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#00 時間操作の矛盾点


 ――時を止める力、それを人間が手に入れた時、世界はどうなってしまうのか。


 神の領域に人間がその片足を踏み入れた時、この世界の大切な何かが崩れてしまうのではないか。


 得体の知れない恐怖が、彼女にはあった。




「学校を創ろうと思うんだ」

「学校……ですか?」


 彼女は自分の指先の上で、垂直な状態で立ったまま微動だにしない青のボールペンから視線を外すと、目の前の人懐こい笑みを浮かべた男性を見つめる。


「君だって気づいているだろ? 僕達の発明は危険過ぎるんだ」

「……そうですね。………てっきり貴方はそういう事は気にしない方だと思っていましたが」


 彼女は突き出していた指をゆっくりと自分の掌の中にしまい込む。

 しかし、プラスチック製のボールペンは最初から彼女の指を頼りになどしていなかったかの様にそのまま空中で静止を続ける。


「だから、創るのさ」

「……能力を使える者達に力を制御する術を教えるのですか?」


 彼女の言葉に黒縁眼鏡の男性は満足そうに頷く。

 だがその瞬間、不意にボールペンが机の上に落ち、カタッ、という軽い音が2人のいる暗い部屋に響き渡る。


「でもそんな子供達に力の使い方を教える事の出来る大人がいるのですか?」

「ここにいるじゃないか?」


 思わずすぐに返ってきた答えに彼女は驚きを隠せず、暫し言葉を失う。

 そして、何かを諦めた様に大きな溜め息を一つ吐く彼女。


「…… 私はまだ大人ではありませんよ?」

「でも他に適任者はいないだろ?」


 悪戯な笑みを浮かべた男性は、拗ねた目つきの彼女に下手くそなウインクをする。


「それに学校が出来上がる頃には十分大人になっているはずさ」

「……そんな計画、政府に通るでしょうか?」


 確かに彼女は自分以外の時間操作者(タイム・オペレーター)を知らなかった。

 それもそのはず、なぜならまだ時を止める事を可能にする薬品は公式には実用化に至っていないのだから。

 そのため、もし時間操作に関する教育機関が近いうちに創立されたとしたら、彼女以上の適任者がその時存在するとは考えられない。


「何としてでもこの案件は政府に認めさせてみせるさ。楽しみにしておけよ?」

「…………ご健闘をお祈りします」


 そう言い残すと男性は悠然と立ち上がり、何処かへ行こうとした。

 それを見た彼女は、机の上の『魔術師』と書かれたカードを手に取る。


「IDカードを忘れてますよ。魔術師(ウィザード)さん?」

「おっとゴメンよ。……それにしても自分で作った2つ名制度だが、君のような少女にその名で呼ばれると何だか気恥ずかしいな!」


 男性は照れたように頬を指でポリポリと掻く。


「そうなんですか? 私は結構気に入ってますよ、この制度」

「それは何より」


 彼女は鷹揚に手を振る男性が部屋から出て行くのを見送った後、画面がついたままのパーソナルコンピュータが置いてある机へとそそくさと移動し、小さな手の平をマウスの上に静かに置いた。




 そしていつものように彼女は、『時間操作の矛盾点』というファイルを慣れた手つきでクリックする。






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