第13話、真紅の炎は策を講じる
「あのクソアマ!調子に乗りすぎだろ!!」
お兄ちゃんの事務室的な部屋に戻り、私はヒステリックを起こした。
「それはアンタの方じゃないか?アタシですら勝ち目が無かったシルヴィアにどうして闘おうと思った?」
「え?そりゃムカついたから?」
何を言い出すのかね、この子は。
ケンカを売る理由なんてそれくらいしかないでしょうに。
「怖いもの知らずだな……」
「じゃあ聞くけど、アオちゃんはなんでシルヴィアとケンカしてたの?」
「……さぁな」
「誤魔化すのはよくないよ」
「アドレナリンのせいで記憶があやふやだ」
「嘘だ!!」
「嘘じゃないさ、ホントさ」
「貫き通す気かっ!」
「まぁまぁ、マジメな話をすると、月宮教官がシルヴィアを説得しに行っているから模擬戦はなかったことになると思うが?」
「その時はその時だよ」
「あー、クソが。あの頑固頭め……」
部屋に入ってきたお兄ちゃんは愚痴を漏らしていた。
そして私を見てから一言。
「もう知らん。勝手にしろ」
「なんでそんな投げやりなの?」
「怪我しない程度にガンバレ」
荷物をまとめて部屋を出て行った。
「適当すぎるんですけど」
どうやら説得は失敗だったらしい。
しょうがない、作戦でも練ろう。
「シルヴィアってどんな人なの?」
「簡単に言えば全てにおいてアタシ以上の魔法少女だとは言える。今さっきそれを痛感したよ……」
かなり精神的にダメージ来ちゃってるね、この子は。
「じゃあシルヴィアの戦闘タイプは?」
「接近戦のインファイター。剣術が得意で未来が見えるはずのブラウンとまともにやり合えるほどの猛者」
ブラウン……この前やったけど、力の差は分かった。
「固有魔法は『破壊』で、効果範囲までは分からない」
随分と物騒な魔法ですね、破壊とはあの物騒な女に似合ってる。
「シルヴィアはブラウンと違って戦闘で遊ぶような人ではないが、本気を出したりもしない」
「どうゆうこと?」
「露骨に手を抜いて相手をこけにしているんだよ。はっきり言ってあの戦い方は嫌いだ」
でも、負けてるじゃん。とは口が裂けてもいえないね。
「油断しているスキを突こうとはしない方がいい。それすらも読まれているから」
おぉ、怖い怖い。それなら卑怯姑息な作戦を練ろうかな
「シルヴィアの好物って何か分かる?」
「好物?……そうだな、昔は甘いモノのこととなると異様な執着心があったけれど」
へぇー、意外。甘いモノか……。
「よし!閃いた!!」
私はすぐにサイレンさんにメールしてある物を作ってもらうように頼んだ。
2分後、サイレンさんが『OK』と言う短文メールが帰ってきた。
▽
数日後の午後8時、私はサイレンさんがすんでいるボロアパートに向かった。けれど、なぜかアオちゃんも一緒である。
「別についてこなくていいよ?」
「いや、何を企んでいるのか気になるから」
ちなみにひなちゃんは家庭の都合でもうお家に帰っている。門限に厳しいらしい。
とあるボロアパートの203号室にやってきた私は呼び鈴を鳴らす。
「はい」
「私です、サイレンさん」
「あぁ、待っててね。今鍵開けるから」
「はい、紅莉ちゃん。頼まれていたもの」
ケーキ箱を渡された。中を見てみるとよく出来たカップケーキの模型が入っている。
「おぉ……さすがですね」
サイレンさんは趣味で模型を作っている。
こういう小道具の制作も得意。
サイレンさんの部屋に入ったアオちゃんがオタク要素全開のサイレンさんの部屋を物色しだした。
「紅莉ちゃん、あの子は?」
「なんかついてきたので追い返すのもどうかと思いまして……」
「無断で部屋に招待するのはあまり良い気分じゃないし、コレクションを壊されたら困るんだけど?」
その辺の心配はいらないと思いますよ?だってアオちゃんだもん。
アニメのDVDやBDがお店のように棚一面に敷き詰められている所でアオちゃんが話を振ってきた。
「アタシさ、アレ好きだったんだよ」
「アレって?」
「秘密戦士Gogoガールズ」
あぁ、それね。なんというか微妙なのを持ってきたなぁ……。
この前の春まで放送されてた女児アニメで、内容は可もなく不可もなくて個人的には40点な作品。全52話で4話完結型の構成だからか、最終話にカタルシスも何も無い感じ。4話ごとの完成度は高いけど、一回で十分?映画でやれば良かったと思う。
「あれさ、アタシは好きだったんだけどネットのクソオタク共にはすんごい叩かれてるじゃん?それが嫌いなんだよ」
「でもネットで酷評なアニメなんてたくさんあるよ?」
てか女児アニメに本気になってるオッサンってどうなの?アリなの?ナシでしょ?
