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第4話、伽羅の拳は天を貫く

 時を飛んで、ブラウンとの決戦の日。

 私は決戦に巻き込んだひなちゃんに魔法について少し習っていた。

「それでは、まずは魔法の種類をお浚いしましょうか」

 アカリン、知ってるよ。魔法って固有魔法と基礎魔法の2種類があるんだよね?

「一応、合ってはいるのですが、今回はブラウンさんとの練習試合なのでもうちょっと深くまで勉強していきたいと思います」

「うん?でもこの前お兄ちゃんは2種類しかないみたいなことを言ってなかった?」

「主に分類すれば、ではありませんでした?」

 あぁ、そんな気もしないでもないような気がするわけでもなくは無い。

 多重否定しすぎて肯定なのか否定なのか自分でもよく分からないけど。


「練習すれば誰にだって使える基礎魔法、そして魔法少女においてそれぞれ違う能力を持った固有魔法。そしてそれらから派生して『複合』『発展』『応用』の3種類があります」

「ほうほう?」

「複合魔法は簡単です。固有魔法と基礎魔法を文字通り『複合』した魔法です。蒼子さんが氷の武器をよく使っていたではないですか?あれのようなものです」

 あの氷の日本刀のことかな?

 武器化しただけではあんな風にはならないってことは私も理解してる。

 固有魔法に関係なくできるんなら、私だって炎を剣とか雷の鎧とか作りたい!


「なるほど、あとの2つは?」

「発展魔法は、基礎魔法をアレンジしたものです。蒼子さんやブラウンさんはこれを利用して宙を跳んでます」

「へぇ~、使い方を変えたのが発展魔法ってこと?」

「端的に言えばそうなります。ただ、これには慣れが必要なのであまりブラウンさんとの試合にはオススメできません」

「あいさー、それで最後の応用魔法ってのは?」

「これは説明が難しいのですが……一言で言えば、最も効果が強い技でしょうか?」

「最も効果が強い技?つまり最強技?秘奥義?一撃必殺技?」

「イメージとしてはそれらで正しいかもしれません。習得が非常に困難な魔法で、その分威力は十二分なものです」

「ほへぇ~」

 と感嘆。

「他人事のように言っていますが、紅莉さんもこの前使ってたじゃないですか?」

「え?私が?」

 はてさて、いつだろうか?

 そんなびっくり仰天の技を使った記憶はないのだけど?


「ほら、クジラタイプを討伐した時に使っていたあの破壊光線ですよ」

 あのよく分からないレーザービームのことね。無我夢中で撃ったからどう頑張ったら出せるのか分からないけど。

 ってことはだ、逆に言えばブラウンなんかはあれくらい凄い魔法を習得してるってこと?

 ひゃー。

「一度撃てたのだから素質はあると言う事ですよ。今後の課題はあれを好きなときに使う事が出来るようになることですね」

 簡単に言ってくれるけど、そうしないとブラウンと互角以上に戦う事ってできないんだよね


 機関の秘密基地のコロシアムへブラウンとの決戦のために向かう。

 ってか、なんでこの基地にはコロシアムなんてあるんですか?

 この基地は探索するだけで数日退屈せずに済みそうだ……。


 コロシアムの中に入ると、すでにブラウンが戦闘服を着てウォーミングアップをしている。

 ブラウンの戦闘服はSFにでも出てきそうな近未来な感じのプロテクター。スポーツブラとローライズパンツだけで軽くするために露出が高め。ビキニアーマーを若干引くレベルの痴女っぷり。左腕のガントレッドは前腕部までだが、右腕のガントレッドは肩までとかなり巨大。

「おいおい、この変質者。アンタには羞恥心がないの?」

「機動性を優先した結果だ。オモチャの車だって軽量化するために肉抜きするではないか?」

 戦闘服はオモチャと同じ原理なの?


「というか、そっちも早く着替えろよ」

 なぜだろう……人が見ている前で着替えるのを催促されるって変態的な感じがする。

「それは紅莉の心が穢れてるからさ」

 審判を務めるアオちゃんが突っ込む。

「人を人格破綻者みたいに言わないで!!」

「えっ……?違ったのか?」

 真顔で言われてしまった。

 最近の私って扱い酷くない!?

