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第14話、白銀の剣は刃毀れしない

「レディース!!アンド少数のジェントルメンの皆さん!こんにちは!今回、司会進行を勤めさせていただく夏川冥です!

 皆さんもご存知とは思いますが、試合のルールの確認だけしておきましょう!!試合形式は個人戦に準じ、相手が降参するか審判が戦闘不能と判断するまで戦闘は続くと言う非常に単純なものです。

 さぁ!ポップコーンとジュースの準備はお済になりましたか?ではいよいよ本日の主役のお2人に入場してもらいましょう!!赤コーナー!天下最強の聖剣使いと言えばこのお方!!圧倒的戦闘力と圧倒的知力の二物を手に入れられたシルヴィア・リリィ・アルジェント様!!」

 コロシアムの控え室でシルヴィアとの模擬戦の準備をしていると豪華絢爛な鎧を纏ったシルヴィアがパレードにやってきたお姫様のように観客に手を振りながら入場して行った。

 ……しかし、なんだ?あの司会は。

 プロレスとか見ないけど、ノリノリ過ぎませんかね?

 すんごいアウェーな感じ……。

「紅莉、そろそろ呼ばれるぞ?……ところで、本当にその格好で行くのか?」

 控え室に付いて来てくれたアオちゃんが私の衣装に苦言した。

「もちろん!伊達や酔狂じゃこんな格好はしないよ!」

「そうか、正気ならいいんだ、正気なら……」


「青コーナー!今世紀始まって以来の大馬鹿魔法少女!!勇気と無謀は別物だぞ?月宮紅莉!!」

 おい!私の説明酷くないか!!

 アナウンスに心の中で抗議しながら私はコロシアムのリングに入った。


「……なんだ?そのアホ全開の格好は?」

 目をまん丸にして驚いているシルヴィアが突っ込んできた。

 ふっふっふ、戸惑っているな?

 この私のか……ふぐっ!

 試合開始前なのに審判を務めているお兄ちゃんに殴られた。


「どうしてそんなアフリカの民族が儀式の時に使いそうな摩訶不思議なお面をつけているんだ?」

 そう、私は魔法少女の戦闘服が深層心理に対応する特性を利用して奇想天外なコスチュームで相手の精神力を削る作戦に出た。


「な、殴る前に質問して欲しかったよ……」

「で?なぜだ?」

「こんなイカれた格好をすれば相手も戸惑って冷静な判断ができないだろうと思って……さ?」

 再び殴られた。

「模擬戦とはいえ、たくさんの魔法少女に見られている状況でそんな仮装をしている妹を見られている兄の気持ちがお前には分からないのか?」


「くぅ……ん?あれ……師匠?なんで師匠が?」

 この模擬戦のもう1人の審判である女性が視界に入ったのだけど、その人は私が尊敬する(体型のみ)パーフェクトのグレイス師匠だった。

「あはは……やっほー、紅莉ちゃん。実はわたしも教官なんだ」

 なんとー!!!?

 世間は狭過ぎませんか!?

「グレイス教官、お知り合いで?」

 ノリに付いて来れていないシルヴィアが師匠に質問した。

「うん。わたしの一番弟子ってところ」

 はぁ、と一言、いや一息だけリアクションを取っただけでこちらに目を向けてくる。


「では、このくだらない興行を始めようではないか」

 くだらないってアンタが自分から提案してなかった?

「アンタだってヤル気満々じゃないか。もうちょっとテンションを上げたらどうなの?」

「……?何の話だ?」

 何のって……そんな西洋甲冑をフル装備してるじゃん?

「あぁ、これか。これは趣味だ」

「趣味!?」

 なん……だと……?

 この歳で鎧が趣味なんて言う(変)人が居るとは思わなかった……。


「たまには粧しこんでみるのも悪くない」

 シルヴィアがお嬢様っぽく1回転しだす。

 これがゴツゴツした鎧じゃなくて華やかなドレスなら、さぞ様になっていただろうね。

「どうだ?ラグジュアリーだろ?」

「アンタは舞踏会か何かのつもりなのかッ!?」

「勘違いをするな、別にふざけるつもりはない」

「なんだ、違うのか」

 ホッと胸をなでおろす。

 さすがにそこまでのど畜生ではなかったか。

「貴様のような雑魚を倒した後で、みすぼらしい風貌では最強の魔法少女の威厳が出ないではないか」

「私が負けることは前提かッ!!」

 くそぉ……バカにしやがって……。


「この鎧オタクめ」

 悔しいので捨て台詞を吐いてやる!

「褒めるなよ、こんな時に」

「は?」

「オタクと言う言葉は知っているぞ、『何かに引くほど精通しすぎている人間』のことだろ?」

 アンタも皮肉が通じない性質たちかッ!!