「酷評なのはまだ良いんだ、けどまるでそれがさも当然のような言い方が気に食わない」
「さも当然とは?」
「叩かれてしかるべきアニメってことさ。他人が肯定しているにもかかわらず自分達の意見しか聞く気が無いクソヤローが気に食わないと言っている。だからオタクはキモいって言われるんじゃないか?」
「あー、それは良く分かる」
サイレンさんが腕を組んで首肯した。
「え?サイレンさんは分かるんですか?」
「良く分かるよ、オタクなんて自分の考えが正しいと妄信しているような連中だから」
「そこまで言っちゃうんです?」
「あぁ、時たまオタク同士で殺し合ってるし」
オタクって何やってんの?同類じゃないの?
「同類じゃないんだよ、同じ作品のファンでも仲間や同士と言うよりも……そうだね、天下統一を目論んでいる戦国武将みたいな?」
「はぁ……ようするに負けず嫌いな子供?」
「子供だね、趣味に全力投球してる駄々っ子。最近はお布施の額を自慢するようなのも増えたらしいし」
「お布施?」
「貢いだお金のこと」
「キャバ嬢みたいな感覚ですかね?」
やれやれ、他にお金使わないでいいからってバカみたいに貢いでどうなのかね?
だからオタクはチョロいって思われるんでしょ?実際、人気アニメの限定アイテムをチラつかせれたら一瞬で食いつくし、コラボカフェのぼったくりメニューも人気になるほどにチョロいしさ。
「年に2回やってる日本最大級の同人誌即売会は知ってるよね?」
「えぇ、ニュースでも取り上げてますよね?経済効果が凄まじいとかで」
「ああいうのが諸悪の根源だと思う」
「は?」
「最近は本当に『オタクで何が悪い!オタク良いじゃねぇか!むしろオタク最高!』みたいな風潮をサブカルそのものが発しているから、最近のアニメやマンガやラノベはダメだと言われるんだと思う。我々はサブカルが好きなのであってオタクが好きなんじゃないだ」
やばい、なんか変なスイッチが入ったぞ……。
「 『アニメ好きが必ずしもオタクだって決めつけんじゃねぇ!ステレオグラフじゃねぇか!!』って言う人居るけど、マスコミとかよりもサブカルの生産者そのものがむしろ押し付けてる気がするんだよ。さも当たり前のようにアニメやマンガ好きが同人誌を買い漁り、同人誌即売会とかに行ってるという偏見をしているのは、他でもないオタクの漫画家たちだと思う。」
「すんません、何言ってるのか分かりません」
「分かりやすく言うと、野球選手が好きな人は多くても、野球ファンが好きな人は基本的に居ないよね?」
「おぉ!なるほど!」
スポーツはやるのは好きだけど、見るのは嫌いだ。
「だいたいラノベは絵が良ければ売れるみたいなゴミ風潮は庇いようがない。中身で勝負してない上に、似たり寄ったりの作風。アニメ化してるラノベも、業界がプッシュしているラノベもしかり。にもかかわらず『アニメ化しているラノベだけを見て批判するな』なんて声もあるけど、宣伝ができてないんじゃないか?ボクが好きなタイプの作品が皆無だと言う事実が一番辛い」
アナタにもそんな趣向があったんですか……てっきり雑食で、可愛い萌えキャラさえ出てくれば物語性なんて気にしてないと思ってましたよ。
