エピローグ:白銀の剣は鞘から抜ける
「じゃ、オレは帰るからな。何か必要なモノがあったらメールでもしてくれ」
機関の病棟を歩いていると、とある病室から月宮教官が出てきた。
「こんにちは月宮教官。珍しいですね、こんな所にあなたがいるなんて」
「やぁ、シルフィー」
この人は相変わらず馴れ馴れしい。
「もうあなたの班ではないのだから『シルヴィア』と呼んでもらいたいのですが」
「悪かった、シルヴィア。ところでお前はよくここに来るのか?」
「えぇ、私用です。気にしないでください」
「そうか……」
とりあえずの挨拶をしたところで別れようと思ったのだけれど、なぜか月宮教官は私の隣を歩き出した。
「……なんで私の隣を歩いているのですか?」
「気にするな、オレもこっちに用がある」
「出口は真逆ですよ」
「まぁ、そういうな」
「……ロリコン」
「ちょ!?おま!?人には言って良い事と悪いことがあってだな!!」
はぁ……
気がつくと溜息が出てしまった。
ダメだ、この人の前だと自分を取り繕うのがバカらしく思ってしまう。
「そんなにオレが嫌いか?」
「まぁ……今回の件でより一層」
「は?」
「ブラウンから聞きましたよ、椎名蒼子と月宮紅莉を殺しかけたって」
「殺すって……」
「日本ではそう表現すると聞きましたが?」
「だが……あの2人は生きてるぞ」
「『あの2人は』です。でもクロは……」
「お前は、まだクロのことを引きずってるのか」
その言い方だと、もうあなたは割り切っているんですね。
魔法少女が死ぬことを。
「……その表現は的確ではありません。私は、誰も死ななくて良い優しい世界が欲しいだけなんです」
あの日、紫苑がそう願ったように。
「そんな世界が手に入るなら誰だって手に入れたいさ」
「それでも、私は死力を尽くすだけです。人は過ちを繰り返さないために過去を学び未来に活かす。現実逃避をして自分にとって都合のいいことだけを切り取りながら生きても虚しいだけですよ」
「変わったな、お前は」
変わりますよ、いつかは処女を捨てないと今度は行き送れだと叩かれるものです。
「……はっきり言いましょう、あなたの妹さんは魔法少女に相応しくない、また教え子を殺したいんですか?」
「おい!そんな言い方って!!」
今までの飄々とした口調から変わり、本気で怒り出した。
だとしても、私の想いは変わらない。
「婉曲に言ったところで何も変わらない、相手が不快になり激怒したとしても、それはその相手が真実を受け入れられない低脳な人間です」
「だとしても言って良い事と悪い事くらいあるだろ!お前にはデリカシーがないのか!」
あなたには関係ありませんよ、私の人間性なんて。
「それでは、私はこれで。失礼します」
「あ!おい!まだ話したいことは山ほど!!」
日本流の挨拶である『お辞儀』をして私は月宮教官と別れた。
月宮紅莉、自分のことを客観的に評価することもできない愚者。
椎名蒼子、自分のことを過大評価している阿呆。
そんな暴れ馬たちの手綱を握ることがあの人の仕事のはず、なのにあの人はそれを放棄している。
ねぇクロ?あの人がしっかり監督していれば、今も君は私の隣に居てくれた?
To Be Continued.




