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第11話 深蒼の氷は秘密を知られる

 カラオケで2時間ほど歌った椎名蒼子はカラオケ店を出て商店街を散歩しながら次に入る店を考えている。

(あ、今度はファミレス『ガンマ』に入るみたいですよ)

(ファミレスでボッチ飯だとッ!?)

 やべぇ、レベル高ぇ……。

 いや、最近の喪女はボッチファミレスでドリンクバーだけを注文して何時間も居座るって聞くけど……。


「ご注文はお決まりですか?」

「特製カルボナーラ1つ」

 ここで普通に食事です!!

 これは鋼の心を持っていないと出来ない芸当です!!

 彼女には羞恥心がないのでしょうか!!

 もちろん、あるわけありません!


「はい、ご注文は以上ですか?」

「えぇ、他は結構です」

「承りました、少々お待ちください」

 ウエイトレスのお姉さんがキッチンに戻っていった。

 椎名蒼子は手持ち無沙汰を解消するためかパーカーの胸ポケットに入っていた小説を読み出した。

 小説と言ってもライトノベルのような『絵のないマンガ』ではなく、芥川龍之介の重そうな小説である。


 レベルの高いボッチです!

 スマホを待ち時間に使わないのは彼女が自分のことを俗物扱いしたくないからでしょうか?

 あの子は本当に9歳なのでしょうか?

 あんなのをファミレスの待ち時間に読む小学生なんて居ないでしょう!

 異常です、もっと悪く言えば変人です!


 約30分で昼飯を食べ、フェミレスを出たかと思ったら。

(あれ?今度は回転寿司に入るみたいです?)

 何っ!?梯子だとっ!!?

 カルボナーラを食べた後で今度は回転寿司とはどんな腹をしているんだ!?


 ここは私たちも入ることにしてみる。

 昼時であるが平日だからだろうか?人は居るものの待ち時間はゼロ、満席ではない。


 ところで最近の回転寿司チェーン店はハイカラなのですね。

 卓上にタブレットが置いてありますよ、タブレット。

 これで注文すると、上からピューンと流れてくるって言う最先端技術らしい。

 でも、機関の全自動なんちゃらかんちゃらの方が凄かったけどね。

 はたしてこの手のファミレスがあそこまで進化するのは何年かかるんですかね?


(どうやらサーモンを4皿も注文したみたいです)

(4皿!?4貫じゃなくて4皿!?ファミレスでカルボナーラを1人前食べてその上いきなり4皿!?)

 もちろん、回転寿司と言うのは通常1皿に2貫ずつが主流であり、この回転寿司チェーン店も同様なんだけど、そこで4皿もサーモンを注文する?最初から。

(サーモンを摘みながらタブレットを弄ってますね)

(だね、どうやらまだまだ注文するみた……)

 絶句した、まさか長々とディスプレイと睨めっこしたかと思ったら炙りチーズサーモン、オニオンサーモン、サーモンバジルとサーモンオンリーである。

 って、どんだけサーモン好きなんだよっ!?

 せっかくの回転寿司なんだから中トロとかアジとかウニとか食べたら良いんじゃないですかね!?

 というか私が注文したいよ!!

 なんで私は昼飯抜きでこんな所に居るの!?

 クソが!!ストーキングなんてしてる場合じゃねぇ!!


(12時38分、ゲームセンターに入るみたいです)

(ゲーセンね。あの子らしい)

 コンビニでフライドチキンを購入し、尾行を続ける。

 あ~あ、お寿司食べたかったなぁ……。


 例のごとく、ゲーセンにつられて入っていく。

 ゲーセンに入っていた凶悪ポニーテールはとあるゲーム筐体にコインを入れていた。

 彼女の前にはモニターと床に面した巨大なコントローラーが配置されてる。

 ダンスゲームですね、どうやらダンスゲームをプレイするらしい。

(うぅん?なんですか?あの音ゲーは?)

(あれは足でパネルを踏んでスコアを伸ばすタイプの音ゲーだね)

(そうですか……足で……)

(ダンスを疑似体験するタイプのだから)

(残念です、手なら負けないのに)

 対戦する気!?


 と思っていると、ポニーテールの様子がおかしい。

 一人用のパネルだけじゃなく、隣のパネルまで踏み始めた。

 こ、これは!?

 噂に聞く、上級者のみに許されるダブルプレーと言う奴ですか!?

 しかも、ひなちゃんのように才能でできる神業と言うものではなく、何度もプレーしたからこそできたと言う反復練習をしたことが良く分かる類の神業だった。

 いくらつぎ込んでるのかね、この子は?


(あ、今度は格ゲーの筐体の前に座りましたよ)

(格ゲーとはまた女の子らしからぬものに)

 使ってるキャラがイケメンならまだしも、ガチムチのモンゴル人って……。いや、投げキャラですからね、モンゴル相撲って結構凶悪って聞くし強そうだけど、女の子が使いたがるキャラじゃないって。


(アーケードモードを1人でこつこつプレイしてますね)

(CPU戦がやりたいなら家でやれば良いのにねぇ……)

 何の面白みもないのでフライドチキンにかぶりつく。

 うまい!シンプルイズベスト!