「だいたい今は飽和的に多過ぎなんだよ、多過ぎて厳選できないって。人づてに面白いって聞かないともう読む気がしない。一冊数百円もするラノベが毎月毎月発売されて、つまらない作品や売れない作品はすぐに完結する。それを避けるために似たり寄ったりでオリジナリティが存在しないようなテンプレ作品ばかりになっているんじゃないのかな?せめて大手レーベルのグランプリの受賞作品くらいはオリジナリティがあって面白い作品にしてくれないと手に取る気にもならないし、有名アフィブログのコラムで宣伝してる新作にも同じことが言えるよね。というか、音楽家が書いたラノベの方が人気作家のラノベよりも売れてる時点で全てがおかしいって。それから……」
あちゃー、これは完全に変なスイッチ入っちゃってるね。
「紅莉、あの男は何をしゃべっているんだ?通訳してくれ」
「あ~、分かりやすく言うとオバサンが『最近の若者は『こんにちは』の『は』を『わ』でも良いと思っている!嘆かわしい!』って怒ってる感じかな?」
「なるほど、ニュアンスはだいたい把握した」
「マンガは炎上商法に頼り、ラノベはテンプレート、アニメは安牌、ゲームはDLC……。なんだ?この負の連鎖は?ボクらが愛した文化はなんでこんな風になってしまったんだ?マンガもラノベもアニメもゲームも市場が大きくなり過ぎて売れる事ばかりを重視しているように聞こえる。特にアニメやゲームだ。なんだよ分割2クールって、最初から2クールでやれよ。BDを買い揃えたら無駄に置き場を取るし、ディスクをいちいち取り替えないといけないじゃないか。BOXなのにBD1枚に4話入れない意味不明なアニメもどうかしている。どうして視聴者にやさしくない仕様なんだ?金が欲しいならアニメなんて辞めてもっと割りの良い仕事があるんじゃないの?そしてゲーム。DLCが悪いとは言わないけど、アンロックDLCってどうなの?最初から入れなよ。なんでフルプライスで払ってそこから上乗せなんだ?それも発売日に配信ではなく時間を置いてからって、もうその頃には熱が冷めて他のゲームに浮気してるって。ゲームは他にもたくさん出るんだからさ」
「そうだー!ゲームのDLCはやめろー!飽きた頃に超高難易度のクエストとか配信するなー!」
「そこは賛成するのか……」
「あと、オンラインを前提にするなー!ゲームはオフラインでやるものだー!」
「持論を正論のように叫ぶな。優れた技術を使うことが悪ならビデオゲームそのものが悪だろ」
アオちゃんに正論を言われた。
そりゃそうかもだけど、対人戦とCPU戦はまったく別物じゃん?
だったらどっちも楽しめないとダメじゃない?
「ところで『オタク』ってそんなに嫌われるような人間なんです?」
変なスイッチが入っているサイレンさんにアオちゃんが質問した。
「どうかな、オタクって呼ばれる境界も最近はあやふやだから『オタクだからキモい』って言うよりも『キモい奴がオタクになった』って言い方のほうがしっくりくるかも」
「ほぅ、そういうもんですか?」
これは私の質問。
「まぁオタクなんてエロ同人誌とかを読みふけってる変態ばかりのイメージだから性犯罪なんて犯せばそりゃ叩かれるって。犯罪モノのAV見て性犯罪に走る変態と同じさ、違うのは分母かな?もしくはオタクに現実逃避しているような負組が多いってのもあるかも」
「あ~なるほど、確かにAVを見て強姦、痴漢、脅迫して逮捕されたってニュースはたまに見ますね」
「今の説明で納得する女子小学生って何者だよ……」