 それとも私って昔からこんな酷い扱われ方だったの!?


 そんな私を無視スルーして戦闘服に着替えた。

 ひなちゃんの戦闘服ってマジメに見るのは地味に今回が初かも?西洋人形かと思えるくらい原宿系のゴシックロリータな緑のドレス。若草のような刺繍が施されている。その見た目は『不思議の国のアリス』のアリスを魔改造した雰囲気。ロングスカートなので内部が見えることはないが、かぼちゃパンツと呼ばれるドロワーズを履いていると思われる。ちなみに靴はパンプス。


「面倒くさい……とっとと始めてくれませんか?」

 ふわぁっと欠伸をしているアオちゃん。

 夜更かしでもしたのかな?良い子は早寝を心がけようね。

「そんなに退屈そうな顔をするなよ、蒼子」

「こんな勝負に意味なんてあるんですか?弱いものイジメは感心しませんよ」

 既に私が負ける前提で話が進められている……。


「ふわぁ~あ、昨日は夜遅くまでシェイクスピアのハムレットを読んでいたんです。寝たいので早く帰らせてください……」

 すでに目が空ろだよ、この子は。

 というか、ハムレットって名前しか聞いたことないような作品だけど面白いのかな?シェイクスピアの四大悲劇って言われてるけど悲劇は嫌いだ、報われないから。


「別に寝ててもいいぞ?」

「良くないだろ!!」

 ブラウンの提案に大声を出してしまった。

 さすがに聞き逃せないわ!


「さてと、蒼子も眠いって言ってるし、そろそろ始めるか?月宮」

「えぇ、そうしてくれると助かる」

「じゃあ、まずルール確認ですが……細かい事は適当で良いですよね?」

 アオちゃん、完全にめんどくさがってる人の言い方だ。

「こっちは問題ないよ」

「私も別にいいけど……ん?勝利条件ってあるの?」

「あぁ、そういえば知らなかった?基本的に審判が戦闘不能と判断するまで試合は続く」

「うへぇ……けど、こっちはアンタに一撃でも入れたら勝ちで良いんだよね?」

 念のために確認しておく。

 おそらく相手はそのつもりだと思うけど。

「もちろん、そういう条件だからな」


「では確認します。月宮紅莉、常盤ひなペアの勝利条件はブラウンこと茶野豊に一撃でも有効打が入ったと判断された場合。茶野ブラウンの勝利条件は通常通り、月宮紅莉と常盤ひなの両名が戦闘不能に……」

「いや、私だけで良いよ」

 さすがにひなちゃんにそこまで迷惑はかけられない。

「ブラウン、異議は」

「異議なし」


「では確認します。月宮紅莉、常盤ひなペアの勝利条件はブラウンこと茶野豊に一撃でも有効打が入ったと判断された場合。茶野ブラウンの勝利条件は通常通り、月宮紅莉が戦闘不能になった場合。双方、よろしいですね」

「問題ない」

「オーケーだ」


「それでは試合開始」

 アオちゃんが試合開始の号令をする。

 号令の直後に、杖を横に振って、周囲に魔法弾を設置する。

 空中版地雷である、いや空中爆雷かな?


「最初にそういうことをやるか、主導権でも取ったつもりか?」

「へっ、さすがのアンタもこの爆雷の中に突っ込んでくるほどアホじゃないよね?」

「挑発する余裕があるのか?攻めて来いよ、つまらないだろ?」

 本当にうるさい口だ!だけどよく言うじゃないか、『攻撃は最大の防御』だって!

「飛んでけ!」

 杖から4つ魔法弾を作り出して打ち出す。

 けれどブラウンはそれを簡単に避けた。


「チッ!またか!!」

 露骨に舌打した私にひなちゃんが話しかける。

「紅莉さん、ブラウンさんの固有魔法は『予知』です」

「おいおい、ワタシの能力をバラすなよ」

「予知?」

「詳細な能力は知りませんが、近未来を視覚映像として見ることができるそうです」

 ちょっとチートすぎませんかね?

