第2話、真紅の炎は友人と談話する
「やぁ」
「こんにちは」
入院から3日目の午後。ようやく親友様たちがお見舞いにやって来てくれた。
「……」
「どうかした?」
「親友が入院してるのに見舞いに来ないってどういう神経なの?」
「親友だからこそ、見舞い品を選んでいたんだけど?この前言ってたオススメのクラシックCDも要らないのね、分かったわ」
カバンの中からCDケースを取り出してまた戻すと言う非常に無駄な行為で私をおちょくるななちゃん。
「!?ごめんなさい、そして愛してる!!」
「そこまで言われても困るのだけど……」
はぁーと溜息を吐かれた。最近、溜息の回数が多くありませんかね?
「はい、紅莉ちゃん。やりたがってたRPGの『俺は主人公になりたかった』クリアしたから貸してあげる」
「おぉ!!マーちゃんありがとう!」
こちらの親友様は優しいのぉ…。
痒い所に手が届くって言うの?
表現間違ってる?
「マヤ、この状態の紅莉にゲームなんて渡したら『ゲームは1日26時間!!』とか意味不明なことを言い出すからやめなさいって言ったじゃない」
「でも、こんな時じゃないとゲーム三昧なんてできないと思うよ?」
「入院中ってのは四六時中ゲームをやるための時間じゃないと思うわ」
二人が軽い口喧嘩をしだした。
子育てでもめる新婚夫婦みたいである。
2人をほほえましく見ていたらノックが聞こえてきた。
「どうぞー」
私の返事を聞いたノックの主が部屋に入ってくる。
ノックの主はアオちゃんであった。
そして2人が口喧嘩を止めてアオちゃんに注目する。
「失礼するよ、……おっと、来客中だった?」
「「椎名蒼子!?な、なんでここに!?」」
アオちゃんに対してこのリアクションである。
うむ、面白いなぁ、愉快よのぉ……。
「あぁ、大丈夫、こっちの親友はその辺り融通が聞くから」
「人を都合の良い女のような言い方をする……」
「それはそれで間違ってると思うよ……」
私の戯言に戯言で返すななちゃんに突っ込むマーちゃん。
良いトリオだ。
「で?どうかしたの?」
呆然としているアオちゃんに用件を訊ねる。
「大した用じゃない、退院するからその挨拶でもと思って。んじゃそれで」
「ちょっ!そんなあっさりな!!」
私の言葉を聞き流して部屋を出て行った……。
えぇ~、マジで挨拶だけ?
「アンタ、あの百鬼夜行と仲良くなったの?」
「さすが珍獣使いの異名を持った我が校一の有名人」
「私ってそんなに有名人だったの?」
世間の私に対する評価を聞いて驚く。
もうちょっと嬉しいような評価をくださいよ。
「そりゃね?先日のようなことも多いって職員会議で話題になってるっぽいし」
「先日?どの件のこと?」
「『どの』と心当たりが多い時点で自分がどれだけの問題児なのかを自覚するべきなんじゃない?」
「……ですね」
もう少し優等生を演じるべきだったかな?
去年、『かったるそう』と言う理由で生徒会長選に参加しなかったけど、参加するべきだった?
