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第11話、真紅の炎は平和を演出し出す

 5時間目の体育で、私はバッターボックスでピッチャーである田中に宣戦布告していた。

「へっ、田中!この私が止めを刺してやんよ!!」

「調子に乗るなよ、月宮。女子が男子に勝てるわけないだろ」

「男女差別だ、それに私の記憶が正しければアンタが私に勝てたことなんてないっしょ?」

「野球じゃまだ負けた覚えはない」

 さて、なぜこんなことになっているかを説明すると、事は給食まで遡る。


 本日の給食の中華スープにはシイタケが入っている。

 シイタケ、嫌いな人も多いのに安価だからか知らないけれど給食に高い頻度で採用される食材の1つである。

「前に気付いたんだけどさ、シイタケとアワビって似てるよね、味」

「そう……え?似てないでしょ?」

 空返事をしたあとで私の発言に疑問を抱くななちゃん。

「いや、これがシイタケをバターで焼くと似ていると言う事を先日気付いてびっくりなんだよ」

「昔流行ったらしい『プリンに醤油でウニ』並みの驚きね」

「ホントだって、嘘だと思うなら試してよ」

「試してもそんな味はしないと思うわ……」

 呆れられてしまった。本当なのに。


「それにしてもシイタケとアワビって卑猥だよね?」

 ここで話題転換を試みよう。

「食材でそんな変態的な発想をするアンタの方が卑猥よ」

「この異様に大きな傘が何とも言えないよね?」

「だから食材で変態的なことを言わないでくれる?」

「ちゃんと食べるよ、バラエティ番組とかでよくある『スタッフが美味しく頂きました』並に」

「本当に食べているのか分からない例を出されても困るのだけど」

「ところでキノコって基本的に亀だよね」

「亀?いきなり何の話?」

「いや、象じゃなくて亀ってこと」

「………………あーあ」

 十秒ほど考えた後で分かったみたい。

 ちょっと難易度高かった?


「もう止めろよ、月宮……」

 クライスメトであり、給食で席が隣になっている田中(♂)が割って入る。

「田中!アンタはどうしてそうなんだ!」


「給食中に俺でも分かるような下ネタを言うような女子に文句を言われる覚えなんてない」

「なんだとー!」

「田中に賛同したくないけど、今回は田中に賛同」

「わたしも田中くんに一票」

「なんで!」

「いや、さすがに今のはね」


「田中、アンタとは一度話し合う必要があると思ってたんだ」

「オマエと?理論武装が屁理屈と我侭の女がそれを言う?」

「いや口喧嘩なんて野蛮なことをするつもりはないよ」

「じゃあどうやって話し合うつもりだ?」

「肉体言語」


「やっぱこいつアホだ」

「ホントそれ」

「紅莉ちゃん、やっぱり擁護できないよ」


「田中はまだしも、そっちの2人は酷くない!?」


「肉体言語って言うが、それこそオマエの方が強いじゃねぇか?よく分からない護身術でまた俺を虐めたいのか?暴力で解決するのはどうかと思うぞ?」

「くっ!田中のくせに正論を言いやがって!!」

「完全に言い負かされてるわね」

「ならスポーツで決闘みたいなことをしたら?」

「スポーツ?……ふむ、正々堂々で良いね」

「純粋な殴り合いじゃなければ俺も文句ないぞ」

「なら二人が得意な野球で決着つけたら?いっそのこと男女混合で、5時間目は体育だったし」

「それだ!」


▽ そして現在に戻る。

「一番、月宮紅莉」

 審判である先生がわざわざアナウンスする。ノリノリですね。


「へっ、田中!この私が止めを刺してやんよ!!」

「調子に乗るなよ、月宮。女子が男子に勝てるわけないだろ」

「男女差別だ、それに私の記憶が正しければアンタが私に勝てたことなんてないっしょ?」

「野球じゃまだ負けた覚えはない」

 なら今日がアンタの初黒星だ!

 なかなかに速い球をフルスイングで初球打ち。

 打球はライトの頭を通り越してグランドの端っこまで飛んでった。


「回れ!紅莉ー!!」

 ななちゃんが大声で叫ぶ。

 言われなくたって全力疾走さ!!