 あ、なんか黒のセーラー服を来た女子中学生がポニーテールに乱入した。

 あの制服は音原中学か……ん?まだ1時だよね?

 1時だから午前授業の小学校の子ならこの時間に居てもおかしくはないけど、中学生にしては早くない?中間試験ってもう始まってる?試験期間中にゲーセンとは中々の猛者だ。


 おっと?チャレンジャーはイケメン軍人を使うようです。

 女の子なら当然のチョイスです。

 何もおかしいことはありません。

 椎名蒼子が異常なだけです!


 おぉ!チャレンジャーの見事なストレート勝ちのようです!

 この女子中学生、伊達ではないぞっ!!


 ここで椎名選手、怒りの連コインですッ!!

 今回はキャラを変えて中国拳法家(美人)にするようです。


 しかし、負ける!

 負け続ける!!

 もう千円は連コインしています!!しかし一向に勝てませんッ!!


 そして11敗目が確定した椎名選手!サイフの中身が尽きてしまったようです!

 頭を抱えて『ガッデム!!』と叫んでいます。

 ……からの台パンです!

 迷惑格ゲーマー名物の台パンです!

 ゲーセン側にとって最もして欲しくない行為の1つに挙げられる台パンを椎名選手はやっています!!

 良い子は筐体が壊れるからやっちゃダメだぞ☆


 金欠だからか、椎名蒼子は家に戻った……と思ったけど、どうやら彼女は軍資金の補充をしに行っただけだったみたい。

(おや?今回はバスに乗りましたよ?ゲーセンはもう行かないんですかね?)

(じゃない?んじゃあ飛ぶよ)

 ひなちゃんの手を握り、私は魔法で飛んでみせる。

 この『飛行』も大分慣れたもの。

 時速30km以上で走るバスに余裕で追いつく。

 本気を出したら何キロで飛べるんだろうか?

 1分で韓国に不法入国できるかな?

 でも韓国の領空を飛んだら撃ち落されそう……。


 日本くらいだって言うもんね?

 領空侵犯されても撃ち落さないヘタレって。


 バスを追いかけること20分、この辺りで一番大きい駅前のデパートの前で椎名蒼子はバスを降りた。

 そして彼女はキョロキョロしながらデパートに入っていく。


 ……キョロキョロ?

 はて?アダルトショップに入る中学生ならまだしもこんなデパートに入るのにキョロキョロする必要があるのだろうか?確かに女子小学生にはハードル高い気がするけど、ソロ回転寿司ができる椎名蒼子なら、さながらアクションゲームの無敵状態のようにハードルを無視しそうだけど……?

 凶悪ポニーテールに続いて私たち2人もデパートの中に入って行く。


(マズイ!エレベーターに入る!)

(無理です、間に合いません。次のを待ちましょう)

(くっ!)

 慌てるな、犯人ホシはエレベーターの中にいる。逃げることはできない、なら取るべき手段は1つ!

 エレベーターと同じように飛べば良い!!


(ひなちゃん!飛ぶよ!)

(はぃ……?)


 またひなちゃんの腕を掴んで非常階段で急いで飛んだ。

 階段をダッシュするよりも遥かに楽で速い!


 5階に到着、丁度椎名蒼子も5階で降りたようだ。

(ふぅ……なんとか間に合ったね……)

(あの……わたしの魔法なら蒼子さんの位置くらい簡単に把握できるんですけど……)

 なぬっ!?

 それは早く言ってよ!!


 驚いている私のことを知らない椎名蒼子はファンシーな服屋に入っていった。

(えぇっと……エンゼルフェザー?ずいぶんとファンシーな服屋さんに入っていきましたね?)

 エンゼルフェザー、直訳すると『天使の羽』ねぇ。

 あの『百鬼夜行』と言う異名で同級生からだけでなく、一般市民からも恐れられている椎名蒼子には似合わない可愛らしい店である。

 内部を流し見した感じだとリーズナブルな価格の子供服を取り扱ってる店みたい。

 ほとんどの服は2000円程度、高いものでも5000円ほどのものばかり。

 この店の品揃えから見るに、ひなちゃんならこの店の常連だと言われてもおかしくない、むしろ似合っていると思う。

 あそこのマネキンの羽が生えてるようにしか見えない白のワンピースとか似合いそう。

 しかしまぁ、私くらいの美少女(自称とか言うな!!)だとこんなファンシーな服は似合わないけどね!!


 しかし、なんでこんなファンシーな店にあんな冷血女が…………!?

 な、なんだと……!?

 ば、ばかな!信じられない!!

 あの椎名蒼子が、あの百鬼夜行が、あの凶悪極悪邪悪ポニーテールが恋する乙女のような笑顔で服を物色していた。


 つ、月宮アナライズ!!

 ……!?