 でもそれが本当ならどんな不意打ちも回避できる理由は分かった。


「さ、こちらも攻撃に入りますかな」

 鍵爪を一文字に引っかいた。

 すると、衝撃波か風圧のせいか爆雷が弾け飛んだ。

「!?」

「基礎魔法は全ての魔法少女が例外なく使えるってことを忘れた?」

 今のは基礎魔法なの!?

「おそらく魔法障壁を飛ばしただけかと」

「つまり爆雷を吹き飛ばしたんじゃなくて、爆雷に障壁が当ったから爆雷が正常に作動したってこと?」

「たぶん」


「そう、魔法障壁は別に防御に使うだけじゃないんだよ。こうゆう風にさ!」

 ブラウンの掌から出てきた円盤のような魔法障壁がこっちに飛んできた。

「こかこッ!?」

 飛んできた円盤を避けたけど、円盤は思いっきり壁に突き刺さった。

「…………あぶなッ!!」

「そうそう、今のくらい避けてくれないと面白くない」

 さっきから妙だ。

 この前の時も妙だったけど、ブラウンからは私と闘う意思が感じられない。

 むしろ、デキの良い後輩に闘い方をレクチャーしているように感じる。


「アンタはさ、私に戦術でも指南してるの?」

「まぁね、知ってるか?私もオマエも魔法少女は来年になったら引退なんだよ?」

「聞いてるよ」

「時間ってのは有限なんだ、だからオマエにはもっともっと強くなってから楽しみたいんだ」

「この戦闘狂め」

「アンタも分かるよ、そのうちね」

 分かりたくないねッ!

 再度、爆雷を配置。

 今度は破壊されないように、魔法弾で弾幕をはる。


「あらよっと!」

 ドッチボールのように避けやがる。

 弾道が『予知(見ら)』れていると分かって避けられるとバカにされた気分が倍増する不思議。

「そろそろこっちのターンかな?」

 軽口を吐き、爆雷を避けながら私の方にジグザグに滑走してからボディブローしてくるブラウン。


「グハッ!」

「キャハッ!良い鳴き声だッ♪」

「調子に乗るな!」

 杖を棍棒のように振り下ろす、しかしそれをブラウンは平然と防いだ。

「ばぁーか、だから『予知(見え)』てるんだって」

 スキだらけの左脇腹をもう一度殴られ、吹き飛んだ。


「はぁ……はぁ……」

「もう息切れか?はえーよ」

「スタミナ切れのせいじゃないって……」

「そうなのか?ま、どっちでも良いけど、もっと焦らしてくれよ!まだ全然昂ってねぇからさ!!」

 右腕の鍵爪を横一線でなぎ払って爆雷を消し飛ばす、戦法がむちゃくちゃなんだよ、この女!

 無意識に腹部への攻撃を警戒すると、また『予知(見ら)』れたらしくブラウンは即頭部への回し蹴りをしてきた。

 だけど、避けられない技じゃないっ!

 蹴りの軌道を予測、そして頭を引いて避ける。

「ひゅー、やるな」

 ブラウンが余裕な顔で口笛を吹く。

「だが、まだ終わりじゃねぇ!!」

 回し蹴りの勢いが消えない内にブラウンは二度目の回し蹴りを行なってきた。

 マズイ!?これは対応できない!!


 反射的に腕でガードする。

 くっ!重い!!

「今のも防ぐのか、けど最後におまけが待ってるぜ!!」

 まさかの三度目の回し蹴り、それを対処する余裕はまったくなく、モロに即頭部を襲って私を錐もみ回転で飛ばす。


「紅莉さん!!大丈夫ですか!?」

 しょ、正直な話、今のはヤヴァイ……超ヤヴァイ……。

 頭がくらくらしてきた、……脳震盪?

「どうした?今のはちょっと効き過ぎたか?」

 杖を本来の使い方で立ち上がる。

 そして、杖をブラウンの方に向け挑発……なんてせず、

「死ねぇぇぇええええ!!」

 引き金を渾身の力を込めて引き絞る。

 クジラ型の時ほどではないけど、直線状の熱線が放たれた。


「ハハッ!まだこんな奥の手があったか。良いね、チョー良いね!!」

 ブラウンが狂喜しながらアッパーカットで熱線を殴りあげた。

 ……って、はぁぁああ!?