 ライトがボールを取って二塁セカンドに送球し、セカンドがキャッチした時には三塁サードに到着してた。

「はやっ!?」

「ふん、これが私の全力さ」

 魔法に目覚めてからは身体能力が上がった気がする。

 気のせいかもだけど。


「二番、雪村マヤ」

「マヤちゃん、とりあえずボールをバッドで打って、一塁ファーストに走ればいいから」 

「野球のルールくらいわたしだって知ってるよ!」

 田中の投球を私と同じで初球打ち、しかも打球は一直線にピッチャーへ飛んだ。

 ピッチャー返しだ!!

 しかし、田中はなんなくそれをキャッチ。

 これでこちらは1アウト。


「あちゃー、捕られちゃった……」

 ボヤキながらバッドを置いて、しれ~っとファーストに向かった。

 その自然過ぎる行動に誰も突っ込まなかった。

「三番、蟻塚潤」

 投手ピッチャーの田中が私とマーちゃんに警戒してこちらの動向をうかがった、そしてようやくアウトになったはずのマーちゃんがファーストに居る事に気付いたみたい。

「っておい!雪村!!なんで一塁に回ってんだよ!!」

「え?だってバッドで打ち返したから一塁に回ったんだけど……?」

「間違ってないようで間違ってるわ!!誰かルールブック持って来い!!」


 不思議そうに控えに戻ったマーちゃんにななちゃんがルールを説明している。

 手を叩いてルールを理解したみたい。

 おいおい……ルール知ってるんじゃなかったの?


 そして蟻塚がバッターボックスに入った。

「殺せ♪殺せ♪殺せ♪」

 蟻塚を応援してみる。

「なんて酷い応援歌だ……」

 サードを守っている男子(板橋)に呟かれた。

 気にしない気にしない、蟻塚が打ってくれれば良いんだ。

 などと思っているとすでに2ストライク。

「蟻塚ぁー!最終的に打てば良いからぁー!」

 と思ったらそのまま三振……っておい!

「蟻塚!!やる気あんのか!!」

「いや、そんなこと言われても……」

「このアマ!遊びでやってんじゃないんだよ!!」


 チッ!使えない。ここは四番に期待するしかない。

「四番、夢島ななみ」

「かっとばせー!ななみ!かっとばせー!ななみ!」

 応援してたけど、ななちゃんは二連続ファール。

「ブー!引っ込め!引っ込め!」

 ブーイングする私をななちゃんが半目で睨んできた。

 マズイ、調子に乗りすぎた?

 反省しようとしたら、ななちゃんがこちらにサインを送ってきた。

 どうやら2アウト2ストライクからセーフティスクイズをヤル気らしい。

 いや、さすがにそれは成功確率低いんじゃない?


 サインに気付いていない田中がボールを投げた。

 セーフティスクイズならもう走り出さないと負ける!

「うぉぉおおりゃぁぁああ!!」

 ななちゃんは予定通り、バントをして三塁方向へ打球がころころ転がる。

 野球に慣れてない捕手キャッチャーの山口はまったく対応できてない。

 バントで来ると予想してなかった田中がボールを取った時には私はホームイン!

 そして田中がファーストに投げるけど、ななちゃんもセーフ。

 先制点じゃ!!


「お、お前ら……初回からスリーバントスクイズって頭沸いてんじゃねぇの?」

「負け犬の遠吠えとは悲しいもんですね」

 嘲笑である。

 しかし、五番がアウトになって、女子の攻撃は終了。



 続いて男子の攻撃、

「一番、田中秀雄」

 田中をあっけなく三球三振で葬る。

「ザ~~~~~~っコじゃねぇの!?」

「くっ!」

 そして二番三番もアウトにしてチェンジ!

 しかし、次の回も三者三振で一瞬でチェンジ。

 また男子の攻撃で、1点を取り返された。

 


 三回表、1アウトで打順は一番の私に戻る。


「ボール」

「ボール」

「ボール」

「ボール、フォアボール」


「えっと……え?」

 謎の4連続ボールされた。

「今のは故意四球、一般的に敬遠と呼ばれる行為でわざとフォアボールにして打者を一塁に歩かせる戦法なんだよ」

 戸惑っている私に先生が優しく教えてくれる。

「……それに何の意味が?」

「強打者に二塁打やホームランを打たれたくない時に使うね」

 ここで私は状況を理解した。今は1アウトで次の打者はマーちゃんと蟻塚である。

 つまり、ここで私がバッターボックスから退場するとほぼ確実に交代が決定するわけ。


「はっ、最終的に勝てば良いんだろ?」

「オーマイガーッ!!」

 ま、マズイ!ここで1点は追加したい!

 何か手は!何か!!

 そうだっ!!