 じょ、女子力がストップ高にっ!?

 なぜだ!?なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ…………

 なぜだ!?

 ダメだ!!計測不能オーバーフロウ!!

(グハァッ!!)

(紅莉さん!?どうしたんですか!突然)

(わ、私が死んでも変わりは居るから……次は覚えてろ……)

(紅莉さん!?)


 くっ!やられた!!

 まさか、あの椎名蒼子にこんな趣味があるとは!


 ……しかし、どうだろうか?

 さっきまでは彼女の変人っぷりを見てきたけど、どうだろうか?

 確かに変人ではあるけど、なんというか……平凡?

 カラオケで自分が好きな歌を歌って、独りで美味しい物を食べて、ゲーセンで楽しそうに遊び、バスで可愛い服が売ってるお店にやってくる。

 うん、なんだかんだと色々変だけど、普通の女の子なんじゃないだろうか?

 いや、これは私の尺度で見た『普通』であって、世間様から見たら『異常』なんでしょうけどね。


『お前が蒼子のことをどう思ってるかは知らないが、アイツの方が経歴的には先輩になる。だが、お前は一応人生の先輩だ。だから少しは年長者として振舞ってくれないか?好きになれとは言わない。でも、アイツはお前が思ってるような奴ではないとオレは思うぞ。いつもの蒼子を知っているから。アイツは良い意味でも悪い意味でも自分に正直過ぎる。お前と同じでな』

 ふと、昨日お兄ちゃんが言ってた一言を思い出した。


(『良い意味でも悪い意味でも』か……)

(紅莉さん?)

(あ、ごめんごめん、独り言だから)

(?)

 そうだ、お兄ちゃんの言うとおり彼女はいつもバカみたいに正直過ぎるんだ。

 でも、その正直さが私の好きな人間らしさなんだと思う。

 誰もが『自分』を持っていて、誰もが『自分』を隠したがる。

 建前のない本音だらけの本当の『自分』は他人に嫌われるかもしれないから。

 けれど、彼女はその『自分』を隠したがらない。それは普通のことに見えて凄く異常なことなのだろう。

 だから私は……。



 椎名蒼子が可愛らしいワンピースを手にとって試着室に入り、その可愛らしいワンピースを着て可愛い姿で出てきた。

「よく似合ってますよ、お客様」

「えぇ、気に入ったので買います。ええっとおいくらですか?」

 どうやらご購入のようです。

 ……とりあえず、あの可愛い顔をカメラで撮りますかな。

(あ!?待ってください、紅莉さん!!)

 カシャッ。

「うん?」

 なぜかシャッター音に気付いた椎名蒼子がこっちを見てきて……ハイキックをしてきた

「ゲボラっ!!」

 完全に無防備の状態でハイキックを食らい悲鳴を挙げてしまった私は服屋の床に倒れ、その状態で椎名蒼子に踏まれてぐにぐにされた、右の頬を。

「なんでテメェは写真を撮ってるんだ?あ?」

 ごふぅ……。靴底の突起が地味に痛いであります……。そして『可愛いから撮りました♪』とは言えそうにないこの状況……。


 それから椎名蒼子、いやアオちゃんや、この体勢だとワンピースの中が丸見えですよ?

 そうそう、その水色のストライプが丸見えですよ?

 ……水色のストライプねぇ……サイレンさんが喜びそうだ。

 ところで……なんでバレたのん?

(紅莉さん、すみません、さっき紅莉さんが『飛行』魔法を使った際に不可視状態の魔法が切れてしまったんです。厳密に言うと私の魔法は対象に使うものじゃなくて空間に使うものなんです。だからさっきみたいに激しい行動をされると……)

 ひなちゃんが特殊音波か何かでアオちゃんに聞こえないように言ってきた。

 ちょっと!!その設定はもっと早く教えて欲しかったよ!!


「ま、まぁ……アオちゃんや」

「いつからテメェはアタシのことを馴れ馴れしく『アオちゃん』なんて呼び方で呼んでるんだよ!!」

「それは置いておいて、その服でこの体勢だとパンツが丸見えだよ?」

「……?…………!!!!??」

 何を言われたのか理解できないようで数秒自分の状況を再認識したアオちゃんは顔を紅潮させてぴゅーっと風のように逃げていった。

 くっ、なぜだろうか。

 さっきからこの子が非常に可愛く見える。

 これがあれですか?世間で言われてるギャップ萌えってやつですか?


「お、お客様!!お支払いがまだですよ!!」

 店外に出て防犯ベルみたいな騒音が鳴り、我に返ったアオちゃんが店員さんの前に戻り、なぜか倒れたままの私の鳩尾を思いっきり踏み付けて……

 ゴフェッ!!

「釣りはいらない……」

「え!?あ、あのお客様!!」

 1万円札を3枚渡し店員さんに防犯用のあの名称不明の『無理矢理取ると中のインクがどぴゅっと出るらしいあれ』を取ってもらった後でアオちゃんは走っていった。

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