「ふぅ……まさか収束砲なんて応用魔法を使えるとは思ってなかったね。けど、その程度じゃこのブラウン様は倒せねぇって!!」

 イヤイヤイヤ!!その右手は何でもありなんですか!?

「うん?オマエが収束砲を使ったように、オレも魔法で強化したパンチを使っただけだ。こんな風になっ!!」

 地面を蹴り上げて跳躍し、放物線を描いて殴りかかってきた。

 障壁バリアを作り防ぐけれど、障壁はまるで枯木のように砕け散った。

 ちょっ!マジで!!同レベルとは思ってなかったけどここまで力の差が開いてるなんて思わなかったよ!!



 体を半身にして鍵爪で無数に突いて来る。

 障壁を張りながら防ぐけど、かなり厳しい。

 鍵爪の間に杖を滑り込ませ、押し返して後退する。

 後退しながら魔法弾を生成して即座発射。追撃の妨害を試みる。


「ふん、良いねぇ……本当に良いねぇ……簡単に倒させてくれない」

「倒す?少なくともアンタが遊んでいる内は私を倒すことなんてできないよ」

 杖を振り回して周囲に爆雷を設置してブラウンの行動を支配しようとする。


「また設置型の魔法かよ……芸がない」

 鍵爪をくぱくぱと結んだり開いたりして退屈そうに呟く。

「へ、ならこうしてあげるよ」

 私は正面の爆雷を横にずらしてブラウンが突撃しやすいように道を作った。

「……あ?舐めてんのか?こっちはようやく熱くイキリ立って来たのによ!!」

「臆したのですか?ブラウン様」

 怒声を放つブラウンに皮肉を込めて挑発し、手をくいっと招く。

 さぁ、チェックだ。ここが勝負の分かれ道!!

「いいぜ、何を企んでるのか知らないがオレがここでビビるわけがねぇだろがッ!!」

 体をひねらせ力を込めだすと、右手の鍵爪が禍々しい光を放った。

「さぁ、覚悟はできてるんだろうな?痛いでスマねぇぞ!!」

 高速道路の大型トラックのような勢いで突っ込んでくる。

 けどさ!バカじゃねぇの!!

 王手チェックなのさ、対策を講じずに猛進したら私の勝利が確定するんだって!!


 ブラウンが右腕を禍々しく輝かせながら突撃してきた。

 だが、その選択は間違いなんだ!!


「終わりだ!」

 ブラウンの鍵爪が私の目の前まで来た瞬間、爆風がブラウンを襲った。

「なッ!?」

 何が分からないか分からないブラウンは爆風に吹っ飛ばされた。


 勝った!これで一撃入ったよね!

 アオちゃんの顔を見ると、鳩が豆鉄砲を食らったような顔と表現される驚愕に満ちた顔をした後、私の視線に気付いて頭を縦に振る。


「……ブリリアントボム」

 爆風に飛ばされたはずのブラウンが私に飛び掛って、鍵爪で私の服を掴み、何回か宙を跳んだ。


 …………え?