「タイム!!」

「は?おい、授業時間は有限……」

「なるべく早くお願いね」

 タイムに反対の田中を無視して先生がOKを出してくれたので、タッタッタッとななちゃんの元へ走った。


「軍師ななみ殿!何か策はありませぬか!」

「変な呼び方ね。でもここで追加点が欲しいと言う気持ちも分かるわ」

「でしょ?でしょ?」

「ダメ元で良いなら手はある」

 ななちゃんの提案は、まさかの2連続盗塁。

 確かに勝つためにはそのくらいしないとムリだろうけど。


「二番、雪村マヤ」

 バットを構えるマーちゃんに容赦なく田中はボールを投げた。

 そして私はななちゃんの作戦通りに盗塁、なんなく盗塁成功。

「なっ!しまった!!」

 ストライクと犠牲に盗塁を許してしまった田中は失態に落ち込んでいる。

 へっ!ざまぁないぜ!!

 そして、第二球はボール。無論私は三塁に走る。

 盗塁対策なんてできないキャッチャーに感謝。


「マーちゃん!スクイズだ!」

「なにッ!?」

 田中は私のホームインを阻止したい。マーちゃんは三番と五番をアウトにすれば問題ない。

 となればマーちゃんをアウトにせずに私をアウトにしたいはず。


 オロオロしながらマーちゃんがバットを横にして、運よくボールに当たる。

 ボールはそのままピーチャーゴロになり、田中が拾い、ホームを目指して走ってくるであろう私に警戒する。けれど、私は三塁に立ったまま。


「バーカ、スクイズと宣言して本当にスクイズするわけないじゃん?」

「なんだとぉ!!!?」

 余裕のままマーちゃんが一塁に到着した。

 つまり普通に内野安打ですね。

 ぷぷっ、小細工に引っかからなければマーちゃんはアウトにできただろうに。

 この無能め、だからアンタはアホなのだ。


 次の蟻塚が普通に三振してバッターは四番のななちゃん。

 なんなく右外野ライトに飛ばして追加点をゲッチュ!

 そして5番がアウトになってチェンジ。


「えぇっと……もうそろそろ時間なのでこれで終わりですよ」

 先生が試合終了5分前の合図を出してきた。

 つまりここで1点も取られなければ私の勝ちになる。

「紅莉、大丈夫?」

 私のことを心配してくれたのか、ななちゃんが声をかけてくれた。


「もちろんだよ。私の物語の主人公は私だからね!」

「は?急に何言ってんの?」

「えぇっとね、物語に主人公ってのは当然居るよね?」

「そうね、常識的に考えれば居るわね」

「そしてスピンオフって概念あるよね?」

「あるわね」


「そう考えると、物語と言うのは見方を変えればモブだった奴でさえも主人公になりえると言うことだよ」

「確かにそうだけど……」

「だからこそ!私は私の物語の主人公に相応しい人間を演じる!そして私の物語の観客は私だけ、なら誰にも文句を言わせない。私の人生さ、私が満足すればそれで良い!ゆえにこの戦いは私の白星で幕引きなのだ!!」

「いまだかつてここまで自分のことだけを求めた主人公が居たかしら?」

「既存の枠組みや概念に捕らわれない!」

「少しは常識を知りなさい!」

 ななちゃんの説教を無視してピッチャーマウンドに立つ。


 ラストイニング、打順は1番の田中から。

「くだばれ!田中ぁーー!!」

「こいよ!月宮ぁーー!!」

 渾身の力を込めてボールを投げようとしたのだけど、なぜかボールは手の中からすっぽ抜けた。

 大暴投である。

 そのままボールはストライクゾーンから大きく右にそれて……

「ゲフッ!」

 田中の脇腹に衝突した。

 あまりの痛さのせいか、田中はうずくまってしまっている。

「あちゃー……」

 罪悪感が全身を襲ってきた。きっと青あざになってるね。

 でも大丈夫、男の子だもん。

 男の子にとっての怪我は勲章称号だってゆうくんも言ってたし。


 と、私の顔を見たななちゃんが『さすが鬼畜、あんなえげつない行為をいともたやすく』と口パクで言ってきた。

『事故だもん!』

『開き直るな!』

『スポーツじゃ死ぬ事だって事故で済まされるんだよ!?麻雀でも死人が出たりするらしいよ!?』

『麻雀で事故死しても、それ麻雀でしょ!!』

『実際、起きないと何とも言えないよ!!』

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