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第10話、白銀の剣は拳を砕く

「レディース!!アンド少数のジェントルメンの皆さん!こんにちは!今回、司会進行を勤めさせていただく春風聖です!

 皆さんお待ちかねの決勝戦です!!細かいルールはもう皆さんご存知でしょうから割愛させていただきます。

 さぁ、年に一度の最強の魔法少女を決める試合もこれがラストです!!御二方、最高の試合を魅せて下さい!!」

 バカバカしいアナウンスがコロシアム中に響き渡る。

 こんなアホなやり取りをのん気に行えるのは喜ばしい事なのだろう……。

 なのに、どうしてこんなに面白くないのか疑問になる。


 こんなつまらないことはとっとと済ませたい。

「久しぶりだな、本気のアンタと殺り合うのは」

 私が入るゲートと反対側のゲートからブラウンが狂喜に満ちた顔で入ってくる。

「下らない、前口上は嫌いなのではなかったか?」

「アンタはクロが死んでから変わったからな、少し心配していたんだよ。」


「……関係ない」

「は?」

「貴様と闘うこととクロが死んだことは関係がないと言っている」

「それはそうかもだが……」


 審判である常盤ひながこの空気に臆しているのか、その顔は恐怖の色で染まっている。

 いくら個人戦の審判が公平を規す為、イカサマができないようにアナログなクジ引きになっているとは言え、もっと適した人間を選抜した方が良かっただろうに。

「審判、とっとと試合を始めろ」

「は、はい!し、試合開始ー!!」


 試合開始から10秒経っても、ブラウンは襲ってこない。

 当たり前だ、ブラウンの『予知』は後手でなければ機能しない。

 彼女の能力は非常に強力なものだが、本人の性格との相性が悪いのが一番の欠点である。


「どうした?来ないのか?」

「舐めやがってッ!!」

 ブラウンが右腕の鍵爪で斬りかかって来る、それを剣で凌ぎ、押し返す。

 空に飛ばされたブラウンは魔法弾で弾幕を張りながら宙返りして着地する。

 こちらに向かってきた魔法弾の嵐を剣で吹き飛ばす。

「この程度か?それともこんな時まで遊んでいるのか?」

「当たり前だろ?こんなもんにマジになるわけねぇって。お互い楽しもうじゃねぇか、このお遊戯を」

 鍵爪で指のウォーミングアップをしながら発現するブラウンに私は激高しそうになった。

「……私は、貴様程度に負けるわけにはいかない。誓ったんだ、私は誰にも負けない、史上最強の魔法少女になると」

 誰も傷つかないで済む優しい世界が手に入るまでは。


「は?史上最強……?それは引退していった魔法少女を含めてか?」

「もちろんだ」

 最大級のアホ面で驚愕した後でブラウンは左手で腹を抱えて爆笑しだした。

「ククク……ハッハッハ!最高じゃねぇか!!最高に愉快な気分だッ!!胸の奥からゾクゾクしてくるぜ、テメェをぶっ殺すその刹那の快楽をオレは味わいたいッ!!

 来いよ、シルヴィア!最高の殺合しあいを始めようじゃねぇかッ!!」


 ブラウンが跳躍し、こちらに向かってくる。

 短絡的な思考が彼奴の一番の弱点だ、自発的な行動の後は『予知』できない。

 跳躍に合わせて剣を振る、がブラウンは背後に周った。

「バカがッ!『予知(見え)』なくても読めてるんだよッ!」

 ブラウンの拳から放射される青緑色の光の波が丸腰の背中を襲う。

零距離衝撃波ゼロインパクト!!」

 衝撃波が私を吹き飛ばす。戦闘服を着ているにもかかわらずこの威力とはさすがだ。

 無様に地面との接地をどうにかするために、剣で地面を押し上げて跳ね上がる。

「くっ!」

 攻撃に特化しているブラウンの攻撃を直撃してしまったのは痛い。

 無駄に押されている。

「どうした?オレ程度に負けるわけにはいかないんじゃなかったんじゃねぇのか!?殺しちまうぞ!!」

「調子に乗るな!!」

 ブラウンが空中でふざけている間に剣を薙ぎ払う、剣から放たれた白銀の一閃がブラウンの残像を消し飛ばす。

 本物のブラウンは地面に着地し、態勢を整える。

「ハッ!やるじゃねぇか!今のが直撃だったらこっちが御陀仏だ!」

「相変わらずちょこまかと小賢しい」

「それがこっちの流儀だ、テメェらほど性能スペックは高くないんでね」

 ヒットアンドウェイで攻めてくるブラウン、けれどバカの一つ覚えでヤラれるほどこちらは弱くはない、弱かったら何も守れないじゃないか。


 空中でのバク宙、スピン、滑走、その全ては他人に魅せるため、他人を楽しませるために無駄な演技をしているようにしか感じない。余計な演技はこちらが攻撃してこないと『予知』っているからなのだろう。

 楽しんでやがる、こいつは確実にこの戦闘を楽しんでやがる。


 人の気も知らないで、楽しそうなヤツだ。

 不愉快だ、不愉快で仕方がない。

 目の前のバカはいつもと同じように楽しみながら私と闘っている。

 それが極めて不愉快なんだ、なぜかは理解してる。


 クロも、紫苑もここには居ない、今の私には何もない、孤立無援。

 なんでだ……なんでこんなにも世界は不平等で理不尽で残酷なんだ……。

 なんで、なんで私は独りなんだ!!

「気分が悪いっ!!」

 八つ当たりのように剣を握り、目の前のバカを斬りかかる。


「おっと!」

 突進中のブラウンは運動エネルギーを無視して、バックステップで剣撃を避ける。

「やるじゃねぇか、目が覚めたか?」

「くだらん、私は貴様を倒すだけだ、今ここで」

 確固たる殺意を込めて返事をする。

 すると、ブラウンは『狂楽』とでも表現できそうな顔で笑う。


「へぇ~?んじゃ、こっちもギアを上げますかっ!!」

 右手の籠手を握ったり開いたりと慣らしている。

 阿呆め、大技を使うことが丸見えだ。


「勝利を掴め!! 『地穿空裂海漠豪拳グランドストライク』!!」

 籠手の形状が異形の魔物のように変化し耳障りな声で咆哮する。

 獲物を目の前にした肉食獣の涎にしか見えない何かが籠手から漏洩し出した。

 彼奴の右腕はもはや空腹のせいで極限状態になっている猛獣のようにも見える。

 完全にこちらの息の根を止めに来るらしい。


「ならこちらも全力で潰させてもらう!『災禍を討滅する剣(ソードオブダモクレス)』!」

 鈍らの剣に全力を込める。

 簡単にヒビが入り、今にも朽ち果てようとしているのが良く分かる。

 それでも全力を尽くす、目の前の敵を真正面から討ち滅ぼすために。

『くたばりやがれぇぇぇええええ!!!』

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