 ある点でブラウンが1回転して、地面に私を投げて、彼女自身も重力とともに降下した。

「くたばれ」

 マジトーンだ。今までの舐めた戦い方じゃなく、殺しにかかってる気がする。

 重力を無視できる私の固有魔法の『飛行』で加速を相殺しようとしたけど、厳しい。

 相殺が間に合わず地面に激突してしまい、そこをブラウンの渾身の一撃が狙っている。


 覚悟を決めて目を閉じるけど、蒼色の半着と袴、足袋に下駄を履いた和装少女が間に入った。

「何のマネだ、蒼子!!せっかく昂ぶってきたってのによ!!」

「それはこちらの話です。すでに勝負はついています」

「は?何言ってんだ?月宮はまだピンピンしてるじゃねぇか!!」

「自分の敗北条件、つまり紅莉の勝利条件は覚えてますか?」

「オレの敗北条件?………………あ」

「気付かれましたか?」

「……つまりなんだ?オレは既に負けてるってのか?」

「そうなります」

「くそがッ!!せっかくここまで興奮してきたのによ!!」

「当らないでください。自分のせいです」

 説教するように説明するアオちゃんを見て、ブラウンが全身を使ってぐったりと肩を落とす。


「マジで萎えた……。帰る」

「お疲れ様です」

 期待していた宝くじが外れたみたいに猫背のままブラウンは帰っていった。

 本当にマイペースな女だ……。


「ところで、ブラウンに当てたあの技はなんだ?なぜ何もないところで爆発が起きた?」

 どうして私たちがブラウンに勝てたのかがまだ理解できていないアオちゃんが私に秘策を聞いてきた。

 けど、さっきの落下の衝撃がまだ体に残ってて口を開けない。

「それはわたしが説明しますよ」

 とさっきから傍観に徹してくれていたひなちゃんが割ってきてくれた。


「あれは紅莉さんの魔法弾をわたしが見えなくしたんです」

「見えなく?だがあの場所には最初から何もなかったし設置した覚えもないが?」

「そうですね、正確に言うと『光が存在することができない空間に紅莉さんが魔法弾を作ってそこにブラウンさんを誘導した』と説明するのが適切かもしれません」

 そう!名づけて『認識不能の爆雷(ステルスマイン)』!!

 いくら技の軌道が事前に把握できていても、存在を知らないなら対応できないってわけさ!

 だから、私はひなちゃんと組んだ。ひなちゃんの固有魔法は使い方次第じゃ最高の魔法だからね!!


「まったく、萎えるわ」

 食堂に不機嫌そうに入ってきて、何事もなかったように私の隣に座るブラウン。

「人の目の前に断り無く座るのはまだ分かる。しかし、いきなり愚痴を漏らすのは感心しないな」

「じゃあ、り合うぜ!シルヴィア」

「わけが分からん、説明を要求する」

「はぁー、さっき月宮紅莉と殺り合ったんだ。だが、生殺し状態で殺合しあい終了と来たもんだ」

「君に説明力が欠如していることだけは分かった。とりあえず順を追って説明したまえ」

「実はな」

   ~~かくかくしかじか~~

「なるほど、事情は分かった」

「だっしょ?」

「カスだな」

「なぜそうなるッ!!」

 どうやら順を追って説明しなければ理解してくれないらしい。


「痛めつけて痛めつけて、そして負ける。はぁー、君には本当に失望するよ」

「その言い方は非常に不愉快だ」

 発言の内容同様に顔は酷く不機嫌なものであった。


「不愉快なのは私の方だ。あの月宮紅莉が調子に乗る原因がまた1つ増えた上に、こうして君に絡まれる。はぁー」

「溜息を吐くと幸せが逃げるって言うが?」

「……それこそ私には関係ない、幸せなど逃げ切っているからな」

「アンタは少しは楽しめよ?人生なんて有限なんだから」

「有限だからこそ、もっと有意義なものにすべきではないか?」

「はいはい、素晴らしい経歴をお持ちのお姫様は辛辣なセリフですね」

「私に嫌味など通用しないぞ?」

「つまんね。クロが居た頃のアンタならもっとマシな反応を……」


 私は無意識にフォークをテーブルに突き刺し、大きな音を立てて八つ当たりしてしまった。

 その物音にブラウンだけでなく、食堂にいたほとんどの人がこちらを見てきた。

 通常なら、顰蹙ひんしゅくを買うような行動をしたことを謝るところなのだが憤怒が勝ってしまった。

「殺すぞ、貴様」

 自分の心を御することがどれほど難しい事なのか私は理解してはいる。

 理解していてもできないからこそ難しいのだ。

「……すまない、気配りが欠如していた。謝罪する」

「気分を害した、帰らせてもらう」

「へい、また今度な」

 クロか……そういえばもうあの出来事から半年も経つのか……。

 何もかも、あの時とは変わってしまったな。

 彼女たちとの出会いは私の人生にとって大きな分岐点になったことだ。

 運命というモノがこの世にあるのなら、彼女との出会いと死別わかれにどんな意味があると言うのだろうか?

 紫苑、どうして私はこんな所に居るんだろうか?

 君なら私の疑問に何でも答えてくれるじゃないか?

 教えてくれよ、私は……どうしたら良いんだ?

 お願いだから教えてくれ……

 そこで私は、自分が無意識に手で涙を拭っていることに気付いた。

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