噂になったものだよ。

 事前に借りていた合鍵を使って門を開けて、無駄に広い庭を歩く。

 まったく、どうやってこの広い庭を手入れしているんだか……。

 この豪邸にはななちゃんを含めて現在3人しか住んでいないのに。


「そんなわけで1人増えちゃった☆」

 適当に事情を説明した私はななちゃんから『お気に入りの黒い高級車に乗り込もうとしたら、鳥の糞を堕ちて来てしまった』ような酷く嫌そうな顔をされてしまった。


「そんな『近所の公園に捨て猫が居たから拾っちゃった』みたいな軽い感じで言われても困るんだけど?」

「まぁまぁ、そこを曲げてぜひさ?」

「仕方ないわね」

 やれやれ、と心の中で良いながらななちゃんは了承してくれた。

 さすがは親友、話が早い。

「仕方ないなら別に結構だけ…どッ!」

 久遠が断ろうとしていたので脇に肘打ちで決めた。


「何をするんだ……アカリ……」

 脇腹を押さえながら久遠が反論してくる。

「むしろこっちのセリフだよ。なんで断ろうとしているの?」

「招かれてないからに決まってるじゃないか」

「シャッラップ。このお方が誰だと思われる?あの夢島グループのCEO、最高経営責任者である夢島重蔵氏の孫娘であらせられるぞよ?」


「その妙な口調はなんとかならなかったの?」

 ななちゃんが何か言っているけど、私は喋るのを止めない。


「夢島グループってあの夢島グループ!?」

 ななたん(噛んだ)を無視して驚く久遠。

「そうです、その夢島グループです」

「超高性能スマートフォン『ネセサリー』を開発し、欧米などから『ガラパゴス』と嘲笑されていた日本の実力を世界に見せつけ、トップシェアであった『林檎』や『窓』から客を奪い国内支持率が80パーセントにまで達したあの夢島グループ!?」

「そうです、その夢島グループです」

「近年はゲーム業界にも進出して、2年前に発売された『曇天の君』がダブルミリオン(200万本)売れたあの『ドリームアイランド社』の親会社である夢島グループ!?」

「そうです、その夢島グループです」


 私と久遠の会話を傍聴していたななちゃんが突っ込んできた。

「ずいぶんとノリノリで解説したわね……」

「夢島グループのことを知らない日本人なんてモグリくらいだよ、ななちゃん」

 その通りですよ、マーちゃん。

 ……あれ?マーちゃんはいつからななちゃんの隣に居たんだ?


「殿下、失礼を」

 久遠がひざまづいて礼をした。

 なんか様になってる……やりなれてる?

「いや、殿下じゃないのだけれど……」

「というわけで、居候させてあげて」

 可愛らしくおねだりしてみると、害虫がわいたような顔を一瞬だけだけどされてしまった。

 最近の私ってなんか酷くない?扱いが酷くない?


「いや、だからどういうわけなの?」

「ダメなの?」

「別に、最初から断る気はないわよ」


 ハンドベルを鳴らすと、どこからともなく(というか壁が忍者屋敷のように回転して)秋山さん(メイド)が現れた。

「どうかなさいましたか?お嬢様」

「悪いけど、晩御飯をもう1人分作ってくれる?」

「かしこまりました」

 秋山さんがななちゃんにお辞儀して後ろを振り返り壁の中に戻ろうとした。

 この豪邸の壁は通路として機能してるの?

 やっぱ金持ちってバカなんじゃないの?何のための隠し通路を用意したんですかね?

 暗殺対策?防犯装置の方が効果ありそう? 


「うわぁー、凄い。金持ちの家にはやっぱりメイドさんが居るんだ。しかも若い」

 久遠が驚くのも無理はない。秋山さんの見た目は18歳くらいにしか見えない。

「既婚者でございます」

「え?」

「これでも半世紀は生きてます」

「その容姿で50歳オーバー!?」

 秋山さんの年齢を聞いて驚かない方がおかしい、むしろアラフィフでこの容姿を保てる秘密が知りたい……。


「相変わらず秋山さんの年齢は気になる……」

「この前孫がいるみたいなことを言っていたけど」

「そりゃ、50歳なら孫がいてもおかしくはないけどさ」

 現実的じゃないよ!!

「そうは言っても、紅莉のお母さんも同じくらいじゃなかった?」

「……うちのママはまだ41です……」

 お兄ちゃんを生んだのが16だったはずだから16プラス25で41のはず。


「お兄さんが結婚しちゃったら50迎える前にお婆ちゃんだよ?紅莉ちゃん」

「そして紅莉はもう叔母さんってわけね……」

「イヤだ!まだ早すぎるよ!!」

「そうは言っても法的には16で結婚できるし、昔の価値観で言えば12で結婚も普通だし?」

「昔の人ってすごいよね。今じゃロリコンとか言われて異常性癖扱いなのに、それが普通だったわけでしょ?」

 ここで脱線じゃ、脱線祭りじゃ、現実逃避しましょ、そうしましょ。


「枕草子とか読んでてびっくりよね。現代の価値観から考えれば精神病患者ばっか」

「最近は晩婚化のせいか少子高齢化だもんね」

「女性の社会進出を推奨した結果、女性が結婚して養ってもらう必要がなくなったから晩婚化になったと言う説もあるわ。個人的には、テレビとかで離婚や独身を擁護するような偏見報道が原因だと思うけど。3組に1組は離婚ってどうなの?恋愛は賞賛するけど、同時に破局を非難する風潮はない。個々人の自由を尊重するなら恋愛をしない自由も尊重されるべきだとワタシは思うわ」


「マーちゃん。ななちゃんはまた何か難しい本でも読んだのかな?」

「きっとそうだね、ななちゃんは受け売りが多いから」

「陰口ならもっと陰で言いなさいよ!!」

 怒鳴られた、仕方ないから会話を続けようか。


「しかし、やっぱり政治家って無能だね。女性を保護した結果、晩婚化だの少子化だのになって、そこから育児支援ってねぇ?」

「男女差別していた昭和が良かったとは思えないけどね」

「けど現実問題、寿退職は男性より女性の方が多い、というか女性の特権じゃん?それから育児休業も基本的に女性しかもらってない。私聞いたよ。男性の専業主夫は増えてきたけど、偏見まみれのオバサンもとい世間からの目が辛いって」

「確かにその辺は不平等よね。男性が仕事していなかったらヒモだの無職だのニートだのプー太郎だのと叩かれる。けど女性なら家事に勤しんでいても何も思われない。ザッツ不平等」

「社会制度を変えることは出来ても、人の価値観までは簡単には変えられないって事だよね」


 途中から蚊帳の外だった久遠が私とななちゃんの会話を聞いてぼそりと呟いた。

「こ、こいつら……ホントに小学生か?」

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