「それでは双方、そろそろ模擬戦を開始したいと思うが、準備はできているか?」

「無論」

 審判であるお兄ちゃんの発言を聞いたシルヴィアが腰丈ほどもある剣を取り出して返事する。

「こっちも大丈夫です」

 アホな格好から戦闘服に着替えて私も返事をする。


「それでは、試合開始!!」

 試合開始の合図を聞き、シルヴィアから距離をとって、サイレンさんに創ってもらった作り物のカップケーキを投げる。

「ん?」

 シルヴィアが目を見開いてカップケーキを見た。

 この展開は予想通りだ!!

 カップケーキが爆裂して、閃光と爆音をシルヴィアの方にだけ放った。

 これで目と耳は潰れたはずだ!!


 そう、このカップケーキはただのカップケーキではない。

 カップケーキ型のスタングレネードである。

 原理は簡単、カップケーキを粘土で作ってもらい、その中をくり貫きひなちゃんに頼んでスタングレネードのように閃光と爆音を忍ばせたのである。


 卑怯?卑劣?姑息?

 上等!!ルールを遵守していればそこに問題があるわけがない!!

 勝てば官軍負ければ賊軍よ!!


 目と耳が潰れているシルヴィアに魔法弾の乱れ撃ち

 しかしヤツは全て叩き落すシルヴィア。

 ………………あれ?おっかしいな。


「経験の浅い貴様には理解できないかもしれないが、目と耳を潰されても、直感で魔法弾くらい叩き落せるものだ」

「どんな理屈だ!!」

 つか耳が潰れてる相手に向かって何かを喋る必要はない、むしろ回復する時間稼ぎかもしれない。

 叩き落されるんだったら叩き落されない角度に回り込んで撃ちこんでやる!!

 そうだ、真上からのビームなら防げないんじゃない!

 上空に『飛行』して天空から砲撃を開始。

 すると剣を真上に掲げてビームを受けきった。


「はぁ!?」

「残念ながらその程度の奇策は読めている。策とは読まれた時点で意味を失うものだ」

 そういえばアオちゃんがチェスでボコボコにされたって言ってたっけ?

 こいつは他人の心でも読む技術でも持ってるの?

 どうする?戦術で圧倒的に負けているから戦略で潰さないといけないのに、こいつには戦術だけでなく戦略も負けている……?


 ちっ!まだだ!取って置きの奥の手はまだ残ってる!

 目と耳がまだ回復してなくて、直感で剣を振るっているなら時間差で!!

 っと、そう来るとヤツは推理すると予測できる。

 その裏だ。ここで『時間差で来る』ことを読まれることまで読んで、その対応されるのを見越して対応しないとダメだ。裏の裏の裏を攻めないと負ける!


 魔法弾を複数発射、それらを破壊し尽くすシルヴィア。

 しかし、時間差で1つ飛ばす。

 ここまでは相手の想定内のはず、問題はここからだ!


 時間差で飛んできた吹き飛ばそうとするシルヴィアが斬撃を振るう。

 けれどね、その魔法弾がS字に曲がってアンタの斬撃を避けるんだよ!!

 テレビで言っていたけど、人間の対応力じゃS字に曲がるボールは事前にS字に曲がると理解していないと対応できないらしい。つまり、ここで時間差で攻めて来ると読んでいるシルヴィアにS字に曲がる魔法弾をお見舞いしてやれば勝てる!!


 この戦法は予想外だったらしく、シルヴィアの剣を折ってやった!

 イエス!ザ・ガッツポーズ!

 そして拍手がコロシアムに響き渡った。

 この拍手の主が観客なら素直に喜べたんだけど、その主はあろうことかシルヴィアだった。

 WHY?なんだ?ヤツは何を考えてる……?


「見事だ、まさかこのような奇策とは読めなかった。素直に感服しよう」

「感服?まるで私に勝機がないような言い方だな」

「もちろんだ、戦う前から勝敗は決定している。今更剣を1本失った程度で戦況が覆るとは思えない」

「強がるな。武器を失ったアンタがどうやって私を倒すと?」

 いくらなんでも素手で闘おうとはしないだろ?

 いや、さすがにないですよね?

 実は剣を持っていないほうが強いとかないですよね?ねぇ?


「武器を失った?それは早とちりだ。何時から錯覚していた?私の固有魔法が『破壊』だと」

「錯覚も何も……事実、アンタはその魔法で私のビームを『破壊』したじゃないか?」

 相殺した、と言う表現よりも消滅したと言う感じで剣に触れた魔法弾は『破壊』された。

「違うな、そういう意味ではない」

 虚空から剣を取り出した。あの異次元ポケットに収納していたのだろうか?

 って……え?どゆこと?

 さっきまで持っていた剣は武器じゃなかった?