「しかし、あの椎名蒼子と仲良くなるなんて……」
マーちゃんが感心、ではないと思うけどそんな感じのニュアンスで呟いた。
「そう?少なくともマーちゃんよりは変人じゃなかったよ?」
「そうね……ん?ちょっと待って。空返事してしまったけど、いったい何時からワタシは自他共に認める変人になったの?」
「え?だってそうでしょ?ねぇ、マーちゃん」
「確かに変わってるとは思うけど……河川敷で決闘に応じる小学生なんて今の時代に何人いることか……」
「道着にヌンチャク装備で気に食わない転入生に決闘状を送りつけ、河川敷に呼び出したにもかかわらず宮本武蔵オマージュで遅刻という兵法を使うような女子小学生の方が変人に思うわよ」
「いやいや、この私と比較している時点でマーちゃんは十分変人だって」
「うわぁ……これが親友なのが悲しい、とても悲しい」
ふん、自覚している分、私のほうがマシだと思うね。
「しかし懐かしいね、あの決闘のことは……あぁ今でも昨日のことのように思い出すよ」
「え?この流れで回想が入るの?」
■ 二年前、月宮紅莉(当時4年生)
「夢島ななみです。よろしくお願いします」
春と言えば進級であり、そして転入生の季節である。
そんな中、我等がクラスの転入生はあのしかめっ面の女子である。
この世の全てがつまらないと言いたいのか、それとも今日はたまたま機嫌が悪い日なのかは知らないけど、第一印象は最悪である。
(なんだか怖そうな雰囲気の子だね、紅莉ちゃん)
今年で4年連続同じクラスである親友のマーちゃんがひそひそ話してきた。
(いやはやまったくですね、あの子の隣になる子が可哀想……)
(え?たぶん机の配置的から考えると)
「はい、じゃあ夢島さんは窓際の一番後ろの席に座ってね」
「…………」
担任の先生が転入生にどの席に座るのかを支持する……って、ヴぇ!?
「よろしく」
窓際の一番後ろの席についた転入生が隣の席に座ってる私に挨拶した。
「よ、よろしく」
意表を突かれた展開に戸惑いながら挨拶する私。
「紅莉ちゃん、どんまい!」
▽
「約2年前の四月、私のクラスにマーちゃんが転入してきた。マーちゃんはこの近所では有名な豪邸に住んでいるオッサンの孫だと言う事で皆から注目されていて、それが私は気に食わなかった。
それゆえに肉体言語で語り合い、絆を深めていった……懐かしい」
『きゃおらっ!!』『きしぇぇーー!!』と拳と拳で殴り殴られ……。
「なんか変なところで切り上げられ、その後に思いっきり端折られた様な気がするけど、思い出したくないくらいのひっどい思い出ね、今時のJSの思い出じゃないわ」
「あ、当事者が言っちゃうんだ……2人のケンカ見てたけどドン引きだったよ」
あの戦いは熾烈を極めたからね、仕方がないよ。
「いや、マヤはそういうつもりで言ったんじゃないと思うわ」
やれやれと溜息を吐くななちゃん、溜息を吐くと幸せが逃げるって言うよ?
もう大変な状況じゃありません?
「でもま、しょうがないでしょ?こんな面白愉快な人間に今後の人生で出会える気がしないわ。少なくともこの路線で行き続けて欲しい、皆に笑われるピエロのごとく」
「とんでもなく失礼なこと言われてない?」
「そんなつもりはないよ、ただ高校生でもこんなバカな女で居て欲しいって思った」
「そこは『バカな関係』なら感動してたって……」
「バカな関係ねぇ……少しは大人になりたいわ」
「やっぱり大人になりたい?」
「普通は大人になりたいでしょ?」
「でも大人にはなりたくなくてもなれるけど、子供は後数年しか味わえないんだよ?」
「十分味わった気がするからもういいわ。と言うか今味わえる事は大人になっても味わえると思うから」
「けど、今でしか味わえない事だってあるはずだよ!」
「逆に今でしか味わえない事って何?」
「…………男湯?」
「死ねよ」
真顔で言われた。おそらく本心であろう。
さすがのアカリンもこれには動揺を隠せません。
「紅莉ちゃんの将来の職業が人様に自慢できるようなものであって欲しいとこれほど願ったことはないよ」
親友2人の好感度がストップ安でござる。
これ、ネットとかならすぐにブロックされるほどの状況じゃない?
良かった、リアルワールドで。
「じゃ、じゃあまた何処か行かない?」
「何処に?」
「動物園とか水族館とか?」
「水族館?良いんじゃない、たまには3人だけで遊びに行きたいわ」
「3人?」
「聞き返すような内容ではないし、少しは兄離れした方が良いはず」
「そういえば、去年のハロウィンは3人だったね」
「あぁ、変な外国人に絡まれて、変な外国人に助けられたアレね」
「そんなこともあったねぇ、あの人は元気でやってるかな?」
……ていうか、どんな人だっけ?白いシスター服を着ていた白人ってことは覚えてるけど……。