 いや、武器だけど、私が言ってる武器じゃなくて……ダメだ、混乱してきた。


「さて、再び問おう。何時から錯覚していた?固有魔法が1人につき1つに限定されると」

 固有魔法が2つ使えるって……前提条件から間違っていた……?

 つまり奴が余裕綽々だったのは、戦力が最初から別次元だったというわけで……。

 はっはっは、笑いしか出てこないわ。


「これが私の2つ目の固有魔法『創造』だ。この魔法は誰にも使ったことがない。私の奥の手だ」

 シルヴィアが剣を構えて、踏み込んできた。

 とっさに杖で防御したけど、杖がいとも簡単に『破壊』されてしまった。

「分かるか?これが貴様が私に絶対に勝てない理由だ」

 剣を地面に突き刺して、ゆっくりと下がる。

「使え、丸腰の相手を倒したのでは私の名も汚れる」

「舐めてるんだろ?」

「その言葉も聞き飽きたな。正当な評価を下した。貴様にはハンディキャップをやる必要があるとな」

「バカにして!」

 地面に刺さった剣を抜いて構えると、シルヴィアは先ほどまでは持っていなかったはずの銃でこちらを撃ってきた。

「ぬわぉっ!!」

 とっさに障壁を張る。しかし今度は『破壊』されない。

「いいか、これが私の魔法だ。剣を作り出すだけではなく、銃器すら作り出すことができる。たかが剣の1本、私には突き指よりも痛くない」

 突き指って地味に痛いけどね。


「さぁ、月宮紅莉よ。第二ラウンドを始めようじゃないか。次はどんな奇策を練ってくれる?私を見返したいのなら、せめて私に戦闘服を使わせてくれよ」

 今の文章が皮肉に満ちていることは分かる。

 けれど、私はこの状況がどういう意味を持つのか分からないほどバカじゃない。

 杖があったとしても全く通用しないような圧倒的に実力差が存在する敵。

 で?こんな敵にどうやって勝つ?

 飛車角落ちでプロ棋士に勝負を申し込んでいるような絶望的な状況だ。


 ふぅ……ダメだ、こりゃ。

 勝てるわけがないね。



「よぉ、どうだった?」

 月宮紅莉に勝利してコロシアムから出ると、壁にもたれかかったブラウンに話しかけられた。

「どうだったとは?」

「月宮紅莉さ、オレはアイツを高く評価している」

 知らん、そんなことはどうでも良いよ。

「『オレ』か、君は興奮すると口調が変わる癖があるが、戦う前から口調が変わるほど興奮しているのかい?」

「イエスだ。あの女は今後伸びるぜ」

「伸びてどうする?闘うのか?」

「もちろんさ。そのために魔法少女をやっているんだから」

 不純な奴だ、闘うためだけに魔法少女をやっているなら将来は戦地で傭兵にでもなるのかね?


「君は不純だ」

「違うな、純粋に戦いを求めているんだ」

「世間ではそれを不純と言うと記憶している」

「何とでも言え。アイツが戦略ではなく戦術を身につけたらもっともっと楽しくなると思わないか?」

「思わないな。対人戦には興味が無いから」

「去年、オレに勝ったからか」

 からかう様なトーンで言ってくる。何を言っているんだか。

 勝たせたつもりのくせに。


「勝った?勝たせてやったの間違いではないのか?」

「なんだ、気付いてたのか」

「あぁ、あの時の目は違った。目の前の戦いではなく、何か違う物を見ていた。そんな気もそぞろな相手とり合っても楽しくないからな」

「それは悪かったな」

 謝罪の念をまったく込めずに返す。

 すると、ブラウンは話を変えてきた。


「ところで、あの2つ目の固有魔法は誰も知らないのか?」

「いや、クロと紫苑は知ってる。あとは月宮教官とレイとすみれにソレイユさんくらいか」

「死人をカウントするな」

「何が悪い?」

 最近のこいつは不愉快で仕方がない。

 デリカシーを忘れ過ぎている、いや概念を忘れていると言うよりも知らないと言うほうがあっているのかもしれない。


「悪かったよ。オレにはいつもデリカシーが不足している。気をつけてはいるんだけどな」

「天性のものだからといって開き直るなよ?次は許せる自信はない」

「はいはい。あの2人で思い出したんだけど、そのチョーカー、毎日つけてるけど皮脂で汚れるんじゃないか?」

「問題ない、手入れには細心の注意をこころがけている」

「そうか……なぁ、シルヴィア。どうしてオマエはそのチョーカーをいつもつけている?そんなに大事なら大事にとっておけよ」

「バカだな、身につけておきたいからつけているんだ」

 それ以外にアクセサリーをつける理由なんてないだろ?常識的に考えて

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